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菜摘さんのレビュー一覧

投稿者:菜摘

28 件中 1 件~ 15 件を表示

春になったら莓を摘みに

2009/02/15 13:54

梨木文学の根底に流れる異邦人感覚

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

梨木氏の文学の根底に流れる異邦人感覚、とも言うべき感覚、『本当の故郷』 とは特定の場所ではなく、自分の心が故郷だと感じることができるところなのだ、ということを教えてくれる1冊です。

英、米、カナダと巡る梨木氏自身が 『異邦人』 として感じ見聞したことを率直に書き綴っています。1つの章で場面があちこちに飛ぶことが多いにも関わらず不思議と飛んでいる感じがしないのは、梨木氏の中では全てが一連の出来事、想いであり、それが文章として的確に表現できているからなのです。

正直梨木氏の文学、特に児童文学と呼ばれる分野の作品は読み始めはやや難解な感があるものもありますが、このエッセイは最初から最後まですんなり読むことができました。そして久しぶりにしばらく経ったらまた読み返したい1冊になるだろうと感じました。

『子ども部屋』 の章で。
>私にとっては同じ風が吹いているところがいつも子ども部屋であり、そこがふるさとなのだ。
全くその通りで『風が吹くところ』 心が感じるところが自分の故郷だと言う梨木氏。私も梨木氏のように心のまま、感じたままに生きたいと思うのです。

最も多く登場する古い友人、ウェスト夫人のことを 『受容する人』 と絶賛していますが、梨木氏自身も訪れる先々で多くの人と出会い、触れ合い、心を通わせ感じることができる人であることから、彼女自身も同様に気配りのある人なのだろうと感じました。

梨木香歩ファンは必読、更に英米カナダとその文学が好きな方にもオススメです。

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告白

2008/12/21 13:42

今日の教育とは成功者を作り出すことだけに終始していないか?

8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

衝撃作である。小説であってもやりすぎだろうか?いや、何よりも恐ろしいものは人の「悪意」であり、それが引き起こす事件とは本当に想像がつかないものなのだ。

第一章の「聖職者」のみで独立した物語だが、あえてその続きを連作短編集としたチャレンジに注目である。ここまで完成されている作品に続編を書くとほとんどが蛇足で終わってしまうはずなのに、本作がそうはならないのは切り口の上手さとその展開の巧みさだ。各章で語り手をそれぞれ異なる立場の者に置き換え、更に大ドンデンと言える展開を用意している。この大ドンデンの凄さはもう既に薬丸岳クラスの上、社会現象への関心の高さは桐野夏生クラスと言えるのでは。難しい少年事件を題材にし当事者である少年の心の闇を少年の立場から描くことに見事に成功した。

【成功】と【失敗】この言葉も多く出てくる。現代社会は【成功すること】だけが本当に求められているのだろうか?教育とは、成功者を多く作り出し失敗作の子ども達を排除すること、なのだろうか?学校そして家庭という子どもを育てはぐくむ場に身を置く者として、厳しい警鐘と感じた。

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おはなし会プログラム 季節別年齢別厳選プログラム116本収録 PART1

2011/02/04 16:48

プログラム作成の強い味方

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

季刊誌 『この本読んで!』 のおはなし会プログラムを一挙にまとめたお得な一冊です。季節ごとに乳幼児から小学校低・中・高学年ごと、中高生、シニアまで対象ごとに細かく分けられたおはなし会のプログラムは非常に参考になります。全編カラーで表紙画像が付いているのもとても分かりやすいです。

テーマに沿った絵本やおはなしを組み合わせたいといつも考えていても、なかなかすぐに決まりません。おはなし会が終わった後になって 『あっあんな本もあった…』 と気づくこともしばしば。また魅力的な絵本でも実際に読み聞かせをしてみるとそうでもなかったり、逆にそれほど期待していなかった本に子ども達はとても喜んでくれたり。まだまだプログラム作りはこれ!というのはなく、日々勉強です。

今はどの解説書にも 【読み聞かせの基礎】 という情報が載っていて本当に親切ですね。絵本の開き方、めくり方、持ち方に始まり、読む速度や声音を使い分けるか否か、などなど。こうした情報を本ごとに確認するのもいい勉強になります。

