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読み人さんのレビュー一覧

投稿者:読み人

573 件中 16 件~ 30 件を表示

紙の本

紙の本聖餐城

2008/08/07 01:25

堂々たる西洋歴史小説

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 皆川博子さんについても西洋史っぽいものをたくさん書かれていると
耳にはしていたのですが、これほどとは、、、。
 
 読む前は、お城を舞台にした、ゴシック・ミステリかなぁ?なんて思っていましたが、
全然違いました。 

 旧教、新教に分かれ、又、外国からの干渉軍まで引き入れて
凄惨な戦いが30年も続きその後の、ドイツの発展を遅らせた原因にまでなったといわれる
ドイツ30年戦争。
 馬の腹から生まれたといわれる孤児アディ、ユダヤの金貸しの一家コーヘン家、
傭兵隊長ながら、一国の領主まで昇りつめた、ワレンシュタイン、
傭兵にありながら、清く生きる、フロリアン兄弟などを、巧みに配置し
この30年戦争をリーダビリティが少しも落ちることなく、最後まで描ききっています。

 当時の傭兵が主体となった、凄惨な戦争の様子もさることながら
又、敵味方が入り乱れ権力の奪い合いの歴史絵巻として、
又登場人物たちの生き様も含めて、群像劇としても圧倒されました。

傭兵隊長ピエールでも描かれていましたが、当時の軍隊というか、傭兵は、
戦争が乾期になるとそのまま無法者の野盗集団に変わります。
 又、その傭兵集団にぞろぞろとついて回る輜重部隊とは、名ばかりの
娼婦と軍隊の御用足し商人の群れ、
登場人物の一人アディは、この輜重部隊で育ちました。
この辺の様子も、大変リアルに描かれています。
 正に、30年戦争を庶民それも、もっとも最前線の傭兵の視点からも
描いているわけです。
 又。当時、コーヘン一家、非差別民族だったユダヤ人一家の金貸しについても
そうでして、既得権益、実労の職業にはつけず、
生きるためには、金貸ししか商売がなく、
その分、教育と金融、情報には投資し被差別民族として表には、立てないが、
歴史を裏側から支配しようとする様が、大変リアルに描かれています。
彼らに言わせると、戦争は、大変儲かる。又自分たちを擁護してくれる権力者に投資するだけでなく、
金融と情報の力を屈指してそのような、権力者を育てていくのだと。
恐ろしいまでの、生き様です。

 巻末の参考文献も気になったのですが、
そこに、「ドイツ傭兵(ランツクネヒト)の文化史」(読めていません)が、でーんとありました。
これは以前、この本の訳者、菊池良生さんが、この本を底本にして書いた、
新書「傭兵の二千年史」(読みました)でも、紹介されていて、
ずーっと読みたいなと思っていた本です。
載っていて嬉しいやら、ちょっと悔しいやらでした。

 リアルなところ、歴史書としてのポイントなんかばかり
書きましたが、メインではありませんが、暗号、謎、ミステリとして面もありまして、当然、小説としてのリーダビリティも相当です。
 ちょっととっつきにくいかもしれませんが、
圧倒されること間違いなしです。

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紙の本

紙の本大鴉の啼く冬

2008/04/29 17:47

舞台は、シェットランド諸島、、地味ながら好作品です。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 英国より過酷な気候なのが、その北部に位置するスコットランド。
で、そのさらに北に位置し北海に浮かぶ島こそ、シェットランド・アイランド。
その殺伐とした天気たるや、想造するに難しくありません。
しかも、本作で扱われるのは、その冬。

 本作は、そのシェットランド島を舞台したミステリ。
一人の寂しい知的障害を持つ独居老人の家を女子高校生二人が興味本位に訪れます。
その後、そのうちの一人の女子高校生の死体が発見。
 その近隣では、数年前にも、少女の行方不明事件があったのですが、、、。

 著者のアン・クリーヴスが描くのは、この殺人事件のトリックなどでは、ありません。
彼女が描くのは、このシェットランドアイランドに暮らす人々とその地域共同体。
 だれもが、顔見知りでありながら、みんな他人に言えない秘密を抱えて生きている。
他人のことなど、関係ないなどと思いながらも、他人の行動や考えに束縛されながら生きている。
そしてお互いに干渉しあうように暮らさざるをえない。
そんな人間模様が、しっかりと描き出されています。
正に人間関係の縮図です。
 著者の筆力も確かで、読後感は、謎解きミステリを読んだというより
味わい深いいい小説を読んだなぁと、いう感じです。
(数年前の少女行方不明事件は兎も角)
本作内のリアルタイムの事件の犯人の設定は、ちょっと反則っぽいですが、正に本格推理です。
翻訳ミステリで本格派というと、
トリック重視の国内のミステリと違い、このような、中間小説っぽい作品をいいます。
派手さはないけど、質実剛健のしっかりした作品です。

