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たけぞうさんのレビュー一覧

投稿者:たけぞう

521 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本夏への扉 新装版

2018/11/03 10:32

SFの名作はハートフルだからこそ輝きを放ち,不変の価値があるのです。

19人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

村山由佳さんの「天使の卵」の作中で,主人公が愛読書として
上げていて興味を持った。主人公は,夏への扉がきっかけで彼女と
仲良くなっていくわけだが,そもそも小説の中で重要な道具として
紹介されていることが心に残った。
本屋で探したら,なんとSFだった。
しかもSFの名作に分類される啓示的な作品らしい。

主人公は発明家のダニイ。親友のマイルズと作った会社で,
文化女中器(hired girl)と名付けた自動掃除機のヒットを出した。
そして,商売下手な二人にベルという秘書が現れる。
ダニイはベルの奸計にはまり会社と発明を乗っ取られる。

ダニイは,ベルから精神的に離れるべく,失意の底で
冷凍睡眠により三十年の時間スキップに打って出る。
マイルズの娘リッキィに自分の大事な株券を渡し,
財産を横取りされないように注意を払う。
三十年後の世界から運命が二転三転し,
ダニイは自分の大事なものを取り戻していく。そんな物語だ。

SFの仕掛けで,実用化されているものは,窓拭きロボット,
CAD,自動掃除機,自白剤。
電子新聞や,手伝い用万能ロボットは,部分的に形を変えて
実現しつつある。五十年も前の作品なのに,類まれなる
先見的アイデアの数々で,既視感がある。

最も愛される理由は,SFという枠組みの中で展開される
人間ドラマだろう。さすがにオーソドックスな流れだが,
読んでいて安心感がある。

SFというと,オタクの香りとみなして敬遠している人が
いないだろうか。カラクリに固執し,物語の本質を見失っては
いけないと思う。推理小説でも,歴史小説でも同じだろう。

ジャンルという枠組みは,おもちゃ箱みたいなものではないだろうか。
話を整えるために箱がある。箱が格好いいのに越したことはないが,
大事なのはその中身である。
ジャンルという箱は,中身をうまく作動させるための仕掛けだと思う。
SFの箱は,最も煌びやかであるために,誤解されやすい気がする。

私は,最近SFをあまり読んでいなかった。
それでも,子供の頃読んだHGウェルズの宇宙戦争に
親しんだ事は鮮明に覚えている。
夏への扉は,そんな郷愁にも似た気持ちを十分満足させてくれた。
もう一度,SFの扉を開けてみたくなった。

補足だが,訳者の福島正美さんの仕事も見逃せない。
翻訳にありがちな表現がなく,とても自然だ。
外国ものだからといって,敬遠しなくても大丈夫だ。

私の手元にある版は,買った直後に絶版となったようだが,
新装版が出たのでこちらに書評を書く事にした。
また,小尾芙佐さんの新訳も発売されているようで,
まだまだ息は長そうである。

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紙の本

かなり高度な内容です。二度・三度読み必須です。

16人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ライター出身で、編集協力・原稿代筆・ラノベリライトなど、
文章の校正・作成のプロによる著作です。
これまで何冊かの文章の書き方の本を読んでいますが、
この一冊は雰囲気がかなり違いました。とても実践的なのです。

全10章で、各章のポイントに沿って例文を直してみるという
スタイルです。最終章は、うまいと言われる7つの文章の条件です。
せめてその7つを意識しながら校正できればと思いますが、
練習あるのみですよね。

文章の書き方のこつは、付録に書いてあります。
文章指南書は、こちらがメインの場合が多いので、
この本の狙いが分かります。
頭にアイデアが浮かんだら、フレッシュなうちに書き留めておき、
思いつくまま自由に書き進めるといいとあります。

そして、書く・削る・並び替えで流れを整え、段落を作って
全体バランスを取り、最も主張したい部分の強調と、
推敲という順番が示されています。

言われれば当たり前のような流れです。
でも、立ち止まって考えると、出来ているとは思えません。
一つ一つの質を高める必要性を感じました。

本章には、簡単な例から難しい例までとりまぜて書いてあります。
著者にとっては当たり前の作業なので、同列に扱っているの
かもしれません。しかし、わたしにとっては驚きの連続です。
えっ、これ駄目なのとか、たしかにこの表現の方がいいよねとか、
得るものがたくさんありました。

