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  3. yu-Iさんのレビュー一覧

yu-Iさんのレビュー一覧

投稿者:yu-I

35 件中 1 件~ 15 件を表示

著者は死刑廃止論者です

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

おそらく、本としては失敗作であろう。
死刑廃止を訴えている本ではあるのだが、内容にお互い殺しあっている部分が多々あり、全体として主題の明確さに欠けている。
そもそもタイトルがどうもサブカルチャー的で、悪趣味で不謹慎な娯楽本だと思って手にとる人がいるのでは……って、実は筆者がそうだったのであるが。
著者は、奈良時代から現代にいたるまでの残酷な処刑制度・処刑法の紹介に、本書の半分以上のページを割いている。
ホラー小説のような過激な描写こそないものの、赤ん坊ですら容赦なく首をはねられたとか、少しでも長く生かして苦痛を与え続けるためになされた工夫だとか、ここに書かれた事実だけで十二分にショッキング。死刑廃止を訴える本であってサブカル本ではないと先に書いたが、実はこれで猟奇的な興味もけっこう充たされる。
しかし死刑の歴史を追っていって現代に近づくにつれ、「身の毛もよだつ」というよりはセンチメンタルな表現が目につくようになる。
これが本書のいちばんの失敗だと思う。
終盤に展開される著者の死刑廃止論が、まるでただかわいそうだから言っているかのような印象を与えてしまう。
死刑廃止を訴えるにしては前半の猟奇趣味が邪魔になり、悪趣味な娯楽として愉しむには後半が深刻すぎ、読みやすい軽妙な文体や感傷的な逸話は、「人命尊重」「人権意識」という言葉を安っぽくしてしまう。
しかしこの本は、この失敗ゆえに、ある一つの価値をもったのではないかと思う。
たとえば、サブカルチャー的な猟奇趣味を期待して手にとった読者が、後半に述べられる筆者の意見に触れ、死刑史や死刑廃止論に興味を持つようになったなら。
あるいは、これは著者の意図とはかけ離れたことであろうが、死刑廃止論を読みたくて手にとった読者が、前半のサディズムに触れ、闇に遊ぶ愉しみを新しく知ったなら。
それは一冊の本として、確実に成功であると思うのだ。

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紙の本殺人鬼

2005/10/15 05:58

悪趣味を楽しむ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

端整な本格ミステリを書く著者が、元来好きであるというスプラッターのジャンルで徹底的に遊び倒した作品。
スプラッターであるから、誰彼かまわずすすめられるものではない。正直本当に気持ち悪い。非常に好みの分かれる作品だと思う。
しかし、好みの分かれる、というのは、ただたんに残虐なスプラッター描写のゆえだけではない。
たとえば、キャンプをしにやってきたメンバーが山に閉じ込められ、次々に襲われて…なんていうあらかさまに「十三日の金曜日」を彷彿とさせる設定。
たとえば、「殺人鬼」なんてあまりにも明快なタイトルをつけてしまう点。
恐怖をいったん取り除いて冷静に見てみれば、ほとんど冗談みたいな話である。
読みすすめてみても、展開はB級ホラーそのもの。なんていうと貶しているみたいだが、ホラー映画好きの作家が好きな世界でとにかく無邪気に遊んだという、その遊び心がこの作品のいちばんの魅力であろうと思う。
またこの作品には、ラストの大どんでん返しを得意とする著者の作品の中でも、ある意味では随一かと思われる大トリックが仕掛けられている。
このトリックがまた、すごいのである。
後に「あんな馬鹿なネタを本格ではやれないので」というようなことを著者自らがインタビューで語っていたが、そうだろうなあと思う。
それ自体が悪趣味な気もする、そんな途方もないラスト。やっぱり一歩間違えれば冗談みたいなネタである。
このB級感をあえて楽しむ遊び心を持てるかどうか、というのが、この作品を楽しめるかどうかの分かれ道だと思う。

