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  3. チヒロさんのレビュー一覧

チヒロさんのレビュー一覧

投稿者:チヒロ

32 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本こなもん屋馬子

2012/01/24 08:53

大阪のこなもん、おそるべし。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

馬子は本名・蘇我家馬子(そがのやうまこ)。
所謂デブで、とれかけのじりじりパーマでときには凶暴な大阪のオバちゃんだ。
馬子にこき使われる使用人の少女がイルカ。
どつかれようが、何されようが黙々と働く娘。
この二人が、ある時は宗右衛門町、またある時は天神橋筋商店街などに、
ある日忽然と現れる、きたなシュランにノミネートされるような汚い店。
看板には「こなもん全般 なんでもアリマ記念」とかなんとか書いてある。
お好み焼き、うどん、ピッツア、豚まん、その時々で専門は違うけど、
どれも絶品であることは間違いない。

馬子・イルカの大化の改新コンビが、ふらっとやってきた客の、様々な悩みを解決してみせる。
大阪ならではのボケ・突っ込みも盛りだくさんの、まちがいなくB級なミステリ。

そしてこのこなもん屋、ある使命を果たすと、その後忽然と姿を消すのですよ。
後日、世話になった人間が訪れると、もうそこに在った形跡すらなく、
周囲の人も誰もその存在の在ったことすら知らない。

狐狸妖怪の類でもないのだろうけど、「こなもん」の神様が式神を連れてやらかしたとしか思えないようなお店、
ちょっと行ってみたい気がする。

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紙の本11 eleven

2011/08/30 12:38

津原さんの物語はあばれ馬のよう。しっかり目を開けていないと振り落とされる。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

11作の短編集で、
「五色の船」2011「星雲賞」参考候補、
「延長コード」「ゼロ年代日本SFべスト集成」収録
「テルミン嬢」第22回「SFマガジン読者賞」国内3位・2011「星雲賞」参考候補
「土の枕」年間日本SF傑作選収録 等々、
短編として様々な方面で注目されているものばかり。

私が気になったのは「五色の舟」と「土の枕」。
「五色の舟」は、第二次大戦中、見世物で糧を得る一座の物語。
お父さんと呼ばれる座長は足がなく、小男の兄、生まれつき腕の無い「僕」と、
脊椎の曲がった桜、牛女と呼ばれた清子さん。
昔、祭りなどに登場した怪しげな見世物小屋の興行である。
時折人格を無視した見世物をしていても、みな結束は固く、ひとりなることを恐れて寄り添って暮らしていた。
そこに「くだん」という怪物が生まれているという情報が入る。
過去・未来を包み隠さず口にするという「くだん」は軍に拉致されていた。
「くだん」が明かした未来とは・・・


その不自由な体を持つ者の、生殺権を握る者への諦めと服従はそれを通り越し、
矩形の家族愛にまで育っていた。
それはあまりに衝撃的で言葉が無い。
そして「くだん」が示す、現実から逃れるために用意されたもうひとつの世界とは。

「土の枕」はそれほど常軌を逸した物語ではなく、
地方の名士の長男が、出征する小作人の身がわりに戦地へ行くという話。
九死に一生を得た男が戻ってきた故郷。
そこにはもう生きていくべき自分の場所が無かった。

どれも津原さん流の奇妙さが漂い、
ぐっと入り込んで読み進むと、いきなりぷっつりその世界が断ち切られるようなラストがやってくるものもある。
どうにも、リズムを作らせてくれない居心地の悪さ。
その不調和にすら慣れさせてくれないフェイク。

しっかりかじりついて行かないと、理解する機会を失うかもしれない不安感は最後までつきまとってくる。

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紙の本仙台ぐらし

2012/02/20 19:32

私達は何も言えない。どんな言葉を投げかけても上滑りする気がして。

43人中、43人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あの震災のあと、私達は仙台在住の伊坂さんは大丈夫だったかといろいろ気にしてはいたのですが、
無事とは聞いてもその後、彼からの発信は途絶えたままでした。
それを、地震前の地元での毎日を、彼がいうところの「少しだけフィクションを加えた」ノンフィクション風なものとともに、
地震の瞬間、どこでどうしていたか、それからどうやって今日まで暮らしてきたかが、
「何を書けばいいのかわからない」とまで思わせた心の痛手など、
真面目に向き合ってあらわされています。