例です。

> 切なさそうですね。
> 外が騒がしいです。
> 筆記用具をご持参ください。

分かります? 直した方がいい例なんですよ。
もちろん日常的には問題ないレベルです。意味も通じます。
しかし、文章を洗練させようと思うとチェックが入るのです。

> 切なそうですね。
> 外が騒がしいようです。
> 筆記用具をお持ちください。

とりあえず書評にまとめましたが、繰り返し読む必要性を
痛感しました。ビジネス文章との違いや、三人称の視点なども
意識させられました。ぜひ身につけたい一冊です。

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紙の本

紙の本図書館の主 1

2018/11/08 21:31

児童書専門の図書館のマンガ。これはちょいとはまりますよ。

14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

検索したら、著者の篠原ウミハルさんは他作がない。
ということは、これがデビュー作になるのだが、
名義を使い分けているのではと疑いたくなる。
それくらい話のすわりはいいし、絵にも力がある。
これが新人とは、にわかに信じられないレベルだ。

でも新人だからなのか、一巻の売れ行きが悪かったんだろう、
初版切りの様相を呈している。実にもったいない。
これ、けっこう面白いと思うんだけれど。

サラリーマンの男が、ふらふらと図書館に
迷い込むところから話が始まる。
会社で上手くいかず、閉塞気味な気分で悪酔いしている。
たまたま図書館に立ち入るが、そこの司書の御子柴が、
若僧のくせにという生意気クン。
ちょっとした小競り合いの後で、男は児童書を手渡される。
新美南吉童話集だった。

読んでみると、うた時計という話が、男の境遇に
重ね合わさっていた。そして返却する時に、御子柴につっかかると、
一言返される。
「お前が本を選ぶんじゃない、本がお前を選んだんだ」

男は児童書の世界に魅せられ、この児童図書館に足しげく
通うようになる。

御子柴は、図書館に集まってくる人々に、本を薦めていく。
選んだ本の内容と、登場人物たちの個性が織りなす物語だ。
起伏の付け方がうまく、登場人物たちの心の問題なども
なかなか読み応えがある。
登場人物が薦められた本を読んで、心が洗われるという展開だが、
話がうまく進み過ぎてしまうところが、ちょっと難点ではある。

これが名前の売れた漫画家の作品だったら、もう少しゆっくり
展開できるのに、駆け足気味でもったいない。
いずれにしろ、登場人物に結構魅力があるので、
今後の展開が楽しみである。

引用される書籍は、当然ながら児童書である。
有名書籍が多いが、その切り取り方も魅力的なので、
読み落としていたなあとか、懐かしい、もう一回読んでみたい、
という気持ちにさせられる。
私も児童書を読む時があるのだが、ちょっと背中を押して
もらえる気になる。図書館が舞台だから、本好きの人には
それだけで魅力的だと思う。

参考までに、登場する書籍を記載しておく。そこも含めて
楽しみという方は、以下は読み飛ばしていただければと思う。

・新美南吉童話集より「うた時計」
・ロバート・L・スティーブンソン「宝島」
・オスカー・ワイルド「幸福の王子」
・ラーゲルレーヴ「ニルスのふしぎな旅」
・江戸川乱歩「少年探偵団シリーズ」
・御子柴君がオーナーに渡した本:
 内容が引用されなかったため分からず。いつかお話に
 なることを期待。ああ、何の本を渡したのか知りたいなあ。

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紙の本

紙の本まほろ駅前多田便利軒

2018/11/10 23:29

ジョーク大好き。どなたにも安心してお薦めできます。

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

三浦しをんさんを初めて見たのは新聞記事だ。
読書感想文の記事への寄稿。走れメロスについて書いてあった。

「普通,走れメロスについて書くと,友情の事ばかり書いてしまう。
でも私は,なぜメロスが裸なのか,しょうもないことが気になって
しょうがない。感想文は率直な気持ちを書いたっていいんだ」
大体そんな主旨だった。大賛成。ノーパンメロス。
子供心ながら,そこは指摘してはイケナイことと思っていた。
禁断の扉を軽々と開く作家さん,いけるかもという直感が働いた。
文才がなくて申し訳ない。原文ははるかに面白かった。

最初に選んだのが本書。直木賞作品だから,
魅力の本質は入っているはずと考えた。
著者紹介を見たら,デビューしてまだ十年。
昇り調子という表現がぴったりの方。この作品もまさに絶好調だった。

タイトルは物語の舞台を示している。
まほろ駅前にある主人公の多田が営む便利屋。
ふとしたことから,仕事の出先のバス停で,高校時代の同級生の
行天(ぎょうてん,人名です)を「拾う」。
この出会いからして,とてつもない予感に満ちている。

この行天という人,マンガ的なほどデフォルメされている。
ねじの五・六本は間違いなくぶっ飛んでいる。
多田がまごついている間に,どんどん突っ込んでいってしまう。
その上,憎めない優しさを持った愛すべきキャラクターだ。

