k**さんのレビュー一覧
投稿者:k**
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悪童日記
2009/07/14 12:13
愛すべき双子の日々
16人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
第二次大戦のさなか、戦火を逃れるために田舎のおばあちゃんのもとに預けられた天才の双子。しかもそのおばあちゃんは夫を毒殺したと噂され<魔女>と呼ばれる怖い人だった。
けれども二人はそこで農家の仕事を覚え、読み書きを覚え、痛みに耐えることを覚え、たくましくなっていく。
この双子はとても残酷なことを平気でする。だけどその双子がそういうことをするのにはいつだって理由があって常に筋が通っている。二人は二人でいるからこそどんなことも乗り越える。
彼らは絶対に人を差別しない。彼らのものさしでことの善悪を判断し、対応する。たとえ周りからその人が蔑まれていようが、守るときめたら守り通す。
同情はしない。相手が飢えて苦しんでいたら彼らも断食してその気持ちを理解するし、目が見えない人をみたら黒い三角の布を目にあててその状態を理解する。何もごまかさない。
この双子から私たちが学ぶべきことはあまりにも多すぎる。
すべて文章はその双子の視点で描かれていて、シニカルで、そこでは一切の主観も入らないように細心の注意が払われている。
彼らは一見すごく大人にみえるけれど、たまに子どもらしさが垣間見え、又、子どもだからこそ物事を先入観なくとらえられる純粋さがうかがえる。
特に印象に残っているのは、周りからの言葉の暴力に耐えるために二人で訓練するところ。
「ぼくらはもう、赤くなったり、震えたりしたくない。罵詈雑言に、思いやりのない言葉に慣れてしまいたい。ぼくらは台所で、テーブルを挟んで向かい合わせに席に着き、真っ向から睨み合って、だんだんと惨さを増す言葉を浴びせあう。(中略)そして、とうとうどんな言葉にも動じないでいられるようになったことを確認する。しかし、以前に聞いて記憶に残っている言葉もある。おかあさんは、ぼくらに言ったものだ。『私の愛しい子!最愛の子!私の大切な、可愛い赤ちゃん!』これらの言葉を思い出すと、ぼくらの目に涙が溢れる。これらの言葉をぼくらは忘れなくてはならない。なぜなら、今では誰一人、同じたぐいの言葉はかけてくれないし、それに、これらの言葉の思い出は切なすぎて、この先、とうてい胸に秘めてはいけないからだ。」
子どもが子どもでいられないのは社会がそれを許さないからだ。なぜこの双子がこの涙を乗り越えなければならないほど強くならなければいけないのか…それは、なんて悲しくて残酷なことだろう。
私はこの双子を思い切り抱きしめてあげたい。
ノーサンガー・アビー
2009/12/09 13:32
世間知らずなキャサリンのどたばたラブコメディ
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
オースティンの作品は『高慢と偏見』に続きこれで2作目。
粗筋は簡単にいえば、17歳のキャサリンがリゾート地バースを訪れ、社交界デビューし、そこで出会ったヘンリーに恋に落ち、大好きなホラー小説のような『ノーサンガー・アビー』に招待され、そしてヘンリーと・・・という話。無事、ラストを迎えるまで、世間知らずのキャサリンは多くのトラブルに見舞われます。
そして、こうしたトラブルの中で、たくさんのドキドキわくわくした気持ちやキュンキュンときめく気持ちを思う存分に(いや、正直に言えば、もっとずっと味わっていたかった!)味わうことができました。
筆者が語り手として差し挟む皮肉な解説も楽しいし、主人公キャサリンをはじめ、ヘンリーもエリナーも時々登場するアレン氏も大変魅力的に描かれていたと思います。
