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いなぎさんのレビュー一覧

投稿者:いなぎ

1 件中 1 件~ 1 件を表示

美囚の契り

2006/04/12 14:42

千草文学の最高峰とも称すべき。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 濃密にして格調高く耽美的な文体により戦後日本の官能小説界において孤高の高峰をなした小説家・千草忠夫の代表作が、本作『闇への供物』(新書版全五巻)だ。本作は官能小説家としての千草忠夫の技量と情熱のすべてが注ぎ込まれた、畢生の大作と呼ぶにふさわしい傑作である。
 北陸の小京都と呼ばれる錦城市を舞台に、闇のフィクサー清原允が企む名門女学園の乗っ取り計画。無垢な女子高生、潔癖な才媛女教師、誇り高い学園長……名門の誉れを担うべき美しい女たちは周到な罠にかけられ、無明の地下蔵で壮絶な性の調教を受けたのち娼婦として売りに出される。母の眼の前で、軽蔑するチンピラに、裏切り者の叔父に……逃れられぬ桎梏に囚われた美しい女たちは、降りかかる因縁の凌辱にのたうちながら被虐の美を開花させる。いっぽう、寺の後継ぎを得るために望まぬ結婚を強いられた美少女が、好色な夫の調教により女の性に目覚めていく日々。高校生のおさな妻が夜の床で垣間見せるおんなの媚態……。
 長編の名手であった千草忠夫は、社会派小説にも比するべき綿密で周到な舞台設定を生かしつつ、運命に翻弄されながら快楽の奴隷へと堕ちていく女性たちの変転の過程を稠密な心理描写とともに描き出して見せる。逆らえぬ関係性に絡め取られてゆく高貴な精神と、抗いえぬ快楽に崩壊させられていく美しい肉体。こころとからだの両面から女性を追いつめ、肉体のみならず精神をも被虐の快楽へと繋ぎ留めていくところに千草忠夫の責めの本領がある。犠牲となる女性たちの無惨な転落は、それゆえ、彼女たちが身にまとう清楚さ・健康さ・貞淑さ・矜り高さゆえにこそ、より凄艶さを増してゆくのだ。
 つとに指摘されるように、数多の千草作品にはまぎれもなく女性讃美の要素が通底しているのであって、この女性讃美こそが千草忠夫の作品をして、性急に性交場面のみを描いて事足れりとする凡百の官能小説群をはるかに凌駕せしめている所以でもある。『闇への供物』には、まさに、千草忠夫が描くこの官能美のエッセンスが凝縮されていると断言できる。
 『闇への供物』を知らぬ者は、いまだ千草忠夫を知らない。『闇への供物』とはそんな小説である。
千草忠夫データベース「ちぐさ文学館」管理人

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