もにまるさんのレビュー一覧
投稿者:もにまる
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2011/05/20 02:14
大人の一冊
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
短編集である。ひとつづつ話を読み終えるごとに、じわじわと
ひろがっていく感情がある。読み始めはもやもやとしていたそれが、徐々に晴れていって、ああ、なんてすばらしい、と嘆息がおこり、余韻を深く残す作品群である。
読み始めのもやもやとは、ん、この作品は一体何がいいたかったのだろう、というもやもやである。どこか短編ものに期待しているオチや仕掛けのようなものがないところから来ているのかもしれない。だが読み進めていくうち、ああ、これでいいのだ、こういう世界なのだ、と納得し、むしろ何が言いたいなどという浅はかな答えを性急に求めようとしていた自分を恥じた。
人が生きるさまざまな場面の、瑣末かもしれない部分を描きながら、人が生きるということは、聖と俗、喜怒哀楽が混沌とした状態で同時進行しているということ、悲しみの場面でなぜか兆す笑い、そのまた逆も、そういう状態こそがまさにリアルなのであり、そのなかで抗いようもなく歩みを進めるひとびとの粛々とした生を、描き出してみせる。
まさに静謐な夜想曲のようなひとつひとつの話に、これといった派手なエピソードもなく生きている自らを重ねみながら、しみじみとした味わいを覚えることのできる、大人のための一冊である。
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