佐藤さんのレビュー一覧
投稿者:佐藤
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紙の本天使
2002/11/20 12:57
著者コメント
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〈昨日の世界〉の物語を書こうと思い立ったのは、今から四半世紀近く前のことだった。自分が生れる半世紀も前に解体され、地上から消えた帝国の何にそれほど惹かれたのかは判らないが、ツヴァイクが描き出す黄昏のウィーンは、現物の観光都市ぶりにたっぷり鼻白んだ今も、私を魅了し続けている。
ただしその物語は、ツヴァイクともムージルともロートとも全く異るものだった。
そのままの方が、一部の素朴な読者諸氏にははるかにお気に召しただろう。それが四半世紀の間にメモさえ捨て去った理由である。今や世界は年経り、私もまた老いた。小説の大枠は、〈人間ノ努力ノ虚シサ〉に対する諦観によって大幅に変更されている。ただし、主人公の設定にはまるで手を触れていない。その矛盾がひどく気に入ったからである——あらゆる可能性を与えられながら、その全てが目の前を流れ去る時、人間には一体何が残るものだろう。
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