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紙の本

平和主義者で、賢いけど、ちょっと怠け者の将軍。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 タイトルがなにやら、面白げだったので読んでみました。
それに、こんな人今まで聞いたこともなかったので、、。

 副題から、当時体制派だったナチスと丁丁発止のやりとりをしながら戦った将軍
みたいなものを想像していましたが、全然違いました。
 一人の将軍の評伝というよりは、この子沢山の将軍一家の物語という感じです。

 この方、ドイツの典型的な軍人貴族の一人でして、
さるやんごとなき際というか、貴族です。
 で、ドイツ陸軍最高司令官まで上りつめます。この辺から、ナチと戦うのかなぁと
思っていると、ヒンデンブルクの組閣でヒトラーが指名されるときに、
あっという間に、最高司令官の職から辞任。
 自分の辞任と引き換えにもうちょっと組閣人事で取引をすることもできたみたいですが、
そんな権力のパワーゲームには、まったく興じません。
 全然戦っていないじゃんと、言いたいのですが、(肩透かし)
この人、ナチは嫌いだけど、国を二分してまでというか、
陸軍を二分してまで戦う気はなかったみたいです。
 この人、職業軍人なんだけど、いい意味でも貴族というか、頭はすごいいいんだけど、怠け者。
そして愛すべき趣味人でして戦争より狩りが好き。この引退後は、趣味の"狩り"に没頭。
 ただ、この人のおうちは、反ナチス派の軍人の会合場所にはずーっとなっていたみたいですが。
で、ハマーシュタインご本人は、ロシアとのつながりを周囲から指摘されながらも
(戦争後半でドイツとロシアは、敵対国にな壮絶な東部戦線から創造し難いですが
 戦争開始前まで同盟国でした)
この後、幸せに亡くなられます。(また、肩透かし)

 で、この後は、このハマーシュタインの子供たちの話になり、
ある意味、こっちの方々の方が、武闘派といいますか、強烈。
ハマーシュタインは、自由を愛する戦争嫌いだったように、子供たちにも完全な放任主義でして、
娘さん二人は、ロシアの工作員とみっちり関係していたし、息子さんは、
戦争後半のヒトラー暗殺に親父さんより直接的に加担していきます。
(逆の意味での肩透かし)
 いい意味での外されっぱなしの一冊でした。
  
 本書、評伝というか、完全なノンフィクションなのですが、
死者とのインタビューというコーナーがありまして、
著者と対象者がインタビューしています。
そう完全なフィクション。この部分もなにやら微笑ましいというか、面白かったです。
 
 それと、これも解説にも書いてあったのですが、この本、悲惨な時代を生きた評伝にしては、
どこか明るいというか、希望に満ちた一冊でして。
 人生というものを不可解なものと捉えながらも、どうしてロシアの工作員とつながりがったのか、
とか、娘さんに問うても人生なんて私ごときに完全な答えがみつかるわけがないと
答えさせ、そのまま放置しています。
 そう、生きていることこそに意味があり、それが人生だと言わんばかり。
 
 妙に読後感の明るい一冊でした。 

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紙の本

紙の本隣の家の少女

2010/05/04 02:18

真のホラー、これだけ読者に衝撃を与えるフィクションは、そうはない。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書も、色々噂はずーっと聞いていたんですが、
それに全く違わぬ、すごい作品でした。

 構成の妙で、最初から伏線といいますか、暗示を充分二分に示したのち、
アメリカの50年代、60年代のノスタルジックな雰囲気いっぱいに
少年の思い出として、叙情的に作品は始まります。
 少年期の甘酸っぱい思い出として、隣に引っ越してきた、思春期真っ只中の美しい少女。
河原での出会い、お祭りに行ったり、楽しい出会いと楽しい会話、、、。
 こういう少年を描いた成長小説、青春小説は、たくさん名作があります。 
それが、、、、。

 善良な一般の読者は、どうしてこっちに行っちゃうの?止めて!!。と叫んでしまうでしょう。
私も善良かはわかりませんが、そうでした。
 悪役に徹っし加害者となる隣の母子家庭の一家の行動の理由もわからないまま、それに付き合わされる、主人公、いや、読者。
それを止めることが出来ない、主人公、いや、読者。
 ここも、作者もテクというか、構成の、妙だと思いますが、
主人公を傍観者(一部違いますが)にとどめその罪悪感を目いっぱいあじあわせる。
見てみぬふりが、一番悪いことではないかと。
 恐らく、そこまで、しなくても、そうなる可能性はあんたたちにもあるだろうとケッチャムは語りかけているようです。
 心がかき乱されて、心の不協和音がなり続ける、正に、真のホラーです。
 ホラーというのは、基本的に嫌で悲しいお話し多く、読者に最後まで読ませるには、相当、感情曲線のラストでのプラスマイナスの一致を行わないといけないのですが、
本書は、最低レベルで一応、プラスマイナスは整えられるものの
読後感も最悪です。(というより、内容が、凄すぎて尾を引くだけかもしれませんが)