便利屋稼業には様々な依頼が持ち込まれる。
ペットの預かりや,ひねた小学生のお相手,
草むしりの依頼などのありふれたお仕事なんだけど,
この二人にかかると俄然魅力を放ちだす。

多田は割と常識的な部分があり,凸凹コンビ風。
ボケと突っ込みを軸として描かれている。
涙もろい作品や,刺激的な作品,ハラハラどきどきの作品は
多いけれど,気持ちよく笑える作品にはなかなか出会えない。

もちろん小説だから笑いは武器の一つ。
本筋は二人の優しい男たちの物語だ。
二人の悲しい過去も,笑いと優しさにくるまれて流されていく。

最後の巨大な門松がとてもちぐはぐでいい感じだ。
良い作品との出会いは,とても幸せな気持ちになれる。
笑える小説は高度と聞くけれど,作るのが難しいのかな。
誰にでもお薦めできる。

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紙の本

紙の本星を継ぐもの

2018/11/08 21:54

壮大な作品。精緻なSF考証に圧倒されます。

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

びっくりした。解説によるとハードSFの記念碑的な作品とある。
ハードSFと称されるものが何なのかよく分からないが、
内容も驚きの連続でこれぞSFという感じがするのは間違いない。

ヴィクター・ハントは原子物理学者。
生来の一匹狼の気質から、メタダイン社の雇われ博士として
フリーランサーのように研究を続けている。
ハント博士の重要な発明にCTスキャンの原型のような
トライマグニスコープがある。これを使えば、物体を開いたりせずに、
外部から中身を計測して解析データにすることができる。

国連宇宙軍UNSAがこのスコープの性能に目をつけ、
一つの依頼が持ち込まれる。チャーリーと名付けられた生命体が
月の裏側で発見され、これを解析するようにとのこと。
チャーリーは宇宙服に身を包み、亡くなった状態で発見された。
なぜスコープを使うのかハントは疑問に思う。答えは明白。
放射性炭素同位元素の分析により、チャーリーは
死後五万年と推定されたからである。

劣化を防ぐため解剖しないのは当然だろう。
スコープにより新たな事実が次々と見つかる。
月で発見されたためルナリアンと呼ばれているが、
あらゆる分析の結果チャーリーは人類と一致しているとの
結論が導かれた。

議論が混乱する。
ハントは議論の収拾と情報の一元管理のため、UNSAから
引き抜きを持ちかけられ、プロジェクトの責任者に収まる。
生物学者や言語学者の助けを借り、調査プロジェクトは
次々とさらなる発見を重ねていく。

精緻なSF考証に圧倒された。
なぜチャーリーが人類と酷似しているのか、
なぜ五万年前に死んでいるのか、
そもそもチャーリーはどこから来たのか。

これ以上詳しくは書かないが、まだまだ事象はたくさんある。
そして解明された結果が驚くほど合理的なのだ。
近未来に本当にこんな発見があるのかもしれない。
真剣にそんな気持ちにさせられる作品だ。

ハントの導き出したプロジェクトチームの結論と、
ラストシーンの鮮やかさがとても印象的だ。
実に人間くさい終わり方をする。
SFに敷居の高さを感じる人にも、文句なくお薦めできる。

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紙の本

意志の力の仕組みを知る行動・認知心理学の本。

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本は、行動心理学・認知心理学に基づくと思います。
あまり詳しくないので、どちらとは断定できませんが、
なぜそんなことをしてしまうのか、どのように考えて行動すれば
いいのかに視点をおいた自己認識改革と実践の本です。
翻訳文も最高に読みやすいです。
それくらい原文の説得力も高いのでしょうね。

大事なのは、実践と結び付けてあるということです。
全十週間の講義を十章に分けて書いてあります。
おそらく八章までで大学の講義は終わり、
最後の二章は読者サービスです。

前書きで非常に重要なことが書いてあります。
「本書の使い方 「科学者」として自分を観察する」の章です。

とても冷静な本です。
従来の日本式の根性論とはまったく違います。
最初の課題として、意志力の科学の根幹をなす
キーワードが提示されます。

>「やる力」のチャレンジ
>「やらない力」のチャレンジ
>「望む力」のチャレンジ

第一章で、上記三つの意志力の要素と、脳の働きが
解説され、徐々に心や行動に及ぼす働きについて
かみ砕かれていきます。

やる力が足りなければ頑張ればよい。これが日本式。
でもそんな単純なものじゃないんですよね。
その理由が丁寧に説明してあります。
根性論に懐疑的で、その不十分さにうすうす
気が付いている人は、すとんと腑に落ちるような気がします。

