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  3. たけぞうさんのレビュー一覧

たけぞうさんのレビュー一覧

投稿者:たけぞう

455 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

図書館の主 1

紙の本図書館の主 1

2012/04/22 08:03

児童書専門の図書館のマンガ。これはちょいとはまりますよ。

13人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 発売後半年なのに、なんと、bk1さんではすでに購入不可状態。増刷されるのか心配なので、地道に広めようかと思っている。
 検索したら、著者の篠原ウミハルさんは他作がない。ということは、これがデビュー作になるのだが、名義を使い分けているのではと疑いたくなる。それくらい話のすわりはいいし、絵にも力がある。これが新人とは、にわかに信じられないレベルだ。でも新人だからなのか、一巻の売れ行きが悪かったんだろう、初版切りの様相を呈している。実にもったいない。これ、けっこう面白いと思うんだけれど。

 サラリーマンの男が、ふらふらと図書館に迷い込むところから話が始まる。会社で上手くいかず、閉塞気味な気分で悪酔いしている。たまたま図書館に立ち入るが、そこの司書の御子柴が、若僧のくせにという生意気クン。ちょっとした小競り合いの後で、男は児童書を手渡される。新美南吉童話集だった。読んでみると、うた時計という話が、男の境遇に重ね合わさっていた。そして返却する時に、御子柴につっかかると、一言返される。
「お前が本を選ぶんじゃない、本がお前を選んだんだ」
 男は児童書の世界に魅せられ、この児童図書館に足しげく通うようになる。

 御子柴は、図書館に集まってくる人々に、本を薦めていく。選んだ本の内容と、登場人物たちの個性が織りなす物語だ。起伏の付け方がうまく、登場人物たちの心の問題などもなかなか読み応えがある。基本的には、登場人物が薦められた本を読んで、心が洗われるという展開だが、話がうまく進み過ぎてしまうところが、ちょっと難点ではある。これが名前の売れた漫画家の作品だったら、もう少しゆっくり展開できるのに、駆け足気味でもったいない。いずれにしろ、登場人物に結構魅力があるので、今後の展開が楽しみである。

 なお、引用される書籍は、当然ながら児童書である。有名書籍が多いが、その切り取り方も魅力的なので、読み落としていたなあとか、懐かしい、もう一回読んでみたい、という気持ちにさせられる。私もいい年をして児童書を読む時があるのだが、ちょっと背中を押してもらえる気になる。図書館が舞台だから、本好きの人にはそれだけで魅力的だと思う。

 参考までに、登場する書籍を記載しておく。そこも含めて楽しみという方は、以下は読み飛ばしていただければと思う。




・新美南吉童話集より「うた時計」
・ロバート・L・スティーブンソン「宝島」
・オスカー・ワイルド「幸福の王子」
・ラーゲルレーヴ「ニルスのふしぎな旅」
・江戸川乱歩「少年探偵団シリーズ」
・御子柴君がオーナーに渡した本:内容が引用されなかったため分からず。いつかお話になることを期待。ああ、何の本を渡したのか知りたいなあ。

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紙の本

夏への扉 新装版

紙の本夏への扉 新装版

2010/11/02 10:37

SFの名作はハートフルだからこそ輝きを放ち,不変の価値があるのです。

13人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 村山由佳さんの「天使の卵」の作中で,主人公が愛読書として上げていて興味を持った。主人公は,夏への扉がきっかけで彼女と仲良くなっていくわけだが,そもそも小説の中で重要な道具として紹介されていることが心に残った。本屋で探したら,なんとSFだった。しかもSFの名作に分類される啓示的な作品らしい。

 主人公は発明家のダニイ。親友のマイルズと作った会社で,文化女中器(hired girl)と名付けた自動掃除機のヒットを出した。そして,商売下手な二人にベルという秘書が現れる。ダニイはベルの奸計にはまり会社と発明を乗っ取られる。
 ダニイは,ベルから精神的に離れるべく,失意の底で冷凍睡眠により三十年の時間スキップに打って出る。マイルズの娘リッキィに自分の大事な株券を渡し,財産を横取りされないように注意を払う。
 三十年後の世界から運命が二転三転し,ダニイは自分の大事なものを取り戻していく。そんな物語だ。

 SFの仕掛けで,実用化されているものは,窓拭きロボット,CAD,自動掃除機,自白剤。電子新聞や,手伝い用万能ロボットは,部分的に形を変えて実現しつつある。五十年も前の作品なのに,類まれなる先見的アイデアの数々で,既視感がある。
 そして,最も愛される理由は,SFという枠組みの中で展開される人間ドラマだろう。さすがにオーソドックスな流れだが,読んでいて安心感がある。

