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サムシングブルーさんのレビュー一覧

投稿者:サムシングブルー

108 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本ワン・モア

2012/03/18 21:16

新官能派と評される桜木紫乃さんの小説

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『ワン・モア』は書き下ろし2編を含む全6編が収録されている連作短編集です。
釧路生まれの彼女の小説は北海道の風景、匂いが色濃く描かれています。

北海道の日本海側に浮かぶ離島が舞台の『十六夜』。
十六夜の月が船首を照らしているなかで愛し合う男女は刹那的で絶望感が漂います。
『ワンダフル・ライフ』は道東が舞台。
鈴音と美和は37歳、高校からの同級生で伴に医者になった二人は強い絆で結ばれています。
二人の強い絆を前にして、たじろぎつつも最愛の女性・鈴音を愛する男たちに目頭が熱くなりました。

多分に女性作家の書く男性は皆、脆弱で女性を支配しようとする輩が多い。
そんな男性を愛する女性にわたしはどうしても感情移入ができなく、いつも不完全燃焼のまま終わってしまうことが多い。
今回、桜木紫乃さんの描く男性たちは皆、温かい。ですから繰り広げられる恋愛は女性が共感できる小説ではないかと思います。

「白いものが落ちてきた。佐藤亮太は真夜中の空を見上げた。」で始まる『おでん』は逸品です。

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紙の本魂萌え!

2011/11/03 16:16

書店に並ぶ 『OUT』 を手にしたその日から

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

桐野夏生さんの著書に魅了されてしまいました。
何故そんなに惹かれるのか、もやもやしながら読んでいくと、ストーリーの面白さよりストーリーのなかに潜んでいる彼女の魂に魅了されていることに気づきました。
そしてそこには根幹のワードが潜んでいます。
『グロテスク』は「怪物」。
人は誰しも怪物になりうる危うさを持っていることに慄きました。

『魂萌え!』は「恙無く」。
自宅で倒れた夫・隆之は心臓麻痺で息を引き取り、「恙無く」暮らしていた敏子(59歳)に孤独の影がひたひたと忍びよってきます。
残された家族はバランスを崩し、敏子を苛めます。
追い打ちをかけるように葬儀の後に発覚した愛人・昭子の存在は敏子の精神のバランスを崩しますが、そこは桐野夏生さんの十八番、敏子と昭子の対決は期待どおりでした。
夫を失った女性と夫のいる女性と、また、妻を失った男性と妻のいる男性と、その人間模様は友情であったり恋愛であったりさまざまに交錯し、暴走したり許容しあったりするシーンは身につまされました。

「恙無く」歳を重ねていくということは、ひたひたと忍びよる孤独を受け入れていくことではないでしょうか。

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紙の本まゆみのマーチ

2011/10/08 15:51

重松清さんの自選短編集は昔のお話の主人公たちに勇気をもらって編んだ短編集です。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

未曾有の東日本大震災から七ヶ月が経とうとしています。
誰もが自分の人生を見つめ直し、自分にできることを探し続けた七ヶ月間でした。
重松清さんは9月に二冊の自選短編集を出版されました。
二冊の著者印税を全額、あしなが育英会に寄付されることを知り、ひとりの読者として賛同し、また本を読むことでその趣旨に参加できる、と思いました。

女子編『まゆみのマーチ』は既成の短編から5編、大震災から生まれた1編からなる短編集で作家・重松清さんならではの温かさを感じる作品ばかりでした。
そのなかの2編は既に読んだ作品でしたが、選ばれて良かったね、と作品に話しかけながら読みました。

母の危篤を知り、飛行機の最終便に飛び乗った僕は病院に駆けつけますが、母のいる病室に入れず、夜間の外来のロビーの長椅子に座ってしまうところから始まる『まゆみのマーチ』は逸品です。
勉強も出来、先生に信頼されている小学校の僕は普通の子と違う5歳違いの妹・まゆみを可愛いけれど疎い、そう思ってしまう複雑な感情を母のせいにする息子のいらだちが故郷をさらに遠くにさせてしまった。そんな息子も家庭を持ち、また自分の息子の不登校に悩んでいます。
母の病室に泊まり込む兄と妹の風景と会話は、重松清さんの真骨頂を発揮するシーンでした。
彼は読む者に何らかの気づきを与えてくれる作家です。

彼は「刊行にあたって」のなかで
「ページをめくるごとに新しい物語の風景が登場することが、僕にとっての短編集の醍醐味です。」と語っています。
男子編『卒業ホームラン』、どんな風景が登場するか、楽しみです。