取り上げるテーマは実に身近なものばかりです。
第一章には、ドーナツ・タバコ・クリアランスセール・
一夜かぎりの恋が誘惑の例として出てきます。

これは全部、気晴らし・リラックス・楽しみの
対象ばかりですよね。この本は、その効能は否定しません。
むしろ生きていくために必要な要素として肯定しています。
ただし誘惑を過剰に取り過ぎている、それだけと断じています。

実例で、脳障害を起こして欲望がなくなった人が、
生きていく気力をなくしてうつ病に近い状態になったことが
明示されています。
つまり、この本はわたしたちの気持ちを否定する
ものではないのです。
コントロールする力をつけて、幸せになろうというものです。
頑張れ一辺倒とは大きく違うところです。

実はわたし、六年ほど前にタバコを卒業しています。
やめたのではなく卒業です。
使った本は、アレン・カーの禁煙セラピーです。
この本と基本的な仕組みは同じなので、非常に納得しました。
何かを我慢しようと頑張るのではなく、もともとの自分の認識を
変えるという手法です。

例えば毎日一個の食後のドーナツがやめられない人が
いるとします。

こう考えるのです。
何がなんでも、おいしいすき焼きやお寿司を
山ほど食べた後でも、または風邪で食欲がない時でも、
その食後のドーナツは食べなければいけないものですか?

答えは書くまでもありません。
食べたいと思っていたはずのドーナツは、本当は体が
欲しているのではなくて、心の回路の作用だったのです。
そうであれば、心の認識を変えればいいだけです。
本当に欲しい時だけ楽しめばいいのですよね。

下手くそなりにいろいろ書きましたが、タバコで実践による
体験をしていますので、この本の素晴らしさをひしひしと
感じました。
きっと一回で心に沁み込ませるのは無理なので、
何回も読み込みたいと思います。

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紙の本

紙の本大家さんと僕

2018/11/18 17:07

近くの本屋さんで平積みの漫画です。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この漫画、じわじわと来ているみたいです。
初めて聞く人と、見たことだけあるという人に申し上げます。
面白かったです。掛け値なしで。
刺激過多の漫画がならぶなかで、
ゆったりとした時間と柔らかい空気に包まれた雰囲気で
異彩を放っています。

ジャンルはコミックエッセーです。おばあちゃんネタです。
ゆるふわ系の漫画では、猫や子どもが題材になることが
多いのですが、これは新たな題材と言ってもいいでしょう。

しかも題材となるおばあちゃんは赤の他人であり、
作者の間借りする部屋の大家さんなので驚きです。
多少の脚色はあるのでしょうが、ほぼ実話ではないかと思います。
真に迫る感じがして、なんとも言えない深みと
おかしさがあるのですよ。

描いた人は、お笑いコンビのカラテカのボケ担当の
矢部太郎さんです。わたしはお笑い番組をたまに見るのですが、
まったく知りませんでした。
本人も、全然仕事がないとか、売れている後輩芸人の輪に
入れないとか書いているので、知る人ぞ知るという
人なのでしょうね。

しかし面白い人ということはよく分かりました。
しゃべりは苦手そうなので本職のお笑いがどうなるかは
分かりませんが、漫画の続きは読みたいと思いました。

絵はイラスト好きの素人レベルと思いますが、
内容がとても面白いのですね。
絵柄も内容によく合っていて、嫌味な感じが全くなく、
人柄が現れているように思いました。

この漫画は小説新潮で一年ちょっとのあいだ連載されていました。
そのなかで、いくつか転機となることが起きています。

矢部さんが相方と一緒に小堺一機のごきげんように
出演したときのことです。
何が出るかな♪ 何が出るかな♪ のサイコロトークの番組です。

めったにない機会で緊張がピークになって、矢部さんは
スベりまくりました。小堺さんと相方が必死にネタ振りをしてくれて、
おばあちゃんの話になりました。仕事のない時、おばあちゃんと
血圧を測って低い記録を見て遊んでいるとかです。
このネタがかなりうけて、なんとごきげんようの企画で
おばあちゃんと矢部さんが再出演になったのです。

ロケ当日。
展開されるおばあちゃんのトーク力は見事なものでした。
漫才といえば勢いでたたみかけるパターンが多いのですが、
真に面白い人は人間力が違うのでしょうね。
おばあちゃんはとてもゆっくりのスピードで、
スタッフの心をがっつり心を掴んでしまったのでした。

