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efさんのレビュー一覧

投稿者:ef

18 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本大聖堂 上

2012/02/04 19:41

大聖堂

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 これは面白い! 絶対の自信を持ってお薦めできる作品です。
 面白い本に巡り会うと、知らぬ間にどんどんページをめくっているじゃないですか。
 まさにあの感じです。ページをめくりはじめたら、きっと眠れなくなってしまうかもしれません。

 物語は、1123年から1174年までの出来事を描いています。全6部構成。
 舞台はイングランドです。
 1123年のプロローグは死刑執行の場面から始まります。
 絞首刑を見物しようと、村の人々が集まってきます。
 死刑に処せられようとしているのは、赤毛の若い男性。
 執行の間際、赤毛の男性は美しく澄んだテノールでフランス語の歌を歌います。
 何でもこの赤毛の男性は、修道院から宝石を散りばめた聖杯を盗んだ罪で死刑に処せられるのだとか。
 そこに15才位の美しいのだけれど襤褸をまとった、そして不思議な金色の光を放つ目をした少女が現れます。
 少女は呪いの言葉を叫びながら、にわとりの首を切り落とし、それを立会人のエライさんめがけて投げつけて逃げていきました。 しかし、それで死刑が取りやめになるわけもなく、赤毛の男性は死刑に処せられてしまいました。
 こんなプロローグなのですが、この後も物語は続いていきます。とても長い時間をかけて。

 冒頭で、この本を読むと眠れなくなると書きましたが、その理由はいくつかあるように思えます。それは……
 1 次々に起きるエピソードが、いくつか多重並行的に進んで行くのですが、しばらく読み進むと、現在進んでいるエピソードは良いところで「おあずけ」をくい、以前気になっていた別のエピソードが語られるという構成になっています。
 ですから、どこまで読み進んでも、次々と現れるエピソードの結末が気になってしまい、ついついページをめくることとなります。
 2 登場人物のキャラクターがはっきりしており、悪い奴はとことん悪い。ほんとうに腹が立つ位悪辣です。その力は計り知れず、善玉の登場人物がなんとかこしらえたものが、あっという間に瓦解させられることも度々。あるいは優柔不断な奴はどこまで行ってもそのままであり、はがゆさ満点なのでした。
 3 1とも関係しますが、章の長さが絶妙!長すぎることは決して無く、良いタイミングで切り替わります。
 その他にも上手なところはいくつもあるのですが、これらのことが作用して、次を読みたくなってしまうのですね。

 後編も待ちかまえています。是非この素敵な世界のページをめくってみてください。


 

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紙の本

ノートルダム・ド・パリ

7人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

【言葉狩りの犠牲】
 本書の原題タイトルは「ノートルダムの『せむし男』」です。こう、ユゴーは書いたのです。ですが、何だか分からない「人権派?」とかの圧力で「せむし」という言葉が抹殺されました。ですから、ディズニーでも「ノートルダムの鐘」とかいうタイトルに変えさせられてます。でも、どうやらこんな馬鹿なことをしているのは日本だけだそうですよ。

 同じようなことは繰り返し行われています。そういう「言葉狩り」は不毛ですし、そんなことでは何も人権など守っていないように、私には思われます。そういう表象的な問題でしか考えられないのは不幸じゃないですかね?
 カジモドは「せむし」なのです。だからこそこの作品の悲哀も味もあるのですよね。そういうことを言う人はこの作品のラストシーンを読んでください。せむしのカジモドがどうやってあの鐘を鳴らしたのか、その場面を思い浮かべてくださいな。
 そういうの無視しちゃうのって絶対駄目だと思う。「隠せば良い」というのが全く間違っていると私には思えます。

 「ちびくろサンボ」が何故悪いの? 私はサンボ大好きで子供の頃から育ったよ。子供の頃のある時、黒人の方とお会いできた機会があって、本当にうれしくって握手してもらってとっても喜んだんだよね~。
 色々な「差別」は、それを作る心が生み出すもの。
 そんなこと子供達は知らない。もっと純粋で素直だと思うのです。子供達に「差別」を教えてはいけないのじゃないのかな?

 本書も、そういう困難を踏まえつつ、ある意味でのカジモドの夢を描いたからこその傑作なのではないでしょうか?
 