 これ、解説をキングが書いているのですが、なぜキングが書くか、めちゃめちゃわかります。
このケッチャム、この壮絶なテーマだけがすごいんじゃなくて、
書き手作家としてもすごい書き手です。
 キングほど、文芸表現というテクに溺れている感じじゃないですが、相当なレベルで正に、キング・スタイルでキングが書いたって言われても、やっちゃったかと理解できます。
 又、キングは、自作の序文なんかで、内容如何を問わず、本を通じて読者をわしづかみその心になんらかを与えるのが、傑作だし、そういうものを書きたいって言っていましたが、
これが、それなんじゃないでしょうか?。

 多分、ケッチャムは、これしか読んでいませんが、
子供を絶対的な弱者でありながら残虐さをもつ不可思議な存在として描きたい、もしくは、そんなことを一番育ってくる時に感じたのだと思います。
 
 この話に恐怖し、こんな話を書いた著者に恐怖し、
そしてこんな話を読み続ける自分に恐怖する小説です。
 (最後にもう一回この書評を書いている自分に恐怖します)
 万人にオススメできませんが、小説なんてたいしたことねぇなぁとか、思っていて、小説でガツン言わされたいあなたにオススメします。

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紙の本

紙の本陰日向に咲く

2009/08/25 22:46

小説として普通に面白い。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 面白い、面白いって聞いていましたが、
(確か、帯を恩田さんが書いていたでしょ?)
どんなもんかなぁって感じで読んだのですが、、、。
 これ、小説として普通に面白いじゃないですか!!。

 芸人さんって、実は表現する人としての演者の部分が強調されていますが、
芸人の中でもネタを書いている人って実は、モロ創造者としての作家さんなんですね。
 又、フリートークなんかでも、
面白くなる部分を再構成して話すということは、やっぱり作家としての
構成、ある程度の誇張、能力も要求されているわけです。
 で、やっぱり創作の能力もあるわけです。

 劇団ひとりは、テレビで出ているのを見る程度にしか知りませんが、
これで、ちょっとコントというか、ネタの部分も見てみたい気になりました。

 本書、作品としては、独立した短編内で、キャラが共有されている部分を
よく言われていますが、
 所謂、社会の底辺で生きる、ちょっといけてない人々を描いた短編集です。
 まぁ中間小説の王道と言えば、王道なんだけれど、
 兎に角、筋運び、人間描写、ともに、高レベルです。
 ギャンブル好きの男が語る、勝ち組み負け組みの理論なんて
ほんと共感してしまいました。

 普通に、みなさんにオススメできます。
ただ、恩田さんが、書き続けて欲しいと
半分、挑戦的に帯に書いたのもちょっと頷けます。
 大沢さんも、文学賞の獲り逃げは許さないなんて言っていましたが、
書き続けるのが、プロなんですね、、。
まぁ、読み手は、面白い作品を"はしご"するだけで満足なんですが。
多分、本業の方が、忙しくて、書けないでしょうが、
これだけ好作品だと恩田さんが書いた帯を肯定的にとって
(なんか、職業作家が、腰掛のバイト作家に言った嫌味にもとれる)
書き続けて欲しいです。

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紙の本

紙の本風の影 上

2008/03/05 23:18

大傑作です。小説の醍醐味を堪能!。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 遅れましたが、漸く、読めました。
もう紹介もいらないぐらいの海外翻訳エンターのベストセラーです。
翻訳エンターでヒット本と言えば、「ダ・ヴィンチ・コード」以来でしょうか、、、。
 週刊文春のランキングだと2位、「このミス」だと4位です。