この本を読んで、おばあちゃんと矢部さんの絶妙なコンビに
膝を打ちました。とても幸せな気持ちになれる一冊です。

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紙の本

紙の本家守綺譚

2018/11/11 00:23

剣も魔法もないファンタジー。正統派日本文学。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

文庫本の表紙で,雀が竹やぶから顔を覗かせている。
竹には六十年に一回という花が咲いている。
カバー装画は神坂雪佳「雪中竹」という作品だそうだ。
描き下ろしではないのに,これほど雄弁に内容を表している
表紙にはなかなかお目にかかれない。

竹取物語。舌切り雀。
家守綺譚は日本の伝統の系譜に根ざした作品だと思う。

目次を見ると二十八種類の植物の名前が並ぶ。
総数197ページなので,一話あたり七ページ前後の
掌編小説集ともいえる。
明治の頃,電燈が灯り始めた頃が舞台。文明開化とともに
失われていった古き良き日本の土着風俗が描き出されている。

綿貫征四郎という売れない作家がいる。
亡くなった親友の高堂の父親から,娘の近くに隠居することに
なったので高堂の家の守をしてくれないかとお願いされる。
その高堂の家に住むようになった所から話が始まる。

一話目はサルスベリ。夕方から風雨が激しくなり夜半に収まる。
それと同時にキイキイという音が掛け軸から聞こえ始める。
掛け軸を見ると雨の風景になっており,死んだはずの高堂が
ボートを漕いで近づいてくる。
綿貫は「どうした高堂」と声をかけ,高堂は
「なに,雨に紛れて漕いできたのだ」と答える。
なんでも,庭のサルスベリが綿貫に懸想をしているので
伝えに来たとのこと。

考えてみると掛け軸の中の親友と話をするなんて
あり得ないのだが,なぜかとても自然だ。
私は「懸想をしている」なんて言葉遣いにもまいってしまった。

全編こんな調子だ。サルスベリに惚れられた綿貫は,
木陰で本を読んでやるようになる。
河童や人魚,小鬼もそれぞれの掌編に登場する。楽しいなあ。

梨木さんはイギリスにしばらく住んで現地の童話作家に
師事していた。その影響か初期の作品はイギリス人が出てきたり,
古びれた洋館が舞台になったりしていたが,
日本の伝統を見つめる作品も徐々に増えてきている。

伝統的だからいいというつもりはないが,剣と魔法の物語で
登場人物が日本人の名前だったりする時の違和感は,
やはり事実として感じるのである。
お互いのいいところを取入れ,新たな日本ならではの
物語を読みたい。梨木さんに答えを一つ見せてもらった気だする。

自分の体は,やっぱり味噌としょう油でできているんだなあと
強く実感したのであった。自分の足元は大切にしないとね。

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紙の本

紙の本神様のカルテ 2

2018/11/03 10:50

医者の仕事に真摯に向かう姿が描かれています。好きな方向に流れました。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

神様のカルテの続編。
これまで何回かデビュー後の第一作を読んだが,人気作家でも
失敗している事が多く最初は心配半分であった。
理由はいろいろあると思う。
神様のカルテ2も明らかに雰囲気が変わった。
私にとっては前作で物足りないと思っていた部分が大幅に
増えたので大変嬉しい。前作に引き続き,出会いに感謝である。

主人公の一止(イチ)は信州の救急病院の内科医の設定だ。
細君と呼ぶ妻の榛名(ハル),御嶽荘の住人の男爵,
病院の医師や看護婦の面々。基本的に前作の設定を踏襲し,
今回は医学部の同級生である辰也が新登場となった。

辰也はイチの医学部時代の将棋部仲間であり,
イチが部に引き入れた千夏と結婚した。
首席で卒業後に東京の大病院に勤めていたはずなのだが,
なぜかイチのいる病院に異動してきた。

しばらく後,辰也が娘と二人だけで実家の蕎麦屋を
頼ってきていることが分かる。 出産・育児により時間制限のある
勤務をしていた妻は,ある時患者の家族に徹底的になじられる。
それをきっかけに,妻は仕事へ異常に執心するようになり,
妻と別居状態になったことが分かる。
医者が人間らしい生活を送れないことに辰也は疑問を持ったのだ。

今回のテーマはまさにここにある。

後半,古狐先生と仰ぐ副部長先生に悪性の病気が発見される。
イチとハルは,何か素敵なプレゼントができないかと知恵を絞り,
あることを皆で実行する。翌日,事務局長がこれを見咎めた時,
イチは思わず叫ぶ。
「医師の話ではない。人間の話をしているのだ!」

夏川さんの最も伝えたかった言葉だと思う。
他にも同義のフレーズが作中に散りばめられている。
前作は過酷な勤務を嘆きつつも,仲間に助けられるほのぼの
エピソードが中心だった。今作は過酷に対する人間の尊厳が中心だ。
医師に限らず,多くの会社は同じような状況にあるのではないか。
もちろん程度の大小はあるが決して人ごとではない。