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紙の本猫を抱いて象と泳ぐ

2011/09/14 22:44

チェスにたとえるなら小川洋子さんの棋譜は神々しい。

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小川洋子著『人質の朗読会』は言いようのない悼みを引きずりながら読み終えました。
小説ってなんだろう、と思い悩んだ一冊でした。

小川洋子著『猫を抱いて象と泳ぐ』は言いようのない感動を覚えながら読み終えました。
小説ってすごい、と思いました。
この小説はチェスの盤下の詩人「リトル・アリョーヒン」と呼ばれた少年の物語です。
その物語は七歳になったばかりの少年が祖母と弟と三人でデパートへ出かけるシーンから始まります。
少年が一人向かう先は屋上の一角、そこはデパートの屋上に印度からやってきた象・インディラの臨終の地でした。
少年の友達は死んでしまった象・インディラと寝る前に語りかける架空の少女・ミイラだけでした。
少年はチェスと出会い、象のインディラはチェスの駒・ビショップとなり彼の守護神となり、もう一人の架空の少女・ミイラは、少年がからくり人形のチェスプレーヤーと活躍した時代に美しい女性となって彼の前に現れます。
そんな時、二人に突然の別れが訪れます。
離れ離れになってしまった二人が交わした手紙は感動的で何度も読み返しました。
チェスの記録である一枚一枚の棋譜は音楽の譜面のように全編を奏でていました。

あとがきを読み、この小説「リトル・アリョーヒン」はチェス博物館にある「ビショップの奇跡」の棋譜を元に書かれたものであることを知り、小川洋子さんの小説家としての力量を感じました。

この小説は一度読んだだけでは読み切れない。もう一度読んでみたい作品となりました。

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夏の終わりに、向田邦子全集第三巻を読んでみました。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

飛行機事故で亡くなった向田邦子さんは毎年夏になると注目を浴び、今もなお輝いている作家です。
昨日でドラマ「胡桃の部屋」の放映が終わりました。
先日は向田邦子さんの愛猫・マミオがテレビに出ていました。
向田邦子生誕80年を記念した『向田邦子全集』のカバーの猫はきっとマミオでしょう。

全集第三巻『隣りの女 男どき女どき』はみーちゃんの書評に書かれていたとおり秀作ぞろいでした。
向田邦子さんは小道具を巧みに使い、擬音語を効果的に使っています。
「隣りの女」ではミシンを小道具にカタカタカタとミシンを掛ける音に主人公・サチ子の気の高ぶりを表していました。
「下駄」では朴歯のような高い下駄を小道具に階段を上ってくるガランゴロンの音とともに出前持ちの若者を登場させます。

向田邦子の小説の擬態語はいい。
「春が来た」では更年期にさしかかった母親に
「足許がキヤキヤするの」と言わせます。

向田邦子の小説の会話は短い。
短い会話のなかで男女の機微、親子の機微を描き、始めは読み手をはっとさせ、しだいに砂に水がしみ込むようにじんわりと胸に沁み入ってくるのです。

「三角波」 向田邦子の小説のタイトルはいい。
小説の中で三角波のことを
「三角波って知ってる?」
「三角波か? 三角波ってのは、方向の全く違う波が重なり合って出来る波のことだろ。ありゃ危険な波らしいな。」
真二つになるのは船か、それともわたしか。

「ミシンは正直である。」 これは「隣りの女」の書き出しです。
向田邦子の小説の書き出しはいい。

来年も夏の終わりに向田邦子全集を読んでみよう。

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「私の耳には届くことのなかった小さな声の限りない広がりと、そこに示される意味の深遠さについて」

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

悠然としたインパラの目を見た瞬間、『インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日』の本を手に取っていました。

本書は中村安希さんの684日におよぶバックパッカーの記録です。
それはわたしの想像を超えた旅の記録でした。
安希さんは26才の女性であること、2006年から2年間に渡る長旅であったこと、その当時のユーラシアの世界情勢を知れば、本を読む前は無謀な旅のように思えました。
お金をかけない旅は、寝るところも決まっていない、移動手段はヒッチハイクか、より安い交通手段にするために現地の人と値段交渉することであり、強靭な精神力と肉体を持っていないと続けられません。
ユーラシア・アフリカ・ヨーロッパ大陸と47カ国をめぐり、安希さんは悲鳴を上げる肉体をなだめながら、生きることとはなにか、を学んでいくのです。
圧巻は第九章 サハラ北上 モーリタニア「トゥアレグの祈り」です。

