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  3. シノスケさんのレビュー一覧

レビューアーランキング
先月(2017年2月)

シノスケさんのレビュー一覧

投稿者:シノスケ

34 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

ハローサマー,グッドバイ

紙の本ハローサマー,グッドバイ

2007/07/08 16:09

夏の終わり

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

少年は憂いていた。官僚階級にあり権力者でもある父親は傲慢、母親は良母であろうとしつつも対面ばかり気にしている。両親と自分との間には計り知れない溝があり、すれ違いばかり。そして、少年が海辺の町で出会い恋に落ちた相手は、良心のおめがねにかなうとも思えない宿屋兼酒場の一人娘だった。ふたたびその街を訪れることとなり、前回出会ったころの約束を胸に秘めていた少年は、家族との不仲を差し置いてもやはり喜ばずにはいられない。

いっぽう、世間は戦争中。田舎町や少年の身の回りにそれらしい兆候は見当たらないのだが、海の向こうの国との戦争は確実に世間を蝕んでいた。わかるとすれば、普段の生活を配給品に頼るということ程度だ。いとしのブラウンアイズと無事に再開したドローヴは二人で愛をはぐくんでいくが、戦火の影響はひっそりと忍び寄りつつあり……。

出だしは少年と少女のひと夏の悲恋を書いた青春小説である。このやさしいひと夏の経験が濃縮された序盤では、10代の少年少女たちの瑞々しい心理をたくみに描いている。純粋で触れがたく、いまさらながらに羨ましくなるほどの青くすがすがしい夏。舞台となっている惑星ならではの冬の残滓がそこかしこに感じ取れるが、ドローヴとブラウンアイズのやり取りはそれを感じさせぬほど気持ちがいい。このまま終わるのならばただの恋愛小説で、あえて凝った舞台設定をつくりだす必要はないだろう。

中盤以降、はっきりと階級が二分された社会の軋轢は夏と冬以上に人々の対立を煽り、さらには続々と避難してくる役人たち。市民と役人は、行方不明になった少年の捜索で対立を繰り返し、ドローヴは間に挟まれ翻弄される。そして、それすらもがあっという間に遠い遠い出来事に思えてしまうほど、ラストで物語が色を変える。こういう小説があるから、読書はやめられない。最後までじっくり読み、あらためてタイトルと序文を見返すと感動もひとしお。傑作なのでぜひ復刊を。

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紙の本

メルニボネの皇子

紙の本メルニボネの皇子

2006/10/21 00:07

英雄に求められているものは

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ヒーローや英雄と呼ばれる人々にも、当然ながらさまざまなかたちがある。十鬼島ゲンは自らの英雄性を否定することで銀河の人々を先導した。ベルガリオンは愛する妻のことを考え世界を救った。エルリックは次元を超越する魔剣ストームブリンガーと出会い、そして探求のために故郷メルニボネを旅立つ。それは自らの良心に基づく旅路だ。そして、先々で待ち受ける困難が彼の人間性を浮き彫りにしていく。

エルリックは苦悩し、自らの力に酔いしれもするし、義憤にかられ剣を取ることもある。そんなエルリックは、実は一般人と変わらない部分が多いようにも見えるのだが、それでも彼は奇形だ。それは彼が白子ということでもないし、半神に近いメルニボネ人であるということでもない。もちろん、薬を手放せないほどの虚弱体質なのだが、普通の人間の目には強大な魔術と黒い魔剣を使いこなす人ならざる人として写る。自らの求めるもののために、相反する力を借りなければ生きながらえることもままならない二律背反する状況にもあるエルリック。まさにアンビバレントな存在である。そんなストームブリンガーの混沌に頼らなければ成らない二律背反な状況が、いっそう彼の葛藤を暗澹たるものにする。活劇シーンも書き込まれた魔術シーンも実に鮮やかだ。悲劇と叙事詩的で壮大なファンタジー世界を融和させ、エルリックというヒーローの葛藤を見事に描いた名作。

