Jr.さんのレビュー一覧
投稿者:Jr.
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終戦後文壇見聞記
2009/07/16 12:52
戦後文学副読本に最適の好著
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
終戦直後から二十年間、文芸誌「群像」の編集に携わった著者が、その間の作家たちとの交わりを主な材料に作り上げた、まさに表題通りの文壇見聞記である。戦後昭和文学の資料として貴重であるのはもちろん、読み物としても非常に面白い。年季の入った文学愛好者から、ちょっと興味を持った小説初心者まで、幅広くお勧めできる好著だと思う。
数多く含まれた作家のエピソードが面白い。本来作品というものはそれ単体で評価されるべきものだと思うが、こうして作家やあるいは作品成立の過程などを知ると、楽しみ方の幅もまた増えるだろう。余計なことを知ってしまったばかりに、視野が固定されてしまったり偏見を持ったりして、素直な作品評価の妨げとなるということもまたあるだろうが。
エピソードはどれも興味をひかれるものばかりだが、「群像」発刊当初の事情がとりわけ印象深かった。「群像」は講談社の雑誌だが、戦争中に体制寄りだった出版社として、戦後作家の中には執筆を拒否する者が少なくなかったというのだ。戦争中の強権的な言論弾圧と、その反動ともいえるであろう終戦直後の自由開放感(および左翼的風潮の流行)をよくあらわしていると思うと同時に、いまや天下の大出版社である講談社にもこうした社会的反発を受けた時期があったのだなと、ちょっと意外な感じもした。また、大衆読み物を主として取り扱い、純文学には不案内な出版社らしく、当初は「赤字続きの文芸誌などさっさと廃刊にしてしまえ」といった意見も多かったというあたりも面白い。文芸誌なんてものは昔から売れないものと相場は決まっているのだな、別に最近の若者が小説読まなくなったせいじゃないんだ、などと思ったりして。また、この大久保という著者の、編集者として一本筋が通った姿勢が随所に感じられるのもいい。
いい本だと思う。小説を愛する全ての人にお勧めしたい。
さよならの次にくる 卒業式編
2009/07/15 11:59
ライトノベル・ミステリ風味
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
創元推理文庫から出てはいるものの、ミステリとしては非常に薄味。謎の設定も謎解きも、やたらあっさりしていて非常に物足りない。ジャンル分けするとすればむしろライトノベルであり、ミステリはあくまで風味づけとしてパラパラとふりかけてある程度、と理解して読んだ方が間違いがないと思われる。鮎川賞出身だから、と、下手に本格を期待して読み始めると、失望を味わうことになるので要注意である。
ミステリのジャンルとしては、日常の謎になるのだろう、たぶん。殺人や誘拐などといった派手な事件が起こるわけではなく、扱われるのは日常生活の中で起こりうるささやかな謎。ただ、それがあまりにもささやかすぎる。北村薫・加納朋子・倉知淳・光原百合…と、このジャンルには名作・傑作があるわけだが、それらに比べると、これではあまりに小粒すぎるだろうという気がする。4つの短編が収録されているのだが、それぞれの事件にしてからが読者の興味を引き付けるには魅力に欠けるし、探偵が謎を解き明かすロジックにしてもまた同じことが言える。要するに演出の手際の問題だと思う。謎自体は平凡なものであっても別にかまわない。それをどのように読者に提示するかというのが作者の腕の見せどころであり、同じような題材であっても、作家によって面白くなる場合もあるし、逆に「どうしてこうなるのか」と思ってしまうほどにつまらなくなってしまうこともあるのは、小説をある程度読み慣れた人間であれば実体験として分かってもらえると思う。この作品でも、作者の工夫の仕方いかんによっては、充分魅力的に仕上げることが可能だったのではないかと思えるだけに、ちょっとこの出来は残念である。
ライトノベルとして見れば、出来は悪くないのではないかと思う。よくできている、とより積極的に言えないのは、どうも私にはラノベ云々に関しては評価する資格がないのではないかと思うからである。読んでいて、自分はこの作品の読者の範囲から外れているという感じがぬぐえなかった。私の年齢が十代、せめて二十代だったなら、また違った評価になっていただろうと思う。登場人物がほとんど高校生で、舞台となるのがその日常生活、といったような作品を素直に感じ取るのには、30代半ばという年齢はいささか不釣り合いのようだ。こういう年齢のギャップは最近とみに感じているところで(例えば漫画などでも、少年向け・少女向けの多くはもはや私にとっては食指の動かないものとなっている)、年はとりたくないものだと思う。高校生の恋愛遊戯などどうぞ勝手にやっていておくれ、と感じてしまったりするのである。若い人向けの小説すべてが理解不能ということではなく、例えば涼宮ハルヒシリーズや米澤穂信の諸作などは楽しめたりするのだから、感性が完全に鈍ってしまったわけではないと思うが、どうもこの作品に関しては居心地の悪さを否定できなかった。純文学の青春小説っぽい、と思ったりして、割と好意的な印象を抱いたりしたのだが、おそらく作者がターゲットと想定しているであろう学生諸君はどんなふうに感じるのだろう。
ともかくも中途半端、いまだ発展途上、というのがまあ全体的な感想だろうか。ラノベとしてもミステリとしても及第点にはもうちょっと届かない、という感じ。今後の成長に期待、といったところだが、さてこの作者は今後どのように伸びていけばいいのだろうか。余計なことと知りつつ考えてみると、次の3つのパターンが浮かんでくる。
(1) ミステリ部分は捨て去って、ラノベ作家に特化する
(2) ミステリ作家として精進する
(3) 思い切って純文学方面に進む
意外とどれを選んでもよさそうな気がする。割と才能豊かな人だと思うので。
(1)に関しては、これは間違いなく有効である。今作から判断する限り、ミステリとしてはあまり評価できない、むしろミステリ部分が邪魔になってるんじゃないかとすら思えたりするので、いっぺんミステリのことは頭から追い払って、純粋に明朗青春小説を書いてみても面白いと思う。けっこう面白いものが書けるんじゃないかな。
(2)、こっち方面も悪くない。青春小説としての骨格はしっかりしているので、ミステリとしての見せ方、伏線の張り方や話の展開の仕方なんかを工夫すれば、将来有望なのではないか。個人的には青春ミステリは大好きなので、頑張ってほしい。
(3)も、意外にいけるんじゃないか。私が今までに読んだ純文学の青春小説と似通ったような雰囲気を感じたもので。島田雅彦とか村上春樹とか。どういったテーマをどのように描いていくかという問題意識を明確に持つことがまず必要だろうが、ひょっとしたら次世代の村上春樹になれるかもしれない。
…といったようなことを、無責任に想像してみたりした。私個人としては、できればミステリ方面に進んでほしい。若い青春ミステリ作家というのは貴重である。現在のままでは正直勉強不足という感じが否めないが、まだデビュー間もないことではあるし、努力次第である。米澤穂信に伍する存在を目指して精進してほしい。
8月に出るらしい続巻を購入するかどうかは、現在検討中…。
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