古狐先生は最後に穏やかな死を迎える。
イチとハルは思いを抱えたまま御嶽山に登る。
「木曽のなぁー,中乗りさんはぁ・・・」
二人の背中から歌が聴こえた気がした。読んでよかった。

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紙の本

紙の本沖で待つ

2018/11/02 01:26

なんというか、完全に脱帽してしまったのである。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

絲山さんの評判を書評で知ってから、ぽつぽつ読み始めた。
本作は私にとって三冊目の読了となる。
この書評は、冷静に冷静にと自分に言い聞かせながら書いている。
そうでもしないと暴走してしまいそうだ。

「勤労感謝の日」「沖で待つ」「みなみのしまのぶんたろう」の
三作が収められる。そして今回も解説は身内みたいな人。

「沖で待つ」で芥川賞を受賞されている。
そして「みなみのしまのぶんたろう」で暴走している。
芥川賞と直木賞は、作家さんにとって大変なお祭り騒ぎらしく、
なにか言いたくなるのは分かる。
しかしそれで「みなみのしまのぶんたろう」とはね。
もう審査員を引退された人だが、あんなのはほっとくのが
一番いいように思うのだが。

「勤労感謝の日」。冒頭を引用する。
「何が勤労感謝の日だ、無職者にとっては単なる名無しの一日だ。
それともこの私に、世間様に感謝しろ、とでも言うのか」

やさぐれているのは恭子さん。
会社を飛び出して、今は失業保険をもらう身だ。
暇そうにしていたところをご近所さんに声をかけられ、
半ば強引に見合いをセッティングされてしまう。
出てきた男は、鼻持ちならない商社の男。
あんパンの真ん中をグーで殴ったような顔らしい。

お見合いを抜け出して渋谷で飲み、帰る途中でまた飲む。
ドタバタの笑いをこらえ、散りばめられた珠玉の一文に酔う。
どっぷりはまりこんでしまった。

「沖で待つ」。牧原太こと太っちゃんと、及川さんの話だ。
絲山さんの会社員時代の経験がふんだんに盛り込まれている。
福岡に新入社員で配属された二人は、つかず離れず、
助け合いながら過ごしていく。
やがて結婚や転勤などの当たり前のレールに乗りながら、
絲山さんが書くとぜんぜん当たり前じゃなくなる。
二人だけに交わされる秘密の約束。
そしてその約束を果たす悲哀は、心をわしづかみにして離さない。

「沖で待つ」は、絲山さんの魅力の大事なところが詰まっている。
愛情と孤独。これまで読んだ中で考える限りでは、
それが絲山作品の本質だと思っている。

愛情は、親愛なる情の意味で、男女だけや友情だけでなく、
もっと幅の広い感情だ。
そして孤独。他者から自立することによる心の独り立ちである。

これまでに読んだ三作品に共通して感じられる。
「沖で待つ」を読んではっきりと自覚した。そして愛情と孤独は、
表裏一体のようにいつだって深く絡まりあっているのである。
愛情と孤独を、安っぽくなく、こんなに洗練して書く作家さんは
なかなか出会えない。

この人は文壇での成功なんかどうでもいいと思っているはずである。
恐ろしいくらい地位と名声に不遜で、現物である小説にこだわる。
解説も現場第一。
自分の作品を読者が分かってくれればいいという姿勢の現れである。

だから、例えば映画化を通した大爆発なんてものは
起きにくいのかもしれない。実際、デビュー作が映画化された際に、
大人げない問題を起こして訴訟に発展している。
自分の作品が都合よく切り取られるのが我慢ならなかったのだろう。
でも映画やテレビがおいしいところをお祭りにするのは当たり前。
作品の世界を守るためといえば聞こえはいいが、
そんなことばかりしていたら売れるものも売れないよう、
と言いたくなってしまう。

徹底的な現場第一主義。その下手くそな生きざまの絲山さんを、
私は圧倒的に支持してしまうのである。

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紙の本

紙の本火車

2010/10/07 09:20

ミステリーの王道を極めた作品だ。直木賞を取れずに物議をかもしたらしい

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 宮部みゆきさんは大変な売れっ子作家である。このことは疑いようがない。もしその中でベストスリーを上げろと言われれば,私は間違いなく「火車」を加える。

 主人公は,休職中の本間刑事。ある日,疎遠にしていた甥の和也が現れ,婚約者を探して欲しいと持ちかける。本間の妻の交通事故死の時,葬式に顔を出さなかった薄情者は,エリート銀行マンの設定。休職中の叔父を利用しようとするさもしい輩だ。
 本間は,昔取った杵柄よろしく調査を始めるが,次々に判明する不可解な事実を前に,体ごと絡め取られていく。くだらない甥っ子に,宮部さんがどんな処分を下すのかは読んでからのお楽しみ。そして物語は,そこから真髄に入る扉が開かれるのである。

