野々宮子さんのレビュー一覧
投稿者:野々宮子
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ひらがな暦 三六六日の絵ことば歳時記
2012/02/10 23:44
一家に一冊──本のかたちをした日めくり
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
疲れた時にひらきたくなる本だ。
1年365日。1日1ページ。一冊の中に四季があり、年中行事がある。
どのページにも、まるで鉛筆の一筆書きのような軽やかなイラストがついている。3月、自転車で風にむかって走る女の子の後ろ姿。4月のつばめ。5月、麻のシーツに横になったところ。11月のヤツデの花。まあ、こんな単純な線で、よくこの表情が出せるなあと言いたくなる味のある絵だ。
月星のめぐりや、草木の成長、旬の食べものや料理、小動物の一挙一動……日々を暮らすことに細やかな関心をもっていないと書けないような文章と絵によってできている。
買ったのはもう5年前。ふだんは部屋のどこかに置き忘れている。ときどき思い出したように取り出しては、作者と一緒に今日がどんな日かをゆっくりと咀嚼する。
書斎よりも、ダイニングに置いて、同居する人たちとかわるがわる手にとって話のネタにするのもいいと思う。
美しい書物
2012/02/05 10:40
もうひとつの「火の魚」
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
栃折久美子のエッセイ集が、「大人の本棚」というシンプルで美しい装幀のシリーズに加わったことを喜びたい。
2009年に渡辺あや脚本、尾野真千子主演で、広島を舞台にドラマ化された室生犀星の小説「火の魚」。ヒロイン折見とち子のモデルになったのが、栃折久美子だ。ドラマでは、へんくつな初老の作家と若い女性編集者の丁々発止のやりとりが見ものだった。そして、ヒロインの造形美術の才能がきわめて魅力的に披露された。
室生犀星に出会った頃、著者は編集者をしながらブックデザインをてがけており、その後、修行をつんで装幀家(ルリユール)に転じた。
文学のよい読者であると同時に、形ある物としての本を客観的にとらえる目も持っている。文学作品をよりよいかたちで読者の手元に届ける。それはデザインにとどまらず、造本全体を大事に考えるということだ。
装幀という仕事について綴った文章は、IT時代に紙の本を読むわたしたちにさまざまなことを考えさせる。何より、本を愛し仕事をゆるがせにしない姿勢がすがすがしい。
そしてやはり、冒頭に置かれた室生犀星の回想二編は白眉である。敬愛する犀星の人となり、犀星のまわりに集った人たちのことまで、よい目で見て率直に書いている。
犀星文学の愛読者や、ドラマ「火の魚」を見た人にも、ぜひ読んでもらいたい。ドラマは病床のヒロインを老作家が見舞うところでおわっていたが、実際には栃折さんが作家の死を見送っている。
大江健三郎や小川国夫との交流を綴った文章「展覧会のサイン帖」も興味深い。
そそっかしいところもあるが、聡明で打てば響くような若い日の著者を彷彿とさせる文章ばかりだ。
徒歩旅行 今日読んで明日旅する12の町
2012/02/04 12:42
ありふれた町で宝石を見つける
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町歩きは気軽でありながら奥深く、興味のつきないものだ。
観光名所や絶景を求めて行くのではなく、仕事の帰りにいつもと違う路地を入ったら、古い家並みが残っていた。居心地のよい、珈琲の美味しい店がみつかったということはよくある。ふだんの暮らしの中に溶け込んでいる場所と、はじめて自分が出会う喜び。自分の足で歩き、自分の目や耳で見つける旅の楽しさを教えてくれるムックである。