前置きは、この辺にして、、、。

 プロットもとても説明し難いです。
というのも、たくさんのエピソードをちりばめた、お話し力、小説力全開の作品だからです。
とにかく、めぐりめぐるようなお話しの連続なのです。
 ダニエル少年は、ある日、父に連れられて、「忘れられた本の墓場」に訪れます。そこで、出会った、一冊の本。そう、それこそ本作の題名になっている「風の影」。 この本の著者フリアン・カラックスについて調べるダニエル少年なのですが、、。本好きには、たまらない、本に纏わるお話しかなぁって最初は思っていたのですが、
 全然違います。
ある部分はあっているのですが、
 主に描かれるのは、小説内の現時点を生きる、ダニエル(少年から青年)と伝説の作家
フリアン・カラックスの人生(小説内の時点としては、リアルタイムから何十年か前)であり、
兎に角、小説(19世紀的)の醍醐味というか、
小説が本来持っているストーリテリングの面白さのすべて要素が入っています。
 恋愛、嫉妬、恨み、謎解き、成功、復讐。
で、この著者のサフォンさんは、兎に角お話しなんて、設定を二三、与えられると、すぐに出来てしまうみたいで、どんどんエピソードが湧き上がってくる
(苦労して紡ぎだしているのかもしれませんが)
それを、読み手が心を揺り動かされながら、ドキドキしもって読む。
 そんな感じでした。
小説の面白さの色んな要素が入っているため、これが、キーだとか、ここが肝って
言う風に書けないところが、もどかしいのですが、
この小説力のすべてを感じてもらうしかないですね、、。
で、お話しとして、書くならば、壮絶なお話しという一言に尽きます。
 なになにみたいな感じって書評で書くのは、ある種、反則かもしれませんが、
一番よく似た作風は、ロバート・ゴダードでしょうか。

 波乱万丈の人生そのものに対する謎解き、人間のそのもの生き様を描いた小説です。

 これぞ、小説の古典的ストーリーテリングの魅力全開の一冊でした。

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紙の本

紙の本ひとりっ子

2007/08/08 19:02

こんなことが可能になった時、あなたはどうするorどう感じる??

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

グレッグ・イーガンの日本オリジナルの短編集です。
イーガンは大森御大も認めるリアルタイムの(生きているという意味で)
最高のSF作家の一人ですが、
 如何せん、どの作品もむずかしめ、、。
別に、扱われている、理論や理屈を100%理解していなくても、
十二分に楽しめるのですが、その辺が、コアなファンや、
SFに知的刺激や、知的興奮を求めている人には受けるのですが、
一般的にマイナーところでしょうか??。
 後、SF全般に言われることですが、
人間が描けていないともよく言われています。

 今短編集でも、その"むずかしめ"は、相変わらず、
引き継がれており、タイムトラベル改変物SF(若しくは、並行宇宙もの)
でも、イーガンが扱うとこうなっちゃうか、
という科学理論の発達のみを歴史として
扱っていたりします。
(普通、もうちょっと有名な歴史的イベントをあつかうだろう!)

 同じテーマというか、道具立てで書かれた最初の二作も、
(この後の、「ふたりの距離」も殆ど同じ道具立てです)
「しあわせの理由」とほぼ、同じテーマで
人間の主体性や、心情、主観みたいなものまで外部より、
数値や技術(本作の場合ナノテクですが)によって、
改変が可能になったとき人間の感情、真理って
どうなるのだろうと、これは、人を人たらしめるものや、
はたまた、今まで、文学が扱ってきた感情、心情、発露、主体そのものまで、
その立ち居地があやうくなるテーマです。
 こんな感情までコントロールできる技術が目の前にあるとき、
ボブ・ディランのLike a rolling stoneじゃないですが、
How do you feel?あんた一体どんな気分よ??
と、イーガンに語りかけられているようです。
 勿論、イーガンの作品としては、そんな正にゆれとまどう人間の感情より、
人の感情さえ改変してしまう技術が圧勝することを、大概示唆して
終わっていますが。

後、もう一つ、作品の一つに登場する
アランが、アラン・チューリングだということに
読後色々調べているうちに気付き、知りました。
悲しくて、言葉もありません。
(自分が読んでいる時に気付かなかったという悲しさもあります) 