 SFというと,オタクの香りとみなして敬遠している人がいないだろうか。カラクリに固執し,物語の本質を見失ってはいけないと思う。推理小説でも,歴史小説でも同じだろう。ジャンルという枠組みは,おもちゃ箱みたいなものではないだろうか。話を整えるために箱がある。箱が格好いいのに越した事はないが,大事なのはその中身である。ジャンルという箱は,中身をうまく作動させるための仕掛けだと思う。SFの箱は,最も煌びやかであるために,誤解されやすい気がする。

 私は,最近SFをあまり読んでいなかった。それでも,子供の頃読んだHGウェルズの宇宙戦争に親しんだ事は鮮明に覚えている。夏への扉は,そんな郷愁にも似た気持ちを十分満足させてくれた。もう一度,SFの扉を開けてみたくなった。

 補足だが,訳者の福島正美さんの仕事も見逃せない。翻訳にありがちな表現がなく,とても自然だ。外国ものだからといって,敬遠しなくても大丈夫だ。
 私の手元にある版は,買った直後に絶版となったようだが,新装版が出たのでこちらに書評を書く事にした。また,小尾芙佐さんの新訳も発売されているようで,まだまだ息は長そうである。

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紙の本

まほろ駅前多田便利軒

紙の本まほろ駅前多田便利軒

2011/01/11 09:18

ジョーク大好き。どなたにも安心してお薦めできます。

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 三浦しをんさんを初めて見たのは新聞記事だ。読書感想文の記事への寄稿。走れメロスについて書いてあった。
「普通,走れメロスについて書くと,友情の事ばかり書いてしまう。でも私は,なぜメロスが裸なのか,しょうもないことが気になってしょうがない。感想文は率直な気持ちを書いたっていいんだ」
 大体そんな主旨だった。大賛成。ノーパンメロス。子供心ながら,そこは指摘してはイケナイことと思っていた。禁断の扉を軽々と開く作家さん,いけるかもという直感が働いた。文才がなくて申し訳ない。原文ははるかに面白かった。

 最初に選んだのが本書。直木賞作品だから,魅力の本質は入っているはずと考えた。著者紹介を見たら,デビューしてまだ十年。昇り調子という表現がぴったりの方。この作品もまさに絶好調だった。

 タイトルは物語の舞台を示している。まほろ駅前にある主人公の多田が営む便利屋。ふとしたことから,仕事の出先のバス停で,高校時代の同級生の行天(ぎょうてん,人名です)を「拾う」。この出会いからして,とてつもない予感に満ちている。この行天という人,マンガ的なほどデフォルメされている。ねじの五・六本は間違いなくぶっ飛んでいる。多田がまごついている間に,どんどん突っ込んでいってしまう。その上,憎めない優しさを持った愛すべきキャラクターだ。便利屋稼業には様々な依頼が持ち込まれる。ペットの預かりや,ひねた小学生のお相手,草むしりの依頼などのありふれたお仕事なんだけど,この二人にかかると俄然魅力を放ちだす。

 多田は割と常識的な部分があり,凸凹コンビ風。ボケと突っ込みを軸として描かれている。涙もろい作品や,刺激的な作品,ハラハラどきどきの作品は多いけれど,気持ちよく笑える作品にはなかなか出会えない。もちろん小説だから笑いは武器の一つ。本筋は二人の優しい男たちの物語だ。二人の悲しい過去も,笑いと優しさにくるまれて流されていく。

 最後の巨大な門松がとてもちぐはぐでいい感じだ。良い作品との出会いは,とても幸せな気持ちになれる。「当たーりー」
笑える小説は高度と聞くけれど,作るのが難しいのかな。誰にでもお薦めできる。

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紙の本

星を継ぐもの

紙の本星を継ぐもの

2011/04/13 00:51

壮大な作品。精緻なSF考証に圧倒されます。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 びっくりした。解説によるとハードSFの記念碑的な作品とある。ハードSFと称されるものが何なのかよく分からないが、内容も驚きの連続でこれぞSFという感じがするのは間違いない。

 ヴィクター・ハントは原子物理学者。生来の一匹狼の気質から、メタダイン社の雇われ博士としてフリーランサーのように研究を続けている。ハント博士の重要な発明にCTスキャンの原型のようなトライマグニスコープがある。これを使えば、物体を開いたりせずに、外部から中身を計測して解析データにすることができる。国連宇宙軍UNSAがこのスコープの性能に目をつけ、一つの依頼が持ち込まれる。チャーリーと名付けられた生命体が月の裏側で発見され、これを解析するようにとのこと。チャーリーは宇宙服に身を包み、亡くなった状態で発見された。なぜスコープを使うのかハントは疑問に思う。答えは明白。放射性炭素同位元素の分析により、チャーリーは死後五万年と推定されたからである。

 劣化を防ぐため解剖しないのは当然だろう。スコープにより新たな事実が次々と見つかる。月で発見されたためルナリアンと呼ばれているが、あらゆる分析の結果チャーリーは人類と一致しているとの結論が導かれた。
 議論が混乱する。ハントは議論の収拾と情報の一元管理のため、UNSAから引き抜きを持ちかけられ、プロジェクトの責任者に収まる。生物学者や言語学者の助けを借り、調査プロジェクトは次々とさらなる発見を重ねていく。

