ピカデリーサーカスの中心で愛を叫ぶさんのレビュー一覧
投稿者:ピカデリーサーカスの中心で愛を叫ぶ
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チャペック戯曲全集
2007/05/13 23:52
カレル・チャペックは面白い!
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この戯曲全集、多少お高いですが、それだけの価値は充分あると思います。
人間らしい心を初めて持ち戸惑うロボットのカップル、三百年以上生きている美しい錬金術師の娘、一瞬にして世界を滅亡させてしまう職業不詳の変なおじさん等が登場する魅力的な設定に加え、笑いのセンスもまったく古びておらず(私は何度も爆笑させられました)、会話だけの戯曲なのでライトノベルのようにするする読むことができ、その上さり気なく深いテーマがあちこちにちりばめられています。トルストイの生命思想が反映された『R・U・R』の人類滅亡エンドは、もうほとんど崇高ですらあり、かつ先鋭的です(個人的には永井豪の漫画『デビルマン』のラストよりも凄いと感じました)。
さて、この全集でしか読めない本邦初訳の戯曲『母』は、全員が一丸となって悪と戦うことを勧める戦意高揚のプロパガンダとして読むとつまらないのですが、世間でやたら神格化されている“母の愛”の虚構性を暴き立てるドキュメントとして読めば、これほど面白いものはないと思いました。この戯曲でチャペックは、母親の愛が表象的な幼子への、あるいはかつて幼子であった子供への本能的な保護欲求に過ぎず、目の前にいる生身の他人としての息子に対する愛ではないのだということを、アイロニカルな手法ではなく、母親の本当に感動的な愛情の告白を通して、逆説的に表現しているのです。母の愛が感動的であればあるほど、母の愛の虚構性は決定的に避けがたいものとして、強い説得力を獲得してしまいます。とにかくこの戯曲は、最後の一行によって、全てが転倒します。まさに大どんでん返しです。あまり知られていない……というより日本ではほとんど知られていない作品ではありますが、だからこそこのチャンスに、ぜひ多くの人に読んで貰いたいと私は思いました。なぜ人間は、母親以外の人間の愛情を必要とするようになるのか? それは母親の愛が不完全だからではないでしょうか。では完全な愛とはどんな愛か? それは『R・U・R』のラストでロボットに仲間(人類)を皆殺しにされて、最後に生き残ったただ一人の人間が、心の内に抱いていたような愛ではないでしょうか。
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