 あとがきの解説にもありますが、
今作は、イーガンの作品中でも"むずかしめ"が
集められたようで、これで、イーガンを嫌いにならないように、、、。

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紙の本

紙の本安徳天皇漂海記

2007/04/03 22:19

作家の恐るべき、歴史イメージにひれ伏すのみ!!。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 豊崎由美さんが、絶賛していた本書。
宇月原さんが、凄いのは、もう既に知っているよ〜って思って直ぐには読まなかったのですが、
 読んでみたら、吃驚!!。
 こりゃ、凄いは、マジで。
 ちょっと内容を先取りして書きますが
南宋が滅ぶときに、涯山の戦いというのが、ありまして
南宋は、もう陸地は、モンゴルの元に支配されていたので、
海上で船を何艘も合わせて、海上要塞を築き対抗しました。
この戦いを作家の田中芳樹さん(中国史が大好き)が説明する時に
壇ノ浦の合戦を中国は人間が多いので、何倍かにしたのを思いおこして欲しいって
以前なにかで書いていらしたのですが、
 これを、宇月原さんが、見逃すわけがない!!。
やっぱりこれを持ってきたか、宇月原さんって、思いましたよ、、。
 本書は、壇ノ浦の戦いで死んだはずの安徳天皇をめぐった歴史ファンタジーなのですが、一応、安徳天皇が中心にそえられていますが、
 二部構成で、最初は、源実朝が主人公。後半は、マルコ・ポーロ
が主人公となっています。
兎に角、イメージというか、歴史に対するの豊かな着眼点というか、ビジョンというか、それが、物凄いです。
「信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」のときは、
あまりの大きな展開にそりゃちょっと無理スジだろうと、思ったりもしたのですが。
 本書は、分量といい、広がり、纏め方といい、丁度いい感じに纏まっています。
安徳天皇が美しい琥珀に封じられて眠っているとか、実朝のことを、詩人の王と呼んだり、 平家物語の冒頭の、祇園精舎の、、、、の一説を異国人が解釈するとこうなるのかと!!。
 そして、上記した、平家と南宋の滅び方の共通点。
頭がくらくらするほどのビジョンで、本当に素晴らしいの一言でした。
 歴史って、こういう風にみたりすると世界観がぐーっと広がったり
豊かになって面白いよって教えられている感じですね。
 でも、これって、宇月原さんが、作家として豊かな想像性と歴史解釈を持っているから出来るのであって、凡人には,ちょっと無理です。
 世界文学として日本代表で出場させたいぐらい。素晴らし

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紙の本

紙の本ランド世界を支配した研究所

2010/07/12 23:58

超保守系シンクタンクの実態

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書、ちょっといっちゃっている感じが痛い(というより怖い)一冊なんですが、
万人向けとは思わないけど、個人的には、すごい面白かったです。

 アメリカにはロビイストという集団とともに、シンクタンクという
日本の政治機構にはあまりない
(厳密には日本にも存在しますが)
存在がその政策決定と実行、理論的補完として
機能していましてその最も代表的な存在の研究所について迫った一冊。
 
 飛行機製造会社のダグラス社が資金援助、仕事の発注なんかを行い、
このダグラス社そのものがバックボーンとなり第二次世界大戦直後に
設立され、主に冷戦期の核戦略なんかをリードしてきました。

 主に冷戦期の核戦略と書きましたが、彼らのなした主な業績は物凄く多岐にわたっていまして、
私たちも、インターネットの基礎理論なんかで恩恵を受けております。
 業績としては、アメリカ人お得意の囚人のジレンマからくる、
ゲーム理論、経済を抜きにした厳密な意味でのゼロサムゲーム、
失敗なく完全に遂行するシステム、フェイルセーフシステム、
ノード(結節点)が破壊されても、通信できるインターネットシステム。etcなどなど、
 他にも、色々研究していまして、苦戦するベトナム戦争でのベトコンの士気の高さ根源を研究したり
医療費の自己負担なんかも研究し、施行する上での理論武装に一役買っています。
 早い話、身も心も凍るような冷徹無比の超右翼系保守派のシンクタンクなんです。

 本書で、一番衝撃を受けたのが、ちょっと前のネオコンの信奉者、提唱者、牽引者の殆どが、
このランドの出身だということ。ウォルフォビッツに、ドナルド・ラムズフェルド、
コンドリーザ・ライス。この辺からもその性格が、理解していただけるかと思います。
 
 この研究所の面々を一言で言い表した著者のいい表現がありまして、
概ねどの人も、知的傲慢さと道徳的無神経さを兼ね備えていると、、。
 しかし、チャーチ・オブ・リーズン(合理性の教会)とも呼ばれていまして
どんな主義主張もそれが合理性に見合っている限り、研究対象にすることができ発表できたとか。
ただ、やっぱり研究者の一人ハーマン・カーンがキューブリックの「博士は、、」のモデルになったと
いうぐらいで、(ルメイもいました)みんなどこか少しいっちゃった感、
世界平和のためには、世界を支配するしかないみたいな考えをもっていてうすら寒さを感じます。

 (アクシズのハマーン・カーンってここから来ているのですかね?
  だとしたら、富野さんすごい)

閑話休題。

 大体、人間が理論どうりというか、理屈道理に行動すると思っているのがパラノイアの証拠って
どこかで読んだのですが、まぁ、それは置いといて、、、。

 ちょっと本としては、特定の人物に絞りすぎたり、人物本位でなかったり、
ランドそのものが対象で仕事がメインだったり構成にばらつきはありますが、
アメリカの保守派の人はこんな考え方をしているんだぁという
理解の助けになる本だと思います。

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紙の本

紙の本タイタンの妖女 新装版

2010/06/23 00:59

太田光の人生を変えた一冊。

7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 太田光さんが、ことあるごとに、激奨しているヴォネガットの「タイタンの妖女」です。
このたび、太田さんの解説と共に文庫で新しく出ました。
 私的には、ヴォネガット初読みなんですが、07年のヴォネガット死後「追憶のアルマゲドン」とか、
「ヴォネガット大いに語る」とか、出ていたので、読んでみました。