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玉蘭

2011/02/04 16:17

東京戦争という名の戦い

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『玉蘭』 は私の一番好きな桐野作品です。

桐野夏生は社会事件を題材とした作品を数多く発表していますが、本作はそうした社会派作品ともハードボイルド作品とも一風違った趣の作品です。単行本のあとがきには主人公有子は海外でのキャリアを積むことに疲れ帰国し始めた多くのキャリア女性をモデルにした、とありますが、こうした時代背景とは別に本作は全体を流れる雰囲気が叙情的な部分が非常に気に入っています。

有子は一流大学出のキャリア編集職ですが、外科医の恋人松村との離別を機に上海へ留学します。その地でも狭い日本人留学生社会で苦悩する有子。複雑で繊細な性格故に東京での生活に疲れ、新天地とした上海での生活にも疲れる有子。そこで思うのは別れた恋人である松村のこと。そんな有子の前に現れる大叔父の幽霊との関わりが、作品全体を不思議な雰囲気で包んでいます。

複雑な有子の気持ちが痛々しいほどによく分かり、辛いです。愛はそこにあったのに自分から愛を捨ててきた有子。でもあったと思ったは間違いだったのかもしれない。同じく別れてからも有子を思う松村。2人の確執が【東京戦争】という表現で描かれています。東京での出来事はすべて有子にとっては戦争だった、仕事も恋愛もすべて。その戦争に負けたのだと有子は思っており、戦争だと思わせてしまったのは自分だと松村は悔いているのです。

私が好きな歌で【東京砂漠】がありますが、まさに東京は砂漠のような厳しい土地なのかもしれません。東京でそれぞれの生活を戦い続ける友人達に、オススメしたい作品です。

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八日目の蟬

2009/02/15 13:33

子どもには朝ごはんを食べさせましょう

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

0章、1章、2章という組立てがいい。0章、1章は誘拐犯である希和子の一人称なのでここだけ読んでいると希和子に感情移入してしまいつい応援してしまう。だがこの小説のすごいところは2章だ。

2章では誘拐され4年後に実の親の元に帰された恵理菜の『誘拐され誘拐犯に育てられた子』 としての苦労がまざまざと書き綴られており気が滅入りそうになる。しかし恵理菜がだんだんと事件のことを振り返っていくと同時に読者も事件の真相を知ることとなるのだ。

いったい誰が悪いのか。恵理菜の父である秋山も、母である秋山の妻も、そして希和子もみな愚かな大人だ。間違いなくその犠牲になったのは恵理菜。ただ3人の愚かな大人達は本当に 『愚かなだけ』、つまり幸せを掴む力が弱かっただけなのだ、それが『愚か』ということなのだろうか?

両親のことも、赤ちゃんの頃誘拐された子どもという自分の運命も、すべて諦めて恵理菜は大学生になっている。そして自分も愚かな大人と同じように愚かな大人と不倫の関係にある。その中で恵理菜は自分自身を見つけようともがき始める。

きっかけはエンジェルホームで出会った千草。このエンジェルホームという設定も上手い。宗教色の濃い団体の共同生活を送るためのこのホームならば、確かに誘拐した子どもを連れた希和子が何年も身を潜めることができたというのも納得できる。そのホームでの出会いが希和子と薫を小豆島へ誘い、描かれる小豆島の人々の優しさと美しい自然がこれまたいい。

設定、場面展開、実によく練りこまれた完全な小説だが、その上で琴線に響くシーンがこれまたいい。希和子と薫が別れる時の一言が、ぐあーん。と来る。

母として…子どもには朝ごはんを食べさせましょう。じゃなくて人は愛すべき、守るべき者があれば生きていけるのだと、その守るべき者のために生きるのだと強く訴えてくる小説。角田氏はやはりテーマ【家族】が上手い。必読。

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寺山修司詩集

2009/02/15 14:22

マイファースト寺山修司

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

前衛演出家だとか天井桟敷だとか、そのイメージばかり先走りして妖しげなイメージしかなかった寺山修司。ある時中学校の先生が『割と詩とか短歌はいいものがあって中学生にも勧めているのよ』と言うのを聞き、中学生が読んでも大丈夫なのかなるほど…などと思いふと手に取ってみたところ。

素晴らしい。の一言です。特に『少女詩集』が一番好きです。本当に寺山修司という人の感覚は時に大人の男であったり、時に少女のようであったりしたのでしょう。そう感じさせる詩集でした。