対するジョン・ソープのうざさもある意味、素晴らしい。
オースティンの初期の作品だそうですが、彼女が小説に懸ける熱い思いがじんじんと伝わってくる気がします。
ところで、小さい頃(というか今も)、『秘密の花園』にものすごく憧れ、ミステリアスな雰囲気の漂うお屋敷に住むことを夢想していた私にはキャサリンの気持ちがとてもよくわかります。
そしてキャサリンに負けず劣らず、この『ノーサンガー・アビー』の世界のヒロインに私もなりたい!!と思いました。
この読後感はくせになりそう。
九つの、物語
2009/07/28 19:21
幽霊になったお兄ちゃんとの、ゆるやかで、儚い日々
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
死んだはずのお兄ちゃんが一人で暮らすゆきなのもとにある日、当たり前のように帰宅する。
それから始まる奇妙な共同生活とゆきなの恋に関するお話。
「九つの、」とあるのは各章が有名な文学作品とリンクしていることに由来します。ゆきなは今読んでいる本と現実の出来事を結びつけて、本を味わい、日常を彩ります。
人の死をどう乗り越えるかを描く話や幽霊と暮らす話というのは、さほど、目新しいものではないかと思います。
けれど、それがたとえありがちな道筋を辿ったとしても、それでいいのだ、と深く頷きたくなるような、とても味わい深い、素敵な物語でした。
基本的にはゆるやかな日々が続くばかりで大きな事件は何もおこりません。それがいいんです。
平和だからこそ、いつ終わるのかわからないことが、
お兄ちゃんがいつか消えてしまう日がくるのが、
恐くて。
お兄ちゃんの優しさとゆきなのまじめさがどうにも切なくて、遂に訪れた別れのシーンでは涙が止まりませんでした。
内容は漫画やライトノベルのように軽いので、300ページはきっと一瞬です。でもライトノベルみたいな表紙だったら手に取らなかったと思います。この物語の世界観をよく表現している素敵な表紙がいいのです。
それから、お兄ちゃんが最高にかっこいいんです。(もちろん彼氏の香月くんも素敵なんですが)
女の子にモテモテで、ゆきなのために毎日おいしいごはんを作り、帰りが遅いと夜も眠れないくらいに心配してくれます。
こんなお兄ちゃんなら、ブラコンになるのも仕方ない笑。
かるーく、余韻の残る切ない小説を読みたい気分のときにぜひにとおすすめしたい作品でした。
宇宙でいちばんあかるい屋根
2009/07/15 09:56
空を飛びたくなるおはなし
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
空をとびたい。
メリー・ポピンズみたいに。スーパーマンみたいに。タケコプターをつけたのびたみたいに。
星がきらきら輝く夜に空を見上げて夢を見る。切なげなため息がもれる。
主人公のつばめはそんな、ちょっと夢見がちな女の子。
5歳年上の幼馴染の亨くんに長い間、叶わぬ片思いをし続け、
週に2回、書道教室に通う。
書道教室が終わるとビルの屋上で自分だけの時間を過ごす。
3歳でお父さんが再婚したからお母さんは本当のお母さんじゃない。
でもだからこそここまで、みんなで必死に幸せな家族を創り上げてきた。
中学生のつばめが、今まで当たり前だと思っていた家族に疑問をもち始めた頃、
亨くん一家は亨くんのお姉さんのことで不穏な空気を漂わせ始める。
そして、星ばあとの運命的な出会い。
星ばあは意地悪で、皮肉屋で、うそつきで、何をしたってちっとも誉めてくれやしない。
空を飛べるなんて言い出すし、つばめにいつも食べ物を買ってよこさせる。
息子がやっていたというキックボードを熱心に練習したり、屋根瓦についてものすごく詳しかったり、不意にくらげを見に水族館にいこうなんて言い出したり、わけがわからない。
