US さんのレビュー一覧
投稿者:US
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紙の本虫づくし
2001/06/26 20:02
奇想、読むベし
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この本を読んだヒトに感想を尋ねると、「おもろい」「笑える」と、返ってきます。その通りなんですが、それだけでは説明として物足らない部分が残る。なぜ、この不思議な本が早川文庫の『ノンフィクション』に入っているか? という点です。
ドはずれた空想力や想像の飛躍を表す「奇想天外」という言葉があります。
その言葉を連想しつつ、この本には「奇想辺這(へんしゃ)」という新語を作って贈りたい。想像力が天の向こうへと伸びるのでなく、地べたをさすらうわけですネ。
ひねりにひねったギャグとユーモア。淫靡なニュアンスを濃厚に持つ冗談の連発。本全体が真夜中の雰囲気でス。別役先生がもし音楽の道に進んでいたら、大槻ケンヂさんのようになっていたかもしれません。
本書を特徴づけるのは、冒頭に掲げられた「虫は虫である」と、巻末に置かれた「虫的兆候について」のふたつの長い文でしょう。一人の男を軸にした物語性のある内容ですが、両方あわせて、一種の意見陳述です。
てゆーか、プロパガンダでス。
しかり、奇想は存在する。奇想の実在を認めよ! というモノです。
この本が最初に世に出たのは、およそ20年ほど昔です。「おたく」という呼び名が普及するより、かなり前です。
人目を気にしつつ、世に容れられぬ奇想を楽しむヒトビトのシソー、心情、生活感までもが、ここには活写されている。ほぉれ見ろ、おれたちは、こんなにオモロイことを考えてんだぜ? いや…でも、ぜったいに「常人」には、認められないだろけどネ…。
認めてもらわなくても別にイイさ、ここには、あなたがたの知らない「リアリティ」がたしかに存在してるんだ。そうして、それは、モノスゴく面白いものなんだぜぇ…と。
はい、演劇人である作者の意見をちと、わかりやすく解釈をばしてみました。そのような強い主張ゆえに、この本は『ノンフィクション』に入っていると思われまス。
題名通り、この本は「虫」の本です。
水虫が宇宙から飛来した生命体であるという説。なめくじにトニックを振りかけて出来る「けなめくじ」についての猥褻論争。ダニの新種「きくむし」を騒音対策に使おうとする航空会社…。断固、奇想するのだ!という意志が、徹底してペダンティックなこの本の中に詰まっています。
欧米で言うところのトール・ストーリー(ほらばなし)を日本民俗学的に展開すると本書になる。『もののけづくし』や『道具づくし』など他の本も、その系譜です。
シリーズ1作目の『虫づくし』が他の本と違っているのは、【奇想についての自由民権思想】が強く出ている点なんでス。読むベし。
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