私が特に好きな詩は『もしも住む家がなかったら』と『ひとり』です。恐ろしく感銘を受けた私はこの詩集を買ったばかりの頃は毎晩寝る前に上記の2篇の詩を朗読し続けていたら、ある晩息子に『もうテラヤマシュウジはいいからっ』と怒られてしまいました…。感性豊かな少年に育って欲しいという母の願いは叶うのでしょうか。

このハルキ文庫の寺山修司詩集は非常にお買い得でオススメです。貴方の一冊目の寺山修司としていかがでしょうか。

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まゆとおに

2009/02/15 14:11

大根汁とゴマや山菜の入ったおにぎりの、なんと美味しそうなこと!

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

児童文学作家の富安陽子と画家 降矢ななのコンビが贈る、やまんばとその娘まゆのお話。

まゆはやまんばの娘。このやまんば母さんもなかなか素敵です。頭をきゅっとお団子にひっつめて背が高くて力持ち。最初のページで母さんとまゆは大根汁を作るために山のような大根を軽々と持ち上げて大鍋に入れようとしています。

その後まゆは遊びにでかけ鬼に会います。初めて鬼に会ったまゆ、大きなおじさんだと思いますがちっとも怖がりません。何といっても降矢ななの挿画が素晴らしい。まゆは真っ赤な髪の可愛い女の子で『めっきらもっきらどおんどん』のしっかかもっかかを思い出します。そして対する鬼がきちんと怖く描かれている点。鬼は怖いものですからね、それをちゃんと怖く描いているところがいいです。

鬼はまゆを食べようと住処へ連れ帰り、大鍋にお湯を沸かすのですが、その際手伝いをするというまゆの馬鹿力に驚くばかり。最後にまゆを煮ようとした大鍋に『お先にどうぞ』とまゆに入れられ、大やけどをして大騒ぎ。まゆは鬼を担いで(これまた馬鹿力)やまんば母さんの元へ連れ帰ります。

鬼は『やれやれ、やまんばの娘だったのか…』と納得するやら感心するやら。そしてやけどの薬を塗ってもらい、母さんの作った大根汁とおにぎりをごちそうになるのですが…
この 大根汁とゴマや山菜の入ったおにぎりの美味しそうなこと!

絵本には多くの食べ物やお菓子が出てきますが、これまでこの大根汁とおにぎりほど、『食べたい!』と思ったものはありません。この最後のページには釘付け!ああ食べに行きたい…。

おにぎりをほおばるまゆ達の横で、のんびり煙管をふかすやまんば母さんもカッコイイです。

続巻もオススメです、こどものともで発表される新作もいつも楽しみにしています。

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アボカド・ベイビー

2011/02/04 16:35

アボカドってどういうもの?というお子さんに

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

バーニンガムの絵本ではピカイチです。バーニンガムの絵本には良書が多いですがやや難解なものも多い中、これは大変分かりやすい内容です。

何も食べなかった赤ちゃんが、突然アボカドを食べてもりもり元気になってしまうお話。最初はイスのベルトをちぎったりベッドの柵を持ち上げたり、だったのにだんだんとおかあさんの買い物の荷物を持ったり植木鉢を運んだり、そしてテーブルやピアノを運んだりエンストした車を押したり!エスカレートしていきます。

何と言っても圧巻なのは泥棒を追い返すシーン。5回位読んでもそこで笑ってしまいました。今はもう笑わずに読めますので読み聞かせもOKです!

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気分はもう、裁判長

2011/02/04 16:28

今日から私も傍聴マニア

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

トロさんが傍聴マニアというのは以前からよく聞いてましたが、最初に書かれた傍聴本であるこちらが中高生向けにだったとは、読むまで知りませんでした。傍聴マニア、というのも世間が勝手にそう呼んでいるのであってトロさんご自身はそう思われていないとか。そうですよね、誰だって自分の生活がマニアとは思ってません。ただ傍聴マニアと言われてもそれで世間に納得されるならいいか、と思い特に訂正はされないとか、さすが大人な対応だわ。