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紙の本

楽園の泉 新装版

楽園の泉 新装版

2006/03/23 21:03

宇宙へ

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

世の中には読むべきSF作品がいくつか存在する。『楽園の泉』は、その中でも上位にランクインするだろう、確実に。今まで絶版だったが不思議だ。
軌道エレベーター、宇宙への橋建造がメインだが、クラークの未来へのヴィジョンが詰め込まれた作品でもあり、クラーク流の文章で綴られる未来の物語は、なんとも美しい作りかけの世界を見せてくれる。
地球外知的生命体スターホルムとの接触は簡素な書き込みで終わり、神に挑んだ王が残した絵と彼自身の物語は、軌道エレベーターの話とは噛み合っていないように思える……。が、すべての物語は、天を向き、未知と神への挑戦の物語である。現場の苦労とパッションだけを小説の原動力にせず、人間の持ちえる本質と良識を、宇宙への架け橋を主軸にしながら練りあげた名作中の名作。
時の流れと重さを肌で感じることが出来る数少ない作品の一つ。

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紙の本

ラギッド・ガール

紙の本ラギッド・ガール

2006/12/14 23:03

今年の傑作SF

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

前作『グラン・ヴァカンス』は、物語の一部に過ぎないがそれでも太陽が照らす白い砂浜には、美しく残酷な物語が否応なしに伝わってきた。本作では、AIたちの住む<数値海岸>と現実世界を二分するに至った大途絶そのものと、そこにいたるまでの現実の物語を痛々しくも丁寧に描写している。作中人物ではないが、世界とは当然残酷なものであると言い切った博士がいる。この世界では現実も、そして<数値海岸>もやはり残酷である。
大途絶以降、<数値海岸>からは人間世界の様子はわからなかった。そして、本書では二つの異なる世界を結びつけ、さらには経緯を明らかにしているが、そこから掘り起こされるのは痛みだ。仮想空間の中に見出されたAIたち。残酷なのは現実だけではなく、作られた現実ですら同様で、メタな視点から仮想現実を切り刻みそこから抉り出される人間性はなんともエロティックだ。
それを支えているのは、視床カードと視覚的なイメージを雄弁に語る文章があってこそ。太陽が照らし出すジェリーの透き通るような白い肌とは正反対の、異形の阿形渓ですら怪物的な存在感で圧倒する。悪意や嫌悪感を想起させる外見にもかかわらずであるが、そこにすら官能的でエロティックな雰囲気が醸造されている。
<数値海岸>で暮らすAIたちは、前作との直接的なつながりもみせている。大きな宇宙と流れの中でカットバックされる物語は、『グラン・ヴァカンス』のどこかに挿入される物語に過ぎないのか。おそらく前作と本作をあわせても、全体の何十分の一なのだろう。『グラン・ヴァカンス』をさらに本書で掘り下げ、力強い線でひとつの世界が作られた。『グラン・ヴァカンス』だけではなく、こちらも読んでから評価するべきだ。続きを早く読みたい気持ちもあるが、この余韻を引っ張ってしばらくはこのままでいいかもしれない。再読することで、はじめて読んだ時の感覚を忘れたくもないほどの作品群。次の作品が今から楽しみで、そして待つことすら苦にしない大傑作。

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紙の本

ビヨンド 惑星探査機が見た太陽系

生きてるうちに火星にいけそうにないので、せめて火星の写真を眺めてみる

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

太陽系の写真集。太陽から水金地火木土天海まで。特に木星はイオやエウロパもしっかり掲載されている。

探査衛星によりその一端を垣間見ることが可能となった宇宙の神秘。もはや芸術などという言葉では生ぬるい。人間の手の届かない何かがそこにある。人間の目で直接見て撮ることの出来ないその写真は、宇宙ゆえに比べられる尺度も無くただあるものをそのまま写しただけだ。余分なスケールが無いからこそ、改めて人間が自らの大きさを感じることが出来るのではないだろうか。

いわく「僕らは、宇宙に存在することの意味を知る必要がある」

それでも、宇宙の中の人間として思考するのはまだまだ先の話。まずは地球から飛び出すための準備として、それぞれの惑星をただ眺めよう。だからまずは素直に故ヨハネ・パウロ2世と同じことを言えばよい。
「ワオ!」

