摂津の国の住人さんのレビュー一覧
投稿者:摂津の国の住人
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無告のいしぶみ 悲謠抗戦信長
2009/01/26 16:15
戦国滅亡の民の栄光
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
世に多くの歴史時代小説が送り出されていますが、この小説は珍しく勁烈な歴史小説だと思いました。
ときは戦国真っ只中、織田信長の暴虐と戦う長島一向一揆から、伊丹有岡城壊滅のころまでのほぼ二十年余の凄惨な戦いが描かれています。
中心は長島の戦いで結成され、一艘の川舟を巧みにあやつって信長軍を悩ます名も無き雑兵、若者5人の集団「阿ノ伍」とそのひとり吾市です。吾市ははるか遠くの物音を感じ、また見通すことができる特異な才能の持ち主ですが、生来の臆病者で戦うことが得手ではありません。そして彼は伍頭の憂愁に満ちた一向宗の戦士周作に、ある種の思慕を寄せています。
一揆はよく戦いますが、善戦かなわず信長の二万人虐殺によって壊滅し、「阿の伍」の仲間も吾市を残して劫火の中で死んでいきます。生き残った彼は石山本願寺を経て摂津有岡城へ潜行します。
やがて城主荒木村重は信長に反旗を翻します。城を包囲する信長軍による残忍な干し殺し作戦に苦しむ城内の領民たちと共に吾市は生きるのですが、長島で共に戦った阿ノ伍の仲間への想いが彼を支え続けるのです。
やがて領主村重は、城も一族も領民も捨てて逃亡し、残された武将たちは戦意を失って開城し、いずれかへ逐転します。最後まで戦って捕らえられた一向宗徒と市民たちは、茅舎に閉じ込められて悉く焚殺されます。
吾市も彼らと共に焼き殺されるのですが、最後に彼が見るのは、阿鼻叫喚の焦熱地獄ではなく、空高く昇華していく阿ノ伍の仲間と巨大となった川舟に乗る、火に取り巻かれた無数の無告のひとびとでした。このとき念仏の声が響き渡っているのです。
一方、この間の戦国角逐の状況、信長と傘下武将たちの息詰まる緊張関係などが凄まじく描写されています。また、なぜ村重は信長に反旗を翻したか、なぜ村重は逃亡したか、なぜのちに秀吉に仕えまた放逐されたか、が描かれています。またキリシタン大名高山右近はなぜ村重を裏切って信長についたか、また同郷の者たちが焚殺されるのにいかに苦しんだか、なども克明に描写されています。
その他、ものがたりのディテイルが史料をしっかりと掴んでけれんなく組み立てられ、引き締まった流麗な文体によって見事な世界を構築していると思いました。
最後に、村重の室陀子をはじめ一族ことごとく京都六条川原で首を打たれるのですが、その姿がまことに華やかで美しいのです。殺戮に次ぐ殺戮といってもよいほどの戦国無残の物語ではありますが、ここに描かれる死んでいったものたちは、すべて清冽で、けなげで美しいのです。
時代小説と申しましたが、これはむしろ、高い志で描かれた宗教小説といった方がよいのかもしれません。
めおと剣蝶の舞 京 北白川物語
2009/10/18 01:53
京都に生きるつよくてやさしいおんな
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
京都を舞台としながら勤皇倒幕をテーマとしない、めずらしい時代小説である。ここにはいくつかのモチーフが書き込まれている。
1.天保時代末期の京都の疲弊と乱れ。
2.白川に潜んでいた誇り高き中世土豪の残党たちの自尊と正義。そして京の町びとたちへの武侠のこころざし。
3.白川女たちのたくましくたゆみない働きぶり。
4.白川伝来の闘術と修験道法術。
5.主人公である若きめおとの愛艶挿話。
6.古代から伝えられている京都固有の歴史の深淵。
7.不殺の剣という「武」の思想。
多彩な物語が五つの挿話にまとめられ、それが連結しつつ息も継がせず展開される。特に緋刈という新妻が武技に優れていながら初々しくかつ愛恋に満ちているのが快かった。また最後の巻の、強敵に対する妻夫(めおと)の華麗な闘いぶりが、これまでの時代小説に見られぬ意表をついた展開となっているのが印象的であった。
天保時代の京都の地図が添えられていれば、京都を知らぬ読者にもっと理解されやすいのではないかと惜しまれる。
このあと作者に、京都を舞台とした時代小説をもっと書いてほしいと思った。
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