 

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紙の本

紙の本

2015/08/24 17:56

圧倒的な恐怖。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これは、もうヒッチコックの映画の方で有名ですよね。その原作。
 私は、リアル・タイムでは見ることができなかった年代ですが、ヒッチコック大好きです。
 著者のダフネ・デュ・モーリアは、「レベッカ」なども著している作家さん(これもヒッチコックによって映画化されていますね)。
 どうしても映画の「鳥」の方が圧倒的にインパクトが強くて、なかなか原作を読まない一冊になっているかもしれません。
 ここでも、ヒッチコックの線でご紹介です。

 主演のティッピ・ヘドレン(メラニー役)は、ヒッチコックお好みの女優さんだったらしいです。
 出だしは、メラニーは都会的な小生意気な女性として描かれています。
 鳥屋さんに入るのですよね。そこで、プレゼント用のつがいのラブ・バードを探していた男性、ミッチ(映画ではロッド・テイラー)と出会います。
 この時点では、鳥は愛でるべき対象として描かれています。

 田舎のミッチの家を訪ねるメラニーなのですが、そこで初めての鳥の襲撃に遭います。
 カモメが彼女をつつくんです。

 さあ、そこからどんどん鳥たちの襲撃が始まっていきます。
 鳥たちの襲撃によってガソリンスタンドが炎上するシーンは記憶に残ります。
 電話ボックスに逃げ込んでも、そこに鳥たちが体当たりしてきます。
 また、びっしりと電線にとまっている鴉たちのなんと恐ろしいこと。
 襲撃の「動」も怖いのですが、襲撃を予期させる「静」の鳥たちがなんとも不気味です。
 
 ミッチの母親は、この街にやってきたあなたがこの厄災の元凶なのだと詰め寄ります。
 この頃のメラニーは、最初の小生意気な雰囲気ではなく、傷を負いながらも子供達を守る女性として描かれる様になります。

 町中鳥たちが包囲し、襲っているような状況になります。
 メラニーは、ミッチ一家と一緒に家に立てこもるのですが、鳥たちは容赦なくドアを突き破り、暖炉から侵入しようとします。
 何百種類、何千羽の鳥たちが人間を襲います。
 動物が人間を襲うというテーマの作品は数々ありますが、その傑作ではないでしょうか。

 このままでは危ない! ここから脱出する!
 そっと、そっと。
 静かに車のエンジンをかけるミッチ。
 周りはびっしりと鳥たちに囲まれています。
 少しでも刺激したら襲われてしまう!
 何と緊張感があふれるシーンでしょうか。
 雲の切れ間から流れ落ちる光りがびっしり蝟集した鳥たちを照らします。
 
 「これも持って行って良い?」と、プレゼントのつがいのラブ・バードが入った鳥かごを持ってくる子供。
 「いいよ。さあ行こう。」

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紙の本

遂に完結! 最後は雑誌を巡るのだ。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

荒俣宏編による「怪奇文学大山脈」も本巻をもって完結します。
 このシリーズ、荒俣氏による冒頭の解説がなかなか充実している上、巻末の作品解説もかなり読ませるという構成になっています。
 それぞれの巻の「狙い」が冒頭の解説で明らかにされているわけですが、最終巻の本巻では怪奇小説が掲載された雑誌を中心に考察されています。
 怪奇小説を掲載する雑誌ですから、かなり俗悪な物が多かったのは事実なのですが、だからこその面白さがあるのだと言います。

 さて、この雑誌についても系譜がありまして、荒俣氏なりの分析によりそれを追っていきます。
 最初は、イギリスの雑誌から入ります。
 「ザ・ブラックウッズ・エディンバラ・マガジン」、「ストランド・マガジン」、「ジ・アーゴシー」などの雑誌を紹介しつつ、それぞれの特色を論じます。

 次に見るのはドイツの雑誌です。
 「パン」、「シンプリチシムス」、「デア・オルキデーンガルテン」などの雑誌と、これらの雑誌に掲載された作家が紹介されていきます。

 そして、いよいよ出てくるのがパリの「グラン・ギニョル」です。
 これは雑誌ではなく、劇なのですが、これが残虐な血みどろ劇なのですね。
 1897年にモンマルトルの近くに「グラン・ギニョル劇場」が建ち、そこでもっぱらこのようなショッキングな劇が上演されていたのです。
 劇があるということは、その台本があるということです。
 アンドレ・ド・ロルドらの、グラン・ギニョル劇の台本が取り上げられています。

 そして最後に紹介されるのがアメリカのパルプ・マガジンです。
 劣悪な紙に扇情的な小説を掲載し、安価で売ったのがパルプ・マガジンというわけです。
 「ダイム」、「ホラー・テールズ」、「スパイシー」系、「アン・ノウン」そして極めつけ「ウィアード・テールズ」などなどの雑誌が氾濫しました。
 各雑誌によりそれぞれ特色があり、SMチックな作品を多く掲載するもの、エログロに徹し、検閲を逃れるため、検閲済みと未検閲の2ヴァージョンを発刊したもの、SFテイストを取り入れたものなど、様々でした。