 精緻なSF考証に圧倒された。なぜチャーリーが人類と酷似しているのか、なぜ五万年前に死んでいるのか、そもそもチャーリーはどこから来たのか。これ以上詳しくは書かないが、まだまだ事象はたくさんある。そして解明された結果が驚くほど合理的なのだ。近未来に本当にこんな発見があるのかもしれない。真剣にそんな気持ちにさせられる作品だ。

 ハントの導き出したプロジェクトチームの結論と、ラストシーンの鮮やかさがとても印象的だ。実に人間くさい終わり方をする。SFに敷居の高さを感じる人にも、文句なくお薦めできる。

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紙の本

神様のカルテ 2

紙の本神様のカルテ 2

2010/12/17 14:13

医者の仕事に真摯に向かう姿が描かれています。好きな方向に流れました。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 神様のカルテの続編。これまで何回かデビュー後の第一作を読んだが,人気作家でも失敗している事が多く最初は心配半分であった。理由はいろいろあると思う。神様のカルテ2も明らかに雰囲気が変わった。私にとっては前作で物足りないと思っていた部分が大幅に増えたので大変嬉しい。前作に引き続き,出会いに感謝である。

 主人公の一止(イチ)は信州の救急病院の内科医の設定だ。細君と呼ぶ妻の榛名(ハル),御嶽荘の住人の男爵,病院の医師や看護婦の面々。基本的に前作の設定を踏襲し,今回は医学部の同級生である辰也が新登場となった。
 辰也はイチの医学部時代の将棋部仲間であり,イチが部に引き入れた千夏と結婚した。首席で卒業後に東京の大病院に勤めていたはずなのだが,なぜかイチのいる病院に異動してきた。しばらく後,辰也が娘と二人だけで実家の蕎麦屋を頼ってきていることが分かる。 出産・育児により時間制限のある勤務をしていた妻は,ある時患者の家族に徹底的になじられる。それをきっかけに,妻は仕事へ異常に執心するようになり,妻と別居状態になったことが分かる。医者が人間らしい生活を送れないことに辰也は疑問を持ったのだ。今回のテーマはまさにここにある。

 後半,古狐先生と仰ぐ副部長先生に悪性の病気が発見される。イチとハルは,何か素敵なプレゼントができないかと知恵を絞り,あることを皆で実行する。翌日,事務局長がこれを見咎めた時,イチは思わず叫ぶ。
「医師の話ではない。人間の話をしているのだ!」
夏川さんの最も伝えたかった言葉だと思う。他にも同義のフレーズが作中に散りばめられている。前作は過酷な勤務を嘆きつつも,仲間に助けられるほのぼのエピソードが中心だった。今作は過酷に対する人間の尊厳が中心だ。医師に限らず,多くの会社は同じような状況にあるのではないか。もちろん程度の大小はあるが決して人ごとではない。

 古狐先生は最後に穏やかな死を迎える。イチとハルは思いを抱えたまま御嶽山に登る。「木曽のなぁー,中乗りさんはぁ・・・」二人の背中から歌が聴こえた気がした。読んでよかった。

 余談だが,数ヶ月前に書評を書くことを知り,とても充実した読書生活を送っている。自分の思いを皆さんに伝え,共有したいからお薦めを書く。今までは,面白かった/つまらんかったとかの単語で終わっていた読書が,何でだろうと分析するようになり,深く濃いものになった気がする。皆さんの書評を読むのも楽しい。自分なんか遠く及ばないレベルということも実感しているけれど,一緒に楽しませてもらっていて幸せである。

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紙の本

ストーリー・セラー

紙の本ストーリー・セラー

2011/02/03 12:07

読書好きの心を捉えたセリフが満載。激しくオススメ。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「阪急電車」で気に入った作家さん。「阪急電車」は短めにエピソードをつなぎ,心温まる話で仕舞いをつけてあり好印象であった。また軽妙な語り口に新鮮なものを感じた。本作「ストーリー・セラー」を読んだら,物語の重さと愛情の深さが加わり,得意技で怒涛の攻めを受けてしまった。冗談抜きで泣きそうになり,本当にヤバかった。Side Aの終わりがちょうど電車の改札を抜けたところだったから助かった。挙動不審者一歩手前。踏みとどまった自分を思わず誉めてしまった。でも,電車下りてから二宮金次郎やっちゃったから,充分挙動不審か。