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紙の本クー

2005/10/09 17:30

躍動感溢れる陰惨さが強烈な印象を残すSF

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

濃密な本格ミステリを書く作家というイメージの強い竹本健治であるが、実は同じくらいSF作品も多く手がけている。
本書は荒廃した未来世界を舞台、非人道的な戦闘訓練を受けた美女を主人公に設定しており、長さも四百枚程度であろうか著者の作品の中では比較的短く、内容も躍動感に富んでいてエンタテイメント性の強い一冊になっている。
ただし、ライトノベルのような作風を期待して手にとると大きく裏切られることとなる。“荒廃した”未来世界が舞台で、“非人道的な”戦闘訓練を受けた(しかも本人の意思に反して)美女が主人公なのである。なんだか他にも見られそうな設定ではあるが、これははっきり言って非常に暗澹たる物語である。それもなるほど「あとがき」を読んでみれば、そもそも「思いっきり救いのない、八方塞がりな話を書いてみたい」というのが執筆の動機だったと著者本人が述べている。
また、重く暗いテーマと派手な戦闘シーンという取り合わせは同著者の「パーミリオンのネコ」シリーズにも見られる(その他設定にも似通ったところが多くあるので、本書が気に入った方は手にとってみると良いかもしれない)が、本書をとりわけ強く印象づけているのは随所に散りばめられた官能的なシーンであろう。この著者の作品では、官能描写は倒錯したシーンのスパイス的に用いられることが多いと感じているのだが、本作ではいかにもエンタテイメントらしい、ストレートなベッドシーンにかなりのページが割かれている。
しかしその描写も、
“眼の前が真っ白な光に包まれ、次にそれは砕け散って、闇に流れる無数の赤い星になった。星ぼしはうねり、逆巻き、巨大な波となって、彼女の意識を呑みこんだ。”
のようなSF的表現が駆使されており、死と隣り合わせの危機的状況下であることなどと融合して、一種異様な効果をあげている。
この点は個性的な登場人物たちが次々に戦闘を繰り広げてゆく躍動感と、陰惨で重苦しいテーマがあいまって生まれるこの作品の異様な雰囲気を、そのまま象徴しているといっていいだろう。

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紙の本最後の喫煙者

2005/10/12 08:08

名作ゆえに、今となっては笑えないかもしれない

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

昭和40年代から50年代の作品を中心に、筒井康隆のオイシイところをぎゅぎゅっと寄せ集めた自選ドタバタ傑作選の第一巻。本当にオイシイとこ取りで、何ともお得な本である。
一作目の「急流」でいきなりやられてしまった。奇天烈な人物が突拍子もない台詞を口にしただとか、そういう笑いならあるのだが、地の文がこんなに面白くて、つい笑い声を上げてしまったというのは初めてのような気がする。
ただふざけたことを書いて笑わせるのではなく、あくまでも知的でシュール。それでいてニヤリとさせるというのではなく、抱腹させる。こういう文章を書ける人はやっぱりなかなかいないと思う。
本当に面白いものは月日が経ってもやっぱり面白いのだなぁと感心させられるが、その一方で、今となってはちょっと笑えないかも…というものもある。
それは、時がたって古くなってしまったという意味ではない。
たとえば、表題作「最後の喫煙者」。
当時は馬鹿らしい話だと思って笑えたのかもしれないが、嫌煙ムードが本格的に高まってきた昨今では、いやまさかここまでは…と思いつつも、ただ笑ってすますことのできないような不安をはらんでいる。
たとえば、「問題外科」。
医療ミスやら医療機関の不祥事が次々に取りざたされる今となっては、これは本当に笑えない。もともとスプラッター色の強い作品であるためでもあるのだが、それにしてもこれは怖い。
しばらくは怖くて病院に行けなくなりそうな作品。これも書かれた当時は「そんな馬鹿な」と笑えたのだろうが…。
「こぶ天才」なんかも、学歴社会化が進みなおかつ就職難の今読めば、ちょっと不気味でもある。
タイトルからちょっとわかりづらいかと思うのであえて端的に書いておくと、ようするに高い知能を獲得するために人類がドタバタする話なのだが。
もしかしてこの著者は、未来を予知してこんな作品を書いていたのかしらん。
そんなことをふと思い、笑い転げながらも背筋がちょっと寒くなった。