震災前の、平穏な日々の話として、とても自分は心配症だと語る。
頻繁に起こる地震にあらゆる妄想が働いて、
「いつか大きな宮城県沖地震がくる」という不安を口にするくだりは、
あまりにも早く現実になった今としてはちょっと鳥肌が立ちそうになります。
そして彼の執筆活動の習慣である、仙台の町のファミレスやカフェで原稿を書いていたまさにその時起こった地震。

幸い自宅や家族に大きな被害は無かったけれど、その後の街の大変な様相に
言葉をまとめることができなかったと語る。

この本の前半の、軽妙で心配症でそそっかしい彼と仙台の街の関わりが温かく面白く書かれている分、
後半の心がまとまらない様子は、どれだけ大地震が根こそぎ人々から持って行ってしまったのか、
やっぱり体験した人でないと解らないし語れないことなんだと思い知らされました。

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本好きが聞いてみたいツボ

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読書番組の司会をされていたご縁なのか、月刊誌に掲載された数々の作家さんとの対談をまとめたものです。

大崎善生、角田光代、森絵都、荻原浩、東野圭吾、三浦しをん、北村薫、万城目学・・etc

あの語り口まで想像できます。
さぞかし、柔らかな物腰で静かな会話をされたんでしょう。

どの人にも必ず聞いた質問。
子供のころの読書は?
作家になろうと思ったのはいつ頃?

驚いたことにほとんどの方が、かなり早いうちに作家になろうと思っていたこと。
そして、多くの人が他の勉強はにがてだったこと。
つまりただでさえ視野の狭い子供の頃に、「それしかなかった」かのような作家への道を選んでいたと語ったこと。
でも、おそらくそれしかない、のではなく、それがよかったんだろうと思ってはいますが。

子供時代の読書環境はやはり非常に大事らしい。
周りにたとえ本を読む人間がいなくても、いつでも本を与えてもらえる用意があること。
そう言えば昔は、本だけはすんなり買ってもらえた。
というか、本さえ読ませておけば頭がよくなる、という固定観念がおとなにはあったもんです。

森絵都さんの章で、印象的だったこと。
小学校の先生が、読後感想文ではなくて、
「本に出てきた作中人物の誰かに手紙を書きなさい」と。
感想文はいやでも、手紙なら書けそうです。
そのほかにも、これは近頃の学校ではありそうだけど「物語の続編を書いてみましょう」とか。
いい先生に会うことは、読書に限らず、人生においてもとても重要なことですよね。

森さん以外にも、万城目さんのも。
「ブコウスキーの作品を読んだら、品のない乱暴な人物ばかりで、
自分の小説はなんて行儀よくてつまらないんだろうと」
ブコウスキー、たしかに自堕落な男が多々出てくるけど、なぜか面白い。

桜庭さんの武勇伝というべき子供時代の話。
「私より先に難しい本を読んでいる子がいたら、競うように難しい本を読む。
ガルシア=マルケスの『百年の孤独』とかもそうで・・」
小学生のくせに「百年の孤独」
その時張りあっていた子もただものじゃない。

小川洋子さんの作品について児玉さんが語る。
「『六角形の小部屋』で、仲の良い恋人同士がパエリアを作っている時、
ある瞬間から別れ話になって行くというシーンを読んで・・」
この作品が収録されている『薬指の標本』積ん読していたことを思い出し急に読みたくなったり。

でも江國さんに言わせると、積ん読しておくだけでも力になるんだそうな。

こうして、豪華な顔ぶれの対談で、結局、今ある場所にたどりつくための起点となったのは何だったのか。
彼らの読書にまつわるエピソードとともに、
そのルーツを児玉さんが掘り起こして見せてくれた本でした。

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紙の本晴天の迷いクジラ

2012/03/01 14:05

苦しいしつらい、だけど生きて行くんだよ。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あまりの忙しさに恋人にも振られ、気がつくと鬱になっていた由人。
その由人が勤める、倒産間近の会社社長・野乃花、彼女にも人に言えない過去があり、
そして乳児の頃に亡くなった長女のことを思うあまり、次女の自分に必要以上に干渉する母を持つ正子。
この3人の壮絶なこれまでが語られる。

あの「ふがいない僕」の時のように、想像するには過酷過ぎる日々を生きてきた彼らの選択肢は、
「死」であってはいけないんだけど、それが一番簡単なのかと勘違いしそうなくらい、
視野が狭くなって生きる道を見失った気持ち、伝わってくる気がする。