 Side AとSide Bで対をなす物語。Side Aは女性作家が病気にかかり,仕事を辞めないと死に至ると医師に宣告されるところから始まる。そんな女性作家と夫の話だ。Side BはSide Aを受けて立場が変わる。女性作家の夫が死に至るかもしれないという設定から話が始まる。
 どちらの話も,夫は無類の読書好きで「本を読む側」であることを意識している。妻は仕事の傍ら小説を書いていて,夫から言わせると「書く側の人間」として区別されている。Side A,Bとも本を読む側の心理描写が抜群である。数々の名言集といっても過言ではない。書評を読むほどの本好きの皆さんであれば,心に響くこと間違いなし。きっと有川さんもこんな気持ちで読んでいるんだと思う。

 有川さんは書く側の人間だから,不思議と書く側の描写はあまり際立っていないように感じた。物語の種を自然にすくいとってしまうから書き切れないのだろう。第一,自分の姿ってあんまり見えないものだしね。これに対して「本を読む側」の人は観察対象だから,非常に魅力的だ。実に面白い。

 夫婦の話だから,ちゃんと恋愛話も絡んでいる。恋愛物語と,読書好きの物語。どちらから読んでも,私は降参してしまった。

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紙の本

家守綺譚

紙の本家守綺譚

2011/01/04 10:41

剣も魔法もないファンタジー。正統派日本文学。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 文庫本の表紙で,雀が竹やぶから顔を覗かせている。竹には六十年に一回という花が咲いている。カバー装画は神坂雪佳「雪中竹」という作品だそうだ。描き下ろしではないのに,これほど雄弁に内容を表している表紙にはなかなかお目にかかれない。竹取物語。舌切り雀。家守綺譚は日本の伝統の系譜に根ざした作品だと思う。

 目次を見ると二十八種類の植物の名前が並ぶ。総数197ページなので,一話あたり七ページ前後の掌編小説集ともいえる。明治の頃,電燈が灯り始めた頃が舞台。文明開化とともに失われていった古き良き日本の土着風俗が描き出されている。

 綿貫征四郎という売れない作家がいる。亡くなった親友の高堂の父親から,娘の近くに隠居することになったので高堂の家の守をしてくれないかとお願いされる。その高堂の家に住むようになった所から話が始まる。

 一話目はサルスベリ。夕方から風雨が激しくなり夜半に収まる。それと同時にキイキイという音が掛け軸から聞こえ始める。掛け軸を見ると雨の風景になっており,死んだはずの高堂がボートを漕いで近づいてくる。綿貫は「どうした高堂」と声をかけ,高堂は「なに,雨に紛れて漕いできたのだ」と答える。なんでも,庭のサルスベリが綿貫に懸想をしているので伝えに来たとのこと。考えてみると掛け軸の中の親友と話をするなんてあり得ないのだが,なぜかとても自然だ。私は「懸想をしている」なんて言葉遣いにもまいってしまった。
 全編こんな調子だ。サルスベリに惚れられた綿貫は,木陰で本を読んでやるようになる。河童や人魚,小鬼もそれぞれの掌編に登場する。楽しいなあ。

 梨木さんはイギリスにしばらく住んで現地の童話作家に師事していた。その影響か初期の作品はイギリス人が出てきたり,古びれた洋館が舞台になったりしていたが,日本の伝統を見つめる作品も徐々に増えてきている。伝統的だからいいというつもりはないが,剣と魔法の物語で,登場人物が日本人の名前だったりする時の違和感は,やはり事実として感じるのである。お互いのいいところを取入れ,新たな日本ならではの物語を読みたい。梨木さんに答えを一つ見せてもらった気だする。
 自分の体は,やっぱり味噌としょう油でできているんだなあと強く実感したのであった。自分の足元は大切にしないとね。

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紙の本

きつねの窓

紙の本きつねの窓

2017/01/14 21:32

私の教科書にはなかった。この年になって出会うなんて。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

教科書に採用されることが多い作品とのことだ。
知ったきっかけは全然別なのだが、こんな素敵な作品をいままで
知らなかったなんてちょっともったいない。

作品集「ひぐれのお客」に引き続き読んだ。
このお話も一筋縄ではいかなくて、短い童話の中で何かがじっと
息をひそめている。掴もうとしてもするりと逃げられそうで、なんだか
心がもわりと包まれてくる。

鉄砲打ちの男が、歩きなれた山道でふいに野原に出くわす。
いつもの杉林は姿を消している。
野原で休んでいると、子どもの白ぎつねが目の端を動く。
男は白ぎつねを追いかけるが、ふいっと見失ってしまう。

その瞬間、「いらっしゃいまし」と後ろから声をかけられる。
男は小ぎつねが化けたんだろうとすぐに見抜くが、巣を突き止めて
やろうと思いつき、そのまま小ぎつねの演技につき合ってあげるの
である。

きつねの窓は、そんな小ぎつねから教えてもらう魔法の窓だ。
小ぎつね特製の青い絵の具で指を縁どり、窓枠の形を作る。
そうすると、両の手の人さし指と親指で作る青い窓から、次々と
こころの中身が浮かんで見えるのである。
小ぎつねが見たもの。男が見たのも。
そしてきつねと鉄砲打ちである間柄の二人。