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紙の本ミザリー

2005/11/10 15:37

さすがキング…

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ロブ・ライナー監督で映画化もされており、超有名な作品。
しかし何冊にも渡る大長編を次々発表しているキングの作品にしては、一冊きりできれいにまとまっているし、監禁モノで動きも少なくちょっと地味かなあ、などとも思われるのだが。
実は、すごいことをやっている。
監禁モノの心理サスペンスである。
自動車事故で半身不随になった流行作家であるポールが、元看護婦の愛読者に助けられ…たかと思いきやそのまま監禁され、「私一人のために小説を書け」と強要される。手を抜いていい加減なものを書いたり、逃げ出そうとすれば残酷な罰が与えられる。ポールは無事逃げおおせることができるのだろうか…?
主な登場人物は二人だけである。監禁する者と、監禁される者。そして監禁という設定上、舞台もほとんど一つの部屋から動かない。
それで、長編一本読ませてしまう。
それも息詰まるほどの恐怖とスリルでもって、ページを繰る手を止めさせない。
「すごいことをやっている」と書いたのは、そういう意味である。
人気作家がファンに監禁される恐怖、というテーマから、しばしば「キングが自分自身の恐怖を書いた作品」などと言われるが、その是非をさておくとしても、エンターテイメントとしてめっぽう面白い。
やはりキングの小説技術にはつくづく驚かされる。
そんな超人的な想像力と筆力を持つストーリーテラーであるキングだからこそ、このようなシンプルな物語を傑作たらしめたのであろう。
さすがキング…である。

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紙の本人形

2005/10/10 08:57

嗜虐と被虐の美学

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まず、ギニョルの造形が秀逸だ。このキャラクターを生み出した時点で、本作品の成功はある程度決まっていたと言って良いと思う。
SM小説家を生業としながらも現実ではごく平凡な中年の男が、偶然人形—ギニョルと呼ばれる男娼の存在を知ったところから物語ははじまる。その後実際に男はギニョルに出会うこととなるのだが、
彼は全身をむごたらしい傷におおわれた、凄惨な身体をしていた。何も語らないギニョルに男はなぜか嗜虐の欲をかき立てられ、そのまま彼を監禁することに…。
男娼を監禁するというエロティックな設定でありながら、官能的なシーンはほとんど存在しない。そのかわり暴力や虐待がえんえんと続く。しかし彼らがSMに興じているのかと言えば、そうとも言い切れない。その点が、ギニョルというキャラクターと密接に関係しているのだ。
ギニョルは人形だ。身に振りかかる暴力を拒もうともしなければ、悦ぶわけでもない。ただ本当に人形のように、痛めつけられるがままになっているのだ。
このキャラクターに加えて、痛めつける側である男の一人称小説のため痛みの描写がないこと、行為もただ行為としてのみ淡々と描かれていることなどにより、内容の残虐さのわりにはさらりと読める。
ただしラストのあの、鋏を用いたあのシーンに至っては、さすがにちょっと目をそむけたくなってしまったが。
長編だが、監禁という設定上動きの少ない作品だ。場所がめまぐるしく移り変わるわけでもなければ、登場人物もごく少ない。全編が嗜虐と被虐の美学で貫かれており、一つの色で統一されている感が
ある。それでも刺激的すぎるほど刺激的なシーンの連続のため、ページをめくる手はとまらない。
くわえてこれもギニョルというキャラクターの魅力なのだが、黙りこむかと思えば饒舌、生意気な口を叩いたかと思えば無邪気だったりと目が離せないところがある。
また全体的にはすこぶる残虐な小説であるのだが、随所に救いは残されている。以下の台詞がその“救い”の部分を象徴していると思われるので引用する。
「ああ。終わると何だか後悔するんだけどね。ひどいことしちゃったなあ。起きたら優しく撫でてやって、甘いものでも喰わせてやって、なんか喜ぶようなこと、してやらなきゃなあって思うんだけどね……」
主人公はギニョルを常に可哀想だと思っているのだ。
それでも虐待を加えてしまう、加えさせてしまうのがギニョルという存在なのだが…。
このような人間的な優しさの部分に救われながらであるからこそ、読みすすめることができるのだと思う。
しかし最後に辿りつくところは?ギニョルの正体は?彼の望むものは?
怖るべき驚愕の事実、それは、その目で確かめてみてください。