安希さんと触れあった人々の声を真摯に受けとめて読みました。
一つは「貧困」のことです。貧困を語る前に今日を生きることに必死な人々がいること、貧困に潜んでいる怒りと欺瞞、貧困とはなにか、を少しなりとも知ることができました。

安希さん、わたしにも「私の耳には届くことのなかった小さな声」が届きました。


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紙の本プリンセス・トヨトミ

2011/06/14 11:25

映画を観る前に、万城目ワールドを。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

大阪城を見たことのある人は『プリンセス・トヨトミ』を読みたくなるのではないでしょうか。
わたしもその一人です。
環状線の電車の中で見た大阪城はそこだけ異次元の空間が漂っていて、その迫力に圧倒されながらも見とれてしまった記憶があります。

東京からやってきた会計検査院「鬼の松平」「ミラクル鳥居」「美貌のハーフ旭」の3人が実地検査に訪れたさきは空堀商店街にありました。
その社会法人OJOは「大阪国」となって松平の前に現れます。
全面戦争勃発か、というストーリーになっていますが、万城目さんは目に見えない父と子の絆の象徴を「大阪国」にしたかったのではないでしょうか。
『プリンセス・トヨトミ』に登場する会計検査院の3人や空堀商店街に住む人たちの人物描写が巧みで楽しめました。
各章のはじめに描かれている挿絵もいい感じです。
yama-aさんの書評にあったように「ええ感じ」の小説でした。

あとがきエッセイ『なんだ坂、こんな坂、ときどき大阪』を読んで、万城目学さんと大阪城との関わりを知り、すっかり彼のファンになってしまいました。

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『ソフィーの世界』は1991年に出版され、全世界で約2300万部を売り上げたベストセラーでした。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ソフィーは14歳。父親は船長でいつも不在、仕事している母親と二人暮らしのソフィーはネコやカメやたくさんの動物を飼っているごく普通の少女です。
ある日、ソフィーが学校から帰って郵便箱を見るとソフィー宛てに
 「あなたはだれ?」と書かれた差出人も切手もはってない手紙が入っていました。
もう一度、郵便箱を開けると
 「世界はどこからきた?」とだけ書かれた手紙が入っていたのです。
そしてもう一通、謎の手紙が届きます。
一日に三通の手紙を受け取ったソフィーは、その手紙を持って庭にあるソフィーの秘密のほら穴へ逃げ込むのでした。
アルベルトから一方的に送られてくる哲学入門講座を学習しながら、三通目に届いた手紙の正体の核心に迫っていく展開がおもしろかったです。

この本の解説に『ソフィーの世界』は哲学史の宝石箱である、とありました。
哲学の歴史は紀元前600年頃から始まり、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、近代のダーウィン、フロイトとかけ足で進んでいきます。
最初はアルベルトの生徒であったソフィーが自分の存在を考えるようになっていく成長過程がとてもおもしろかったです。
そしてソフィーは15歳の誕生日を迎え「哲学ガーデンパーティー」の日にアルベルトとソフィーは、ぽっかり空いたほら穴へ落ちていくのです。
わたしはソフィーになってノルウェーの森をかけめぐり、アルベルトの運転する赤いスポーツカーに乗っていました。

哲学史の入門書でありながら、ミステリアスなファンタジー小説である『ソフィーの世界』はわたしの愛読書になりました。

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紙の本ようこそ、絵本館へ

2011/05/03 13:00

『ようこそ、絵本館へ』 おススメです!

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「仕事に明け暮れているおとなの皆さんにぜひ絵本の魅力を知ってもらいたい。そのガイド本として、この本はオススメです。」
夏の雨さんの書評を読み、さっそく『ようこそ、絵本館へ』を読んでみました。
ページをめくると、
はじめに「絵本館の歩き方」が紹介されていました。
絵本館は3つのテーマパークになっていて、カラー図版と解説のコーナーに別れています。

第一章は プレゼントしたい絵本
「愛にひたる。」のカラー図版には、木のベンチに三冊の絵本が並んでいて、とてもすてきです。
そのなかで『しろいうさぎとくろいうさぎ』はとっておきの一冊になりました。

第二章は 大好きな絵本作家
そのなかでバージニア・リー・バートンの本を三冊紹介しています。
「ちいさいおうち」は館長・あさのあつこさんの大好きな、大好きな一作とありました。
「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」では、あさのあつこさんと息子さん達と思い出が書き綴られていました。

第三章は ひとりの時間にひらく絵本
「旅へ出ませんか?」では「せかいいち うつくしい ぼくの村」を、
「恋をしましょう。」では「わたしのくまさんに」の紹介がありました。

