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  3. ジーナフウガさんのレビュー一覧

ジーナフウガさんのレビュー一覧

投稿者:ジーナフウガ

119 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本第2図書係補佐

2011/12/07 18:21

一風変わった味な本

38人中、35人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

飛び切り面白かった!芸人きっての読書家で、今までに読んだ本は約4000冊という
ピース又吉直樹さんが記した書評でも、感想文でもない、読書体験文的な感覚で読める本。

序文からして又吉さん有り得ない程謙虚です。あまりに素敵な姿勢表明なので、少し長いけど、
抜き書きしますね。『僕の役割は本の解説や批評ではありません。僕にそんな能力はありません。

心血注いで書かれた作家様や、その作品に対して命を懸け心中覚悟で批評する書評家の皆様にも
失礼だと思います。だから、僕は自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました。

本を読んだから思い出せたこと。本を読んだから思い付いたこと。本を読んだから救われたこと。
もう何年も本に助けられてばかりの僕ですが、本書で紹介させていただいた本に皆様が興味を持って

いただけたら幸いです。』文学に体当たりして、体内を通過し残った日常感覚を、
又吉さんは一見淡々としながら実は自分の魂の何処に響いたかを書き続けます。

本から派生した思い出は例えば、思春期にネタ帳とは別に、絶対に誰にも見せられない、
やり場のない暗い感情を書きなぐるノートを付けていた事。なかなか日の目を見る機会に恵まれなかった、

そのノートに書かれた言葉達。それでも、書く行為は続けていた。そんな時に尾崎放哉の自由律俳句に
出会った又吉さんの感動っぷりが濃密だ。『あった、あったと思った。あいつらの居場所あったぞと思った。』

この一冊の本との出会いに人生を揺さぶられ救われた体験、読書への感謝の念の深さに読み手であるこちらも、
気付けば大いに震えているのでした。又、他にも。

又吉さんは敬愛する太宰治から受ける小説の楽しみ方の一つとして、
『僕が文学に求める重要な要素の一つが、普段から漠然と感じてはいるが複雑過ぎて言葉に出来なかったり、

細か過ぎて把握しきれなかったり、スケールが大き過ぎて捉えきれないような感覚が的確な言葉に変えて
抽出されることである。そのような発見の文章を読むと、

感情の媒体として進化してきた言葉が本来の役割を存分に発揮できていることに感動する。
多くの人が、自分との共通点を太宰文学に見出だすのも太宰がその感覚に長けているからだろう。』

まさしく慧眼だと思いました。太宰が好きだからこそ、太宰と自分との正確な距離を体感した
読みっぷりができるのだろうな、と。まだまだ、この他にも様々なエピソードが掲載されていて、

文章一編読むごとに、読みたい小説が増えていく、そんな魅惑のエッセー集です。
是非ともあなたに読んで頂きたいなぁ!!

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紙の本

紙の本夜市

2010/01/03 18:44

人外の世界の理に触れる本

17人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今宵は夜市が開かれる。そんな惹句に誘われて、夜の闇広がる森の中、
一歩足を踏み入れたなら、そこは、人外の者共蠢く、もう1つの世界だった。

欲しい物が何だって手に入る、代わりに何かを買うまでは絶対に元の世界には帰れない。
それが夜市のルール。幼い頃、偶然にも夜市に紛れ込んでしまった祐司が、

大学生となった現在必死になって買おうと探している物とは一体何なのか?
それに、幼かった彼は、どのようにして、買い物を成立させ夜市から元の世界へと帰還出来たのか?

この美しくも儚い物語には、欲望が生み出す残酷な悲劇と、それ故に欲望や煩悩を統制し、
自分自身の力で希望の道を選択、獲得していく事がどれほど尊い事なのかが教えとして説かれている。

ホラーと言うよりは、むしろ説話や怪談話としての色合いが強く印象として残った。
特にラストは全く予想外の展開で、それだけに切ない程に透き通っており、胸に物語の余韻が残った。

眼前に闇の中仄かに夜市が浮かび上がって来る情景描写力にも、唸らせられた。
人間界とは別の理で、確かに存在している異世界を描いている併録作品、【風の古道】も良かった。

七歳の春、花見に行った公園で、迷子になってしまった私は、親切そうなおばさんから、
家までの帰り道を教わる。「夜になったらお化けが出る道だし、寄り道しないで行くんだよ。」

と告げられたその道は、未舗装の田舎道で、一風変わっていた。道の両脇に家が並んでいるのだが、
どの家々も一軒残らず、この未舗装道に玄関を向けていないのだ。それどころか、

電信柱も、郵便ポストもないし、駐車場もなかったのだ。この時味わった秘密体験は、
自分だけの秘密として守らなくてはならない、もしも守らなければ多分…?本能的な直感として、

「道」について他人に口外するときっと、良くない事が起こるだろう。
そんな理由で記憶の外に置いていたタブー、けれども十二歳の夏休みに親友と心霊話になり、

うっかり口を滑らせてしまう。当然、友達は、「そんな道が本当にあるなら連れて行けよ!」そそのかす。
こうして私と友人のカズキは、私が最初に件の道から抜け出た所に行き、

反対側の出口から引き返そうと計画するのだが…。歩いても歩いても、それらしい場所には着けない。
弱り果てていた二人の前に、謎の青年レンが現れる。異世界には異世界の理が有り、

嘗て存在した入口は既に閉鎖された後との事だ。更に困り果てる二人は、一か八か、
この放浪を続ける青年と異界を旅することに決める。その過程で次第、

次第に明らかになっていくレンの事情。どうしてお化けでなく、妖怪でもない、
生身の人間であるレンは異界から外の人間界に出て行けないのか?