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紙の本行ってみたいな、童話の国

2005/10/19 14:14

どれをとっても長野まゆみ色

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

数年前、大人のための残酷童話の類が非常に流行した。意地の悪い笑みを浮かべたお姫様の怖ろしげな表紙が、書店のあちこちで多数平積みになっていたものだ。
本書もその流れにつらなる短編集である。
しかしはじめにまず言っておきたい。安易に流行に乗じただけの、個性の感じられないような本では決してないと。
個性が感じられないどころか、収録作のどれをとっても長野まゆみらしさがあふれている。少年たちの端整な姿と甘い毒のような無邪気さ、上品で知的な美しいエロティシズム。そこに童話の醜悪な残酷さがまじりあい、美醜の鮮烈な対比が生まれ、それがこの作品の印象をぐっと深めている。
甘く、非情で、端麗で、醜悪で、たいへん刺激的な一冊である。
ソースとなる童話を見事に自分のものにした本書は、濫作された残酷童話集の中で間違いなく一歩抜きん出ていたといえる。
そして著者の色に染め上げられたがために、とりわけ異色の残酷童話集となったのであろう。

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紙の本少女は踊る暗い腹の中踊る

2007/04/17 01:49

期待の新人

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

1985年生まれ。若い作者のデビュー作である。
執筆当時19〜20歳程度であろう若者が、ここまでえぐい話を書くのが不思議だった。
正直、誰彼構わずおすすめできるような本ではない。
乳児殺害やら一家皆殺し(それも物凄く残酷なやり方で)やら、思わず目をそむけたくなるようなエピソードが、たたみかけるような勢いで次々にえがかれている。
10代の青年の冒険譚にあわい恋心も絡む話だが、一般に言う青春文学とは著しく異なる。主人公の心情などはほとんど描写されておらず、物語の凄惨さとはうらはらに、狂気的なまでに淡々としているのだ。
文章も若書きらしく完成度は高くないが、ぐいぐい読ませる。そして、ジャンルにとらわれていない。かぎりなく自由に作品世界を展開している。
ジャンルの枠をはみ出した作品が多く出版されるようになって久しいが、ジャンルレスな作品というのはある意味秀逸で、読者が好きな読み方をすることができる。本書も、本格ミステリとして読むこともできるし、ホラーとも、サスペンスとも、恋愛小説とも、ああ、やはり青春文学として読む人もいるのかもしれない。
この作品は、読者の感情を積極的に揺さぶろうとはしない。
激しい心理描写が皆無に近いこと。
そして、この物語は惨たらしくはあるが、悲劇ではないのだ。
掴みかけた幸せを逃す、あるいはやっと掴んだ幸せを失うというのは悲劇だが、この物語には初めから希望がない。虚無から始まる物語だ。
未来をまったく感じさせないし、主人公がこの凄惨な現実から逃れたいとか、幸福になりたいとか願うこともない。終盤に希望らしきものが少し見えはするが、明らかに絶望と紙一重の希望である。そんなものはやはり虚無でしかない。
だからといって、この作品は刹那的である様を強調しようともしない。
だから、これはあくまでも物語なのだ。ひたすらに凄惨なストーリーをただ語った、という作品。
それでいてページを繰る手を止めさせないというのは、やはり稀有なことなのだ。
これから作者が年齢を重ねていったとき、作品がどのような方向に厚みを増し、深まっていくのか。まったく、楽しみな新人である。