 本書、あらすじを書いてもあんまり意味がないかもしれません。
 それぐらい、太田さんが解説で書いているとおり話は飛ぶし、
筋運びの整合性はさほど重要性がないから、、。
 でも、、、。

 お話しは、未来。
 大富豪のマラカイ・コンスタントが、これまた、謎の富豪ラムフォードと知り合い、
太陽系を有為転変変遷漂泊放浪して、空間から時間、果ては、価値感まで超越し
色々見知り、経験するお話しです。
 
 ヴォネガットが書いていて一番楽しかった作品というとおり、話しはどこに転がって行くか、
全く予測不能。
 筆任せというか、タイプライターの指任せといった感じ。
 しかし、その構成と筋運びの整合性があまり無いはずなのに、
しっかりと一人の人間の体系の中できちっと描かれています、といった
ヴォネガット流世界観は構築されております。
 世界というものは、無秩序で混沌としていて、人生なんてどうなるか全く判らない。
元大富豪だったとはいえ、所詮ちっぽけな一人の人間シニカルに構えて、
笑っちゃうことしか出来ないんじゃないの?という価値感です。
間違って受け取っていたらゴメンナサイ。こんな風に私は、理解しました。
 マラカイ・コンスタントの奥さんや、マラカイ以上にぶっ飛んでいてシニカルな息子(この息子とマラカイの不一致さもちょっと笑える)
の家族物語としての面白さにもちょっと惹かれました。
 後、定時点として、punctualと表現している箇所もおかしかったです。
(これは、訳者浅倉さんの語感の素晴らしさ)

 読んでいて人生が変わるほど衝撃を受けたわけではないけど、
なんとなく、ヴォネガットの価値感はわかりました。
 それより、太田さんがなぜこの作品が好きなのかが一番わかりました。
 兎に角、本当は、大問題であるはずの現実を社会をチョケて茶化し、
ぽんぽんボケを毎秒単位で連発する太田さん、
この作品でヴォネガットが打ち出した価値感がそれそのものでした

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紙の本

暗号を解読し、陰謀への関与を証明。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

大型歴史ノンフィクションです。早川から出たのが、ちょっと不思議なのですが、
(白水社、平凡社、あたりが妥当!?)
世界史ファンとしては、ど真ん中のストライクで、読まずにおれるかと読んでみました。

 ちょっと本書説明するのが、大変なのですが、
1478年フィレツェでおきた、ロレンツォ・デ・メディチ暗殺事件
(実際は、弟は、死にましたが、ロレンツォに関しては、未遂)
俗にパッツィ家陰謀事件と呼ばれていますが、
それを扱ったもの。
 この後、メディチ家は、パッツィ家に対して当たり前ながら敢然と報復。
(このあたり中世いや、近世っぽい)
 この後、これまた世にいう、パッツィ戦争と呼ばれる戦争がおこり、イタリアは混乱に陥りました。
(もともと、イタリアは都市の自治が完全に独立しておりずーっと混乱していたともいえます)

 本書、このフィレンツエでの暗殺事件に先立ち、ミラノでの暗殺事件から描かれております。
そう、このミラノで筆頭書記官という行政上のトップだった人物がシモネッタといいアメリカで現在歴史学者をしている著者マルチェロ・シモネッタの先祖にあたります。
 つまり、歴史学者が御先祖さんにちょっと関係した事件を調べ上げ、その暗号で書かれた手紙を解読し、今までの通説をひっくり返して、この事件に関するとある人の関与を証明してみせたのが、(完全に証明されたかどうかは、ちょっと怪しいのですが)本書です。
 
 とある人物とは、傭兵隊長にして、文化面でもパトロンとして有名人でもあり、しかも、暗殺されかけたロレンツォと盟友だったはずの男、
ウルビーノ公フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロだったのです。

 とは、いえ、よく陰謀とか、暗殺事件とかでありがちなんですが、
歴史ではよくある、本能寺の変を知っていたとか、知らなかったとか、
関与していたとかみたいに、歴史は常に後世で面白おかしく語られるもので、
定説とか、風聞レベルで、このモンテフェルトロが関与していたという説は、
ずっと前からあったそうですね、、。

 ちなみにですね、「ハンニバル」でイタリアでフェル博士として潜伏中
(潜伏というよりは、成りすまし、悠悠自適の生活)のレクターさんを
探り出し、売ろうとして、返り討ちにあうリカルド・パッツィという刑事がいました。
 レクターさんが、この刑事を殺害するまえに、あんたの先祖ははらわたを、、ごにょごにょと
言う場面があるのですが。このご先祖とは、上記したパッツィ家でして、
ごにょごにょといったあたりは、この事件のあとメディチ家が報復し吊るした後の姿だったのです。