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紙の本

タフの方舟 1 禍つ星

紙の本タフの方舟 1 禍つ星

2006/04/01 10:37

猫好きにもオススメ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

愛猫とともに一人で宇宙船を駆る商人ハヴィランド・タフ。身長は2.5メートルを越え、体毛は一切なく、でっぷりと太った腹を支えるのは真っ白な手足。無表情から繰り出される慇懃無礼な態度は神経を逆なでしてやまない。傍目には全くの怪人物だが、筋は通すタフ。彼の強烈な個性に惹きつけられてしまった時点で作者にはしてやられたというもの。

遺伝子ネタ、ひたすら巨大な宇宙船、滅びた文明、異質な知性体等々……SFとして目新しい要素は見当たらない。クローニングや遺伝子操作による問題提起が積極的に行われているわけでもない。それでも巨漢の商人がどうやって問題を解決していくのか、先を読まずにはいられないのが不思議だ。帯の「『ジュラシック・パーク』の興奮と『ハイペリオン』の愉悦がここにある」はなかなか微妙なあおり文句であるけれども、各星で繰り広げられる腹の探りあいと人間達のダメさ加減を胚種船から見下ろす視点はなかなか妙。読みやすいエンターテイメントSFとして広くオススメ。

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紙の本

砂漠の惑星 新装版

紙の本砂漠の惑星 新装版

2007/04/12 01:08

知の砂漠、思索の惑星

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

レムによる未知の知生体との接触を書いた3部作の最後の作品。執筆順序は『エデン』 、『ソラリス』そして本書となる。6年前に消息を絶ってしまったコンドル号捜索のため、無敵号が砂漠の惑星へと向かうところから始まる。序盤の惑星探査場面から、調査隊がが隊長の判断により慎重な行動をとるため、「未知の危険」への緊張感はいやでも高まるというもの。それでなくても『ソラリス』のあの圧倒的迫力を思い起こせば、こちらではいったいどんな存在をレムが考え出したのか。
さて、いつまでも惑星の軌道上からの調査というわけにも行かず、現地調査となるわけだが、ロハンはじめとする調査隊の面々が見つけたのは奇怪な建造物のようなものと、真っ黒い雲だ。これらが結果的にどんな存在であったかは省くが、こちらと比較するとエデンに登場する複合生命体はなんとか意思の疎通がとれそうな気がしてくるほどである。
邦題は『砂漠の惑星』だが、現代は『無敵』。ロハンたちの乗る宇宙船も無敵号という名前だ。無敵号はおよそありとあらゆる場面に対応し、まさに無敵を誇る装備を搭載していたはずだったが、選び抜かれた宇宙飛行士たちの頭脳と、その設備をもってしても何故石鹸に歯型がついていたのか、明確な回答は得られない。何故、それが起こったのか。解説で上遠野浩平が語っているとおり、これは重大なものが破壊された結果である。無敵号が搭載している設備では、おそらくえることのできない結果だろう。破壊されてしまったのは人間性と記憶そのものであるからだ。人間性が含まれた記憶そのものと言ったほうが正確かもしれないが、ともかく結果として「破壊」されたしまった。
人間が作り上げた枠組みを超えた概念と存在を持ち込むことで、レムは人間を否定する。そして、否定は悲観ではない。万能戦車が持つ究極の破壊力は、現実世界が持つ武力の無意味さだ。現に戦車の持つ砲撃は黒雲には全く通用しない。砂漠の惑星がにより破壊される人間、そして類似性の欠如から諦めざるをえない相互理解だが、これは現実に人間が必要としていることではないだろうか。人間が持っているものの無意味さを再認識し、それらを手放した上での行動と決断を求めているように思う。
終盤、行方不明者の捜索に単身乗り出すロハンだが、彼に反応する存在たち。知性を持った海よりも、無機質でまさに乾いた砂漠のようなその存在の意図はわからず、理解するすべもない。無敵の名を冠するはずの宇宙船ですら、さじを投げる。『ソラリス』では人間の感情が入り込んでいたが、本書ではそれすらもなく無常観あふれる現実と宇宙への達観がある。しかし、これは決して諦念ではない。ロハンの決断と行動は人間性の証明である。既存概念の破壊、そして再構築。破壊されることも無駄な行動も、決して無意味ではない。

