Yanさんのレビュー一覧
投稿者:Yan
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紙の本リトル・トリー
2002/02/10 01:38
悲しみと怒りがあふれてくる
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リトル・トリー(ちいさな木)は、作者のインディアンネーム。チェロキー族の血を引く彼は、幼いころに父母に死に別れ祖父母に育てられます。祖父母のチェロキーの生き方を受け継いでゆくリトル・トリーの回想録。
私は、「モヒカン族の最後」や「アメリカインディアンの教え」「ナバホの歌」などでネイティヴアメリカンの行き方に共感していましたが、祖父母が孫を前にして、教える言葉、行動そのものが感動を起こしました。それは、チェロキーのおきてに基づいていて、自然がすべてであって人はその一部に過ぎず、自然の恵みに感謝して生きるということなのです。
アメリカ合衆国の悲惨な政策のひとつにインディアンの強制移住があり、チェロキーの人々も、不毛な地域に移住させられる途中で何万人もの人が死んでいきました。その中でも誇りを失わず、涙を流さず生きた人たちの姿は、そのままリトル・トリーの祖父母の中に現われていました。
ガラガラヘビに襲われたリトル・トリーを、自分の腕を犠牲にして助ける祖父。毒の回った祖父を必死で助ける祖母の姿にジーンときました。
行商人のワインさんの「わしの家族はな、みんな大きな川のずーっとむこうにおる。みんなといっしょにいられるようにするには、たった一つしか方法がないんじゃ。毎晩決まった時間にろうそくをともす。こうすると、みんなの思いはひとつじゃからどんなに離れていてもいっしょにいられるんじゃ」。この言葉に、家族と離れたことのない自分の甘え、いつでも誰とでも通信ができる自分への怒りを感じました。ワインさんのこころの豊かさも感じました。ワインさんは、自分が死ぬ時ろうそくを家族とはなれているウィロー・ジョンへ渡そうとしました。人の悲しみを感じることのできる人、それがチェロキーの人なのです。
リトル・トリーが法律という冷徹な手段で孤児院へ入れられてしまうときも、祖父母は冷静です。「どんなところにいても夕方になったら天狼星(ドッグスター)を見なさい」と祖母の言った言葉は、ワインさんのろうそくとおなじことなのでした。孤児院で、院長に偏見と差別の目で見られたリトル・トリーは「体の心(ボディ・マインド)を眠らせ、霊の心(スピリット・マインド)で苦痛を耐える」ことを教えてもらっていたので、体罰の痛みに耐えぬきます。そして、ドッグスターのおかげでおじいちゃんに再会できるのです。
なつかしい我が家へ、でもそこには優しい人々との別れが待っていました。たった一人で死んでゆくウィロー・ジョン。おじいちゃんにおばあちゃん。それぞれの死は誇りに満ちていて幼いリトル・トリーに生きる力を与えてくれたのでした。「今生も悪くなかったよ、リトル・トリー。次に生まれてくる時はもっといいじゃろ。また会おうな」。「リトル・トリー、風の音を聞いたら、木々を感じるようにわたしたちを感じてちょうだい。おまえが来る日を私は待っています。次に生まれるときはもっとよくなっているでしょう」。
日本人がかつて持っていた輪廻転生の考え、忘れてしまった耐える心、人の痛みを感じる心、そういうことを教えてくれました。冬の夜空に輝くおおいぬ座のシリウス、わたしの大好きな星が天狼星(ドッグスター)でした。
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紙の本辺境のオオカミ
2002/02/10 01:28
ロマンブリテンの集大成
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代表作のローマン・ブリテン3部作の最終刊。4作目というふれこみでしたが、エメラルドのイルカの紋章の指輪を持った男の物語の集大成と言う感じがしました。
時代的には、イギリスがローマに支配されていた時代の最盛期をかなりすぎた頃。「第九軍団のワシ」より後の時代指輪を持つ男は、アレクシオス・フラビウス・アクイラ、第九軍団のマーカス・フラビウス・アクイラの孫に当たる人です。
この話の根幹は、一度仕事に失敗した男の再生というところでしょうか。「辺境のオオカミ」、と言うのは今でもスコットランドに残るハドリアヌスの壁、アントニウスの壁のむこうに住むケルト人の氏族で、ローマの軍隊に入って活動する人々のことでした。アレクシオスは、ローマの軍率を犯して戦いのさなかに独断で撤退し部下をおおぜい亡くします。それが元で「辺境のオオカミ」たちがいる砦の司令官に左遷されてしまうのです。
まず初めの絶望。そして、自分の位置を確立していくための戦い。これは三部作に共通のテーマです。「オオカミ」たちを理解し融和することでしたが、こちらはうまくいきます。自分のオオカミ(4本足の)を狩る、投槍のみでオオカミの命を止める。まさに「太陽の戦士」のシーンでしたが、このことによってオオカミたちとヴォタディニ族の族長の息子クーノリクスとの友情が深まります。
ところが、クーノリクスの弟コンラの悪ふざけが上官の怒りを買い、命令によってアレクシオス自身がコンラを殺さねばならなくなります。氏族との戦いの中で、アレクシオスはまたもや独断の撤退をしなければならなくなるのです。初めの撤退は失敗でしたが、二度目の撤退は正しい判断だったため、アレクシオスはその後砦の司令官に復帰することができるのです。これは彼自身の意思による選択で、「オオカミ」たちとともに生きることを選択した彼の中には、指輪を受け継いできた男達が持っていたのと同じ「誇り」があふれていました。
アクイラの一族が共通に持っていた「誇り」がここで集大成されていると私は感じました。
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紙の本呪われた航海
2002/02/10 01:33
こわーいけど、やっぱりおもしろい
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表紙を開けると地図が載っていて、真中に「トミーのつるされた絞首台」と言うのが目に入り、表紙の帆船の絵とともに暗い予感を感じさせます。怖い本でした。レッカーという、難破船から略奪行為をする者たちが、にせの信号灯でわざと船を難破させ積荷どころか乗組員の命も奪うという話です。
アイル・オブ・スカイ号で初航海をしたジョンは、にせの信号灯を見たあと難破します。父の舟にはなにやら怪しいものが積まれていて、それが元で父と自分を残して皆殺しに会うのですが、ジョンはこの土地の有力者モーガンに拾われ、父は人質として足のない男にとじこめられます。
モーガンはレッカーの仲間なのか、善人なのかよくわからないまま刊末にどんでん返しがあります。父を救おうとして、足のない男と戦うジョン、支えるモーガンの姪メアリー善人の顔をして実は大元締めだった牧師モーガンの過去、そういうものがどんどん展開されてドキドキの連続でした。
海洋国(日本も)には生活のために難破船から何がしかをちょうだいしていた歴史が必ずあるそうで、わざと難破させる犯罪行為を行っていた地域も少なからずあったと知って、驚きました。
海洋用語がいろいろ出てきてメルヴィルの「白鯨」を思い出だしました。
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