永久放浪者として彷徨い続ける運命にあるのは何故なのか?
理由の一つずつが、とてもしっかり描かれていて、この世と別に存在する世界のルールに

美しい説得力を持たせるのに成功している。特にラストへと至る展開が、
両作品ともに素晴らしく美しいので、是非、どっぷり物語世界に浸かって下さいませ!!

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紙の本

紙の本大河の一滴

2011/04/20 23:11

今と言う時代の正体を知るために必要なメッセージ

15人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

こんなにも素晴らしい本を読む機会に恵まれた事に感謝致します。

実際、読んでいる最中は五木さんの肉声が刻まれた活字に、素直に自分の心を向き合わせました。
言うなれば作者である五木さんの魂と、読み手としてのこちらの魂を対話させて読むのが、

この本に似合う読み方だと思います。これ程実直で愚直なまでに正直な内容が綴られた本を僕は知りません。
例えば人々はよく『こんな時代だから』と口にしますが、果たしてそれはどんな時代なんでしょうか?

五木さんはそこの部分を決して見過ごしたりなおざりにしたりしません。
『私たちは〈心の内戦〉というもののまっただなかにいるのではないか、
ということを平和のなかでふっと一度ぐらいは考えてみる必要がありそうな気がしてなりません。』

と述べます。そして自殺者や、自殺者予備軍まで含めて考えて、
現代人が如何に生命の危機に瀕しているかとズバリ!直言するのです。

これらの言葉には心底震えを覚えました。それから行き過ぎたプラス思考に対しての例として
『子供から殴られつづけて、カウンセラーから「とにかく耐えて我慢しろ。それも愛情だ」
と言われ涙をながしながらそれに耐えていた父親が結局、金属バットで息子を殴り殺してしまうという事件が
先ごろありました。この父親に対して息子の暴力をプラス思考で考えろと言えるでしょうか。
それはふつうではできないと思います。』との例を挙げます。

この二つの事案の提示に対する返答として、マイナスや絶望の中から人生を生きなおし、
どん底からプラスや希望を見つけよう、今こそ人間は大河の一滴として謙虚に生きるべきではないのか?

と読者に呼び掛けてくる五木さん。呼び声は確かに届きました。
僕も僕なりに生きて生きたいと思います!どうぞあなたも手に取って、

この本からのメッセージに耳を傾けてみませんか?

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紙の本

紙の本氷菓

2010/08/22 16:12

タイトルに隠された、真意に触れて震えて下さい!

17人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

冒頭の設定からして、とても面白く引き込まれる物を感じた。
何せ『やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に、だ』が、

主人公・折木奉太郎のモットー。そんな彼が(何故だかインドのベナレスに滞在中の)
姉からの手紙での指令で、とは言え成りゆきで、潰れかけた古典部を救済すべく入部する。

ここから古典部活動を巡り物語は展開する。
『部員がお前独りならば、学校内にお前だけのプライベート・空間を確保出来るって訳だ。』

そんな風に仇敵・福部里志に唆され訪れた部室、地学講義室には先客として、
不思議な雰囲気を醸し出している少女、千反田えるが居た。

千反田との初対面の挨拶を終え帰ろうとした奉太郎。その時千反田が言う
『どなたかはいらっしゃるものと思っていましたから、鍵を用意してこなかったんです』

更に、奉太郎が来た時、鍵は閉まっていた。ので、当然、
先に来ていた千反田が鍵を持っているものと考えた。けれど千反田は自分は閉じ込められていたと主張。

果たして、これは一体どういう事なのだろうか!?
【伝統ある古典部の再生】千反田を部長に据えて新入生三名による新生古典部が始動する。

のだが、古典部とは一体全体どの様な活動をするものなのだろうか?
それを知る為の手懸かりとして部の活動内容をまとめた文集の存在が重要になるはずだと訪れた図書室。

そこで奉太郎逹は、毎週金曜日の昼休みに貸し出され、
放課後には必ず返却されるという一冊の本があることを教えられる。

それは読むには余りに分厚い、『神山高校五十年の歩み』。
そんな分厚い本に短時間限定で毎週借り手が付くなんて、どういう理由があっての事なんだろうか?

【名誉ある古典部の活動】ある日曜日、千反田に呼び出された奉太郎。彼女は告白する
『古典部に入部をしなくてはならなかった一身上の理由』を。

行方不明になって七年目、今年で死亡したことにされてしまう、
伯父との思い出の中に『古典部』という単語があることの意味、理由を、

何とか思い出させてはくれないかと奉太郎に依頼する千反田。
『自分がしなくてもいいことはしないのだ。だったら、他人がしなければいけないことを手伝うのは、

少しもおかしくはないんじゃないか?』と葛藤しながらも引き受ける奉太郎。
【事情ある古典部の末裔】冒頭の奉太郎への手紙ではインドのベナレスにいたはずの奉太郎の姉、

折木供恵が、今度はトルコのイスタンブールから手紙を寄越した。
その手紙にはなんと!古典部文集のバックナンバーの在処が記されていた。

筈なのだが、保管場所として使用されていた薬品金庫は、昨年度の部室交代により、
現在は壁新聞部の部室の敷地内へと替わっていた。早速、壁新聞部に交渉に向かう奉太郎逹。

だが思惑は外れ、壁新聞部の部長は、そこにある筈の薬品金庫などないと言うのだ。
文集は何処へと消え去ったと言うのか?奉太郎逹古典部員は如何なる方法で文集を入手するのだろうか?