 謎解きの入口になっているのがカード破産だ。昨今は状況が異なりつつあるが,人間の本質的な部分は何も変わらない。時事問題をうまく取り入れながら,単なる流行ものとは大きく異なる作品の深さが実感できる。

 この話ほど,先が見えず,トリックに欺かれ,最後の結末でストンと切り落とされたことはない。文庫版で,あと書きまで加えて584ページの大作。これだけの物量ながら,視点がぶれず,無理なトリックや強引な展開もない。犯人を狂気に走らせたくだりも目を引く。

 主人公を休職中にして,警察の協力を最小限にしたのも見事。探偵と犯人,という最もオーソドックスなスタイルであるために,胸に湧く高揚感がたまらない。

 ラストシーンの,話の完結の仕方がとても個性的だ。逆に,そのために直木賞を逃したらしいのだが,はてさて。そんな本質的でないことに拘ることなくお楽しみあれ。
 書評投稿数の多さがみんなの答え示している。

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紙の本

紙の本ストーリー・セラー

2018/11/10 23:16

読書好きの心を捉えたセリフが満載。激しくオススメ。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「阪急電車」で気に入った作家さん。
「阪急電車」は短めにエピソードをつなぎ,心温まる話で
仕舞いをつけてあり好印象であった。
軽妙な語り口に新鮮なものを感じた。

本作「ストーリー・セラー」を読んだら,物語の重さと愛情の
深さが加わり,得意技で怒涛の攻めを受けてしまった。
冗談抜きで泣きそうになり,本当にヤバかった。

Side Aの終わりがちょうど電車の改札を抜けたところだったから
助かった。挙動不審者一歩手前。踏みとどまった自分を
思わず誉めてしまった。でも電車を下りてから二宮金次郎を
やっちゃったから,充分挙動不審。

Side AとSide Bで対をなす物語。
Side Aは女性作家が病気にかかり,仕事を辞めないと
死に至ると医師に宣告されるところから始まる。
そんな女性作家と夫の話だ。

Side BはSide Aを受けて立場が変わる。
女性作家の夫が死に至るかもしれないという設定から話が始まる。

どちらの話も,夫は無類の読書好きで「本を読む側」であることを
意識している。妻は仕事の傍ら小説を書いていて,
夫から言わせると「書く側の人間」として区別されている。

Side A,Bとも本を読む側の心理描写が抜群である。
数々の名言集といっても過言ではない。
書評を読むほどの本好きの皆さんであれば,心に響くこと間違いなし。
きっと有川さんもこんな気持ちで読んでいるんだと思う。

有川さんは書く側の人間だから,不思議と書く側の描写は
あまり際立っていないように感じた。
物語の種を自然にすくいとってしまうから書き切れないのだろう。
第一,自分の姿ってあんまり見えないものだしね。
これに対して「本を読む側」の人は観察対象だから
非常に魅力的だ。実に面白い。

夫婦の話だから,ちゃんと恋愛話も絡んでいる。
恋愛物語と読書好きの物語。
どちらから読んでも私は降参してしまった。

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紙の本

紙の本ボーナス・トラック

2018/11/07 22:55

こりゃあ最高です。みなさんの書評が増えている理由が分かります。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作。
他に受賞歴はないので、初見にデビュー作を選択した。
いやあ、笑った。感動した。通読して、ほんわかした。
他作の書評で感じていた通りの印象だ。
ニコニコしながら読める、三枚目小説である。

創元推理文庫だが、ミステリー要素はほとんどない。
キャラクター重視の漫才みたいな軽やかさが魅力の物語だ。
表紙をめくった一枚目にある、まとめ文から引用する。

「・・・草野哲也は、雨降る深夜の帰り道、轢き逃げ事故を
目撃する。(中略)死んだ青年の姿が見えるなんて、
かなりの重症だ・・・。轢き逃げ犯捜しの顛末を、主人公・草野と
幽霊のふたつの視点から瑞々しい筆致で描いた著者デビュー作」

きれいにまとまった文章だけど、いまいち伝えきれていない感じだ。

草野はハンバーガーショップの社員で、バイトを統括しながら
店を切り盛りしている。
合計三人の社員が、ローテーションを組んで店を回している。
草野はまだ経験が浅く、深残業やサービス残業で乗り切りながら、
業務をこなす真面目人間だ。ちょっぴり気が弱く、スマートではない。
そこに、轢き逃げ事件の発生と、幽霊との出会いを通し、
変な展開に巻き込まれていく。

