kibiさんのレビュー一覧
投稿者:kibi
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汽車旅行 復刻
2005/04/19 17:07
「映画的手法」は幻の戦前傑作漫画「汽車旅行」ですでに完成されていた!
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先日、物故された野村芳太郎監督の代表作として「砂の器」とともによく知られている作品に「張り込み」がある。映画では冒頭、刑事ふたりが東海道線に乗り込み、東京から博多に向かう列車内のシーンが続き、昭和30年代の(それもむせかえるような盛夏の)汽車旅がどれほど大変なものだったかが手にとるように分かる。
本書は昭和16年に発刊され、手塚治虫など現代の漫画家に大きな影響を与えた古典漫画で、漫画愛好家にとって長い間幻の名作といわれてきた本の復刻だが、主人公の少年が父親とともに当時の「東海道線」を汽車に乗って、東京から名古屋まで向かう旅行物語になっている。旅行の途中、大磯、箱根山、富士山、由比が浜、三保の松原など、戦前の日本列島を偲ばせる美しい景観が車窓からの風景として眺められ、戦前のモダンな東京駅の駅舎やプラットホーム、丁寧に描きこまれた車内風景や操車場、安部川や矢作川の鉄橋なども克明に描写され、戦前の汽車旅のありさまが大変リアルに再現されている。その道中に客室で、フィルム漫画、羽衣物語、日吉丸の3つの話が少年の親や乗り合わせた大人から少年に物語られ、読者はいながらにしてゆったりとした戦前の汽車旅行の気分を追体験することができるのだ。
現在の読者にそうした追体験を可能にさせたのは、作者である大城が手塚にさきがけて取り入れた映画的手法であり、広角レンズで捉えたような車窓からの風景描写であり、一九二〇年代モダニズムの香りを感じさせる大胆な構図とデザイン(人物や汽車、鉄橋、駅舎などの)である。それによって、戦前の汽車旅行がただリアルに再現されるだけでなく、モダンでポップなファンタジー世界の一角に足を踏み入れたかのような錯覚を覚えるほど、楽しげなものとして再現されるのだ。映画的手法と先に記したが、映画「張り込み」に顕著なリアリズムと対比すれば、その感興もまたひとしおかもしれない。
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