【由緒ある古典部の封印】文集を入手する事に成功した奉太郎たち。
文集の名前は『氷菓』その創刊第二号には三十三年前、

千反田の伯父が何らかの事件に巻き込まれたらしき様子が記されていた…。
早速数少ない手掛かりを基に真実の究明に乗り出す古典部員。

【栄光ある古典部の昔日】文集『氷菓』に書かれている千反田の伯父、
関谷純の物語は決して英雄譚なんかでは無いものだった。最終的に明らかにされる

『氷菓』に込められた真意とは?周囲の高校生活を『薔薇色』だが浪費の多い物として、
自身は『灰色』の日々を甘んじて送ろうとしている主人公奉太郎が、

日常に潜む謎を解き続ける内、次第、次第に活動的な思考を取るようになっていくのが面白い。
他にも、随所に的確にユーモア一杯の表現がなされているのも、

シリアスとコミカルのバランスが取れていて良かったと思う。
この本が読めて良かった。そう感じさせる読後感の爽やかさも抜群です。オススメ致します!!

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紙の本

少年の中には獅子の魂が眠っている。

11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この新作も素晴らしい作品だな、そう素直に思えた。主人公は桐山零(れい)、プロ棋士。
史上五人目となる中学生でのプロ化を果たした彼は高校一年生。

ガランとしたマンションの一室に一人暮らしている。冒頭シーン。謎めいた夢から目覚める零。
膝を抱え、体を折り畳んで眠る姿は、まるで手負いの獣でもあるかのような、気高さと孤独とを匂わせる。

彼の過去に一体何があったのか?夢の続きの様な、何処かしらが欠落した赴きのまま対局に向かう零。
対戦相手も零と深い関係性がありそうなのに、互いに歪んだ空気を放っている。そんな零を優しく、

暖かく見守るのが、あかりを初めとする三姉妹だ。彼女達も母親を亡くしているらしく、
長女のあかりは昼は家業の手伝いをしながら、夜は叔母がしている銀座のクラブのホステスをしながら、

妹達を育てている。そんなあかりが、銀座の街の宵闇に、(先輩棋士たちから)見捨てられ、
置き去りにされた零を見つけ、零の自宅とは、橋を挟んで隣町の、自分の家に連れて帰ったのが、

あかりの妹達、中学生のひな、幼稚園児のももとの運命的出会いになった。
そんな訳で対局から解放された直後だと言うのに、晩御飯のカレーライスに添える福神漬けを買って来て!と

有無を言わせぬ勢いで頼み込まれても、苦笑しながらも満更でもない様だ。
下町の人情味あるドタバタを描ける筆捌きこそ、作者・羽海野チカさんの力量であるように思う。

他にも脇役一人をとっても、決して手を抜かないから、零の高校の先生の林田先生と
零との間の細やかな秘密(彼がプロ棋士であることを口外しない)ある関係性が際立つのだと思う。

普通の、ごく普通の、目立たない高校生として過ごしたいと願う零の言動には、ズシッっとした重みがある。
棋士仲間との関係性も微笑ましい。桐山零の永遠の宿敵と豪語し、強引に零の親友だと名乗る二階堂晴信。

豪快で、笑えるキャラクターの反面、身体にハンデを抱える繊細さ、
それを勝負への強い執着心へと向上させている所は流石だ。彼のエピソードに、

丸一話分割かれているのも良く分かる気がした。どのエピソードも、抜群に良いのだけれど、
中でも中学生のひなが、零と歩いた夜道、痩せぎすの彼に

『おねいちゃんはガリガリの子を見つけるとほっとけないの。でフクフクにするのが好きなの』
『でも大丈夫きっとおねいちゃんがすぐにフクフクにしてくれるよ』ってシーンは、

この漫画の奥深い温もりを象徴しているようで、強く印象に残りました。
一巻の最後辺りから明らかになる零の過去の傷み。物語がどんなに流れても最終的には、

『みんながフクフクになる』そう願いたくなる、極上のストーリーです。オススメします!

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紙の本

紙の本ワーキング・ホリデー

2011/11/02 20:43

笑って泣ける一冊!

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

笑いあり、涙ありで大いに読み応えがある一冊でした。素晴らしいので心から、オススメしたいと思います。
イケメンなのに、元ヤンなせいか、短気で口が悪い人柄が祟ってパッとしないホストのヤマト。

そんな彼の目の前に突如現れたのが、進と名乗る小学五年生。『初めましてお父さん。』
心当たりがある様な、ない様なヤマトは進を質問攻めに。で突き止めた進の母親は、

ヤマトの過去の唯一の弱点とも呼べる人。これで進が我が子に間違いないと確信していると、
更に息子は『夏休みの間にお父さんが善い人か、悪い人かを、自分なりに調べる!』等と

飛んでもない宣言をするのです。が、二人暮らしを始めた翌日ヤマトがホストを
クビになる大失態をしでかします。ここで捨てる神あらば拾う神もありで。

ホストクラブオーナーでヤマトを一から育てたジャスミンが(オカマ)が、ホストのヤマトでなく、
本名の沖田大和として昼の世界に生きて行きなさい。と、新たな仕事、

宅配のハチさん便への転職を手配してくれるのですが、この場面の描写は、とても温かく、
ジーンと胸が熱くなりました。さて、 沖田大和の転職先はと言うと。

宅配便の新規参入会社『ハチさん便』のセールスドライバー。
リヤカーを大和アレンジでカスタマイズして晴れの日も、土砂降りの日も、

荷物を届けに精一杯勤めます。そんな父に最初は反発を覚えていた優等生の進
(学校でのあだ名は、なんと『おかあさん』)ですが、大和の大雨の日でも、

なりふり構わないカッコ良さを見て、夏休みの間に、父から【モテモテの極意を教わる】
男塾への入塾を決意したりで、案外凸凹親子でだけど馬があうんだなあと思いました。

夏の間限定だと分かってるからこその特別な親子の絆はこんなところにも。
『他愛のない会話。部屋中に漂う煮物の匂い。そして何より、「おかえりなさい」という台詞。

自分以外の誰かがいる生活も、捨てたもんじゃない。俺はそんなことを考えながら、安らかな眠りにつく。』
この何気ないけど、ずしりとした生活の実感を描ける上手さが坂木司さんの味だと思います。

