寮 美千子さんのレビュー一覧
投稿者:寮 美千子
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紙の本夢見る水の王国 上
2009/06/12 10:45
著者メッセージ
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『夢見る水の王国』が胚胎したのは、今を去ること約二十年前。少年ばかり主人公にしてきたわたしが、はじめて「少女」を主人公に書きたいと思った作品でした。1999年の東雅夫さんとの対談でも、この物語に触れています。
ここでは『楽園の鳥』の構想も語っていて、『夢見る水の王国』が、『楽園の鳥』の作中作であると位置づけています。
そして、その言葉通りこの世界に出現したのが『楽園の鳥』(泉鏡花文学賞受賞作)と、今回発売となった『夢見る水の王国』でした。
物語は、房総の天羽という小さな海辺の町からはじまります。偏屈な祖父と二人きりで暮らしている少女マミコ。台風の翌朝、少女は浜辺で、角の折れた一角獣の木馬を見つけます。知らせに戻った少女を待ちうけていた悲劇。ショックのあまり、少女は、悪魔の子マコと、純真なミコの二人に分裂してしまいます。ミコから「名前と角」と記憶を奪って「世界の果て」へと逃げるマコ。角をなくした馬とともにマコを追うミコ。ミコは夢を見る子ユメミコ、木馬はその夢を読み解くユメヨミ。二人は、月の満ち欠けとともに、夢を手がかりに旅をします。雲母掘りの鉱夫、砂漠の舟人、黄泉帰りの森、月の神殿……。この世界とぴったり重なるもうひとつの世界。夢見であるミコは、夢によって、世界を回復することができるのです。ようやくたどりついた「世界の果て」で見たものは……。
これは、月と水とをめぐる魂の旅の物語。癒されるために、深く傷ついた自分と向きあう物語です。千百枚という長い物語ですが、きっと飽きずに旅を楽しんでいただけると思います。ヒマラヤ、ガンジス河口、アリゾナの砂漠、トルコの高原など、さまざまな土地で見てきた驚異の風景が、幻想世界に反映しています。ぜひ読んでみてください。
【推薦のことば】
▼東 雅夫(アンソロジスト/文芸評論家)
読み進めるにつれて読者の世界観が一変してしまう――そんな力を秘めた物語こそ、本物のファンタジーなのだと私は思う。澄明な驚きと旅への憧れに満ちた『夢見る水の王国』は、その最新にして最深の実例に他ならない。
▼金原瑞人(翻訳家/評論家)
いつの間にか「剣と魔法の物語」になってしまった「ファンタジー」は、もともと幻想小説をさす言葉だった。寮美千子の新作は、そのことを鮮やかに思い出させてくれる。この作品は、最近、妙に薄っぺらくなってしまったファンタジーを、もともとあった場所に力強く引き戻してくれた。ゆるやかに広がり、きりきりと胸に迫ってくる、寮美千子の最新作。ファンタジーが美しい牙をむいてこちらをにらんだような気がした。
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