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紙の本

フィーヴァードリーム 下

川面に鳴り響くのは汽笛のみならず

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

自らの正体をマーシュに打ち明けたジョシュア・ヨーク。彼の一族は、生物の血で渇きを癒し、昼間には出歩けないという吸血鬼の一族だった。ヨークの目的は、一族を血の渇きから解放すること、人間との共存をはかること。フィーヴァードリーム号を作り上げたのは、ミシシッピ河流域に散らばる同胞を集めるためだ。マーシュの理解を得、ヨークの理想はうまくいくかと思いきや、彼の眼前に立ちはだかったのは同じく夜の一族の王たらんとするダモン・ジュリアン。人間を餌、家畜とみなす邪悪の化身がフィーヴァードリーム号に迫る……

得体の知れない感覚、奇妙な友情が手に取れるほどはっきりと形を作る。ヨークの種族に無知でも、ヨークを信じたい船長の心意気。またはその真逆も心地よく、胸に響く。力強く、はっきりと、蒸気船の汽笛のように鳴らされる二人の友情。南北戦争前を舞台に、黒人と白人の関係をそのまま人間と一族の関係に置き換えつつも、交わされる二人の友情は夢物語などではない。ラストの情景まで見事の一言。傑作なので手に入るうちに読むことをオススメ。

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紙の本

イリアム

紙の本イリアム

2006/08/13 20:52

シモンズ待望の新作。二部が今から待ち遠しい

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『イーリアス』。イリアムの平原で、数多の英雄と神々がこぞって争うトロイア戦争を題材にした叙事詩である。ホッケンベリーはオリュンポス山のふもとに住まうギリシアの神々達の手により、はるかな未来に復活させられていた。神々の怒りに触れぬよう、戦々恐々としながら戦争の記録をとっていたホッケンベリーだが、あるとき、一人の女神から思っても見なかった使命を与えられることとなる。ホッケンベリーはわけもわからぬまま、歴史と神々に翻弄されるのだが……。

地球に住む人類は、仕事、学問、芸術等が全く存在せず、自動機械たち下僕に任せるばかり。ディーマンもそんな人類の一人で、毎日享楽にふけり怠惰な生活を送っていた。そんな中、ハーマンという一風変わった人物と知り合う。彼は世界のあり方に疑問を持ち、今は失われたはずのある能力を持ち合わせていた。ディーマンは、ハーマンとアーダ、ハンナとともに宇宙船を見つけるための旅に出る。

木星の衛星に居を構えるモラヴェックは半機械生命体。モラヴェックの誰もがかつての地球の詩などの文学を趣味にしていた。エウロパに住むマーンムートもその一人、シェイクスピアを趣味にしていた。地球に住まうポスト・ヒューマンとの接触が絶たれて久しいが、地球ではなく火星に不穏な動きが見られていた。急激なテラフォーム、謎の巨石人頭像等々。マーンムートはイオのオルフらとともに、火星への探検隊に任命され、異常な量子撹乱の原因を探る調査に赴くこととなる。

3つの物語を機軸に、トロイア戦争と人間達の物語が進んでいくのだが、入り組んでわかりづらいなどということは全くない。逆にそれぞれが独自の物語としても通用しそうなくらい完成度が高いのに、それを3つくっつけてかつリズムよく読みきらせてしまうんだから凄い。そう3つ。3つだ。イオのオルフが語っているように、この話には3つの重要なことわりがある。果たして4つめは何か。未だ交わらぬ物語同士が接点を持った時、何が起こるのか。

堕落している人間達やオリュンポスの学師たちの誰よりも、半機械生命であるモラヴェックたちが一番人間らしい振る舞いをしているのも奇妙だ。今までは忠実に史実をなぞらえていたトロイア戦争に、次第に影響を及ぼし始める学師ホッケンベリー。行き当たりばったりにも見えるその行動にはらはらしつつ、神と人間の戦争の行く末はどうなるのか。同じ宇宙同士の物語かどうかすら定かではないが、3つの物語が織り成す冒険とイリアムに秘められた秘密、壮大なテーマには何の回答もないまま次巻に続く! あーもー次巻が速く読みたくて仕方がない。ロマンスは存在していないけれど、力強く圧倒的な物語はそれだけで圧巻。読むべし。