誰かに自分の落ち度を責められたら、反論しようがないほど自分が悪いと思う野乃花も、
小さいころから刷り込まれた母の異常愛にあらがうことができ無かった正子も、
もういいじゃない、そんなに苦しまなくっても、と言いたい。

彼らの心を救うのは、海辺の村で出会う老婆とその孫。
同じ苦しみを知っている老婆の皺だらけの両手がくるんでくれる温かさに、きっとこれを読む人は打たれるはず。

前作同様、「生」について考えることは多いけど、それにもまして「死」は彼らに密着したものとして扱われて、
大事な人の死を、残されたものはどう受け止めて生きていけばいいのか、
大きくて深い問題を投げかけていると思う。

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紙の本すばらしい新世界

2011/03/16 08:37

今の日本がもう一度考えるべきテーマも隠されているのでは?

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

10年前に、新聞に1年間掲載されたもので、かなりの長編です。
飛行機を3回も乗りかえ、その後は馬に乗って空気の薄さに慣れるために何日もかけてたどりつく、ヒマラヤの奥地が舞台。

そこで貧しく慎ましく生きる人々には丘の上まで続く田畑に水を送る術がありません。
貯水池まで水を送るポンプを動かすエネルギーさえあれば・・
暖房もままならない村人たちは山の木を切り、村外からも木を伐採に押しかけ、
その結果、木々の無くなった高地に降った水が集まって流れ、下流のインド、バングラデシュなどで洪水を招く。
コストもメンテナンスの手間も極力抑えた小さな風力発電機が必要でした。
風力発電の技師である主人公・天野林太郎はヒマラヤへ向かいます。

これは、最初は秘境の地での風力発電から始まるエコを主題とした作品かと思いきや、
次々と、章を追うごとにその冒頭で作者がテーマを導き出す。
途上国でのボランティアとは。
国際社会の在り方とは。
エネルギーの将来は。
親子・夫婦の在り方とは。
そして日本と外国での宗教の在り方、感じ方とは。
ヒマラヤでの穏やかな時間の中で、林太郎はその問いの答えを探します。

先進国から途上国へ、分不相応な最新設備が寄付されても、
彼らの生活に根付いていなければ、壊れて朽ち果てるだけ。
ボランティアや援助は、現地の住民みずから考え作り動いていけるものでないと意味が無いのだということ。

科学が進んでいることが必ずしも幸せというわけではないということ。
林太郎は、そこでめぐらせた考えや気持ちを毎晩日本の妻にメールで送り話し合います。
そして妻からは、かなり的確な意見やアドバイスが返ってくる。

日本を離れて、家族を離れて、初めてその存在を思う。
そして見知らぬ土地、しかも日本とは正反対の文化を肌で感じて、
その両方を俯瞰した位置で考えることが出来る。
そこは単身ヒマラヤにやってきた彼の息子にとっても限りない新世界でもありました。
「新世界」というのは、もちろん見知らぬ土地と文化をさしつつ、
それを体感した人間が見出す、新たな自分自身かもしれない。

この作品を読んだ人が林太郎らの視線を借りて、今の日本の抱えるエネルギーを始めとする様々な問題を、新たに考え直すきっかけになればと思っています。

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紙の本漁港の肉子ちゃん

2011/09/16 06:24

これもひとつの母と子の形

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

語り手は、肉子(本名・菊子38歳)の娘、小5のキクりん(本名・喜久子)。
肉子ちゃんは、10代の頃からさんざん男に騙され、口で言えないようなひどい目に会って、
やっと北陸の港町に落ち着いた。
言動がいつも突飛な肉子ちゃんは、キクりんをふりまわす。
でもキクりんは呆れながらも肉子ちゃんのことが好きだ。

服装の趣味は悪いし、どんどん太っていく肉子ちゃんに比べ、
キクりんは誰もが認める器量よし。
小学生のくせに「フラニ―とゾーイ」屋「悪童日記」などを読む。
何もかもぜんぜん似てない二人が、仲良く愉しく生きている。

西さんの作品にしばしば登場する、関西弁の不可思議な女性たち、
「きりこについて」の「きりこ」だったり、「円卓」の「こっこ」だったり。
どうやら肉子ちゃんはそれと同じくくりのキャラのようだ。
肉子ちゃんは、人のいうことは絶対疑わない。
いつも前向き、いつも大声。
そんな肉子ちゃんが、女手ひとつで育ててくれたことを、
キクりんはちゃんと心に温かく感じている。