たまたま、地方旅行の直前に見つけたこの本は心強いお供になってくれた。シンプルな黄色のイラストマップと静かな写真たち。よくあるガイドブックのあれもこれもと情報がひしめきあっている記事や、カラフルすぎて疲れるカラー写真とはひと味もふた味も違う。押しつけられている感じがしない。ここに載っている場所にも行ってみたいけれど、自分でも見つけてみようと思う。
著者の若菜さんは「山と渓谷」の編集部にいたこともある人。健脚で山や草花が好きで、本もたくさん読んでいる。鎌倉の古書店主とのやりとりなど、本好きにはこたえられない記事もある。身構えることなく、それぞれの地方都市を歩いて、自分とカメラマンとで見つけたものをすっと掬い上げて丁寧に書いている。気持ちのよい本作りをしている。
丸本歌舞伎
2012/02/01 23:46
人形劇から、生身の人の芝居への再生
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日本の人形劇の古典「浄瑠璃」のために書かれた脚本が、生身の人間が演じる「歌舞伎」にどのように採り入れられていったかを探求した一書である。人形になら、自由にどんな動きでもさせられる。拘束がないぶん、作者は自由に奇想天外な筋書きを繰り広げることができた。それを歌舞伎俳優たちが演じるとき、そこにどんな変化が生じたか。どんな創意工夫が必要だったか。新しくどんな魅力が増し加わったか。
この本が書かれたのは戦後間もない昭和24年だが、内容は少しも古びていない。古典をくりかえし上演しつづけるとき、古来の演技の型と新しい俳優の表現意欲とのあいだに起こるせめぎ合い。更新されることによって見えてくる本質もあれば、近代的な合理性や心理的な演技にこだわるあまり、原作が持っていた人物や場面のおおらかな魅力を殺してしまうこともある。
子どもの頃から繰り返し劇場に通いつづけた著者の歌舞伎への深い愛情と教養、俳優や劇中人物の本質を見とおす力が伝わってくる。とうの昔に鬼籍に入った俳優たちの舞台上の姿まで目の前に浮かぶような鑑賞もじっくり味わいたい。
古典劇のみならず演劇全般、映画に関心のある人にも、きっと得るところの多い一冊である。
もう一つ、このたび本編が収録された講談社文芸文庫というシリーズの魅力は、巻末の解説や年譜などの資料が充実していることだ。年譜の1963年(昭和38年)のくだりに、「一月、芸術座の帰り、泰明小学校前の店でウサギの土鈴を買う。以後、卯年生まれにちなんでウサギの玩具を蒐集する」とあり、著者を身近に感じさせてくれる。年譜も立派な読み物だ。
木の葉の美術館 アート&エッセイ
2008/10/20 22:47
なぜ木の葉を描いたのか? 文章も楽しみたい一冊。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
プラタナス、銀杏、楓など、身近な街路樹や散策に出かけた山野で見つけた木の葉を収集し、顔料に卵の身をまぜたテンペラ画で緻密に美しく写しとった画文集。数ある絵画表現の中で、なぜあえて木の葉を描くことにしたのか、そのいきさつを綴ったエッセイが忘れがたい印象を残す。本を閉じる頃には、著者のライフスタイルも見えてくる。絵だけでなく、文章も楽しみたい一冊。
かあさんをまつふゆ
2012/02/04 11:17
厳寒のアメリカ、留守番をするおばあちゃんとわたしを包む冬の光
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この絵本に使われているのは、主に茶色とグレーと青だ。外は一面の冬景色。
でも、窓から差し込む光はたしかに感じられる。
赤と黄色はほんの少ししか使われていない。けれども、おばあちゃんとわたしが過ごす部屋は暖かく、その空気と冬の光を味わいたいために、何度でもページをめくりたくなる。
第二次世界大戦の時代のアメリカ。男たちは戦争に行ってしまった。エイダ・ルースのかあさんは、ひとり家を離れて出稼ぎに行く。シカゴで汽車を洗う仕事をしに。「かんがえても みてよ。こくじんの 女が てつどうがいしゃで はたらくのよ!」明るく、生きる意欲と誇りに満ちたかあさんの言葉。