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紙の本

ウィンディ・ストリート

ウィンディ・ストリート

2006/06/29 00:28

探偵V・I、故郷に帰る

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

探偵V・Iは生まれついた時から探偵だったわけではない。その気質は父と母によって育まれたことに間違いはないが、その故郷はサウス・シカゴ。可能ならば二度と足を踏み入れたくはない故郷だったが、母校バーサ・パーマー高校の女子バスケットコーチ、マクファーレンからある依頼を受ける。恩師の頼みを断るわけにはいかず、しぶしぶながらも故郷に戻り、女子バスケットコーチの代理を務めることになる。相変わらずの貧窮さが伺えるサウスシカゴでは、女子生徒の大半が卒業までに妊娠や出産を経験し、男達は無責任さを発揮しながら薄給の仕事に就く。そして再び同じ境遇の子供を育てるという悪循環。自分の故郷ながら、全く眼も当てられない参上に暗澹たる想いを抱きながらも、バスケットコーチとしての勤めを果たそうとするヴィク。しかし、そこで待っていたのは手に負えない生徒ばかりではなかった。生徒の一人から母親が勤めている工場に悪質な嫌がらせが頻発していると相談を持ちかけられる。さらには、自分の代わりにコーチをしてくれる人物を見つけるため、寄付の交渉に赴いた地元の大企業でもなにやら不穏な空気が立ち込めており……。不屈の闘志で探偵V・Iが日の当たらない事件に挑む。

調査のために工場に忍び込んだら、火事と爆発に巻き込まれたというのっけからハードなオープニング。このシリーズにおいて、V・Iが怪我をしなかったことはあるのだろうか。顔面を殴られたり、家に火をつけられたりは序の口で、今回も怪我満載、ピンチ満載。それでも相変わらず頼れるものは自分だけ。いや、そもそも自分以外をほとんど頼りにはしない探偵ヴィクの孤軍奮闘は相変わらずで、金にならないと知りつつも事件に首を突っ込み、また一方で目的のためには金を要求したりもする。それというのも彼女の中に存在しているある芯を通すためだ。かっこいいプライドや誇りではなく意地という言葉のほうがしっくりくる彼女の中にあるモノ。ひっそりと弱音をはいたり、恋人モレルに付きまとう記者マーシナに嫉妬を覚えたり、万能ではないからこその孤高さを持ち合わせている探偵は、まさにヒーローと呼ぶにふさわしい。

彼女が世間にもたらしたのは些細なモノかもしれないが、その影で必ず救われている人々がいる。その人たちにわずかながらの光明を差し出したのだ。大企業からの僅かな寄付金であろうとも、少女達ににコンドームについて教えるのも、実はヴィクにとっては大差ないのかもしれない。齢を重ね、落ち着きが出るかと思いきや、むしろ吹っ切れた感のあるヴィクの変わらぬ探偵魂をこれからも読み続けていきたい。

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紙の本

遠まわりする雛

紙の本遠まわりする雛

2007/12/14 23:26

古典部シリーズ第四弾

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

相変わらず省エネ主義のホータローが、古典部の面々に振り回される話。しかし、面倒ごとに巻き込まれるのを良しとしないホータロー。たとえ巻き込まれても、やらなければならないことなら簡潔に、すばやく、問題を解決しようとする。

前作までの古典部シリーズと比較するとホータローが謎を解くというよりも、彼自身の心情を中心に、事件の背景を推察するといった雰囲気が強い。特に基本的にホータローの一人称であり、彼自身が感じたことをそのまま吐露しているようにも思える。しかし、他人の感情はホータローの推察でしかなく、一見無気力とも取れる省エネ主義は、自身の感情をも疑わしく思わせる。

そして、本作品は、省エネ主義を自称するホータローがその目指すところにもかかわらず、謎解きを行ってしまうのはなぜかという原動力を自分自身で解き明かす物語でもある。達観しているように見えてそれすらも面倒くさがるホータローは、ある意味で無気力な高校生らしいとも言える。しかし、作中では怒の感情すら否定されながらも、彼自身が等身大の自分を受け入れたラストは心地よい。