ラスト二人に訪れる否応ない別れ。不覚にも涙してしまいました。
本当にハートウォーミングな本なので是非読まれてみて下さいね。

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紙の本

紙の本むかしのはなし

2011/02/24 22:13

古くて新しい三浦しをん流、昔話の誕生です。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

限りなく壮大な試みに挑戦した作品集である。昔話を現代社会に採り入れて作品を展開させたら、
語り手や聴き手は果たしてどの様な存在になるのが相応しいかというテーマに真正面から取り組んでいる。

決して安易なパロディーに走らず、今の社会の取り立てて大きくはない日常から非日常性が立ち上がるのを
目を凝らして観察した結果が、収録されている七つの中・短編小説として昇華されているのではないかと思う。

冒頭に記された言葉も頁を捲るに連れ、加速度的に印象が強くなる。ここに引用したい。
『わたしを記憶するひとはだれもいない。わたし自身さえ、わたしのことを忘れてしまった。

胸のうちに、語り伝えよという声のみが響く。これはたぶん、思い出のようなもの。
あとはただ、ゆっくりと忘れ去られていくだけの。』

現在が過去に、それより遥かに時が経ち、風化して、我々現代人も
『むかしむかし』と語られるような日が来るのだろうか?想像してみると、

なんだかじんわり楽しいではないか…。改めて、書き手としての三浦しをんさんの手腕には脱帽する。
更に中盤に収録されている【入江は緑】から、当初は一つ、一つの小説が個別に独立しているかの様に

思わせられていた、作品同士が、実は微妙な相互関係の下繋がっていた事に気付かされ、とても驚いた!
『地球は三ヶ月後に衝突する隕石によって滅亡する。だから木星までロケットに乗って脱出する人類を、

都合、一千万人抽選する。当選者番号は随時ニュースで発表される。』特にヤラレタ!と
思ったのは冴えない空き巣が刑事相手の調書に応えているだけだと思っていた、【ロケットの思い出】と、

【たどりつくまで】に登場する、怪しげなタクシーの乗客との接点に気付いた瞬間だ。
これ以上いうとネタバレになるから言わないが、この伏線の回収以外にも様々な仕掛けが用意されているので

是非とも探される事をオススメする。それにしても。一千万人を木星に運ぶのには何回ロケットを
飛ばさなくちゃいけないのだろう?なんて事を本編中唯一の中編

【懐かしき川べりの町の物語せよ】を読みながら思った。作中の主人公で伝説の不良モモちゃんは、
あっさりとロケットに乗ろうとするあがきは捨て『死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか』と

滅亡する運命に従ったのだ。だが。モモちゃんとの、ある夏の日は語り手が居る以上、
永遠の物語りとして聴き手に受け継がれてゆく。三浦しをん作の、傑作昔話の誕生だ。

小さな頃、【桃太郎】や【浦島太郎】を語り聴かされた時の様な胸のときめきを持って読んでもらいたい。
最良の読書時間をお約束致します。

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紙の本

紙の本風が強く吹いている

2010/12/22 18:09

『速さ』ではない『強さ』とは?

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この作品の前評判として、大学陸上の花形競技である『箱根駅伝』に陸上未経験者も込みで、
たった10人で挑戦すると言う、大まかな粗筋を聞いて、『果してどのようなメンバーが集まるのが?』

非常に興味深く思った。こんな、突拍子もない計画を立てたリーダーは四年の清瀬灰二(ハイジ)。
運命はハイジが偶然、万引き犯として走って来た走(かける)の天才的走力を目撃した事から始まる。

ハイジは自転車で走と並走し、自らの住むアパート、竹青荘(通称アオタケ)へと連れていく。
ハイジと走を含めアオタケの部屋数は九室、住人は全部で十名。駅伝を走るのに必要なギリギリのメンバーだ。

まずは城太郎と、城次郎の双子。縮めてジョータとジョージ。彼らがルームシェアをしてくれたお陰で、
駅伝に必要な頭数が揃ったことになる。火事と間違えられる程のニコチン中毒者が、ニコチャン先輩。

四年のハイジよりも上級生だったはずが、いつの間にか、下の学年になってしまったらしい。
その向かいの部屋に住んでいるのが三年の時点で既に司法試験に合格済みのユキ。

そして、自己鍛練を理由に風呂場の電気を消し入浴するのが、黒人留学生ムサ。
それから、クイズ番組を偏愛する様を揶揄して命名されたキング。キングと行動を共にするのが、

郷里の山奥で『神童』と呼ばれていたらしい神童。変わり者が揃ったアオタケの中でも、
極めつけに変人なのが、自室にうず高く積み上げた漫画の本と共に寝起きし、

走が越してきてから二週間たっても走の存在に気付かないで居た、通称『王子』。
ハイジは、住人全ての前で高らかに、『この十名で箱根駅伝に出場してみせる!』と宣言する。