傍聴の正しい姿勢について分かりやすく教えてくれます。章立てで様々な種類の裁判があるのも分かりやすいです。

Q:なぜ傍聴という制度があるのか?
A:傍聴により裁判が密室で行われないよう、監視する。裁判に関わる検察、弁護人、そして裁判官が裁判に対して手ヌキしないよう、抑制力となる。

すごく分かりやすかったです。理論社のよりみちパン!セ シリーズは以前から学校図書館関係者の間でいい、と聞いていたのでこれを皮切りにどんどん読んで行きたいと思っています。
この本は中高生だけではもったいないです、大人の方もぜひどうぞ。

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雷の季節の終わりに

2009/02/15 14:33

巨大なボウルの上にある私達の世界

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まず出だしがいい。
>私の知る限り、穏は一般の書物にはその名を記されていないし、地図にも載っていない。
異世界である穏。果たしてどんな地なのか?読者の想像を膨らませ、やがて雷季と呼ばれる季節の秘密を知ることとなる。

狭い共同体で子どもがその庇護を受けずに生き抜くことは難しい。賢也はそのことを本能で知りながらも、いなくなったたった1人の肉親である姉を捜し求め、やがて穏の秘密にも触れていこうとする。単なる好奇心からか、それとも賢也自身の持つ特別な『能力』のためか。

その素直さゆえに闇番は賢也に穏の秘密を教え、やがて穏を追われる身となる賢也の命を助けようとする。始めは賢也を疎ましいと思っていた闇番の心の移り変わりゆく様も、穏を出た賢也が始めて目にする外の世界も、何もかもが賢也と同じく新鮮だ。穏を異世界、異次元の世界として描きながらその位置付けをハッキリさせている本作は破綻がなく素晴らしい。

一人称が賢也から茜、そしてトバムネキと章により変わるのも、全て『風わいわい』を介していることから自然の流れでありとても分かりやすい。『風わいわい』の存在が物語では大きな核であり、全ての事象、世界の成り立ちまでを理解させてくれる存在となっている。
その世界観の描き方も秀逸。現実社会は穏のある異次元から見ると巨大なボウルの上に浮いているように見える、そこへの入り口は日本の場合は神社の鳥居だった。振り返っても鳥居の向こう側に異次元はもう見えない。

何より今回も作品全体に流れる民俗的色合いが心地よい作品だった。意味不明な妖怪物ではなく、私達の生活のすぐ隣にこうした森羅万象が存在していることを気付かせてくれる、そんな作品だと思う。

読んでいて心地よい。そんな作品にこれからも出会いたい、そう強く思わせてくれるのが恒川作品でしょう。

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りかさん

2008/12/21 14:22

4人の母と1人の娘という、1つの完全な家族の姿。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

梨木氏の一人称感覚の素晴らしさには感嘆。同著「からくりからくさ」と併せて「りかさん」のりかさんにようこ、「ミケルの庭」の蓉子、紀久、与希子ら登場人物の愛しさを満喫してほしい。

【りかさん】
人はみな「ホーム」を持っている。背守の君が「帰りたい」と泣くのもホーム。蓉子達が生み出す全ての作品にとっても工房である「ホーム」がある。ミケルにとっての「ホーム」ももちろんこの家。
「からくりからくさ」の蓉子が神秘的な存在だけに、彼女の幼い頃を描いた本作はよく理解できるし逆に大人になった蓉子が神秘的な雰囲気をかもし出すのも本作の経験で納得がいく。

【ミケルの庭】
「りかさん」が「からくりからくさ」以前の物語ならばこちらはその後の物語。妊娠したマーガレットが出産した幼い娘ミケル。マーガレットの短期留学中にミケルは生死の境をさまよう。幼い命を預かった蓉子達の奔走ぶり、狼狽ぶり。

「からくり」では比較的冷静な印象だった紀久が、本作ではミケルに対する複雑な想いを顕わにし、それに苦悩するところに好感が持てる。同時に「からくり」では天真爛漫ぶりが全面に出ていた与希子も、本作では早い判断力と行動力を持つ素直さが表現されており、それを見てまた紀久が落ち込み、更にそれを見た蓉子が紀久を慰めるシーンが素晴らしい。彼女らは既に1つの完全な家族なのだ。

戻ってきたミケルと紀久が手をつなぐシーン。紀久もまたミケルの母なのだろう。「ミケルの庭」は文庫版のみの掲載であり必読。

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涙 上巻

2008/12/21 14:13

なぜ婚約者は私から逃げるのか。その理由はやはり「涙」である。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