ミステリという形式をとっているものの、紛れもない青春小説であり、ホータローの目線を通して見える彼らとホータロー自身は青臭く純粋だ。あらなた関係とつながりに気が付いた彼らの2年目はどうなるのか。続きが読みたくもあり、この余韻を残したままにしておいてほしくもあり。

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紙の本

さよならを告げた夜

さよならを告げた夜

2006/09/12 23:09

探偵のかたち

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

息子の死の真相を明らかにし、行方不明になった息子の嫁と孫娘を探してほしい。それは孤独な老人からの依頼だった。肝心の息子は自殺と発表されており私立探偵の出る幕などなかったはずだが、老人の依頼を元警官のリンカーン・ペリーは断りきれなかった。相棒のジョーとともに捜査を始めると、暖かい家庭の名残の影にちらつくのは怪しいロシア人。そしてFBIやクリーヴランドの大富豪たちの権力がちらつき始める。次第にペリーの周囲にも単なる失踪者探しだけではなく、不穏な空気が立ち込め始める……。

軽快なリンカーンとジョーのやり取りをアクセントに、物語はひたすらクールに進む。リンカーンの目を通してみる世界は、何の変哲もない現代にもかかわらずどこか哀愁が漂い、薄幕の裏に隠れている苦い現実が生々しく迫ってくる。行方不明になった美貌の妻と探偵の暖かい家庭の情景や、心の機微の繊細さ、過去への郷愁。まだ見ぬ人々とかつて起こった出来事を想像し、リンカーンが街を駆ける姿は勇ましい反面、どこかいたたまれない部分がある。少しずつ明らかになっていく出来事とともに、徐々にはがれていく仮面。物語を語るのは仮面を持ち得ないリンカーンだ。だからこそ、筋の通った純粋な物語に読めるのかもしれない。

さて、タイトルは『さよならを告げた夜』である。ということは、もちろん告げる人物と告げられる人物がいるということだ。誰が誰にさよならを告げたのか。それは意表をついた真相ではないけれど、驚くべき事実にはかわりがない。現代的というには少々古臭い感もあり、奇抜というには物足りないが、骨太で活き活きとした探偵小説としてオススメ。
アメリカでは既に2作目が出版され、3作目を執筆中とのこと。新刊が待ち遠しい作家が一人増えた。

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紙の本

マッカンドルー航宙記

紙の本マッカンドルー航宙記

2006/03/23 20:56

難しくないハードSFがあってもいいじゃないか

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日夜マイクロブラックホールの研究をしていれば幸福なアーサー・モートン・マッカンドルー博士。彼は変人ではあるが太陽系随一の物理学者でもある。さて、天才博士の相棒をつとめるのは貨物船の女船長ジーニー・ペラム・ローカー。用心深く冷静な性格だが、いざマッカンドルーの相手となるとどうにも一歩譲りがち。やがてマッカンドルーが作り出した画期的な航法システムにより、宇宙を所狭しと飛び回る二人だったがそこには驚くべき事件と宇宙の脅威が待っていた……。
ハードSFと言えば、とかくとっつきにくいし読みにくいというイメージがある。昨年刊行されたイーガンの『ディアスポラ』などはその最たる作品で、全編を通じて展開される概念はとにかく難解、わたしにとってはもはや理解不能の文章が登場することもしばしば。しかし、読みやすいハードSFがあったっていいじゃないか。そもそもハードSFのハードは、難解で理系知識が不可欠であることと同義ではない。本書は、科学者でもあるシェフィールドによるやさしいハードSFである。
ブラックホール、彗星への到達、未知の放浪惑星、世代を超えた恒星間シャトル計画等々いかにもSFらしい題材を、ハードさを損なわずにさらりと解説し、いかにもな風に仕上げている。その上天才博士のユニークさが、ハードな部分を壊さずかえって説得力を持たせるんだから絶妙。このバランス感覚は、クラークの作品でも味わえない。
巻末には付録と解説で、本作品の中に使われたSFの中の科学を丁寧に説明している。これが興ざめにならないあたりからして、作品の構成力の高さが伺える。派手さや魂を抉られるほどの衝撃を持っているSFではないが、エンターテイメントなハードSFとしては間違いなく一級品。