だけどもともと夢見がちだったつばめはそんな星ばあを受け入れていき、やがて、星ばあにだけは本音をぶつけられるようになる。
とにかく設定の一つ一つが可愛らしい。等身大の比喩に幾度も胸をキュッとさせられた。
手にとったきっかけは装丁の美しさからだったのだが、内容はその装丁の雰囲気のまんまだ。
ところで本書はいわゆる思春期の中学生の成長の物語のはずなのに、なぜだか新鮮な印象をうける。これは、つばめが傍観者の側にまわることが多かったからではないだろうか。
普通、家族がめちゃくちゃになるのは主人公の家のことが多いのに、当のつばめは亨くん一家のごたごたを基本的には見ているだけだ。典型的な中学生の微妙な人間関係を描いてはいるものの、つばめ自身がそのいざこざに頭を悩ませるようなこともない。
妙にあっけらかんとしていて、亨くんへの思いも自己完結しているように見える。
いつも宙にういてるみたいなつばめの考えることは突拍子もなくてそれでいてとても魅力的で目が離せない。
塵よりよみがえり
2009/07/25 00:19
さまよい蠢く幽霊たちの追憶
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
実はこれが初のブラッドペリ作品。
彼の作品は、SFという言葉に抵抗があって、一冊も読んだことがなかったのですが、表紙とタイトルに吸い寄せられるような魅力を感じ、本作に限っては不思議と抵抗なく読み始めていた気がします。
そして、SFだからといって気後れするのはもったいないと思えるほどの素晴らしい作品であることがわかりました。
この美しい世界観に少しでもわくわくする人なら物語を存分に楽しめるに違いありません。
本作は<エリオット一族>という、著者が7歳のときから心に思い描き、何度も短編集の中で登場させてきた一族が登場し、それまでのエリオット一族シリーズの集大成をなす作品だそうです。
舞台はアメリカの中部にある幽霊屋敷。そこには古代エジプトのネフェルティティの母である<ひいが千回つくおばあちゃん>と、屋根裏で夢想にふけり、あらゆるものに意識を移すことのできるセシー、それから幽霊の夫婦とその夫婦に拾われた、唯一の人間であるティモシーが住んでいる。何年かに一度、ハロウィーンのときには集会があり、世界中の人の規格に収まらない、不思議なものたちが集う。
けれど、時代は移り変わり、人々の影に隠れながら生きているこれらのものたちは、住処を失っていく。
人々が幽霊を神さまを信じなくなったから。
不思議なものの存在を誰も認めなくなったから。
このお屋敷がいかにして最期を迎え、そのときティモシーは何を決断するのか。
その問いの答えに向かう日々が美しい言葉で綴られる、幻想的なファンタジー。
「時のとらわれ人は、縫いあわされたまぶたの裏で真っ青なラピス・ラズリの切れ長の目をきらめかせながら、思い出にふけっている。」
たとえば、これは本文の冒頭に出てくる一節。
このなんともいえない空気感。
不思議なものを当然のように受け入れる潔さ。
一つ一つのフレーズがさらさらと流れる水のようでどこもかしこも引用したくなってしまうくらい煌いています。
ブラッドペリ氏の繊細な感覚で世界を眺めれば、何もかもが、命という形をとるにしろとらないにしろ、日々何かを思い、蠢いているのでしょう。
その小さな小さな蠢きを見落とさないように感覚を研ぎすませて生きていこうと私は思いました。
ドイツ史10講
2009/07/15 10:12
豊かなドイツ史観にひたされて。
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ドイツと聞いて何を思い浮かべるだろう?