驚愕するメンバーたちをよそ目に、あの手この手を使い分け、結局メンバー全員から
出場に向けての約束手形を取りつけてみせるのだから凄い!何より、この強烈な魅力を有した十名の存在感が、

圧倒的にリアルであるからこそ、気付けば読み手は、この破天荒とも言える筋書を、
手に汗握って応援する事が出来るのではないかと思う。そう、何よりメンバーの個人差

(走ることがいやでいやでたまらないらしい王子。)等のディテールが念入りに描かれているので、
自然と一人ずつ、メンバーへの愛着が沸くのだ。とは言え、箱根駅伝までの道程は長くて険しい。

何せ、ハイジと走以外は素人達の集まりなのだから。走は最初の記録会で高校時代のチームメイトから
『せいぜい仲良くかけっこしてろよ』と罵声を浴びせられたり、箱根駅伝三連覇中の大学のエース

(ハイジの過去を知っていそう)の走りに、王者の貫禄を見せ付けられたりで、自分の走りを見失ってしまう。
結果として、走の中にある鬱屈した速さのみを求める思いは苛立ちとなって、

アオタケの面々との喧嘩騒ぎを巻き起こす有り様だ。騒ぎの後、走はハイジから、
俺たちは、『強い』と称されることを誉れにして、毎日走るんだ。

と走者としてのターニング・ポイントとなる考え方を教えられる。
そしてチーム・アオタケは結束力を増し、夏を越えて駆けて行く。

このチームの伸び方は見ていて実に清々しい。箱根に向け、駅伝に向けて、
一致団結していく情熱に一点の濁りもないからだ。そして、遂に箱根駅伝本番の日を迎える。

十人で作りあげる巨大なレース、走たち十人のランナーは、どのようなレースを見せてくれるだろうか?
駅伝を走るランナーそれぞれの、息づかいや、各人の思惑等、

レースさながらの臨場感をタップリと味わって下さいませ!
正月の箱根駅伝に興味が出ることうけあいです!!

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紙の本

紙の本村田エフェンディ滞土録

2011/04/07 21:42

人間や歴史について深く考えさせられる傑作!

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

非常に感動した!読後暫く、余韻で胸が一杯になった。良質な映画のように穏やかに物語は幕を開ける。
冒頭の一文目から、ピタリと決まった文章に、たちまち作品世界の虜、住人になった感じすら覚えた。

舞台になっているのは一八九九年(明治三十二年)のトルコ(土耳古)の大都市スタンブール。
主人公の名は村田。トルコに良くある名前であるムラートと類似した響きの名前が縁で

トルコ王室より招聘されたエフェンディ、日本語で言うところの先生である。
彼の下宿先は、英国人のディクソン婦人が営んでおり、同宿の学者に、ドイツ(独逸)人の考古学者オットー。

ギリシャ(希臘)人、発掘物調査員ディミトリス。それに忘れちゃならない隠し味的役割を果たすのが
トルコ人召し使いのムハンマド。更に、ムハンマドが拾って来て、物語の随所で的確な言葉を発し、

実は絶妙なる伏線を張っている鸚鵡まで。と、賑々しく村田のトルコ滞在の日々は過ぎゆくのである。
明治維新から西洋列強の力に脅かされて来た、帝国日本の若者が、人類と歴史の交差点であると呼んでも

過言ではないトルコに住み暮らした事が、小説の枠を超え、まるで実在した青年の手記の様に、
ありありと綴られていくのに圧倒的なリアリティーを覚えずにはいられなかった。

語られるエピソードも前半は学術的で、村田がオットーの発掘現場に連れられて行って、
大興奮する発見をしたり。下宿の住人達がそれぞれに異なる神を信奉しているにも関わらず、

お互いの宗教を尊重し、古代において神とは如何なる役割を果たしていたのかを語り合ったりしている。
所が、後半部分に差し掛かると、世界情勢が、歴史が、

エフェンディたちの運命を否応なしに変化させていくのである。
特に印象的だった言葉がディミトリスの発した『私は人間だ。

およそ人間に関わることで私に無縁な事は一つもない……』上手くは言えないが、
このディミトリスの発言こそが本作品の質に遥かに高い要素を与えているようで、

後半は度々考えさせられながら読み進んだ。十四章から十八章の怒濤の展開があったからこそ、
最後の最期のシーンが強く胸を打つのだと思う。

余談だが、この本は著者・梨木さんの『家守奇譚』と前後をなす作品になっている。
是非とも『家守奇譚』をも味わって、人間の尊厳を訴えた名作群に浸って欲しい。

心の底から震えが起きた素晴らしい小説です。推薦致します!!

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紙の本

紙の本八日目の蟬

2009/12/04 08:23

七日目と八日目を結ぶ特別な時間、生き方が描かれています。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

0章、1章、2章で、構成されている。とにかく、この0章が持つ、切なさに胸を打たれた。
冒頭からして、『ドアノブをつかむ。氷を握ったように冷たい。

その冷たさが、もう後戻りできないと告げているみたいに思えた。』と、こうだ。
「何か分からないけれど、物凄い展開が迫ってくるぞ!」という緊張感を、自然、読み手に、

もたらすではないか!?しかも、この0章に、過去は主人公・希和子の記憶の中にしかないので、
果たして何故、彼女は『がらんどう』と罵られるまでになったか?