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紙の本

アークエンジェル・プロトコル

SFなのにアメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞作

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

大戦後、メデューサ爆弾により荒廃したニューヨーク。ディードリ・マクマナスは警察を辞め、リンクからも切り離され、苦痛とともに日々をすごしていた。世間ではリンクに忽然と現れた天使の話題で騒然としているというのに! さて、警察を辞め、リンクとの接続を回復できる見込みのないディードリ。彼女の元にきた依頼人は、こともあろうか世界の人々の大半が信じるリンク天使を偽造だといい、さらには絶対不可能であろうリンクとの回復を報酬として提示してきた。荒廃した世界と、張り巡らされた電脳世界を舞台に女探偵が謎を追いかける……。

電脳、荒廃した世界、リンク等々、サイバーパンクの下地たっぷりに、ハードボイルドが語られる。語り手たる主人公ディードリは、アンナ・リー、V・I・ウォーショースキー、サーズデイ・ネクスト、解説で語られている彼女ら女探偵に負けず劣らず魅力的な探偵だ。元敏腕刑事、電脳世界への能力は折り紙つき、しかし今はさえない私立探偵に身をやつしている。元恋人は投獄され、その事件の真相はいまだ解明されず、心に残している傷は深く大きい。

凄腕のハッカーやAI、リンク中毒など、何か目新しいギミックが登場するわけではない。しかし、折に触れて混ぜられるディードリの心情と、天使の超自然的な存在がSF的な背景に巧みに色付けをしていく。マイケルとのロマンスや、普通には起こりえない奇跡の存在があるけれども、核となるのはあくまでもディードリ、つまり人間だ。さすがに欧米の小説らしく、宗教観がたっぷり詰まっているし、ファンタジイにサイバーパンクにハードボイルドにとちょっと欲張りすぎだけれども、基本はエンターテイメント。さてこの世界の終末やいかに。続きもぜひ読みたい。

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紙の本

ほとんど無害

紙の本ほとんど無害

2006/09/10 22:58

近くて遠い宇宙の中の宇宙のほとんど無害な話

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

宇宙ヒッチハイクガイドも本作で最後。パニクるな!の名言とともにユーモアとジョークでできた宇宙をこれでもかと見せ付けてくれた。本作の主人公はやはり最後までアーサー・デント。4作目で最愛の女性と結ばれるものの、突拍子もない宇宙の気まぐれで再び放浪者となってしまったアーサーはある惑星でサンドイッチ職人としてそれなりに平和な生活を送っていた。突然現れたのはフォード・プリーフェクト……ではなく、トリリアン。突然現れた彼女はなんとアーサーの娘を連れていたのだ。そのころフォードは、銀河ヒッチハイク・ガイド社の異変に気がつき、秘密を探り出そうとするが……。

虚構で塗り固められたSFコメディの終焉は、なかなかシニカルな終わりを見せる。え、これがあのヒッチハイク・ガイド? いいの? ほんとに? などと思ってしまったが、よくよく考えてみればわかりやすさや納得できる結末を求めていたわけでもなく、混沌とユーモアは存在しているし、一体全体なにが不満なのだろう。

どこかの宇宙にはフェンチャーチとともにヒッチハイクをしているアーサーがいる宇宙もあるかもしれない。憂鬱症が治ったマーヴィンがいるかも、<黄金の心>号を盗まなかったゼイフォードが、究極の問いの答えが42じゃない宇宙が、地球が「ほとんど無害」でない宇宙があるかもしれない。自分たちの住んでいる宇宙と地球はたまたまありえないほどの確率で、こんなに面白おかしい事が起こらないんだと信じたくなってしまう。

20年後くらいにはたぶんこの本の内容は変わって読めるだろうし、ひょっとしたらひょっとして自分の知っている『ヒッチハイク・ガイド』とは中身が違っているかもしれない可能性だって0だとは言い切れない。……たぶん、自分は今生きている宇宙に不満なのだろう。

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