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紙の本オルガニスト

2005/10/11 07:27

狂気よりもやわらかで、執着よりも美しい

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

音楽大学で教鞭をとる主人公のもとに、ある日一枚のディスクが持ち込まれた。正体は未だ謎に包まれているというそのオルガニストの演奏は、天才的であった。そして、主人公テオの記憶は過去へさかのぼってゆく。
テオにはかつて、オルガニストとして驚くべき才能を持つ友人がいたのだ。しかしテオの過失による事故で、彼は半身の自由を失っていた。
この演奏者は、はたして彼なのか…。
音楽を愛しすぎた者の物語だ。愛するあまりに神にそむいてしまった者の物語だ。その魂は、あきらかに常軌を逸している。
しかし、あくまでも美しくやわらかな作品である。異常としか言いようのないはずの強すぎる愛を、あくまでも愛としてえがききっている。
凡手の手にかかればグロテスクな狂気やおぞましい執着になろうとする愛を、ギリギリのところで美しく真実の愛として書き上げたところに、著者の手腕が光る。
また、この本に詰め込まれたクラシック音楽やオルガンに関する知識の膨大さは目をみはるものがある。とはいえ、クラシック好きにしか楽しめないようなマニアックな作品ではまったくない。しっかりとした知識に裏付けられているからこその細部の精巧な描写と、文章であらわすには不向きであろう音楽というものをみごとに書きあらわすセンスが交じり合って、他にはない繊細で耽美な魅力を生んでいる。
哀切なラストでは、どこからか天上の音楽が聞こえてくるような気持ちにさえなった。
音楽への深い愛に満ち満ちた、それでいてエンタテイメントとして存分に楽しめる、美しく魅惑的な一冊である。

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紙の本壊音

2005/10/09 17:08

幻想と現実の狭間

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本には著者が17歳、史上最年少で文學界新人賞を受賞した「壊音」と、「月齢」の二作品が収められている。
どちらも幻想的かつ退廃的な世界を繊細な描写でえがいており、文字を追っていくだけでも酔える。
そんな詩的な世界の中で、たとえば「壊音」に登場するドラッグの具体的な名称のようなリアルが、主人公ハジメのごく普通の感情が、“浮く”。きわめて現実的で素っ気ない言葉が、どうしようもなく読み手の心に引っかかりを残す。
その一方で「月齢」の“神”という言葉や、終盤のあまりに現実離れした展開もまた、世界から“浮いて”いる。手の届くところにあったはずの物語が、そこで突然空高く飛び立ってしまったかのような印象を与える。
幻想と現実の狭間で、どっちつかずに揺れる魅力。そんな曖昧な雰囲気を持ちながらも時折強くどちらかに振れてしまう瞬間があり、それが小さな棘のように痛く残る。これはそんな、不思議な浮遊感と違和感が印象的な一冊である。

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紙の本エロティシズム12幻想

2006/07/10 09:18

一冊でお腹いっぱいになれる、大満足アンソロジー

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

エロティシズム、エロス、官能、等々…同じような意味合いで使われることの多い語であるが、どれもニュアンスが違う。本書には“エロティシズム”の名が掲げられているが、収録作は多種多様。“エロティシズム”という言葉の響きにとらわれない、バリエーション豊かな競作集となっている。その中の何作かを紹介させていただく。
「インキュバス言語」 牧野修
とにかくぶっ飛んだ発想である。とんでもない奇想を躊躇なく展開させてゆく力強さ、抱腹したくなるのにどことなくブラックなストーリー、珍妙な非日常感などは“ドタバタ”と評された頃の筒井康隆をすら彷彿とさせる。とにかくインパクト大、の作品。
「恋人」 有栖川有栖
この作者らしいリリカルでノスタルジックな物語—かと思いきや、終盤に思いがけない罠が待ち受けている。ひそかに罠をしかけて読者を驚かす手法はいかにも本格ミステリー作家らしいが、その驚きがぐっと本作の官能性を高めているところに手腕が光る。
「和服継承」 菅浩江
和装の女性というものは実に色っぽいものである。その端整な艶に女の狂気が被さって、不気味にじんわりと濃厚な色香を放つ一篇である。
「FLUSH(水洗装置)」 南智子
この作者の作品に触れたのは実はこれが初めてだったのだが、こんなに強烈なものを書く人だったのか、と正直仰天した。
“エロティシズム”と呼ぶにはあまりにも暴力的で、衝動的。それでいて、幻想的。どこまでが夢なのか?どちらが現実なのか?魅惑的な混乱を誘う、読まなければ損をする傑作。
「活人画」 作者不詳/北原尚彦・訳
前半のロマンティシズムを、後半の展開が鮮やかに、猟奇的に、くらくくらく裏切ってゆく。
ひんやりと冷たい美しさにグロテスクが混じりあうこの物語の、作者が不詳であるという事実が、よりいっそう本作に後ろ暗い背徳的な深みを与えていると思う。粋な計らいである。
「鬼交」 京極夏彦
“エロティシズム”という言葉のニュアンスを丹念に、実に細やかに追っていった作品だと思う。
ストーリーらしいストーリーは存在しない。直接的な官能描写も見当たらない。
それでいて“エロティシズム”の欠片を寄せ集め、物凄い技量でもって組み上げた本作は、息詰まるほど濃密なエロスに満ち満ちている。さすが京極夏彦、である。
その他にも津原泰水の「アルバトロス」は短編でありながら、重厚、と呼びたくなるような力作だし、森奈津子の「翼人たち」はいかにも森奈津子らしい、キュートでエッチな作品に仕上がっているし…捨て作なしの粒ぞろい。一冊でお腹いっぱいになれる、大満足アンソロジーである。