理由は、こちらが、推測で補うより他は無い。希和子に平気で酷い言葉を投げつける事の
出来る夫婦は、しかし、電熱ストーブ点けっぱなしの部屋に鍵も掛けず、

その中に我が娘を放ったらかしのまま、平然と出掛けて行く。
どう贔屓目にみてもロクな大人だとは思えない。この人達を的確に描写しているからこそ、

不法侵入という立派な犯罪行為を犯している希和子に、さしたる反発も覚えず、
スーッと彼女の心情や葛藤と、同調出来るまでになっていくのではないかと感じ、

角田光代さんの巧さに舌を巻いた!特に、希和子が、赤ん坊を目の前にしてからの、
内的変化、芽生え始める『絶対的な母性愛』この2点を鬼気迫る筆致で浮かび上がらせ、

圧倒的なリアリティーを持たせるのに成功している。背中に寒気が走りました!!
そして第1章、赤子を連れての逃亡劇が始まる訳ですが…。

母親になるべく、自分が子供を授かったら、男としても女としても、
通じる名前として、名付けようと考えていた『薫』と命名し、許されざる母と娘、

2人は日々を生き抜きます。この0章にせよ、1章にせよ、生き抜く為とは言え、根底に、
嘘や秘密などと呼ばれる負の感情に、加えて悲しい気配や違和感が漂います。

最初に希和子が身を寄せる友人宅でも、『康枝は、やさしくて正しい環境にいつだっているから、
やさしくて正しいんだと思った。』表面上、普通に接している、内面では、

自分が世間との間に覚えているズレや違和感は常に希和子の傍に在ります。
ズレが沸点に達する度、居場所を変え、必死に逃げよう、逃げ延びようとする希和子。

時には、宗教施設にも身を隠します。その度毎に、余計に『薫』に向ける愛情は色濃く、
切なさを増します。すくすくと育って行く薫との、母娘としての1日1日。絆は強く深まります。

読み進める内に、『あぁ、もう良いじゃないか!このまま無事に過ごさせてやれたらよいのに。』
祈りにも似た思いを感じてしまいました。

けれど、やっとの事で違和感が薄まりつつあった暮らしにも終焉の時が…。
何気ない日常の、文字通り何気ないひとこまがきっかけ。逮捕の場面では溜め息が零れました。

2章『薫』から、本名に戻った少女からの視点で物語の謎は少しずつ、少しずつ、
まるで霧が晴れていく時の速度で明らかにされていきます。憎しみも愛情も、全てが、

日の光に照らされ、ゆっくりと溶けていく。
最後の最期、ずっと長い歳月『薫』が忘れていた希和子との別れの(逮捕)の瞬間を

思い出すシーンには涙が出ました。だからと言って、この物語を『産みの親より育ての親』や
『血よりも濃い絆がある』って単純に容認する気はないです。

が、この小説には、『どうすれば自分の力で本物の愛を手に出来るか』記されていると思います。
ご一読の程、お薦め致します。

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紙の本

紙の本まほろ駅前多田便利軒

2010/10/17 22:01

凸凹コンビ、大忙し!

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

凸凹コンビの活躍する作品は面白い!何故なら彼らの発する摩擦熱から人間の匂いがするからだ。
この作品もそうだった。神奈川県に間違われる東京の外れまほろ市が舞台。主役の多田はタイトル通り、

まほろの駅前で便利屋を営んでいる。舞い込んでくる依頼は様々で、正月に、
自宅前を走っているバスが運行表通りに、間引き運転をせず走っているかを延々見張らされたりもする。

そんな仕事を終わらせたある日の事、多田はバス停で不思議な男と再会を果たす。
男の名前は行天、高校時代は、とにかく言葉を発さないのを周囲に不気味がられてた奴。

もちろん多田と行天は友達なんかじゃなかったけれど、多田は行天が不慮の事故で
小指を切断する傷を負うハメになった時に初めて口にした『痛い』と言う言葉が忘れられないでいた。

幸い指は元通りに縫合されたのだけど…。久しぶりに会った行天は実に口数が多く、
厚かましさまでをも身に付けた、冴えない中年男となっていた。かくして訳在り

中年・凸凹コンビ便利屋稼業がスタートする、のだけれど。依頼主から塾からの迎えを仰せつかった
小学生の少年は、危険なバイトに手を染めてるわ、そのせいで便利屋なのに私立探偵並みに

ヤバい橋を渡らざるを得なくなるわ、のっけからピンチを迎える目に遭うのだ。
おまけに行天は意外にも腕力で物事を片付ける武闘派タイプだったもので、事態は中々穏便に進みはしない。

だが、この行天という男には不思議な愛嬌があり、どこか憎めないのだ。
多田も行天の行状に散々振り回され愚痴をこぼしながらも、彼が依頼主に好かれたり、

案外と役に立つ部分もある事を知るにつけ、内心では行天を必要としている自分が居る事に気付く。
2人の微妙な距離感、互いにベタつく事なく、それでもパートナー関係を保持している所が好きだ。

便利屋の仕事は嫌でも各家庭の様子を覗き見る事になる。
人間模様に対する2人の接し方の違いに面白さを感じた。

そして物語が進むにつれて明らかになる多田と行天の過去の傷。
傷というものは個人の考え方や行動に深い影を落とす。不器用な2人だけに、傷の深さ、

影の長さを隠し持つ意味の大きさが印象的だった。物語を単なる痛快ストーリーから、
グレードアップさせるのに成功している点だと思う。それにしても作者である三浦しをんさんは、

心理描写だけでなく、人間の真実の思いにスポットライトを当てて、
物語世界にリアリティーを持たせるのが上手い。今回も存分に堪能した。

自分の育った家庭に悩んでいる人、秘密に苦しみ続けている人にこそ、
読んで欲しい充実した内容の一冊です!!

