夕珠さんのレビュー一覧
投稿者:夕珠
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嗤う伊右衛門
2007/07/07 19:48
ストーリー展開や登場人物に対する著者の姿勢が疑問
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
岩と伊右衛門の「純愛」云々よりも、梅や袖の扱われ方にやりきれないものを感じました。
梅が伊東に暴行されていると知りながら、赤ん坊(梅が伊東に犯されて出来た子。民谷家の跡継ぎ)ばかりを可愛がり、「それでも母親か」「子供にも人権はある」と梅に罵声を浴びせ続ける伊右衛門。
そういった状況を知り、暴行の被害者である梅ではなく、まっさきに伊右衛門に同情する岩(幾ら伊右衛門が好きとはいえ……)。
私は到底、2人に共感することは出来ませんでした。
主人公だからといって贔屓せずに冷静に考えれば、伊右衛門と岩の不幸よりも、梅の不幸の方が比べ物にならないほど酷いのではないでしょうか。
(岩が梅の身代わりとして伊東の元へ行ったのならまだしも。元はと言えば梅こそ岩の身代わりのようなものですが)
そういった描写がされていないところに、作者の自作に対する客観性の乏しさを感じ、婦女暴行という行為が軽んじられているのではないかという疑問が生じます。
赤ん坊の件だけでなく、伊右衛門が伊東の愛情を梅に明かした下りにしても、そこで綺麗に纏めたら梅の気持ちや選択権はどうなるのだろうか、と思いました。
相手が愛情を持っているのだから、今まで数え切れないほど暴行してきた男性でも愛せる筈だとでも?
理屈でストーリーを組み立て、登場人物を駒のように扱うこと自体を非難はしませんが、そういった感覚で婦女暴行を扱うから、先述のような状態になるのではないでしょうか。
ただ、京極夏彦の筆力が、読者に不自然さを感じさせないのかもしれませんが。
京極作品は確かに「巧い」ですし、随分読みましたが、必殺シリーズや横溝正史の影響か、やたらと婦女暴行ネタが多い上に登場人物の心情までご都合主義的で、あまりフォローが感じられないのが残念です。
作中で暴行された女性の多くが悲惨な最期を迎え、大して同情されるわけでもないという救いの無さだけでなく、暴行犯や共犯者への制裁が消化不良、もしくは無罪放免な場合も多いのが、何ともすっきりせず、違和感を覚えます。
被害者にも加害者にも冷淡というのならまだしも、悲惨な目に遭った被害者に冷淡で、大して同情の余地も無いような加害者に妙な温情を与えている場合が多い気がしてなりません。
これは「観念小説」(作者の観念の具象化を目的として書かれた小説)であるがゆえの限界なのでしょうか。
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