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紙の本ひらけ!勝鬨橋 新装版

2005/10/06 19:06

何てカッコイイユーモア小説なんだ!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ユーモア長編ミステリー、と銘打たれている。
たしかに前半はとぼけた味わいがあり、ユーモラス。
舞台はとある老人ホーム。その中でも、物忘れも激しく会話はちんぷんかんぷんでゲートボールもからっきし、という、ホームの中でもバカにされっぱなしの老人たちが主役だ。
とはいえいつか見返してやろうなどと心燃やすこともなく、のほほんと暮らしているのだが、ある日館長が悪質な詐欺にひっかかり、ヤクザにホームの引渡しを要求されてしまう。
そして老人たちとヤクザの攻防戦がはじまる。そして…
この本の魅力を知ってもらうために、あえて書いてしまおう。
実はこの老人たち、若かりし日はスポーツカーをさんざん乗り回した大の車好きグループなのです。
そして最後にはポルシェに乗り込んで、ヤクザのベンツと激しいカーチェイスを繰り広げるのだ!
これがもう、実にカッコイイ。スピード感と正義感のあふれる名シーンの連続に、つい熱くなってしまう。
だけど運転しているのは老人たちなんだよなぁ、という、格好良さとユーモアの絶妙な融合。
「占星術殺人事件」でデビューし、大トリックを駆使した推理小説を次々に発表してきた著者であるが、なんと20年前にはこんな作品も書いていたのだ。
意外なふうでもあるが、読んでみれば骨太な構成や力強い描写、豪快なストーリーテリングはまさしく島田荘司。あとがきで著者自身も「自分の作品のベストに入れたい」と書いているが、楽しく読めて熱く興奮できて、最後にはぐっとくる感動。これぞエンターテイメント、である。

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紙の本虚無への供物 新装版 上

2005/10/15 08:54

狭義の推理小説の範疇に収めておいてはいけない

17人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ミステリファンの間では超がつくほど有名な作品だが、ミステリを読まない層にはどのていど認知されているのだろうか…と懸念して、昨年新装版が刊行されたことも鑑み紹介させていただく。
呪われた一族、密室殺人、自称探偵たちが一堂に会しての推理合戦…外形はあきらかに本格ミステリだ。それも過去のミステリの名作への敬愛に満ちあふれ、次々に展開されるロジックも高度で、ミステリファンに向けて書かれた濃密なミステリという印象である。
しかし、最後まで読めばこれがたんなる推理小説でないことがわかる。アンチミステリ——反推理小説と呼ばれるゆえんが、物語のラストにおいて燦然と現れる。まあ筆者としては、反推理小説というよりは超推理小説とでも呼びたいところなのだが、それはさておくとして。
本書で扱われる犯罪は、虚無への供物だ。
そしてそれをえがききったこの作品もまた、虚無へ捧げられた供物なのである。
ミステリへの深い愛とともにこの作品に詰め込まれているものは、この世界への激しい憤りだ。それを激情のままでなく、厭世的な失望感でもなく、娯楽性あふれる推理小説に昇華したところに高い文学的価値を感じる。
怒りを怒りのままに、失望を失望のままに書くことは難しくない。しかしその怒りを、失望を、それでもこの世界を愛したいという強い願いを、このような上質なミステリに仕上げてしまったということはほとんど奇跡のように思える。
この作品がはじめて刊行された1964年当時と現在、どちらに残酷な「虚無」が多くはびこっているのか、64年に未だ生まれていない筆者には判断がつかない。
しかし現在においても著者が憎んだ「虚無」は、さまざまな形で世に横溢している。筆者がミステリファン以外にもこの作品を是非読んでもらいたいと願うのは、それゆえである。
冒頭「サロメの夜」と同じ夜に著者が没して12年。だが本書は今も、「虚無への供物」としてその価値を保ち続けている。