ドイツは世界史においてもメジャーな地域で、世界史を少しでも習っていれば、神聖ローマ帝国、ハプスブルク家、ビスマルク、ヒトラーなどを容易に思い出すことができる。時代の各所において、優れた統治者や学者を輩出し、斬新な国家体制や土地経営、対外政策で世界を揺るがしていく躍動的なドイツの姿を思い出すことができる。
しかし、神聖ローマ帝国やビスマルクやヒトラーをどう歴史の中に位置付け、それがドイツ史の中で、はたまた世界史の中でどういう意味を持つのかと考えてみたとき、それはあまりに複雑すぎて、頭がぐるぐるして、よくわからなくなってしまう人も多いかもしれない。
本書はまさに、そういう人のためにある本だと思う。なにせ、ドイツという名前すらまだないような頃から冷戦の崩壊に至るまでの歴史を10の章にわけて一気に説明しようというのだから、細かいことをぐだぐだいっている余裕はない。とにかくそのエッセンスを集約し、歴史の大きな流れを追っていくような大胆さが必要だ。そしてこの「ながれ」の中に、歴史を学ぶことの面白さを比較的誰もが気軽に感じることができるのではないかと私は思う。
本書はこの役割を見事に果たしている点でとても読み応えのある素晴らしい一冊だと思う。まず、文章の書き方において、事実と様々な歴史家のそれへの歴史観と筆者の主張が明確に分けて書いてあるので、読む側にとってとてもフェアでわかりやすい。問題提起とその思考の筋道が示してあるのも、自分も一緒になって考えていくことができるのがよい。
全体を通して、筆者がドイツの特徴として特に注目しているのはドイツが伝統的に連邦制的性格の強い国家であることだろう。これこそが、一君主の中央集権体制から国民国家を築いていったイギリスやフランスと大きく異なった点であり、ドイツの歴史の中で長所にも短所にもなった政治体制なのだという。それは神聖ローマ帝国に端を発するが、初めはばらばらの地方をキリスト教という思想と教会というシステムによって結びつけることによって帝国の一員としての連帯感を作り出していた。それが長い歴史を経て、現在の連邦制を取るドイツに受け継がれ、民主主義に柔軟性を持たせる要素として機能しているというのだからその途方のない時間と文化の重みにため息が漏れる。
読み終わった頃にはドイツ史を、そして世界史をもっともっと豊かな視点でみられるようになれる。ここから始めてもっと世界を知りたいと、歴史を知りたいと思える。そんな読後感の残る一冊であった。
小生物語
2009/10/05 01:03
本当のような嘘の話
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ブログを本にしましたーという軽いノリの本だけど。
著者自ら、この本は「手抜きのオンパレード」であるから読んでくれなくていいと前書きで断言しているけれど。
乙一氏のブログは真剣に、面白い。
さすが、本業が作家さんの方のかくブログは違うと思いました。
電車の中で何度も吹き出しました。
いゃーはずかしい。
毎日がエイプリルフールかとつっこみたくなるほど、日記の内容が虚実入り乱れており、普段の小説とは違って、よくも悪くも力の抜けた、自虐的な感じが妙に笑いを誘うのです。
たとえば、映画館で赤ちゃんが泣いているのを耳にした乙一氏は、こんな日記を綴っています。
「映画が中盤を過ぎた辺りで、赤ん坊の泣き声が急に消えた。かわりに「ぅぐぅぇぁぁ」という苦しそうな赤ん坊の声が聞こえてきた。母親が中腰になってなにかを強く握り締めているのが影となって見えた。以降、赤ん坊の声は聞こえず館内は静かになった。」
母親が目を血走らせて、赤ちゃんの首をしめている様子がリアルに想像できてひやりとさせられ、随所でそんな想像を膨らませている乙一氏の妄想力に笑いが止まりません。
そして、そんな嘘と嘘の狭間で、作家としての乙一氏の真摯な姿勢や、他の作家さん、編集者さんとの交流やお仕事のやりとり、サイン会の裏話も伺い知ることもできてしまいます。
つまり嘘つき乙一氏とリアル乙一ライフとが錯綜し、一冊で2度おいしいというわけです。
乙一氏の作品のファンの方はもちろん、乙一さんの作品がちょっと気になってるけど読んだことのない方にもお勧めできる一冊です。
樹影譚
2009/10/05 00:54
ひきこまれ惑わされる心地よさ
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
読み始めてまもなく著者がとんでもなく才覚あふれる人物だということがわかります。
3つの短編が収められているのですが、いずれも物語の展開が面白いというよりは彼の文体が作り出す空気のようなものが心地よく、その空気に浸された物語は否応なく目が離せなくなるような、そんな感じ。
ポカポカ晴れた日にふと大学に行くのが面倒になって、適当な駅で途中下車してお散歩した日のことを思い出します。ありふれた景色なのに、現実から少し浮遊しているような感覚が本書に漂う空気に似ているからかもしれません。
特に表題作「樹影譚」は題名からして素敵すぎです。
入れ子細工のように小説の中にまた小説があり頭がいい感じにぐるぐるしてきて、樹の影にどうしようもなく惹きつけられる男の過去がめぐりくる様に幻惑させられました。
解説もすばらしいので、読み終えるとまた、最初から読み直したくなります。
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