指の窓から見える風景に、二人の心象が幻想的にからみついて
いく。でも童話だから無粋な地の文はない。

行間がたくさんあって、頭にたくさんのお話が浮かんでくる。
自分の心にできた窓から、それこそ想いが収まりきらずにほとばしる
作品だ。出会いに感謝。

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紙の本

夜の蟬

紙の本夜の蟬

2017/05/13 00:07

円紫さんと私シリーズ第2作。色の魔法に魅了される。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

女子大生の私。国文科に通っている。学校の先輩に落語家の
円紫さんがいる。ある時,教授の引き合わせでインタビューを
することになった。
その時,私がなにげなく話した不思議な謎を円紫さんが鮮やかに
解いてしまい,探偵と私の交流が始まる。

円紫さんと私シリーズは,「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「秋の花」
「六の宮の姫君」「朝霧」の五作からなる。
読む順番が大事なシリーズなので,ご留意頂きたい。

デビュー後の第一作は,肩の力が入り過ぎて失敗している
パターンが多いが,北村薫さんは大成功を収めた作家さん
だと思う。
このシリーズは,五作とも個性がきちんと書き分けられていて,
どれが一番かは意見が大いに分かれている。私も大いに迷う。
せっかく書評を書くのなら,初めて北村薫さんに触れた
「夜の蝉」を紹介しようと思い,読み直してみた。

三本の連作短編だ。「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」。
推理部分を物語の推進力にしながら,三篇とも主人公の
心がふんだんに織り込まれている。
主人公の周りで,少しずつ時間が流れていることが,
手に取るように分かる。

「夜の蝉」の作品全体を通し,主人公の女性への成長を
テーマにしているように感じる。著者は国語教師だったから,
日常的に女子高生と接していた。
その経験が随所に生かされているのかもしれない。
大学生という設定も良い。
幼さのちょっと残る主人公が,大人すぎておらず心の成長が
分かりやすい。

表題作でもある三本目の「夜の蝉」が,その意味で
最も印象的だ。物語の謎は解決したのに,続く物語の
紙数の多さ。こちらが本題ではなかろうか,という気持ちになる。
普通の推理小説は,犯人逮捕で幕切れのはずだ。

主人公が姉に気付かせてもらう,人の目に映る自分。
目の醒めるような色彩感覚とともに,強烈な覚醒感が
描かれている。姉がぶっきらぼうに渡すオレンジ色の
タンクトップが眩しくて仕方がない。

姉との対比が軸のため,女性への成長というテーマが
思い浮かんだが,それは大人への成長というテーマにも
直結している。

「成長」というテーマは,シリーズの最後まで続く。
人生の多感な時期は,それだけで壮大なドラマと
いうことをあらためて気付かされる。
推理小説に分類されるが,再読しても魅力は色あせない。

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紙の本

沖で待つ

紙の本沖で待つ

2011/12/03 21:48

なんというか、完全に脱帽してしまったのである。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 絲山さんの評判をbk1の書評で知ってから、ぽつぽつ読み始めた。本作は私にとって三冊目の読了となる。まさか三冊とも書評を残すことになるとは夢にも思わなかった。好きな作家さんでさえ、せいぜい二、三回に一回ぐらいしか残さないのに。でも絲山さんの作品は、そんなことは私に許してくれなかった。この書評も、冷静に冷静にと自分に言い聞かせながら書いている。そうでもしないと暴走してしまいそうだ。

「勤労感謝の日」「沖で待つ」「みなみのしまのぶんたろう」の三作が収められる。そして今回も解説は身内みたいな人。「沖で待つ」で芥川賞を受賞されている。そして「みなみのしまのぶんたろう」で暴走している。芥川賞と直木賞は、作家さんにとって大変なお祭り騒ぎらしく、なにか言いたくなるのは分かる。しかしそれで「みなみのしまのぶんたろう」かい? ちょっと芥川賞を眺めている人ならば、ある委員が全く作品を読めておらず、時には候補作を読んで選考会に臨んでいるのか疑わしく、そのくせ無礼千万な姿勢であることはすぐに分かってしまう。その上、選挙の前だけはなぜか甘めのコメントという不遜な態度で、これぞ文壇の問題点なのだが、絲山さんほどの作家が半ば公然と嘲るのもどうなんだろう。よく言ってくれたという人もいるかもしれないが、頭の弱い勘違い権力者なんか相手にせず、お引き取り頂くのがいいように私などは思うのだが。・・・いかん、心配した通り書評が暴走した。ここから、この本のすばらしい二作を紹介する。