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紙の本不道徳教育講座 改版

2005/09/28 22:52

これは、あたしの人生のバイブル。

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タイトルからしてインパクト大、の本書。
目次を見れば「知らない男とでも酒場に行くべし」「教師を内心バカにすべし」「大いにウソをつくべし」等々、好きな人はもうこれだけで大喜びしそうな題が並んでいる。
三島由紀夫というと、難解で少々取っ付きにくそう…というイメージをお持ちの方もおられるかと思うが、少なくとも本書はいたって軽妙に書かれたエッセイであり、またそれぞれの文章が短いこともあっていたって読みやすいのでその心配は無用である。
機知に富んだユーモア、心地よく刺激的な逆説、ニヤリとさせる毒舌。しかし不道徳などといいながら、最終的には偽善でない本当の善の意識に読者を帰着させるこの著者の眼差し、この手腕!
なるほどこの本は、世にまかり通っている偽りの道徳を徹底的に笑いのめし、真の良識を(決して押し付けがましくではなく)チラリとのぞかせて見せてくれる、そんな本なのである。
筆者はとりわけ「教師を内心バカにすべし」が気に入っている。あぁ、これをもっと早くに読んでいたら、こんなに教師嫌いにならずにすんだかもしれないのに。
でもまぁ「人に迷惑をかけて死ぬべし」の「どうせ死ぬことを考えるなら威勢のいい死に方を考えなさい」等というくだりは、三島亡き今読めばいささか不気味ではある。
※表紙画像が載っていませんが、今の角川文庫版は表紙もおしゃれにお行儀が悪くてとっても可愛いです。

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ミステリファンによる、ミステリファンのためのミステリ

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

古城のような洋館、怪しい一族、密室殺人、首なし死体、蘇る死者、見立て殺人、そして二人の奇抜な探偵…。
本格ミステリの魅力的なツールとして長らく受け継がれてきた要素が、一堂に会した感がある。次々にあらわれる謎と解決、どんでん返しの連続と、その内容の濃さに驚かされる。
洋館の不気味なたたずまいとクラッシック音楽が全篇にわたって彩りをそえており、それがこの大作にただならぬ雰囲気、さらなる荘厳さを与えている。
こうしたたくさんのミステリーコードを華麗に用いたというだけでなく、読者の意表をつき予想を裏切るという点においても、この作品は極上である。
しかし、この作品には一つ致命的なところがある。個人的には欠点であるとは思わないが、それはこの作品が読者を選ぶという点である。
最低限の本格ミステリの知識を持っていなくては楽しめない部分があるのだ。だが最低限——ある程度本格ミステリを好んで読んでいる方なら、問題はないと思う。しかし年季の入った読者であればあるほどニヤリとさせられるところも多く、より楽しめるのは事実であろう。
一種突き抜けてしまった感——否、濃密な闇に突然翼が生え、飛び立ってしまったかのような感のあるラストでは、アンチ・ミステリという言葉すら連想された。冒頭ではごく普通の、本格の魅力あふれるミステリ作品かと感じさせるのだが、その実ミステリの枠を飛び越える寸前のところまでスケールを広げた、壮大な作品なのである。
ミステリ入門の書としては全くいただけない。しかしミステリファンならば読まなくては損をする。
これはミステリファンによる、ミステリファンのための極上のミステリ小説である。

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