「今すぐ昔にタイムスリップして、小学校5年生の肉子ちゃんと、友達になりたいと思っていた。
もし誰かに、デブだとか、ブスだとかからかわれていたら、今の私だったら、
全力で肉子ちゃんを守ることができると思った。」

最後に明かされる、肉子ちゃんの半生。
肉子ちゃんが誰にも明かさなかったキクりんとのこと。
思わぬところで泣かされる。

一方、今までにも増して、笑いのセンスもパワーアップ。
キクりんたちの会話も笑わせる。

「キクりん、何読んでるん?」
「サリンジャー」
「サリンジャーっ!なんとか戦隊の名前みたいやなっ!」

投げやりにも思わせる作風のくせに、なぜか惹きつけられる、最近の西さん、
この作品の舞台のモデルがほんとは石巻で、東日本大震災のあと、連載していたこれをやめようかと悩んだこと。
でも、以前のキラキラした石巻のおかげで生まれた「漁港の肉子ちゃん」を慈しもうと決めたこと。
そんな思いがあとがきに述べてあった。

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紙の本日の名残り

2011/06/16 18:56

でも人生の夕暮れは哀しいばかりではない

8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

同業者の父を尊敬し、自らの職務にもプライドを持ち、
執事としての高みを常に目指すスティーブンス。
敬愛するダーリントン卿なきあとの新しい屋敷の所有者ファラディにも、
英国風の対応を心掛けつつも新しい試行の必要も感じている。

そんな折、数日間の休暇を得て、屋敷の元女中頭ミス・ケントンを訪ねて車でひとり旅にでる。
イギリスの牧歌的風景を楽しみ、行く先々の人々との交流の合間に、
昔の栄華を極めたダーリントン・ホールでの出来事や、
自身の完璧な執事ぶりの記憶を楽しむスティーブンス。

そこに特別な思いを呼び起こす、晩年の父の姿。
重要な会合があった夜、重篤な状態で伏していた父が尋ねる。
「わしがよい父親だったならいいが・・・。そうではなかったようだ」
「父さん、いま、すごく忙しいのです。また、朝になったら話にきます」

何回も父は聞いた。いい父親ではなかったかと。
スティーブンスは、父を偉大な執事だと絶賛するも、果たしていい父だったといっていただろうか。
今わの際の最後まで「いい父だった」の一言を言わない彼に少しいらだった。


そして今にして思えば恋の始まりの予感もあったミス・ケントンとの時間。
今回の訪問も、淡い期待がもしかしたらあったかもしれない。

短い再会ののち、ひとり桟橋から見る夕日に、
初めて自分の最も輝いていた時代の終わりを知らされて涙する。

これまでの道を悔いているのではなく、むしろ誇りに思っているのだと思う。
過ぎて行った過去の眩しさと、
その頃の自分よりも劣ってしまったことを知る口惜しさ。
様々なものが落ちていく日の美しさと一緒に、彼の中に押し寄せてきたのではないかと。

スティーブンスはとても有能な執事だった。
でも彼の人生は?彼はしあわせだった?
本当の幸せって何なのか、ふと考えてみる。

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紙の本紙の月

2012/04/19 09:56

踏み外してしまわないよう、自分を戒める。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

普通の家庭で育って、普通の結婚をしたはずの梨花。
どこで間違えてしまったのか、あとから考えても彼女にはわからない。

営業の帰り、買いもので少しお金が足りなかった。
あとでおろすとして、とりあえ、その前に預かってきた顧客のお金を借りて支払った。
その時の何気なく使った記憶がずっとあとを引いてしまう。

いつか返すつもりでどんどん増えて行く使い込み。
不正を隠すため上塗りされていく嘘。
そしてやってくる破滅の時・・・

これ、すごく怖い。
「八日目の蝉」のような、元恋人の子供を連れて逃げるという、非現実的な罪ではなく、
誰でも経験があるような「ちょっと買い過ぎたな」と思う瞬間。
それがどんどん膨れて流されて麻痺していくか、
「あぁ、いけない、いけない」と心にとめてまた日常にかえっていくか。

梨花の転落のもうひとつの始まりは、自分よりずっと若いある男にめぐりあってしまったこと。
こんなきっかけだって赤ん坊を連れ去るよりは、ずっと高い確率で遭遇するかもしれないし。