「勤労感謝の日」。冒頭を引用する。
「何が勤労感謝の日だ、無職者にとっては単なる名無しの一日だ。それともこの私に、世間様に感謝しろ、とでも言うのか」
 やさぐれているのは恭子さん。会社を飛び出して、今は失業保険をもらう身だ。暇そうにしていたところをご近所さんに声をかけられ、半ば強引に見合いをセッティングされてしまう。出てきた男は、鼻持ちならない商社の男。あんパンの真ん中をグーで殴ったような顔らしい。もう、電車の中で笑いをこらえるのに必死である。お見合いを抜け出して渋谷で飲み、帰る途中でまた飲む。ドタバタの笑いをこらえ、散りばめられた珠玉の一文に酔う。どっぷりはまりこんでしまった。

「沖で待つ」。牧原太こと太っちゃんと、及川さんの話だ。絲山さんの会社員時代の経験がふんだんに盛り込まれている。福岡に新入社員で配属された二人は、つかず離れず、助け合いながら過ごしていく。やがて結婚や転勤などの当たり前のレールに乗りながら、絲山さんが書くとぜんぜん当たり前じゃなくなる。二人だけに交わされる秘密の約束。そしてその約束を果たす悲哀は、心をわしづかみにして離さない。

「沖で待つ」は、絲山さんの魅力の大事なところが詰まっている。愛情と孤独。これまで読んだ中で考える限りでは、それが絲山作品の本質だと思っている。
 愛情は、親愛なる情の意味で、男女だけや友情だけでなく、もっと幅の広い感情だ。そして孤独。他者から自立することによる心の独り立ちである。これまでに読んだ三作品に共通して感じられる。「沖で待つ」を読んではっきりと自覚した。そして愛情と孤独は、表裏一体のようにいつだって深く絡まりあっているのである。
 愛情と孤独を、安っぽくなく、こんなに洗練して書く作家さんはなかなか出会えない。

 前半に苦言を呈した「みなみのしまのぶんたろう」でも分かる通り、この人は文壇での成功なんかどうでもいいと思っているはずである。恐ろしいくらい地位と名声に不遜で、現物である小説にこだわる。解説も現場第一。自分の作品を読者が分かってくれればいいという姿勢の現れである。だから、例えば映画化を通した大爆発なんてものは起きにくいのかもしれない。実際、デビュー作が映画化された際に、大人げない問題を起こして訴訟に発展している。自分の作品が都合よく切り取られるのが我慢ならなかったのだろう。でも映画やテレビがおいしいところをお祭りにするのは当たり前。作品の世界を守るためといえば聞こえはいいが、そんなことばかりしていたら売れるものも売れないよう、とつい言いたくなってしまう。
 徹底的な現場第一主義。その下手くそな生きざまの絲山さんを、私は圧倒的に支持してしまうのである。

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紙の本

苦役列車

紙の本苦役列車

2011/02/14 12:26

苦役列車を読んだ。頭を真っ白にして読んで欲しい。

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 文藝春秋の芥川賞全文掲載を楽しみにしていた。受賞者インタビューや選評が載るからだ。しかも今回は二作品。こんなにお買い得な号はめったにない。加えて、大物の呼び声の高い朝吹真理子さんのきことわと、既に怪臭を放つ西村賢太さんの苦役列車とあれば迷うまでもない。
 全部読んでみて、私の選択は苦役列車だ。オーソドックスな私小説だ。読書量が多い方は、きことわの方が面白いのかもしれない。選者がこぞって褒めているし、丸谷才一さんも新聞に書評を寄せていた。感覚面でかなり優れた作品とのことだが、私のレベルでは掴みきれなかった。多分、修行不足なのだが何かの参考になれば。
 私は文藝春秋2011/3月号で読んだのだが、苦役列車に分類して投稿したことをお許し頂きたい。雑誌だからなのか、書評を投稿できなかったので。

 さて苦役列車の前評判だが、全く大変なものだ。フリーターの星だとか、久しぶりの破滅型作家の登場だとか散々な褒め言葉だ。本人も受賞の電話が遅いから風俗に行くところだっただの、傾注する破滅型作家の全集発行に芥川賞の賞金を全額突っ込むだの、とんでもない臭いをまき散らしている。
 事前の紹介だけでは、嫌悪感と高揚感に分かれると思う。これに反して、作品は至ってまともだ。残忍な暴力やクスリは出てこず、日雇い労働者の生き様を描く物語だ。

 主人公は貫多。ねたみ、そねみに翻弄される自分の狭量を罵りながら、どぶ汁をすするように生きる。そんな貫多に、日雇い現場で日下部という同年代の男が声をかけてくる。日下部の爽やかさは貫多の目を通してまばゆく映る。二人の友情を通して、貫多は自分自身を深く認識していく。
 底辺を生きる人の生活の怖いもの見たさかと思ったが、まるで違う。貫多は、貫多のものさしで生きている。幸せかどうかは自分で決めることだ。そのことを再認識した。日下部によって勇気づけられた心を、貫多がどのようにつないでいくのか。子供っぽい逡巡を繰り返すが、そんな貫多の生き様から目が離せなくなってしまう。