 さて、本巻はこの様な雑誌を飾った代表的な作品を本編で取り上げてくれているわけですね。
 毎回書いているように、非常にマニアックなセレクトで、他のアンソロジーでは見たことがないような作品ばかりです。
 このジャンルがお好きな方は是非読まれると良いと思います。

 何よりも、非常に気になる記述もあることですし。
 それは、「おそらく本書は、私が西欧の怪奇小説史について真摯に語る最後の機会になると思われる。」と、荒俣御大が述べているのです。
 そんな……最後だなんて、と思うのですが、ご本人がそこまで書かれるのにはそれなりの理由があるのでしょう。
 その意味からも、このシリーズは見逃すわけにはいきません。
 この手の本は、油断しているとあっという間に絶版になってしまいます(私もこれまでに何度も泣きました)。
 興味をお持ちの方は、今の内に是非入手しておくことをお勧めします。

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紙の本

今回はパガニーニですよ!

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ヴァイオリン職人のジャンニを探偵役とするシリーズ第2作目の作品です。
 ご存知のとおり、パガニーニは18世紀から19世紀にかけて活躍した、超絶技巧で名高いイタリアのヴァイオリニストですが、今回のお話は、彼が愛用したとされるグァルネリ・”デル・ジェス”、別名「大砲」の異名を取る銘機のヴァイオリンが、ジャンニのもとに修理のために届けられたことから始まります。

 このヴァイオリンは、いつもはジェノヴァ市の市庁舎に保管されているのですが、パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールの優勝者には、副賞の一部として貸し与えられ、演奏することが許されているというものでした。
 今回、コンクールに優勝したのは、まだ若いエフゲニーという演奏家だったのですが、このヴァイオリンを使って練習していたところ、誤ってぶつけてしまったらしく、以来、異音がするので、その夜のコンサートまでに大至急修理して欲しいとの依頼でした。

 ジャンニがうまく修理をしてあげたことから、エフゲニーとも親しくなり、彼を招いて友人同士で弦楽四重奏を楽しむなどの機会も得ることができました。
 ところで、エフゲニーにはいつも母親がべったりと張り付いているんですね。
 すべては母親の言いなりになっていました。
 エフゲニーだってもう子供ではないというのに、母親の決めたことが絶対という生活を強いられていたのです。

 そうこうしているうちに第1の殺人事件が発生します。
 それと前後して、エフゲニーも行方不明になってしまうのです。
 今回のお話は、殺人事件の捜査とエフゲニーの捜索が絡み合う展開となります。

 このシリーズは、普通のミステリのように殺人事件などの謎解きを楽しむというよりは(それももちろんありますが)、むしろ歴史的な謎(今回はパガニーニにまつわる謎です。ロッシーニも登場しますよ)を解き明かしていくところに独特の面白さがあるんですね。
 パガニーニが贈られたというモーセが描かれた黄金の箱と、その中に入っていたと思われる小さなヴァイオリンの行方がその謎になりますし、また、パガニーニが作曲したと思われる幻の曲の行方も絡んできます。
 大変上質なミステリではないでしょうか。

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紙の本

紙の本モンド9

2015/08/24 17:34

……あまりにも、絶望的じゃないか。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

SFの魅力の一つに、その世界構築の驚きというのがあると思います。
 本作は、まさにとんでもない世界を作り上げてしまったところに大きな魅力があります。モンド9(モンド・ノーヴェ)とは、ある広大な惑星の名前です。本作は、この惑星を舞台にした連作短編と言って良いかと思います。
○ カルダニカ
 巨大な船が広大な砂漠の上を進んでいきます。車輪を持った船で、蒸気機関で進んでいきます。
 ところが、砂漠の真ん中で故障してしまうのです。
 助かるためには、「継手タイヤ」と呼ばれる、非常時には脱出艇にもなるタイヤ部分に潜り込んで、本体から分離して逃げ出すしかありません。
 砂漠の砂は毒性を帯びており、船外に出るなどもってのほかです。
 「継手タイヤ」は非常時には自動的に変形し、勝手に近くの港に向かうのですが、マニュアルで操作することは不可能です。
 どこか一番近い港に着いた時点で初めてハッチが開けられる仕組みになっており、それまで何年かかるか分からないのですが、自動操縦に任せるしかないのです。
 これは……まるで囚人じゃないか!
○ ロブレド
 父親と息子は、砂漠の毒に犯されながらも、何とか食料を採って生き延びようとしています。頭上には沢山の鳥が飛んでおり、それを弓矢で打ち落とそうとするのですが……。
 そんな砂漠の中に、遺棄された巨大な船を見つけます。それがロブレドです。
 どういうわけか、鳥達はロブレドの中にネズミやトカゲなど、捕獲した食べ物を落としているようなのです。
 ある日、父親の姿が見えないことに気づいた息子は、ロブレドの中に入り込んでいきます。すると……閉じこめられた!
 お前は卵の孵化を見守り世話をするのだ……船が語りかけてきます。
 鳥達が生み付ける卵の中からは様々な物が生まれてきます。それは、船の代替部品達。
○ チャタッラ
 ここは腐ったような海です。砂漠を走っていた船も、遺棄されると何故かこの海域に流れ着いてしまうようです。
 気が遠くなる程沢山の船がからみあい、島のように固まっています。
 この船達は、遺棄されたとは言え、未だに生きているのです。
 <毒使い>の姉と弟は、この船に毒入りの餌を与えてその命を絶つことを生業としていました。しかし、海水も汚染されています。
 そんな海水を浴びてしまうと、身体が金属に変化してしまうのです。
○ アフリタニア
 最初の作品で登場した船長が再度登場します。船長はあの脱出行を生き延びたのでしょうか?
 船長はもう随分年をとっていますし、汚染されており、足がもう金属に変わりつつありました。船長は、今度はアフリタニアという砂漠を進む巨大な船に乗っていました。この作品で、船の<外部者>と<内部者>という存在が明らかにされます。
 どうやら、船の外には通常の人間がいるのですが、船の内部にも何らかの生命体がいるようなのです。
 そして、船に意思を持たせ、操っているのはその<内部者>らしいのです。
 アフリタニアは、目的の港目前まで進んできますが、何と、そこでロブレドに出くわします。
 はい、2番目の作品に登場した遺棄された船ですね。
 ロブレドは、アフリタニアに向かって攻撃してくるのですが……。

