今はむかしさんのレビュー一覧
投稿者:今はむかし
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むかしのはなし
2005/04/02 02:54
語りの深みへと引きこまれる心地よさ
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語るという行為の魔力、ほんとうは存在しない世界を眼前の事実として浮かび上がらせてしまう荒技、この上なく繊細に撒き散らされることば、思いがけない仕掛けの数かず、連鎖するいとおしき登場人物たち−−どこをとっても「小説」を読むことの楽しさと魅力を堪能させてくれる小説、それが三浦しをんの新作『むかしのはなし』である。
私は、三浦しをんという作家の力量を見くびっていたようだ。そして、この若い作家の可能性をあらためて思い知らされた。うれしいことだ。
語り継がれた「昔話」を物語に仕立てるという作業は、太宰治「お伽草紙」以来、想像力が枯渇した作家が苦し紛れに書き散らす飯の種という印象を持っていたのだが、この作品はそうした想像力が欠如した作家の書いた作品とはまるで違っている。作家の尽きることのない想像力が、昔話に新しい息吹を吹き込んでいる。そして、その心地よく語られる昔話のパロディのような世界に浸っていたら、いつのまにやら今と昔から離れた遠くて近い「未来」に連れ去られ、その未来からの声としての「昔話」を私たちは聴いているという仕掛けになっているのだ、ということにずいぶん読み進めてから気づかされる。
救いようのない終末観にあふれた未来、そう、三浦しをんの前作『私が語りはじめた彼は』の中の「予言」で語られていた地球の滅亡が、姿を変えてここにも登場する。雪が降り積もる森閑とした「予言」の終末、真っ暗闇の宇宙をあてもなく漂う密室の中で語られる「懐かしき川べりの町」の物語……。ブラックホールに吸い込まれるように、私たちは三浦しをんという作家の魔術に引きこまれる。それは、小説を読むという行為が、至福の時を求めることだったのだという、まさに文字を追うことの快楽を思い出せさてくれるだろう。
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