「どうで死ぬ身の一踊り」「小銭をかぞえる」に続く作品だそうだ。タイトルの付け方が抜群にうまい。
 すげえや。
 この一言だけでいいのかもしれない。

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紙の本

秘密

紙の本秘密

2017/12/27 22:39

せつなさが形になった小説。心が揺さぶられます。

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

東野さんは大ベストセラー作家だが,受賞歴を見ると
意外にも下積みの長さが覗える。
1985年に放課後で江戸川乱歩賞からデビューするも、
その後しばらくヒットに恵まれていない。

秘密がブレイクするまでに実に十三年。
同年、人気シリーズの探偵ガリレオも手がけており、一大転機と
なった作品だ。ブレイクするまでに、変身という作品などもあり、
一部でファンを引き付けていたのも事実。
長く活動できていたのは,じゅうぶんな下地があったからだろう。
ブレイクにより、普通の作家がスーパーヒットメーカーに登りつめた。

私が初めて東野さんを読んだのは、初期のころの著作。
選定ミスをした。最初に秘密を読んでおけばよかった。
この著作を書いた頃に、たぶん東野さんは何かを掴まれた
ように思う。その後の大活躍は、改めて書くまでもないだろう。

秘密は、平介と直子、娘の藻奈美の織り成す人間愛の物語だ。
スキーバスの転落事故で,娘の体に妻の心が宿る。
平介は,憑依という現象を調べ上げ,無理やり自らを
納得させようとする。

ご都合主義的な設定にも見えるが,フィクションはこの一点だけ。
たった一つのボタンのかけ違いで,人と人との関わりが
浮き彫りにされていく。

妻が浮気をしたら怒る? 嫉妬はどうして強くなる?
人を愛するということと,自分を大切にすることのバランスはどこ?

この本を読むまでは,想像上の言葉遊びに過ぎなかった気がする。
たった一つのずれで,こんなにも鮮明にイメージできるとは
思わなかった。

ラストは心で泣く。この本は好きだ。

参考までに,巻末の解説は,一番大事なところの
ネタバレ誘発がある。本編を読む前に目を通さないこと。
まあ,そのおかげで映画は見ないことを決心できたんだけど。
申し訳ないけれど、その展開では,映像的には受けても
人間ドラマとしてはあまりに都合が良すぎる。

オヤジの純愛というには、あまりにも純粋すぎる小説。
ちょっと男の願望が強すぎるかもしれない。
でも、そこがまた、はまってしまうのである。

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紙の本

マークスの山 上

紙の本マークスの山 上

2017/12/27 18:13

壮絶な犯人の人生。可哀想なんて甘い表現は消し飛び,見守ってあげる事しかできない。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私は,マークスの山を文庫版で読んだ。
高村薫さんは大幅改稿する作家として知られている。
ファンの中には,単行本と文庫版を別の作品として
楽しんでいる方もいると聞く。

さらに高村薫さんは,直木賞受賞の時に「私はミステリーを
書いているつもりはない」と言って物議をかもしたらしい。
なかなか骨太の方だ。

文庫版の裏には,警察小説の最高峰との謳い文句がある。
ジャンルとしては合っているが,ミステリーの要素もある作品。
解説には,人間の人生全体を書いた「本格小説」と評されていた。
分析は見事だけど,新しいジャンルを作ってまで区分けする
必要は感じなかった。単に,枠にはまりきらない大きな作品と
いうことだけでいいように思うのだが。
いずれにしろ,直木賞の影響の強さがこんなところにも
出ていることがよく分かった。

高村さんの合田シリーズ第一作。
マークスの山,照柿,レディ・ジョーカーと続く。
現在四作目「新・冷血」の制作が開始されているヒットシリーズだ。
本著は,重いといわれる作風の中でも,スピード感があり,
比べれば読み易い方だと思う。

話の軸は,殺人犯と警視庁の合田刑事とのしのぎ合いだ。
犯人は最初から明かされ,お互いの人間像を深堀りしていく。
ミステリー要素は,被害者にある。
斬新な設定だ。

この作品を通して,私は小説の推進力というものを感じた。
犯人は殺人事件を起こし,金を脅迫する。
しかし本当に金が欲しいとは思えない。
犯人は,被害者から金を要求することで,自分の失われた精神と
記憶を取り戻そうとしているのではないか。

合田刑事も,犯人を追う一方で,義兄に様々な支えを受けている。
しかし精神的な充足は十分でなく,犯人探しに没頭する事で
私生活の気持ちの穴を埋めようとしているように見える。
そして被害者こそ,最も大きな精神の欠損を抱えているようだ。

単純な犯人と刑事,被害者という構造の中に,精神の渇きを持つ
登場人物たちが何層にも重ねられている。

ラストも圧巻だ。
心がどのように満たされていくか,ぜひ見届けて欲しい。
心理描写はそっけないが,私はこんな読み方をして,
深い感動に包まれた。

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紙の本

言いたいことが伝わる上手な文章の書き方 「うまいね」とほめられる!