 とにかく、この異常とも言える絶望的な世界描写にやられてしまいます。
 ストーリーとしてはあまりに絶望的な展開になっていくのですが、それが大変魅力的な味わいになっていると感じました。
 機械と人間が融合するようなサイバーチックな雰囲気やスチームパンク的要素もふんだんにあるので、お好きな方は気に入るのではないでしょうか?

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紙の本

紙の本異世界食堂 1

2015/08/24 17:38

サンドイッチに挟む最高の具は何ですか?

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

物語の舞台になるのは、日本のとあるオフィス街の一角にある「洋食のねこや」という洋食屋さんです。
 先代店主の父親から店を継いだ中年男性一人が切り盛りしている(後にアルバイトを雇うことになるようですが)割りと評判の良いお店です。

 実は、この「ねこや」、異世界であるファンタジー世界とつながっているんです。
 「ねこや」は土日定休日なのですが、ファンタジー世界には土曜日だけ出現する「ねこや」へ通じる扉があり、そこを通ってやってくるエルフやドワーフ、ドラゴンなどなどの、ファンタジー世界でお馴染みの面々が土曜日の「特別営業日」のお客さんなんです。

 ファンタジー世界って、大体中世みたいな設定じゃないですか。
 ですから、たとえばパン一つとってみても、中世に作られていたパンと現代のパンを比べればその質も味も歴然たる違いがあるわけです。
 最初は迷い込んできたり、おっかなびっくり入ってくる異世界のお客さん達も、見慣れない料理を一口食べたらもうそのとりこ。
 毎週土曜日を楽しみにする常連さんになってしまうのですね。
 その意味では、現代の私達は、なんと贅沢な、凝った料理を食べていることでしょう。

 「ねこや」は洋食屋にしては首をかしげてしまうようなメニューもあります。
 例えば、豚の角煮定食だったり、清酒が置いてあったり。
 「うまけりゃ何でも良いんだよ」との先代の言葉もあり、そんなメニュー構成になっていたりします。

 異世界の住人達は、何だかひたすら同じ料理ばかりを食べているような印象です。
 まぁ、一通り色んな料理を試してみた結果、それぞれのお気に入り料理が決まり、以後、毎回その料理ばかりを食べているということのようですが。
 メンチカツ定食LOVEな女性冒険家、ロースカツに生ビール一本の賢者、もの凄い勢いでカレーライス(大盛り)をかき込む戦士などなど(もちろんみなさんしこたまおかわりしちゃいます)。
 はたまた、エルフは菜食主義者という設定なのですが、お気に入りは豆腐ステーキなんですね~。

 それぞれ自分のお気に入り料理を愛しちゃっていますので、時にどの料理が一番美味しいかについて論争が勃発することもあります。
 あるいは、サンドイッチに挟む具で最高な物は何かについて、「カツだ!」、「テリヤキに決まってる!」、「いやヤキソバを挟むんだ!」とかますびしいこと。
 ま、そんな論争が勃発した日には、「そこまで言うのなら喰ってやろうじゃないか」とか「いいから騙されたと思って食べなさい」などの言葉が飛び交い、さらに追加オーダーが出るのが毎度のことなのですが(笑)。