エイダ・ルースと一緒に留守番をするのは、言葉はぶっきらぼうだが、愛情ゆたかなおばあちゃん。どこからか、迷い込んできた野良猫の子。この野良猫をめぐるエイダ・ルースとおばあちゃんのやりとりがいい。「こんなみっともないネコはいないね」「飼えないよ」と言いながら、けっして見捨てないおばあちゃん。
かあさんと離れ離れの寂しさと、なかなかおわらない戦争の不安と、厳しい寒さ。
しかし、希望を失わずに待ちつづける2人と1匹の姿を、読者は信頼を持って見守ることができる。静けさの中の明るさ、仄暗い闇の中の光を思い出させてくれる一冊だ。
まぼろしの枇杷の葉蔭で 祖母、葛原妙子の思い出
2024/02/27 23:42
孫の視点から
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葛原妙子の短歌は美しいが、家族として見せる顔は美しいばかりではない。夫との仲が険悪で、自我の強かった母妙子のもとに育った子どもたちは苦しみを味わうこともあったようだ。少し離れた孫の目からつづられた祖母の姿は、無条件の賛美とも生々しい愛憎ともちがう、親しみや興味をもって読むことができる。祖母が付けてくれた「冬実」という名前の由来を探して詩歌をひもとく章や、祖母妙子と、伯母の児童文学者猪熊葉子との関わりを綴った章など、著者でなければ書けなかったエッセイは、祖母を見送ってからの年月を経ることで、静かな思索に富んだものになっている。ゆったりと組まれた活字と、明晰な文章で、最後まで読み通すことができる好著。
小公女
2012/02/07 21:13
セーラ・クルー再発見
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今時めずらしいかっちりとした函入りの世界名作シリーズ。函から取りだした本の表紙に描かれた主人公と目が合うと思わずドキッとする。薄暗い屋根裏部屋に人形を抱いてすわっている黒ずくめ、黒髪の少女。こちらを射抜くような、まるで何かに取り憑かれたような強い視線。100年以上前にアメリカで出版された時の挿し絵を使っているというが驚きである。児童文学の古典『小公女』の新しい翻訳はこんな装いで出版された。
子どもに名作全集を与えたいと親たちが思うのは、小学2、3年の頃ではないかと思うが、この『小公女』にしても、その年齢で完全訳を読み通すのはよほどの本好きでないと無理だろう。小学校低学年でも読み通せる『小公女』もたくさん出てはいるが、それは省略されたリライト版ということになる。その昔、世界の名作の表紙に描かれた主人公は、小公女セーラもアルプスの少女ハイジもブロンドのかわいい少女だったりした。しかし、実際にはセーラもハイジも黒髪。セーラにいたってはかなり個性的な風貌の少女だ。
誇り高く、大人から見ると、かわいげがないと思われるような勝ち気な性格。それをリライトして、心優しく逆境に負けない健気な少女という一面だけを印象づけるような抄訳がたくさん出ていた。今、30代、40代になった女性たちの中には『小公女』のヒロインをそういう少女だと思い込んだまま、という人もいることだろう。
翻訳者は作家の高楼方子(たかどのほうこ)。現代的な言葉遣いも駆使しながら、登場人物ひとりひとりのキャラクターが際立つ日本語訳になっている。若くて向こう見ずで娘に大甘のセーラの父、優しいけれど頭の働きのにぶいアーメンガード、わがまま放題のロッティ、敵役ミンチン先生にかしづく妹アメリアの姉への思惑などが、いっさいの手加減なしに訳されている。そして、主人公セーラの周囲の人への好悪や怒りの感情も無理にやわらげられてはいない。他の完訳版を読んだときと比べても、「セーラって、こんな子だったのか」と目覚ましい思いがした。
霧にとざされ雨にぬかるむロンドンの町や、屋根裏部屋のうえに広がる夕焼け空がいきいきとした臨場感をもってとびこんでくる。助け手となるインドの人のしなやかな身のこなし。近所の大家族など、端役としか思えなかった人たちの言動や、衣服や小道具の描写も丁寧で、ひとつひとつに発見がある。登場人物が、ときに「けっ」とか「うわお」という言葉を発するのには最初ぎょっとさせられたが、けっして原作ばなれではなく、原典を愛する訳者による意欲的な新訳である。