かなり高度な内容です。二度・三度読み必須です。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ライター出身で、編集協力・原稿代筆・ラノベリライトなど、
文章の校正・作成のプロによる著作です。
これまで何冊かの文章の書き方の本を読んでいますが、
この一冊は雰囲気がかなり違いました。とても実践的なのです。

全10章で、各章のポイントに沿って例文を直してみるという
スタイルです。最終章は、うまいと言われる7つの文章の条件です。
せめてその7つを意識しながら校正できればと思いますが、
練習あるのみですよね。

文章の書き方のこつは、付録に書いてあります。
文章指南書は、こちらがメインの場合が多いので、
この本の狙いが分かります。
頭にアイデアが浮かんだら、フレッシュなうちに書き留めておき、
思いつくまま自由に書き進めるといいとあります。

そして、書く・削る・並び替えで流れを整え、段落を作って
全体バランスを取り、最も主張したい部分の強調と、
推敲という順番が示されています。

言われれば当たり前のような流れです。
でも、立ち止まって考えると、出来ているとは思えません。
一つ一つの質を高める必要性を感じました。

本章には、簡単な例から難しい例までとりまぜて書いてあります。
著者にとっては当たり前の作業なので、同列に扱っているの
かもしれません。しかし、わたしにとっては驚きの連続です。
えっ、これ駄目なのとか、たしかにこの表現の方がいいよねとか、
得るものがたくさんありました。

例です。

> 切なさそうですね。
> 外が騒がしいです。
> 筆記用具をご持参ください。

分かります? 直した方がいい例なんですよ。
もちろん日常的には問題ないレベルです。意味も通じます。
しかし、文章を洗練させようと思うとチェックが入るのです。

> 切なそうですね。
> 外が騒がしいようです。
> 筆記用具をお持ちください。

とりあえず書評にまとめましたが、繰り返し読む必要性を
痛感しました。ビジネス文章との違いや、三人称の視点なども
意識させられました。ぜひ身につけたい一冊です。

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紙の本

ひぐれのお客

紙の本ひぐれのお客

2017/12/26 00:05

久しぶりに童話を読みました。不思議な香りのする作品集でした。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

先日、ひょんなことから安房直子さんを知った。
童話は、それこそ遠い昔に読んだきりだったが、子供と一緒に
読んだりするために目に触れる機会が増えてきた。
これまではどうしても絵本が多かったが、そろそろ中編も
手をつける頃合いのように思っていた。

安房さんはどうやらかなり人気のある作家さんのようである。
非常に残念なことに、既にお亡くなりになっているようだが、
未だに復刻作品集が新編纂で出版されるほどの方だ。
まだまだ自分の読書範囲の狭さを感じ、低頭するのみである。

巻末に所収のいきさつが書いてある。出版元の福音館書店の
雑誌に初掲載された作品を集めたとのことだ。
大ヒット作品は入っていないようなので、落ち穂拾いのような
作品集かとも思ったのだが、どうしてどうして、独特の世界観が
みなぎっていた。

>所収作品:
「白いおうむの森」「銀のくじゃく」「小さい金の針」
「初雪のふる日」「ふしぎなシャベル」「ひぐれのお客」
「(エッセイ)絵本と子どもと私」

本編は、とても不思議な香りのする作品集であった。
最近の絵本は、生活童話やちょいSFみたいな作品が
盛んな気がするのだが、いずれにしてもアットホームな香りがする。

この作品集はかなり異なっており、放たれる雰囲気は何とも
形容しがたいものがある。絵本と童話の違いという意味ではなく、
詰まっている中身の根本的な部分である。
強いて言うならば、芥川龍之介の現代奇譚に近い気がする。

各話とも子供の頃に触れた奇妙な感覚が入っている。
その感覚がさらりと撫でられていくように感じるのである。
恐怖心というと誤解があるかもしれないが、それに近いなにかだ。
子供が知らないものに対して持つ警戒心と言えば
もっと近いのかな。

表現するのはなかなか難しく、思い出すのはさらに難しい。
あまりお目にかかれない雰囲気だ。

表題作の「ひぐれのお客」が、ふんわり心地よくて一番気に入った。
黒猫がマントの裏地のために生地を探しに来る物語。
お店のご主人の評判を聞きつけて結構な遠くから
買いに来たのである。この黒猫がなかなかの洒落者で
生地にめっぽううるさい。でもご主人は、一緒になって
楽しみながら探してあげるのである。
生地の目利きの仕方も心躍るほど楽しい。

本編にもまして、エッセイがこれまた大変すばらしい。
お子さんが小さい頃に書かれたようで、昨今の読み聞かせの
取り組みに通じる気がする。
深い愛情を感じつつ、素敵な出会いに感謝した。

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