とにかく、ここでまた、角田さんお得意の、
罪を抱えて切羽詰まって、誰にも相談できずにのめり込んでいく女の心情が迫ってくる。

あぁ、無駄遣いはほどほどにしようと自分への戒めの気持ちも込めてふりかえってみた。

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紙の本ねじれた文字、ねじれた路

2011/11/29 17:44

どこまでも濃いミシシッピの森より深い孤独を想う。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

田舎町で行方不明になった少女。
誰が連れ去ったのか、狭い町では様々な憶測が飛び交う。

まるで「ラストチャイルド」のようだけど、私はあれがあまり好きじゃない。
この「ねじれた文字」は、もっと奥が深い。
ミシシッピの田舎の森の奥深く、少年たちが分け入る所の自然の密度の濃さ。
鬱蒼とした木々が肌に触れるほど迫ってくるのに、うっとうしさより親密な美しささえ感じる。

そして町から疎外され、孤独で、でもその毎日はきちんと繰り返し続けられるラリーの人生。
あまりに深く果てしない孤独で胸が苦しくなる。
誰か助けてやれるものはいないのか?

幼い頃に彼の母は毎晩神に祈る。
「どうか、息子の吃音と喘息を直してください。そして、たった一人、友達をください」
母の祈りは神さまにとどいたのでしょうか。

25年後、巡り合ったかつての少年2人はどうなるのか。
ミステリというより、2人の人間の真実が胸を打ちます。

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紙の本誰にも書ける一冊の本

2011/07/05 08:06

父親の昔話なんて子供はほとんど聞いちゃいないし、信じちゃいない。でもそれでいいのかな?

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

危篤の父の横で、父の書いた私小説(自伝か創作かは最後にわかる)を読むことになった長男の「私」。

北海道の開拓移民の息子として育ち、少年期はそのきかん坊の性格から、
友人とヒグマを撃ちに行き、襲われて背中に大けがを負う、という記述に、
「私」は「たしかこれは農耕機に挟まれたという話だった」ことを思い出す。
「私」はその書き物にたいして興味も無かった。

しかし、読み進めるうちに、父本人からは聞いたこともない、さまざまなエピソードを知る。

戦時中、予科練に志願したという父。
軍隊にいた事は知っていても、戦地に行く前にどうにか終戦を迎えた、くらいに思っていた。
ましてや、今も飛行機が嫌いな父は外国なんていったこともないだろうと。

父は厳しく過酷な予科練の日々を実は懐かしく思い出していたのだった。
教官からの制裁にも耐え、仲間とともに乗り越えたこと。
そして南方の戦線へ向かう途中の艦隊が敵に襲われ、九死に一生を得たこと。
父はなんと、最前線まで行って闘っていたのだった。

その後、炭鉱会社に就職し、不当解雇に対して闘ったあと、
本社から遊覧船の切符切りに飛ばされたりしたのち定年を迎える。

「私」は自分が父の人生を知らなさすぎるのは、父が無口だったからだと思っていた。
でも今、自分は若い頃のことを、娘に話したことがあっただろうか、と考える。
いや、現在の仕事のことすら彼女は理解していないだろうと気付く。

折しも降り積もる雪のために、通夜はほとんど身内のみのさびしいもの。
明けた葬儀も多くの参列者はあてにはならなかった。
一線を退いた老人のそれはこんなものであろうと「私」は思う。

荻原さんという人は、こういうストーリーをいかにも悲しげでなく、
時にユーモアも交えてさらっと書くことが上手い。
さらっと、しかもすこしだけ切なく閉じようとする父の人生。

葬儀を行う自宅前の雪かきをしている「私」、
その向こうから、喪服を着た人々がやってくる。
そのひとりひとりが誰であるかを「私」が認めた時、この物語を読む人は絶対、泣くのだろう。
いや、泣くかもしれない、ということにしておこうかな。
もちろん、私は、泣いた。

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紙の本下町ロケット 1

2011/04/11 17:28

小さいからって負けるとは限らない。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

経済社会においてのその弱肉強食な上下関係モロ出しのどす黒い部分を披露しつつ、
微力な中小企業で働く人間の、磨けば数少ない武器にもなる「技術」、
その高みを目指す力が与える「夢」をこのお話は見せてくれる。