絵本館を歩いて、絵本の世界がひろがったことはもちろん、絵本から大切なものをいただきました。
これからも絵本を再読するたびに、そのとき感じた気づきはさらに大切なものへとなっていくことでしょう。

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あなたにめぐり逢えて

17人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

先日の朝日新聞にみつはしちかこさんのコメントが載っていました。
昨年の春にご主人を亡くされたこと、その一ヶ月後に意識不明になり生死をさまよったこと、相田みつをさんとの詩画集のお話があって休刊していた“チッチとサリー”を書けるようになった喜びのコメントでした。
さっそく手にした詩画集は思い描いていた以上の素晴らしいものでした。

いつだったろう、“チッチとサリー”に胸をときめかしたのは。
東京フォーラムにある相田みつを美術館には何度も足を運びました。
そこには心が癒される空間があります。
詩画集をひらくと、そこには相田みつをさんの温かい肉筆と、“チッチとサリー”の世界がコラボしてました。
みつはしちかこさんのあとがきに相田みつをさんから勇気をもらった詩が載っていました。

 つまづいてもいい ころんでもいい
 これから先 どんなことがあってもいい
 あなたにめぐり逢えたから

みつはしちかこさんの『小さな恋のものがたり』は今年でデビュー50周年。
1月30日に古稀を迎えられたみつはしちかこさんのますますのご活躍を祈念いたします。

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紙の本風に舞いあがるビニールシート

2011/04/15 13:24

春風に乗ってやってきた 『風に舞いあがるビニールシート』

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

季節の中で一番好きな季節は、と聞かれたらわたしは春と答えるだろう。
春は別れと出会いの季節、なんとなく不安でくすぐったい。

本棚を整理していたら、一年以上前に購入した『風に舞いあがるビニールシート』を見つけました。
直木賞作品と他5編の短編からなる本書は、すべて良質の作品でした。

風に舞いあがるビニールシートを懸命に追っていたエドの死から始まる『風に舞いあがるビニールシート』は、心を揺さぶられる作品でした。
高い理想を持ち賢く生きてきた里佳は、国連難民高等弁務官事務所に転職した職場でエドと出会い、二人は結婚をします。
しかし里佳の思い描くぬくもりのある家庭は、難民地で暮らすエドをしだいに追いつめていくのです。
たがいを思いやるがゆえの別れは永遠の別れとなり、里佳を苦しめます。
一条の光にたどりつくまでの里佳の情感を描いた短編は著者・森絵都さんの力量を感じる作品でした。

人間の本質は変わらない。しかし愛し合わずにいられない。

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紙の本冬の童話

2011/04/03 18:46

半分に千切られた二枚の一万円札が起こした奇跡の物語

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『冬の童話』というタイトルと美しい装画に惹かれて手にした本は
「ある雪の降る寒い夜に、寂しがり屋の一頭のキャメルと、どうしようもなくなってしまった小さなメスのノラ猫が、寒さと孤独に吸い寄せられて会った」名高そらと稲垣聖人の物語でした。

義父への憎しみ、父親の違う弟・光の病、お酒に溺れるクリスチャンの母親への絶望とで神様を信じることができないそらと、松本盆地の一角に位置する梓橋にある養護施設の玄関に捨てられた聖人(まさと)は、「運命の絆」に吸い寄せられていきます。
そして、そらにとって聖人は『かたあしだちょうのエルフ』のエルフとなり、聖人にとってそらは聖人のすべてを知る人となりました。
悲哀に満ちた純愛小説は、美しい風景と彼らを温かく見守る人たちによって、なお一層悲哀感を増していきます。

ラストは梓川の河原に小雪が舞うなか、赤いワンピースを着たそらは胸のぺリドットの石に手を置いて祈り「アメージング・グレース」を歌います。

 アメージング、グレース・・・、
 おどろくばかりの神の恵み、なんてうるわしい響きだろう
 私のような哀れな人を救ってくれた
 一度は見失っていた自分を再び見つけ
 盲目だったのに見ることもできるようになったのだから・・・

「アメージング・グレース」で始まり「アメージング・グレース」で終わる『冬の童話』をわたしは決して忘れることはないでしょう。

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紙の本佐野洋子対談集人生のきほん

2011/02/16 20:13

対談の中で佐野洋子さんは小説家になりたかったと語っていました。 それなら『クク氏の結婚、キキ夫人の幸福』は彼女の最高峰であろう。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

昨年11月佐野洋子さんの訃報を知り、『シズコさん』を読みました。
母との葛藤、母への想い、胸にあるものすべてを書き記したものを読み、佐野さんは強くて弱いひと、佐野さんの潔さに胸を打たれました。

