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とっておきの秘密を隠している人にも、そんなものがあるならぜひ教えてほしいという人にも贈りたいさんのレビュー一覧

投稿者:とっておきの秘密を隠している人にも、そんなものがあるならぜひ教えてほしいという人にも贈りたい

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本弁護側の証人

2011/09/23 03:08

けい

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 秘密。
 ちょっと怪しくて、心ひかれずにはいられない言葉です。あなたにはありますか? 私にはありますよ、もちろん。隠していることの一つや二つくらい。二つで済めばかわいいものです。あんなことやこんなこと、思い切れば言えることから到底、口にできないこと、表に出すわけにはいかないことまで、たくさん、持ってます。
 かねてから、ミステリが大好きなことは公言しており、こういった書評などでオススメ作品を押しつけがましく紹介している一方、すごく気に入っているのですが、好きなだけに「教えたくない」作品も実はいっぱいあります。
 これもそんな一冊。
 長らく知る人ぞ知る作品でした。それが文庫で再刊されると聞き、私は「お、やっとこの傑作が陽の目を見る時が来たぞ」と心弾む気持ち半分、「あぁ、とっておきの隠し玉がこれで」という心持ち半分でした。
 マニアのかたはピンとくるかもしれません。タイトルはあのミステリの女王、クリスティの『検察側の証人』を意識したもの。著者の小泉喜美子さんは翻訳者として名を馳せているミステリの鬼。『検察側~』が映画化される際、このままのタイトルではネタが割れてしまうと「情婦」に改題されたそうです。その話を聞いた小泉さんはそれならばと、自分ならばこうする、という考えで作品を書かれたそうです。
 一筋縄ではいかない作品。テクニックはあのクリスティをしのぐかもしれません。
 冒頭、ちょっとした違和感を覚えるかもしれません。そこが憎い。濃厚なバニラの香りのような毒のミステリ。著者は生前、「日常生活と全く関係のない贅沢なお酒のような作品が書きたい。職場でのむ酒のような作品は書きたくないし、読みたくない」と公言していたそう。これは極上のデザートのようなめくるめくミステリ。
 小説を読むということ、読書という行為の崖っぷちはこんなにもギリギリで、危ういほど鋭く世界を切り取っているのか、と驚かされます。
 具体的に面白さが伝わらない、ですって?
 だって、これは秘密なんです。できれば、隠しておきたいんです。でも、秘密を知っていることはちょっとだけ知らせたいのです。
 あらすじも紹介しないなんて、書評の風上にも置けませんが、今回はそれでいい、と確信犯の心持ち。
 秘密が知りたければ、読んでみてください。
 ちなみに私は隣の町にある有名なラーメン店にわざわざ出向いた折、その順番待ちの列でこの作品を読みました。結果、ラーメンなんか食べている場合じゃない、と思わせてくれた作品です。
 読んだことのある人、これから読む人は、少なからぬ人と秘密を共有する「共犯者」になるでしょう。

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