何といっても、人物造形がいい。
幽霊が車に轢かれた理由も、アホ丸出しである。
もしお店に寄った帰りだったら、などと考えて吹き出しそうになる
(何のお店かは本文でお楽しみ下さい)。

疲れ切った草野は、人間らしく余裕を取り戻していくし、
幽霊は能天気全開から草野に影響されて律義さを
持つようになる。この混ざり具合がなんとも心地よい。

表面的には文学的な感じはしないのに、こういった人間模様が
丁寧に描かれているからこそ、ページをどんどんめくってしまうのだろう。
早速、二冊積読にした。余談だが、表紙がやぼったい。
こんなところまで三枚目をかまさなくていいというのに。

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紙の本

紙の本幸福な食卓

2017/05/18 22:06

生きるのが下手くそな家族の物語。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

素敵な作品との出会いは嬉しいが、素敵な作家との出会いは
もっと嬉しい。その作家の他の作品をまだ読んでいないのだから、
宝の山にあたったのと同じことだ。
新規開拓には失敗がつきものである。
でも、こんな出会いがあるから、たまらない。

幸福な食卓の冒頭を引用する。
>「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」
> 春休み最後の日、朝の食卓で父さんが言った。
> 私は口に突っこんでいたトマトをごくりと飲み込んでから
>「何それ?」と言って、直ちゃんはいつもの穏やかな口調で
>「あらまあ」と言った。

出だしで完全につかまれてしまった。
一行目もインパクト大だし、狙いすぎかもと、分析している先から、
三行目・四行目で後頭部をはたかれる。
なんだ、何がおきたんだ、いったいと、頭の中はパニックである。

のんびりとした空気感。でも、口に出しているセリフは過激。
とても不思議な香りが作品を包んでいる。
文章も、ぐいぐいという感じではないのに、小気味よく次々と
引っ張られてしまう。間の取り方に絶妙なものを感じる。

主人公は中学生の佐和子。父は変なことを言い出すし、
母は家出している。兄もなんだかとぼけている。
そんな不思議な家族が、不器用に過ごしている。

「幸福な朝食」「バイブル」「救世主」「プレゼントの効用」の
四章からなる。
でも、何となくだが、「幸福な朝食」が読者の反響を得て、
続きが書かれた気がしなくもない。

微妙に四編が独立しているし、四編目の最後の仕舞いは
短編の結末であって、この家族の物語の終わりという気がしない。

佐和子の心の痛みや安らぎ、父の、母の、兄の気持ちの動き。
ほんのりと漂う家族愛をかみしめながら、独特の空気感を
満喫した。ちょっとごつごつした朴訥な部分と、不思議な
時間軸に浸れる作品である。

ひょっとして、いつか続編がでないかなあ、などとほのかな期待を
してしまった。

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紙の本

紙の本きつねの窓

2018/11/25 20:34

私の教科書にはなかった。この年になって出会うなんて。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

教科書に採用されることが多い作品とのことだ。
知ったきっかけは全然別なのだが、こんな素敵な作品を
いままで知らなかったなんてちょっともったいない。

作品集「ひぐれのお客」に引き続き読んだ。
このお話も一筋縄ではいかなくて、短い童話の中で何かが
じっと息をひそめている。掴もうとしてもするりと逃げられそうで、
なんだか心がもわりと包まれてくる。

鉄砲打ちの男が、歩きなれた山道でふいに野原に出くわす。
いつもの杉林は姿を消している。
野原で休んでいると、子どもの白ぎつねが目の端を動く。
男は白ぎつねを追いかけるが、ふいっと見失ってしまう。

その瞬間、「いらっしゃいまし」と後ろから声をかけられる。
男は小ぎつねが化けたんだろうとすぐに見抜くが、
巣を突き止めてやろうと思いつき、そのまま小ぎつねの演技に
つき合ってあげるのである。

きつねの窓は、そんな小ぎつねから教えてもらう魔法の窓だ。
小ぎつね特製の青い絵の具で指を縁どり、窓枠の形を作る。
そうすると、両の手の人さし指と親指で作る青い窓から、
次々とこころの中身が浮かんで見えるのである。
小ぎつねが見たもの。男が見たのも。
そしてきつねと鉄砲打ちである間柄の二人。

指の窓から見える風景に、二人の心象が幻想的に
からみついていく。でも童話だから無粋な地の文はない。

行間がたくさんあって、頭にたくさんのお話が浮かんでくる。
自分の心にできた窓から、それこそ想いが収まりきらずに
ほとばしる作品だ。出会いに感謝。

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