朝松 健さんのレビュー一覧
投稿者:朝松 健
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紙の本夜の果ての街 上
2002/06/13 12:52
著者コメント
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我々は絶えず「ゆらぎ」の中で生きている。
主観と客観、個と全、希望と絶望、生と死……夢と現実。
相反する存在の間で常にゆらぎ続けているのだ。
本作品で私は、この「ゆらぎ」を世界に対する懐疑にまで拡大してみた。今こうしている世界は一秒前と同じ世界なのか。私の属する世界は、貴方のそれと寸分変わらぬものなのか。本作で世界は第一行目からゆらいでいる。そして、この「ゆらぎ」を生じせしめている原因を作者は「欲望」と「魔術」に求めたのである。作品で演じられる全ての犯罪は「欲望」の象徴である。そして、主人公と世界の「ゆらぎ」と変容こそは「魔術」の象徴なのである。以って本作品を「P.K.ディックとエド・マクベインとアレイスター・クロウリーの融合体」と呼び、「ホラー・ノワール」と称する所以である。
さらに今回の文庫版において作者は密かに「ゆらぎ」を仕掛けておいた。下巻の最終章のほとんどラストの部分。地の文の一箇所に「それ」はある。どうしてそれが「ゆらぎ」なのかは全篇を読んでみなければ分かるまい。もし、本書を読了後、貴方が「ゆらぎ」を覚えたら、それこそ私の魔術にはまった証拠、その瞬間から貴方の世界も絶えざる変容を開始するであろう。
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