 物語の展開はワン・パターンですが、まぁ、楽しく、軽く読める作品になっているので難しいことは言いっこなしですかね。
 また、この本にはカラーページも含めて、アニメのような挿絵が盛り沢山でちょっと照れくさい造りになっているのですが、まっ、これも良いことにしますか(苦笑)。

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紙の本

紙の本ごはんのおとも

2015/08/24 17:50

とりそぼろと昆布が好きです!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「ごはんのおとも」……うーん、なんて魅力的な響きでしょう。
 本書は、ほわほわ、ほんわりした美味しそうな一冊です。
 漫画なんですけれど、ほっこりした味わいの作品で、登場人物がそれぞれ大好きな「ごはんのおとも」と共に描かれていきます。

 いや、ごはんのおともは美味しいです!
 紹介されているものはどれも好きですが、私は特に昆布の佃煮と鶏そぼろが好きだなぁ。

 昆布の佃煮編では、昆布が大好きな幼稚園の女の子が主人公。
 今日もお弁当に入っている「おこぶさん」を美味しそうに食べていたら、センセイから「しぶいね」と言われます。
 しぶいの意味が分からずにお母さんに尋ねたら、「渋ねぇ……」ってことで柿のしぶを舐めさせてもらいビックリしてしまいます。
 あんな変な味の女の子だって思われたくない!ということで、以来、大好きな昆布を食べなくなってしまうのですが(あぁ、こういう子供ココロ……乙女ココロ?って分かるなぁ)。
 ある時、髪をやさしくなぜられて、昆布を食べると髪がきれいになるんだよと教えてもらいました。
 それから、またまたにっこり昆布を美味しく食べるようになったというお話(ヨカッターヨ。だって昆布は本当に美味しいのだから)。

 鶏そぼろは、子供の頃から料理が大好きで、今ではこの本に出てくるようなほっこりしたおつまみを出してくれる飲み屋さんの経営者クマさんの子供の頃のお話。
 小学校の調理実習で鶏そぼろ入りのおにぎりを作って喜んで帰ってきたクマ君は、雨の中、勇気を出して告ったのにふられてしまった女子高(中?)生を見かけます。
雨に濡れて立ちすくんでいる女子高生を放っておけなくなってタオルを差し出したところ、逆に泣かれてしまいおろおろしてしまいます。
 思わず調理実習で作った鶏そぼろ入りのおにぎりを差し出して、「おいしいから!食べると元気になるから!」って言って差し出したら、にっこり笑って食べてくれたという思い出の一品。

 こんなほっこりしたお話の後に、それぞれの「ごはんのおとも」のレシピページが載ってます。
 「ごはんのおとも」ですから、そんなに凝ったレシピが必要なわけじゃなく。
 見なくても作れるけれど、でも、丁寧に書いてくれています。

 ごはんのおともは本当に美味しいのだけれど、ご飯が進んでしまうのが玉に瑕かな?

 ちなみに、ウチの嫁はなめたけご飯が大好きなのです(これも紹介されていますよ)。

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紙の本

エキゾチックな白夜の挿絵画家

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

カイ・ニールセン(1886~1957)は、19世紀後半から1930年位まで続いた『挿絵の黄金時代』最後の時期に活躍した挿絵画家です。
オーブリー・ビアズリーを頂点とする挿絵画家達の中でこれまで埋もれた存在だったのですが、世紀末アール・ヌーヴォー見直しの気運が高まった際に、ようやく注目されたデンマークの画家です。

 その画風は流麗耽美であり、幻想的です。
 ニールセンが描く人物は、10頭身以上かと思われる位、顔が小さく、スキニーで縦に引き延ばされており、華奢としか言いようのないプロポーションです。
 また、身につけている衣装は絢爛豪華で、極めて丹念に細部まで描き込まれており、人物よりも衣装の方を描きたかったのではないかとすら思わせます。

 ニールセンのもう一つの特徴は背景処理ではないでしょうか。
 濃密な森に茂る不思議な形をした木々たち、余白を大きく取った月星の夜、淡い光に満ちた白夜を思わせるような空。
 それら一つ一つが幻想譚を紡いでいきます。

 ニールセンの画風には変化が見られます。
 最初は、輪郭線が見られる、シャープな画風でしたが、その後、『線』ではなく『面』で描くようになっていきます。
 後期の作品には黒と白のモノクロ画でももはや輪郭線は見られません。
 細密で意匠的な画風は一貫しているものの、与える印象は大きく異なってきます。