 ちょっとイタリア風の名前を認識するのが大変だけど、巻頭によく出来た人物表も
掲載されているので、首っ引きで読んでいけばついていけると思います。
 ただ、如何せん、イタリア史に対する予備知識があまりにも無かったので、
歴史的インパクトというか、元の説からひっくり返った感はあまりなかったです。
 著者のリーディング(leading)に導かれて、、ふーんそうだったのかと。
暗号もすんなり理解でき(そんなに複雑ではありません)、余計、歴史的衝撃は
地動説を聞いた思いほどは、しなかったです。

 まぁそれだけ、よく出来ている本だからかもしれませんが、、。

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紙の本

紙の本今日の早川さん

2009/11/04 23:20

本読みさんたちの核心を突く。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 私、なんとなく話題になっているのは、知っていたのですが、
blog版の方は、全く見ていなくて、いきなりコミック版からの読者です。

 しかし、ほんと、本読みさんのあるあるネタを的確に突いてきますね、、。
それと、本ブロさんというか、書評をブログでUpしているみんなの。
 失笑レベルでなく、読んでいて、"あちゃー"の連続です。
 
 もうコアなファンの方はわかっていると思いますが、
SF読みの早川さんは、早川書房、純文学の岩波さんも岩波書店。
(でも、岩波って文庫では、名作、古典、文学を出しているけど、
 新しい系の純文学はあんまり出していないと思う)
ラノベ読みの富士見さんも、そのまま、
レア本狙いで会うことすらめったにない国生さんは、
国書刊行会。とここまでは、いいですが、
ホラー読みの帆掛さんて出版社わかりましたか??。
 ネタバレってほどでもないのですが、これは、東京創元社。
海外系のホラーを出しているのは、そうなのですが、
(これも、ホラーとして翻訳系はけっこう出しているけど、
 日本のホラーは、角川がいっぱい出しています)
出版社のマークから
この名前になったみたいですね、、。ちょっとひねりすぎ!?。
 草原さんぐらいにして欲しかった。(ちょっとゆるすぎですか!?)

 でも、やっぱり、いいですね、、。
私も、大概原作つきの映画の話に成ると「あれは、読むべきなんだよなぁ、、」
とか、言って会話をストップさせたりしています。以後気をつけます。
 富士見さんが、帆掛さんと早川さんの過去を尋ねて
二人が思い出すシーンが面白かった、、。
早川さんかわいそうすぎ、、。頑張れ早川さん。

 昔は殆ど動きがなく時間の経過をしめすため同じコマを
大友さんなんかも描いたりしていましたが、
今は、楽々コピペが出来るので、それを多用しているのも
効果を上げていますね、、。

 ブログの方をみると
cocoさんってやっぱりSFとホラーがお好きみたいですね、、。

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紙の本

紙の本スコーレNo.4

2009/09/09 23:11

何か大きなことがおこるわけではない、けれど、静かな感動。

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 この本も、けっこう評判が高かった本なのですが、
それに違わず、面白かったです。

 古道具屋で育った、麻子という女性の半生を
中学生あたりから4つの短編にわけて描いた、
連作集で全部あわせると、長編になっている感じ。

 中間小説でも、小説なので、とにかくなにか大きな出来事がおこりがちですが、
本書は、全然ちがう。
 大きな出来事は、殆どおこりません。
又、強烈なキャラ立ちした人物も出てきません。
 ところが、極々普通の人々のささやかな日常というものが
しっかり描かれています、又、そのときの心情がしっかり描かれていて、
出てくる人物たちが傍にいるような感覚になります。
で、共感が出来、静かな感動をよびおこします。

 読むと生活するということ生きるってこういうことなんだなぁと、
しみじみ感じられます。
 
 個人的には、性差がある所為か、女の子、女の子した、
(そんな風でもないのですが)学生時代のより、
社会人になってからの作品が面白かったけど、
兎に角、地味ながら、良かったです。

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紙の本

知的興奮、知的エンターテェイメント。

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 この本、めちゃ面白っ!。
 なんだ、この面白さは!!。
理系的、知的興奮なんですが、分量的には、比較できませんが、
リチャード・パワーズの「舞踏会に向かう三人の農夫」に近いものがありました。

 あんまり耳にしない版元となんか専門書みたいな表題ですが、本書は、小説です。
ガウスとフンボルトという18世紀から19世紀にかけて活躍した
ドイツ人の二大巨頭の評伝的小説です。

