夜雲さんのレビュー一覧
投稿者:夜雲
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魍魎の匣 文庫版
2010/01/28 11:26
そうだったのか。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
まず、表紙に惹き付けられた。
――喰っている。
何を?
――これは、死人か。
途中で入る、本編とは異なる文章。
僕はこの、ところどころに入る物語を楽しみにペエジを捲っていった。
常識を逸している文。
この物語が本編と重なり合うとき、えも言えぬ恐怖感を得た。
その恐怖感を共有したく、父を京極の世界へ引きずり込んだのであった。
父は最初、こんなに分厚い小説をはたして読めるのだろうか、と漏らしていたが、案の定京極ワールドの虜となってくれた。
「はこ」がキーとなるこの事件。
どこを見渡しても、はこ、箱、匣。
「箱の中の娘」は、「ほう」と笑っていた。
はたして、彼女は幸せだったのだろうか。
京極堂もとい中禅寺秋彦であっても苦手とする魍魎。
登場人物達を丸め込み、読者をも丸め込む憑き物落としの場面。
丸め込まれた果てにあったのは、
――嗚呼、これが魍魎か。
ともだち刑
2010/07/17 11:43
「友達だよね」の裏側
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
あーあ、駄目だよ教師なんかに助けを求めちゃ。
親?
めんどくさいでしょ、心配かけちゃうし。
重要なのはね、何事も無かったかのように見せることだよ。
もう10年も前の出来事だったろうか。
私の「友達だよね」というイジメが終わったのは。
命令されたことをやらなかったら、「絶交するよ」と言われる毎日。
日々どれほどの幸福を奪われ捨てて、涙を流してきただろう。
そう、私は「絶交」という言葉が恐かった。
あなた達なんか大嫌い。
何度殺してやろうと思ったことか。
でも私はあなた達が大好き。
矛盾してるよね。
命令のミッションをコンプリートした後の「友達だよね」という言葉にすがっていた。
クラスが変わり、私のイジメは激減した。
「友達だよね」という言葉は私の大嫌いな言葉になった。
この本の主人公は「絶対に許さない」と言っているが、実際のところ私はもう許している。
優しい面も知っているから。
主人公がもっともっと歳をとってからの考えの変動も、知りたいものですね。
きっと懐かしい昔話になっていることでしょう。
疾走
2010/03/10 13:06
もう赦されていい筈だ
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ヨブ記第十章
<なにゆえあなたはわたしを胎から出されたか、
わたしは息絶えて目に見られることなく、
胎から墓に運ばれて、
初めからなかった者のようであったなら、
よかったのに>
この文を見た時ほど、旧約聖書に惹かれたことはなかった。
まるで、過去の自分のことのようで――。
その頃の私は、追い詰められていた。
シュウイチが壊れていったのと同じように、私も壊れかけていた。
私はシュウイチだった。
そして、シュウジでもあった。
宮原雄二に出会ったシュウジが"穴ぼこ"だと感じた目は、一人きりの時の私の目だった。
シュウジ。
おまえは"ひとりぼっち"じゃないんだ。
「誰かとつながりたい」
人は独りでは生きてゆけない。
"ひとり"は"ひとり"でも、"独り"と"一人"は違う、と、私は思っている。
このことを、この本は訴えているのではないだろうか。
ナイフ
2010/02/07 16:55
大人になって、また読み返したい。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『あたしは誰ともつるんだりしない。ひとりぼっちのハブでいい。』
私もそうなりたかった。
小学六年の夏、初めて重松清の本を読んだ。
かつて所謂「いじめ」というものを受けていた私は、食い入るように、この本を読み進めた。
最初の短編「ワニとハブとひょうたん池で」の主人公の強さを、羨ましく感じた。
タイトルにもなっている「ナイフ」。
まだまだ子供である私にはまだよく分からないであろう、親の気持ちが描かれている。
だが子供は子供で、親には見栄を張りたいものなのだ。
「キャッチボール日和」
「エビスくん」
「ビタースィート・ホーム」
と、短編が続いていくが、私がこの短編集の中で一番衝撃的だったのは、「エビスくん」である。
主人公と私が、ピッタリ重なったからだ。
『親友だもんな』
という言葉が、かつて言われた
『友達だよね』
という言葉と重なった。
大嫌いな言葉なのだ。
でも、私は皆のことが好きだった。
誰も嫌いたくなかった。
否、誰にも嫌われたくなかった。
「いい子」になりたかった。
読み進めるごとに、涙が溢れてきた。
おそらく、本を読んでこんなに泣いたのは、これが初めてだったろう。
重松清は、人の白い面も黒い面も、これでもかという程リアルに書き出す。
だからやめられないのだ。
舞姫通信
2010/02/16 20:55
ただ、本物の「舞姫」を忘れてほしくなかっただけなのだ。
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『空に踊る舞姫を、私たちは愛します。
地に横たわる舞姫を、私たちは愛します。』
と、締め括られる「舞姫通信」。
自殺は決していけないこと。
しかし、「舞姫」という言葉から連想させられるのは、宙を華麗に舞う、重力の無い自由な世界。
私も一時、「舞姫」になりたかった。
この小説を読んだら、きっと「舞姫」に憧れる人も出てくるであろう。
だが、それはあくまでも"憧れ"だ。
舞姫通信第12号の最後
『地に横たわる……勇気はないんだけどね、個人的には。』
これが"普通"なのだ。
この気持ちは、人間として忘れてはいけないことだと思う。
"死"について考える、いい機会なのかもしれない。
幽談
2009/09/18 20:29
求めた怖さ
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誰か私を本当に怖がらせてくれ。
そう思い始めてからはや数年。
京極夏彦を好んで読むようになってから、本屋へ行くたびに京極を探した。
ある日ふいに、この本に出会った。
『幽談』
私は、この題名に惹かれた。
一度見つけてしまったら、読みたくて欲しくてたまらなくなる性の私は、この時手ぶらで来ていたので、母に頼んで買ってもらった。
これが、個性的な八つの咄との出会いであった。
京極はどうやら最後の最後まで山場を引っ張る質らしい。
特に最初の咄の『手首を拾う』の終りなんかは、映画の最後の10分のようである。
『ともだち』は、生と死の曖昧さが心地良い。
『こわいもの』の終り方が、私は好きだ。
どの咄も、読んでいるときは最初「ああ、そうなんだなあ」と、ストーリーが自然に流れてゆく。
しかし、読み終えてから思い返してみると、ゾッとする。
欲しかった怖さが、ここにあった。
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