 これは、製版技術とも大きく関係があるのだそうです。
 初期の製版技術では、グラデーションなどを表現することは困難であり、いきおい輪郭線がはっきりした絵にならざるを得なかったのですが、技術の進歩に伴い、面としてのぼかし、グラデーションまで印刷で再現できるようになり、全体の画風がその様な技巧を多用するものに変わっていったのだとか。

 ですが、実は私は、ニールセンの前期の頃の、輪郭線がくっきりしたシャープな画風の方が好みなのですね。
 その頃の代表的な作品としては『おしろいとスカート』、『太陽の東 月の西』などが挙げられるでしょうか。

 また、ニールセンの作品でもう一つ指摘しておきたいのは、その東洋趣味です。
 浮世絵からヒントを得たような構図、描き方が随所に見られますし、シノワズリ(中国趣味)なアイテムも多々あって、特に当時の人々には大変エキゾチックに映ったのではないかと思います。
 具体的には、例えば背景の木々にはしだれ柳や藤が描かれ、時を作る尾長鶏や華麗な孔雀が庭を歩き、アールの大きな太鼓橋がかかり、波の飛沫や波頭はまるで北斎の浮世絵の様です。

 大変繊細で流麗な作品なので、是非何かの機会にご覧いただけたらと思います。
 本書は、オールカラーで十分な量の作品を収録しており、良心的な本ではないでしょうか。

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紙の本

紙の本ナボコフ短篇全集 1

2015/08/24 17:58

幻想小説家としてのナボコフ

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本作は、ナボコフの全短編を2巻にまとめたものです。
 年代順編成となっており、ナボコフ作品の推移を楽しむこともできます。

 ナボコフの作品は、特に初期の頃は、良く言えば余韻を残す、悪く言えば舌足らずという印象を受けてしまいます。
 また、大変幻想的な作風で、これは立派な幻想文学ではないかと思う次第です。

 ナボコフと言えば「ロリータ」とすぐに言われるほど、「ロリータ」が有名過ぎますが、あれも実は幻想小説として読めるのではないかと、本作を読みながらつらつらと考えました。
 現実的な作品として読むと、妙に生々しかったりしちゃうわけですが、一つの幻想小説として読むことも十分成り立ち得ますし、そういう視点で読んでみるとまったく違う感覚になるのではないかなぁと愚考しているわけですね。

 また、ナボコフの短編は、ストーリーもさることながら、その情景や雰囲気の方が強く印象に残る作品があるのではないかと感じてもいます。
 短編なので、粗筋を紹介するとネタバレになっちゃうので控えますが、例えば、「翼の一撃」という作品は、スキー・リゾートを舞台にしており、当地のホテルに宿泊している活発な女性と天使の関わりが描かれます。
 これなんかはスキー場、シュプール、リゾート地のホテルという舞台設定が印象的です。
 また、「偶然」という作品は、ドイツの急行列車の食堂車でボーイをしている男性が主人公なのですが、彼はいまにも自殺することを考えており、しかもコカイン中毒という設定です。
 豪華な列車内の描写と主人公の心情が主たるストーリーよりも印象を残す様に感じました。
 ね、どれも立派な幻想文学的な感じがしますでしょ?

 「ロリータ」も良いですけれど、それ以外のナボコフもなかなかの味わいですので、お勧めです。

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紙の本

紙の本アルタイ

2015/08/24 17:46

作品の善し悪しは作者名で決まるのではない。

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とのポリシーから、架空の「ウー・ミン」なるペンネームを使用し、5人の作家が共作したのが本書です。
 「ウー・ミン」とは、中国語で「名無し」あるいは「5つの名」という二つの意味があるそうです。

 さて、物語ですが、ヴェネツィアとオスマン・トルコの戦いが舞台となります。
 主人公のエマヌエーレは、ヴェネツィアの諜報部に勤務し、宿敵であるオスマン・トルコのヨセフ・ナジの活動を監視し、その配下の者達による破壊活動等を摘発する立場にありました。
 ある時、ヴェネツィアの国営造船所が何者かによて爆破されるという事件が起き、エマヌエーレが捜査に乗り出しました。
 どうやら本気で造船所を壊滅させるまでの意図はなく、おそらく待遇に不満を持った造船所の作業員がやったことではないかと思われます。

 その旨を顧問官に報告したのですが、顧問官はそのような結論では納得せず、でっちあげで構わないので、誰かそれなりの地位の人間による策謀にしろと言うのです。
 誰かを犯人に仕立て上げろと言われても、適当な人物も思い浮かばず、どうしたものかと困惑するエマヌエーレなのですが……顧問官は俺を犯人にでっちあげるつもりだ!と気づきます。

 実は、エマヌエーレは、ひた隠しにしていた出生の秘密がありました。
 彼は、イタリア人ではなくユダヤ人だったのです。
 そのような身分を隠し、国の内部から破壊活動を企んだ男……そんな図式がぴったりはまるではありませんか。

 間一髪のところでヴェネツィアから脱出するエマヌエーレ。
 政府高官から一転して裏切り者の汚名を着せられ、逃亡者に転落してしまいます。
 しかしどこへ行けるというのでしょう?