この本ではじめてセーラと出会う読者はどんな感想を持つだろう。抄訳しか知らない人も、アニメやドラマを見たという人も、もう一度セーラに出会い直すチャンスである。
自選ニッポン居酒屋放浪記
2012/02/04 12:10
失敗談も捨てがたい──同行者あり珍道中
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ある日、ぼんやりテレビを見ていたら、地方局の居酒屋探訪番組に見たことのない小柄な男性が出ていた。芸能人ではなさそうだ。地味な風采で、口ごもるようにぼそぼそとしゃべっている。とうとうグルメ番組も素人を起用するようになったのか。しかし、この地味なおじさんの衒いのない様子、店や料理をほめるときの思いがけない語彙の豊かさ、そしてお仕着せではなく、心底居酒屋が好きで、自分がいいと思う店を紹介するのだという嬉しそうな様子に引き込まれて、つい最後まで見てしまった。これが太田和彦さんとの出会いであった。本職はグラフィックデザイナーだという。
テレビ番組だけでは飽き足りず、著書を手にとって気がついたのは、居酒屋探訪には当たりはずれがあり、失敗もつきものだということだ。店の名前を明かさず、それをさらりと書く苦心。そして本書の場合、編集者が旅先に同行しているので、それこそ「東海道中膝栗毛」のような相棒とのコミカルなやりとりが続出する。物静でシャイな男性だと思っていたら、そればかりではないらしい。
もちろん、旅先で出会ったおすすめの居酒屋の紹介が柱になっていることは間違いないので、「これは行ってみたい」「ご主人が元気なうちにぜひ」という気持ちにさせられ、付箋を貼ったページも一、二ではない。
もともと出ていた新潮文庫3冊のシリーズから、自選したより抜きの一冊である。巻末には山田詠美・川上弘美・椎名誠の3人分の解説もおまけについた、お買い得版である。
人形の旅立ち
2008/10/24 18:21
子ども時代の回想記として秀逸な短篇集
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児童文学の体裁をとっているが、子ども時代の回想記として秀逸な短篇集。
不思議な出来事が次々と起こり、語り口は昔話やファンタジーの領域に踏み込んでいるが、どの話も幕切れがよい。無理に纏めようともせず、かといって逃げてもいない。毛筆で字を書くとき、最後のところでふっと力を抜く感じに似ている。節度と余情を感じた。
子どもだからこそ踏み込んでゆける領域があり、子どもだからこそままならないこともある。その豊かさとやるせなさの両方を伝える力を持った本だ。挿し絵との一体感があり、一冊の本としての作りも美しいが「絵がなくても文章だけでじゅうぶん読ませるのに惜しい」と思った話もあった。大人の読者にもすすめたい。
さびしさについて
2024/03/12 22:57
文庫オリジナル
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正直のところ、途中まではごく私的なやりとりを読まされている感じがしていた。どこか、それはあなたたちの内輪な話でしょうという気がしていた。それが自主制作版から、一年以上を経てはじまった新しい往復書簡の部分に突入した時、内容が一段深まった。植本さんは、ひたすら自分の気持ちに正直であけっぴろげ、滝口さんは静かで分析的、その対象の妙は変わらないのだが、これまでの自分を振り返って、今がどういう時なのか、人との関係の中で問い直そうとしている。植本さん対滝口さんでおわらない、読者にむかって投げかけられた手紙のように読むことができた。ちくま文庫オリジナルとして、新しく出版を企画した編集部に拍手を送りたい。
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