常日頃から勤勉で正しい技を磨いてきた町工場が、大企業の強引さに翻弄されるのは、判官贔屓の日本人としてはイライラするほど口惜しいもんです。

ここに登場する佃製作所も、小さいがために小突かれ欺かれ、
果てはむしり盗られそうになるのですが、
きちんと生きていればちゃんと神様が見ていてくれるのかもしれません。
どうにも崖っぷちに追い詰められつつあった工場、
彼らを飲み込もうとしている様々なトラブルの行方は、想像を超えた方向へ動いていくのでした。

これは働く大人たちに夢とか希望といった力を与えてくれるお話です。
そしてその象徴が宇宙へ飛び出すロケットとは、
夢を見るのにこれほどぴったりはまるもの、他にあるでしょうか。

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紙の本特捜部Q 2 キジ殺し

2012/01/27 14:30

帰ってきたカールとアサドのQコンビ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いいとこのボンボンとお嬢はまったくなっとらんっと嫉みたくなるような
大金持ちの御曹司達が、実は裏でとんでもない卑劣な事件を引き起こしていた。
警察内にも手を伸ばして妨害する彼らに、特捜部Qはまったくひるまない。
おまけに新しく配属された秘書ローセはかなり厄介な女。
それでもそれなりに実力を発揮してきてカールとアサドの後方援護ができるようになっていく過程も面白い。

容疑者グループの一員でもあった紅一点のキミ―は、いかに身から出た錆とはいえ、
物語後半になってくるとこちらも感情移入されてきて、悲しく切ない気持になります。
もう今となってはああするよりほかに選択肢はないのだろうと思うとより苦しい。
このキミ―のタフさと、それと裏腹なガラスの心が、「ミレニアム」のリスベットと重なります。

前回はわりと安全圏で捜査していたQコンビも、今回は絶体絶命。
そのドキドキも見どころとなるでしょう。

既に第3段が待ちどおしい。

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紙の本曾根崎心中

2012/01/24 09:08

もうこの道しか残されていない。そんな思いがぐんぐん伝わる。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

親の縁が薄く、苦労して生きてきた徳兵衛は、人を信じ過ぎる、と遊女・初は思う。
困っている時は必ず誰かが助けてくれる、現実はそうじゃないけど、
そう信じると決めた徳兵衛を、初は自分が守ってやらねばならないと。
その徳兵衛は、信じていた友人に騙されてあらゆるものを失い、追われる身になった。
初はといえば、様々な遊女が叶わぬ夢見て去っていくのを見続けてきた。
そして知った本当の恋。

悲しい悲しい二人はただ未来永劫一緒にいるために逃げて行く。

あぁ、切なく美しい情景が見えるようで・・
人形浄瑠璃や歌舞伎で演じる舞台はさぞかしすばらしいんだろうなぁ。

角田さん新境地ですね。
おおげさすぎず、おぼれ過ぎず。
もう、ため息ものですよ、これは。

恋愛もの嫌いな私も、これはやられました。

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紙の本解錠師

2012/01/24 09:04

天才カギ師の少年の明日は明るくあって欲しい

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

マイクルは17歳の夏に人生が変わった。
いや、正確には2回目の転機を迎えたというべきか。
1回目は8歳の時、ある事件に巻き込まれ、両親を亡くし伯父に引き取られた。
そしてその時から一言も声を出せなくなった。
そんなマイクルの楽しみは、いろんな錠を開けること。

17歳の夏、友人に連れて行かれた先で窃盗の仲間とされ、
その後は大きな流れにのみ込まれるように犯罪者の道を進む。

マイクルの不運は少年時代からずっと続いているようだ。
皆、彼の才能を知るとそれを利用するためにハイエナのように集まってくる。
逃げるべき時にちゃんと逃げることができないマイクルは、すべてを黙って受け入れる道を選ぶ。

そこに現われた「ゴースト」と名乗る男があらゆる技を彼に教える。
まるでオビワン・ケノビだ。
(残念ながらヨーダほど超越してはいない)

何度も訪れる善と悪に繋がる岐路、マイクル、ここでその場を去れ!・・と師匠ゴーストの警告と同じく、私もつぶやく。
しかし実際彼がどうやってそこから逃げることができるのか。
あとは受け入れるしかないのである。

マイクルが解錠師の道に踏みこむに至った物語と、
その転がり出した玉がぶつかり割れるまでの物語を、
10年後の彼自身が語る。

解錠の仕組みについてはとても深く掘り下げて書いてあり面白かった。
最後に、彼の伯父さんはどうなったのかなと、ふと気になったが。

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