 最終的にエマヌエーレを庇護したのは、なんと宿敵ヨセフ・ナジだったのです。
 ナジは、エマヌエーレに情報の提供と協力を求め厚遇するのでした。
 当初は、これまで宿敵だったナジに下るなど考えられず、むしろナジを殺害し、その首を持ってヴェネツィアに戻れば、でっち上げの罪も許されるのではないかなどとも考えたのですが、いやいや、そんなことをしても、のこのこヴェネツィアに戻れば造船所爆破事件の犯人として問答無用で処刑されるだけだと思いとどまります。
 結局、生きていくためにはナジに協力するしかない……。

 本書は、大変数奇な運命をたどることになるエマヌエーレと、やはり最終的には罠に落ちてしまうヨセフ・ナジが描かれるのですが、ラストは何とも残酷で悲しい結末を迎えてしまいます。
 最後の、あの「静けさ」は、ぐっと胸に浸みるものがありました。

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紙の本

おばあちゃんと熱帯魚と天使

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なるほど、うまく書いたものです。
 梨木さんの、短編と言って良い位の長さの本作は、巧妙に書かれています。
 主人公のコウコは女子高生。
 有数の進学校に通っており、補習や宿題の多さはシャレになりません。
 コウコも、学校から帰ると疲れ果ててすぐに眠ってしまい、夜中に起き出しては宿題などを片付ける毎日です。
 そのおかげでコーヒーをがぶ飲みし(何と、1日30杯!)、完全にカフェイン中毒になっています。

 このままではいけない。
 何か精神の安定を得られる物を……ということで熱帯魚を飼うことにしました。
 さて、しばらく前から、コウコの家にはおばあちゃんが同居していました。
 おばあちゃんは、ほぼ寝たきりで、認知症にもなっているようです。
 夜中にトイレに起こしてあげなければならないのですが、その世話をしているお母さんもすっかり疲れ切っています。
 たまたまその事を知ったコウコは、どうせ夜中に起きてくるのだから、私がおばあちゃんのトイレの世話をすると宣言します(そのことがあって、熱帯魚を飼うお許しも出たのですが)。

 この作品にはもう一つの視点があります。
 それは、おばあちゃんがまだ若く、女学校に通っていた時代の話です。
 現在のコウコの視点と、おばあちゃんの若い頃の視点が交互に語られるのですね。
 おばあちゃんは、同級生の公子さんに憧れていました。
 公子さんと親しい友人は、公子さんのことを「コウコ」と呼んで親しそうにしていたのですが、おばあちゃんは公子さんとは別のグループに属していたこともあり、うらやましい、自分も「コウコ」と呼びかけたいと思っていながらそれができずにいました。

 ある夜、おばあちゃんは、コウコに対して、自分のことを「さわちゃん」と呼んで欲しいと言い、コウコのことも「コウちゃん」と呼ぶようになります。
 おばあちゃんはぼけているのかなぁとも思うのですが、何となく自然にそのように呼び合うようになるのですね。
 おばあちゃん曰く、二人は姉妹みたいだって。

 さあ、何となくこの作品の巧妙なところが分かってきましたよね。
 この後、熱帯魚を巡ってひと騒動が持ち上がるのですが、その過程でエンジェル・フィッシュのこと、お母さんがぼけてしまったおばあちゃんを「天使みたいだ」って言ったこと、おばあちゃんが若かった頃、さらにそのおばあちゃんから「あなたは教会のステンドグラスの天使のようだ」と言われたこと……。
 そういうエンジェル達が語られます。
 でも、実はエンジェル・フィッシュはエンジェルなんかじゃ無かったのかも知れないのですが……。

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紙の本

ミステリ、幻想文学の自叙伝

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紀田順一郎……1935年、横浜市生まれの作家、評論家。
 ミステリ、幻想文学に造詣が深く、多数の著作があることは皆さんもご存知の通りです。
 本作は、紀田氏ご自身による、ミステリ、幻想文学を軸とした自叙伝、回想録です。

 私が物心つく前の時代の話がほとんどなのではありますが、紀田さん、非常に精力的です。
 子供時代に本に目覚めた時の話から始まり、大学時代は慶応大学の推理小説愛好会に籍を置き、大学卒業後は石油関連会社に勤務しながら多数の寄稿を続け、ついには文筆家となっていくわけですが、本当にミステリ、幻想文学を愛されたのだなぁと感じます。