幸福の絶頂にいた萄子と婚約者の奥田。それなのになぜ奥田は逃げ続けるのか。その理由を追い続ける萄子と刑事の韮山。見事に仕掛けられたワナのためとやっと分かるラストまで目が離せない見事な展開。

昭和39~41年が舞台。東京オリンピック前夜の日本中の興奮に始まる経済成長期へ入る日本の活気。それでいて忘れ去ったとは言い切れない敗戦後の苦しい生活の記憶が時折ふと現れては人々を苦しませる、そんな時代を60年代生まれの乃南氏が描ききっている。

乃南の描く刑事、警察像は決してキレ者でもなく勘が冴えるでもない。定年まで巡査だろうと自認する韮山もおよそ手柄とは無縁で、ただ長年培った刑事としての勘と足を使って聞き込みをするという地道な刑事。よく一人の刑事の勘だけでめくるめく解決がもたされる他の大げさな刑事モノと違い、地に足のついている現実味のある展開が非常に好ましい。かと言ってつまらないということは決してなく、いつもすぐそこに手が届きそうな奥田がまたスルリと逃げてしまう、その萄子の悔しさ・悲しさ・やるせなさが、ひしひしと伝わってくる。

そしてついに物語は当時占領下にある宮古島へ。当時の状況と宮古島を襲った歴史的な台風の爪痕を物語に絡めた、満足度100の骨太小説である。

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新世界より 上

2008/12/21 13:54

人類の英知である「知識」と「教育」が支配する近未来がここにある

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2008年出版では最高の作品、破綻なく1000年後の未来を描き切っており秀逸。呪力と呼ばれる念動波の能力を「全ての」人類が持つ時代という設定も、そうした超常の能力を「全ての」 人が有するが故に生じる様々な問題も、見事に描ききっている。

【教育】と【知識】これが今後の世界で最も重要視されるだろうという著者の意見に強く賛成である。そして同時にこれらはもろ刃の剣であるという展開にも。人間の奴隷であるバケネズミの存在、バケネズミと人間の関係、人類のコミュニティのあり様、そしてコミュニティに【教育】されている子ども達が新しい【知識】に出会う展開。破綻なき設定と展開で物語が進む。

タイトルにある 「新世界より」ドヴォルザークの「家路」がまた、物語全体を盛り立てている。現在のコミュニティまでの成り立ちまでの背景を知り、未曾有の危機を脱しコミュニティの責任者となった早季ですら、コミュニティを守るためまた同じ道を辿ろうとしているラストが身に沁みる。人類が進むべき【正しい道】はどこにあるのだろうか。

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好奇心の部屋デロール

2011/02/04 16:56

現代のヴァンダーカマー

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

初めてこの本に出会ったとき、博物館学の授業で習ったヴァンダーカマーだ!と感動しました。

現存する本物のヴァンダーカマー、デロール。剥製や標本だらけでちょっと(かなり?)怖いかもしれませんが…夜中に動いているかも?
かつてはデロールで販売していた多くの剥製は、現在では剥製を作成できない動物もあるため、販売ではなくレンタルが主となっているそうです。

一度は行ってみたいデロール。こういうお店が存在し今も営業し続けていることが素晴らしいですね、パリへお出かけの際はぜひ。

写真家 今森氏の写真と温かい本文も素晴らしいです。

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トマトさん

2011/02/04 16:32

夏のおはなし会の定番

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

夏の定番絵本。トマトさんが川へ行きたいのだけれど自分では動けない、と言って大粒の涙を流すようすがたまらなく、いいです。この表紙のビッグな表情もいい!

最近の絵本はストーリー性を重視したものや、細かい描写にこだわったものが多く見られます。もちろん子どもと大人が1対1で読んでやる時や、絵本好きの大人の方には適しているものも多いけれど、そういった絵本は複数人に向けて行うおはなし会では向かないのは事実です。おはなし会に向いている絵本を的確に判断し、それを子ども達に提供していく、おはなし会を運営する私達大人の大切な使命です。

…という小難しい理屈は抜きにして楽しめる絵本。それが実はおはなし会に一番適した本でもあった、ということではないでしょうか。

田中清代さんの絵本に今度とも期待です。

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