『佐野洋子対談集』は武蔵美のデザイン科を卒業した佐野さんと後輩の西原理恵子さん、後輩のリリー・フランキーさんとの二つの対談が収められています。
対談中は、武蔵美を選んだ三人の共有する空気が始終漂っていました。

西原理恵子さんとの対談(2007年)はテンポがいい。
男は精密機械、女はトカレフ(旧ソビエト軍が採用した軍用自動拳銃)と西原さんが言えば、佐野さんは男はちゃんとたっている木、女は柳とおっしゃる。二人の人生観、世界観は必読です。

リリー・フランキーさんとの対談(2009年)は温かい。
リリーさんはおふくろを語り、佐野さんは父を語る。
楽しそうな対談風景の写真が載っていますが、佐野さんのお病気が進行されていてとても痛々しい。リリーさんはどんなお気持で対談されたのでしょう。
2011年1月に記したリリーさんのあとがきには
「佐野さん。お疲れ様でした。そして、ありがとうございます。また、どこかで。」とありました。

対談集のここかしこに佐野さんの線描画が描かれています。とても美しい。必見です。

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紙の本大きな木のような人

2011/02/04 19:44

いせひでこさんの絵本は芸術作品である

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

パリには2本の樹齢400年のアカシアがあるそうだ。その1本は植物園にあり、そこには世界中の草花が咲いているという。
題名は『大きな木のような人』ですが、この絵本の主人公は植物園です。
ページをめくると、植物園の門をはいり、木々の茂る緑のトンネルの小路を歩いているような、木漏れ日が漏れ、葉っぱを揺らす風の音が聞こえてくるような感覚に陥りました。

いせひでこさんは少女・さえらと『大きな木のような人』である植物学者を登場させます。
どこからともなく現れたさえらは、おじいちゃんの誕生日にひまわりの花をプレゼントしたくて、一本の花をひきぬいてしまいます。
そのときの絵が表紙の樹齢250年のプラタナスの両脇でたたずむ絵になっています。
さえらは植物学者にひまわりのたねをもらって育てるのですが、ひまわりのたねをもらいに研究室に入ると、そこにはなんと『ルリユールおじさん』にでてきたソフィーがいました。
ソフィーはさえらに声をかけます。
「こんにちは、ちいさなお客さん、わたしの植物図鑑、見る?」と。
パリにあるもう1本のアカシアの物語を思い出しました。

さえらはしだいに植物園の一員になっていき、さえらの心の中にひまわりの根っこが育ったとき、プラタナスの両脇でたたずむもう一枚の絵が描かれています。
とても心があたたまる絵です。

いせひでこさんのあとがきに
「パリの大きな植物園を訪ねては、目が追いつかないほど、四季折々の木や花や芽を観察することになった」とありました。
パリの植物園を愛したいせひでこさんの絵本は芸術作品です。
『大きな木のような人』の続編『まつり』をはやく読みたい。

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紙の本KAGEROU

2011/01/21 14:40

KAGEROU を読んで年の始めに思ったこと

19人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

子どもに本を読んで聞かせる「読み聞かせの会」という会があるそうですが、基本的に読書は『個』であると認識しています。
『個』は『己』であるため、日常生活のなかで本の話題に触れることは私の場合、皆無に等しいです。

それが先日、何気ない会話の中で突然「そうそう『KAGEROU』読んだー?」と聞かれたのです。
「まだ読んでないわ、どうだったー」と、わたしは目を輝かせて彼女を見ました。彼女とは旧知の友ですが、本の話をしたのは初めてでした。

第五回ポプラ社小説大賞受賞作は話題作となり、たくさんのひとに読まれました。
『KAGEROU』は茶の間までやってきました。それは喜ばしい社会現象だと思います。
本はコミュニケーションツールであり、人間関係を良好にします。
本の話をしていると、まるでお互いの人生を語り合えるようで至福のときです。

小説は『創造』であると思います。
今日もどこかで起きている人身事故。東京では毎日8人を超える自殺者がいる現実をニュースで知りました。著者・齋藤智裕さんの『創造』は社会の『孤』を描き『KAGEROU』は『希望』となり、わたしに届きました。

思い起こせば三年前、親友と川上弘美さんの『真鶴』の話をしていたら「その読後感を文章にしてみたら」と言われたのをきっかけに、読書感想文のような書評をBK1に投稿するようになりました。
感じたことを文章にするのはとても難しい作業ですが、そのとき感じた自分を知ることができて良かったと思っています。
小説だけではなくいろいろなジャンルの本の書評を参考にして、今年は読書のはばを広げていきたいと思います。

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