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紙の本

人生という名のスープ

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

食べ物の描写が真に迫っている作品に、駄作は少ないように思う。
何しろ「衣・食・住」という位なもんで、「食」は人の暮らしの真ん中に位置しているんだから。

その点、吉田さんの作品に出てくる料理の美味しそうなことと言ったら!
温かい湯気や匂いまで、伝わって来そうにリアルだし、

美味しい物を食べる時の幸せの実感がページから漂って来るのだ。
この幸せの実感が作品全体に行き届いているのは、吉田さんが丁寧に、丁寧に、それこそ、

スープの灰汁を掬う要領で、日々の暮らしから濁りを取り除ける腕の持ち主だからじゃないだろうかと思う。
物語の登場人物達が、皆、澄んだ心と明るく優しい精神の持ち主で、

人生を大いに楽しみながら毎日を過ごしているので、読んでいると、気持ちがスッキリ浄化されていくのだ。
大好きな映画館に「通いたいから」と言う訳で、わざわざ映画館のある月舟町の隣の町、

「桜川」に住み始めた、主人公のオーリィくんこと大里青年からして、なんとも悠然としているというか、
飄々としているというか…。読んでるこちらの胸にも、「ほっこり」とした時間が流れ始めるのだ。

オーリィくんの周囲の人たちの人物造詣が、これまた抜群に良い。
オーリィの名着け親、大屋さんという名前の大家さんは素敵なマダムだ。

彼女が発した「なかなか美味しいわよ」の一言がきっかけになって、物語の舞台となるサンドイッチ店、
「3」(トロワと読む、店名の由来は是非とも読んで確認されたい。

きっとアナタは微笑むだろう。)の描写が始まるのも粋な演出だ。
だって、このサンドイッチ、オーリィくんの人生観をも変える力のある逸品だったのだから!

人生観が変わる味って、一体どれ程の美味しさなんだろう?
自由に想像する面白さも、この本を魅力的にしている要素の1つだと思う。

話を戻して。世にも美味しいサンドイッチを作るトロワの店主が、不器用極まりない職人さんで、
常に、妥協のない仕事を己に課している点や、彼の唯一人の家族である息子が一見、

父親にはクールな素振りを見せている反面、誰よりも父親の不器用さを心配している点にも好印象を持った。
良い人間が良い味を醸し出すから、この本に綴られる様々な人生には、

幅と奥行きがあるのだろう。オーリィくんが足繁く通う、
<月舟シネマ>のポップコーン売り青年の孤軍奮闘振りしかり、緑色の帽子をかぶった謎の老婦人しかり。

さて、肝腎要のスープについてだが、読んでいて、一手間加える、と言うのは、
人が手間暇加えるという事なのだと、しみじみ思った。料理の最後の隠し味が真心だと、

結構頻繁に耳にするけれども、実際の所、その通りなようだ。それにしても、スープ美味しそうだなぁ…!!

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紙の本

料理が取り持つぶきっちょ夫婦の仲

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

時代小説が苦手な人にこそ読んで欲しい、胸がジンと熱くなる傑作です。

かつてテレビで人気を博した時代劇と同様、江戸の町に生きる人々の日々の暮らしが、
人情味たっぷりに描き出されて行きます。

主人公のぶは奉行所の役人、椙田(すぎた)正一郎の妻。
少女時代から密かに慕い続けていた人の所に嫁ぐ夢を叶えました。

さぞや、幸せな夫婦生活を過ごしているのだろう、と思いきや…。

正一郎は将来を約束した女性から、結婚直前で余りに手酷い裏切りを受けて以来、
女性を信じる事が出来なくなっていて。嫁の言動に絶えず難癖付けてばかり。

のぶは二度の流産から来る負い目があり、じっと耐えて居ます。しかし、ある日の晩飯の食卓。
偏食の激しい事を嫌った正一郎から、のぶは『ものを喰らうのがいやなら死ね』とまで罵られ、

その夜を境に夫婦間の溝は加速度的に深まって行くのです。

そんな嫁のぶを心底大切にし可愛がる舅の忠右衛門。
堅物の伜とは正反対で、江戸市中の裏も表も知り尽くした奉行所の生きる伝説。

食道楽で粋な忠右衛門が教える『食の喜び』に触れた事が
結果としてのぶに様々な変化をもたらしていく。

話の伏線として登場して来る食べ物が、実に色々な状況を生み出していくのも面白かったです。
特に、表題作にもなっている【安堵卵のふわふわ】。

病に倒れた忠右衛門の為、料理に取り掛かろうとした、
のぶの所に現れた夫、正一郎の無骨で居て優しい感じ。ぽつぽつと、本音を吐露しあう二人。

そんなやり取りの後不意に、食という行為の持つ真実に気づくのぶ。

そこまでの道のりが丁寧に描かれているので、その後の話で、
この不器用な夫婦が果たしてどうなってしまうのか気になり、夢中になって読み終えました。

奉行所の事件に思わぬ所で食べ物が関係して来たり、
ラスト付近で明かされる忠右衛門夫妻の伝説の謎があったり。

内容的にも、年末年始の時期に読むのに丁度良いと思います。
江戸の風情を存分に味わって下さいませ!!