 数学者にして天文学者のガウスと貴族にして、地理学者、冒険家のフンボルトの
生涯を代わりばんこに描いていくのですが、
 兎に角、全編知的ユーモア、知的好奇心、知的発見、知的センス、
(もう知的に続く言葉が語彙として思い浮かばない)にあふれていて、
とても面白いです。
劇中でフンボルトが洞窟に入るのを渋る現地ガイドに叫ぶ、
「暗いということは、明るさをさすのでない、知らないということをさすのだ!!」
がよく言い得ています。
 正確には史実に即さないところもあるそうですが、これだけ面白いとこれでいいです。
(だから評伝というより小説です)
知的、知的と書くとだから難しい本かというと全然そうじゃない、めちゃくちゃ読みやすいです。
 読みどころは、やっぱりちょっといっちゃっている、マッドサイエンティストとしての
ガウスとフンボルトの二人なのですが、これは、作者のケールマンによると
没頭すると客観性を失い、周りが見えなくなる典型的なドイツ人そのものだとか、、。
 
 面白エピソードとしては、
気球に乗り、殆ど地面と激突したガウスが感じる、
「そうか、平行線は交わる」というフィーリング。(これは、読んでいて爆笑しました)
(交わらないのを平行線といいます)
又、フンボルトの、高高度に置ける低酸素状態での幻覚を見る場面。
(全然知的じゃないんですが、なんかへんなやり取りが爆笑でした)
フンボルトがアメリカに赴き、南米について意見を開陳しているとき
最初、仲間に注意しろ!と足を蹴られ、次に更にもっと過激な意見を言ったところ
机の下でアメリカの外交官に脚を蹴られるところも爆笑でした。

 作者ケールマンが語る、どうしてこの二人をいや、この時代を選んだかかについてですが、
このころが、丁度、知的な知るという行為が、あるいは科学というものが、
人間の生活を純粋によくするために信じられていた最後の時代だからというのは、
どこか物悲しすぎます。
 ガウスとフンボルトの二人は、ある意味でとても幸せな時代を生きた二人なのです。

兎に角、この著者のケールマンはすごい書き手。
もっと書いて欲しい!!。
そして、ドイツ語なんて全く理解できない私。
もっと翻訳して欲しい!!。

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紙の本

紙の本血と暴力の国

2009/07/27 02:02

この世界の深淵なものを描こうとしているのは、私にもわかる。

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 この本も、二つの意味でずーっと楽しみにしていました。
一つは、作家コーマック・マッカーシーを始めて読むということ。
もう一つは、実は、私、アメリカ映画ながら、非ハリウッド的な映画として、
コーエン兄弟の映画も好きでして、そのコーエン兄弟が、
コーマック・マッカーシーの本書を映画化したときいて
一体全体どんな風な映画になるのか?。
(映画化名は、ノーカントリー原題が、no country for old manでしてそこからとっている)
 又、マッカーシーとコーエン兄弟、暴力と言う意味ではなんとなく親和性がある気もちょっとしたりと。
いろんな意味で、注目の一冊でした。

 映画は、見ていないので、本に沿った書評でいきます。
ヴェトナム帰還兵のモスは、メキシコ国境地帯の荒野で銃撃の後と思われる車と
莫大な現金を発見します。
 勿論、この現金、非合法なお金。
モスは、この現金をもち出だすのですが、彼のあとを追い、シュガーという名前の殺し屋が現れます。
 そして、両者を追う、保安官。

 保安官の独白のパートを章前に挟みながら
この事件の顛末というか、三人の追跡劇が描かれていきます。

 短い文章で心理描写を極力排し、行動面のみを記述。
いわゆる、ハードボイルド風、アメリカ文学の典型です。
台詞もかぎ括弧をつけず、字の文のまま。描写も極限まで殺ぎ落とし簡潔さを前面に出していて、
ちょっとわかり難いですが、表現としてスタイルがきとんとあり、どこかかっこいい。
 これ、犯罪小説ですが、エンタメじゃないです。
エンタメならあおって書くようなところを淡々と描き、
又、意図的に"決め"のアクションシーンもどこか"すかして"描いています。
そして、なにより、事件そのものは、ページ数にして全体の3/4ぐらいで終わってしまいます。
 が、しかし、このコーマック・マッカーシーがピューリッツァー賞を受賞するほどの
レベルの高い書き手であることは、エンタメ本を多めに読む
レベルの低い私のような読み手でもわかります。
 この社会というか、いや、この人間のすむ世界の深淵なるものを
犯罪小説という体裁をとりながら描き出そうとしているのが、感じられました。

 マッカーシーは、次作、ザ・ロードでさらに自身の世界観を極北へと導き、
すごい褒める人とよく判らなかったと言う人とに二分されているみたいですが、
まぁ、なんとなくですが、マッカーシーについて少しわかった気がします。

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