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紙の本

紙の本釣り上げては 詩集

2009/12/01 07:30

日本語の大河に釣り糸垂れて、言葉や文字を釣り上げる。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アメリカ人学生、アーサー・ビナード青年が卒業製作時に出会った感じの世界に魅せられ、
1990年に来日。それからの日々を日本語での詩作にあてて、生活。

遂には2001年、中原中也賞を受賞するに至る。この詩集には、
詩人が日常の、ありとあらゆる場面で、日本語を獲得する様と、一つ、又、一つ、

体得した日本語を、詩へと昇華させる日々が、克明に記されている。
子どもの頃、釣り上げては、放流していたブラックバスにブルーギルが、日本でも放流された結果、

古来からの生き物を激減させてしまっている事実に、
新参もの(よそ者)としての自分を重ねている【放流】。

この詩など、特に、異邦人であるからこそ、書き得た日本語だと思う。
ユーモラスな詩の中に漂う著者の孤独が読み手にもヒリヒリ伝わって来る。

他にも、来日直後、近所中の人たちとしらみ潰しに話をして、
日々の言葉の糧をなんとか得ていた頃、詩人のアパート迄、勧誘にやって来たのが、

キリスト教系の新興宗教。断りたかったのだが、彼らの言う『無神論』という単語の意味が知りたくて、
ついつい説教に耳を貸してしまったというエピソードが印象的な【許したまえ】等など。

文字通り、詩人の体得した日本語で書かれた詩。
あぁ、こんな風に新鮮で分かりやすく伝わる詩もあるんだなぁ!!。

普段、詩を読まない人にこそ、オススメしたいです!

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紙の本

斬られた回数2万回、無私の境地で死を演じ続けた男の生き様

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

四百人からの大部屋俳優が在籍した東映映画の全盛期。
誰もが明日のスターを夢見ては鎬を削っていた時代に、他人の出世には、

目もくれず、ただ唯、田舎育ちで、世間知らずな自分が、
俳優なんかで居られることに感謝しつつ、日々を渡り切って来た男・福本清三。

無私・無欲・無名、と三拍子揃った福本さんの『役者バカ一代記』と呼ぶのがピッタリな本書。
聞き語りと言う形式の中で、自身の、裏方人生を、

ぼそぼそと話して行く時の余りに謙虚で腰の低い姿に学ばされる思いがしました。
自分は、大部屋俳優とは言っても、他の仲間のように、是が非でも俳優になって、

スターさんの仲間入りをしてやるんだ!等の明確な出発点を持たないし、付け届け等の、
世渡りが出来る様な、裕福な家庭に育った訳でもない。

けれども、『雑兵で傷だらけになっても平気な顔をしていたり、
忍者になって誰よりも先に駆け降りて失敗したり、暴れ馬に蹴られたかの如く

すっ飛んだりしているうちに、助監督たちに、だんだん「あいつは、なかなかおもしろいヤツだ」って
思われるようになってきたから不思議ですね。』と半ば照れ臭そうに述懐する福本さん。

必死にやる、だけれども、無欲で無我夢中になってやり切る!
これって、誰もが簡単に成し遂げられることではありませんよね!?。

それをサラリとやってのけ、更に、大部屋俳優の知恵として、
「自分の名前を売り込もうとしない。相手から聞かれるようになれ。」と断言出来るフクさん

(福本さんの通り名)。カッコいい人だなぁ……。こんなさりげなくカッコいい人ですから、
やっぱり何かしら周囲も放っては置けないんでしょうね。

新時代の殺陣用にとスタントマンの走りとしても駆り出されていて!!。
必要とされたら何でもやるし、仕事をとにかく楽しんで、工夫してやる!。

頭の下がる思いがします。本業(?)の斬られ役に関しても、自分に稽古を付けてくれた先輩に、
「斬り方はだいたいわかったんですが、斬られ方を教えて下さい」と聞いてしまった…。

すると、その先輩「あのな、フク。剣術にも居合術にも、斬り方はあっても斬られ方はないんや。
あくまで人を斬ることが目的やから、斬られる稽古があるわけないやろ。

お前だけの斬られ方があってええってことや」 と優しく諭してくれます。こんな風に、
出会う人にも恵まれ、以来、斬られ続けて幾星霜。

遂に『二万回斬られた男』の異名を持つ迄になるのですから、人間の運命って不思議です。
リハーサルと本番では気迫も形相も段違いだったというのが、

御大・市川歌右衛門さん演じる『旗本退屈男』負けず劣らず凄まじいのが、
大友柳太朗さん演じる『丹下左膳』。本番が始まると、血が煮えたぎるのか、

何もかも忘れて、遮二無二刀を振り回す始末…。本当に、顔の前を刀が通り過ぎ、間一髪、
命拾いしたり。スターの側も、斬られ役の側も、『如何に太刀回りを素晴らしい物にするか』に賭け、

息を合わせて行くのに、意気込みや粋な心を感じました。
しかし、活況を呈していた時代劇及び日本映画も、やがて娯楽の主役の座を、

テレビに奪われてしまいます。その頃から、映画界も大きく様変りを始め、
東映は時代劇制作から手を引き、ヤクザ映画専門の会社へと変貌を遂げます。

その間も、大部屋俳優フクさんは、ブッチャーと戦わせられたり、ガッツ石松さんに殴られたり、
と過酷な撮影が続く一方で、日本ヤクザ映画の金字塔『仁義なき戦い』の深作欣二監督には、

初対面となる撮影時までに、顔と名前、殴られ方、倒れ方、死に方の癖に至るまで
全部をチェックされていたそうです。まさしく、この本のタイトル通り、

『どこかで誰かが見ていてくれる』ですね!
(深作監督との逸話は、本当に胸にグッと位素敵なので、

実際にその箇所を読まれる事をオススメ致します)定年まで四十年、
大部屋俳優一筋に励んだ人、フクさんが定年間際、

最後に、ハリウッド映画『ラスト・サムライ』に出演が叶ったのも、
ひたすら無私無欲の日々を貫いた者への、ご褒美の様に思えてなりません。

福本さんの生き方からは学ぶ所、大!、大オススメ致します。

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