 様々な人たちとの交流があり、それがまた濃いのです。
 大伴晶司、平井呈一、まだ学生だった荒俣宏などなど。
 まだミステリや幻想文学が一般に広く認知されていなかった時代、それを精力的に取り上げ、現在の下地を作っていった意気込みと熱意、功績は高く評価されるべきでしょう。

 圧巻なのは荒俣宏と組んで「世界幻想文学大系」を出版するくだりです。
 大体、当時(いや、おそらく今でも)こんな大企画を受けてくれる出版社など考えられず、実際多くの出版社から断られ続けました。
 ダメもとで最後に企画を持ち込んだのが国書刊行会でした。
 国書刊行会は二つ返事でOKしてくれたそうです(エライ! 国書刊行会!)。

 ご存知ですか? 「世界幻想文学大系」。
 全55巻という膨大なシリーズで、世界の枢要な幻想文学を網羅しているとんでもないシリーズなんです(そのラインナップの中には、今では絶対出版しそうもない作品も多数含まれています)。

 実は私も惚れ込みまして、かなり苦労して全巻揃えたんです。
 もちろん、私が買い揃えようと決意した時点では絶版です。
 ネットで出物が出る度にコツコツ買い集めていきました。

 出版元の国書刊行会にも掛け合って、「在庫があれば全部買う」と申し出たんです。
 そうしたところ、「倉庫に残っている物は何点かあるが、中には個人蔵ならともかく贈答用には向かないようなダメージを受けている物もあるけれどそれでも良いのか?」と聞かれました。
 二つ返事で「構わないので全部買います!」とお返事しました(これでも数点しかゲットできませんでしたが)。
 そんなことをしながら徐々に買い揃えていって、目出度くコンプリートしたという思い出のシリーズなんですね。

 あのシリーズは、何故あのようなラインナップになったか? 当初考えていた構成は?などなどの裏話が読めて、個人的にはこれだけでも有り難かったです。
 何でも当初はもっと小さなシリーズを考えていたそうなんですが、国書刊行会が余りにも太っ腹にOKしてくれたので図に乗って(笑)、シリーズ構成が膨れあがり、また、第一期で出した10冊が思いの外好評でよく売れたので、さらに構想が膨らんで行ったなどなど、貴重な裏話が書かれています。

 また、あのシリーズは、セットで古書店に並ぶことは滅多にないそうなのですが、その理由も、なるほど!と解き明かしてくれました(どうりで揃えるのに苦労したわけだ)。
 逆に言えば、揃いで持っている人というのはかなり珍しい人とも言えるのかもしれません。

 そんな話も交えながら、その他にも興味深いトピック満載です。
 このジャンルに興味がある方、もちろん紀田氏の著作に魅力を感じている方(私自身、氏の著作は何冊も持っています)は、是非お読みになられると良いと思います。

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紙の本

紙の本逃げる幻

2015/08/24 17:53

地味だけれど雰囲気があります。

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第二次世界大戦集結直後、米軍予備役大尉のダンバーは、とある密命を帯びてスコットランドのハイランド地方に滞在することになります。
 爆撃機を改造した輸送機の中で、ダンバーはネス卿と出会います。

 ダンバーは精神科医であり、少年非行の権威でもあったのですが、彼のことを知っていたネス卿から「仮定の話ですが」という切り出しでとある少年の問題を尋ねられます。
 ネス卿が言うには、その少年は何不自由のない家庭にいるにもかかわらず、月に3度も家出を繰り返しているのだそうです。
 「何が原因なのでしょうか?」
 「情報が不足しているのでお答えはできませんが、家庭に問題があることは間違いがなさそうですね。」

 ダンバーが宿泊することになっていた民家はネス卿の領地の中にあり、そして、その家出を繰り返す少年(仮定の話じゃないんです)の家もネス卿の領地の中の貸家だというのです。
 
 ダンバーが民家に腰を落ち着けてみたところ、例の少年はまた家出をしている最中だというのです。
 一緒にいた成人男性の話によると、ムア(スコットランドのヒースが生い茂る荒れ地ですね)を歩いていた少年が、突然姿を消したのだとか。
 それこそ、手品でコインを目の前で消すように、ふっと消えてしまったというのです。
 もちろん、大人達は少年が消えた辺りを探したのですが、まったく痕跡もないというのですね。

 その夜、ダンバーが寝ようとしたところ、部屋の隅に潜んでいたその少年を発見しました。
 少年は何かにおびえているようで、しかもストリートファイトの経験があるようで、ダンバーを手こずらせますが、最後には取り押さえられます。
 少年をその家まで送り届けるダンバー。

 少年の父親は、高く評価されている作家でした。
 でも、それは玄人筋に評価される作風で、「売れる」本か?と言えばそうではなさそうです。
 ですが、文学的には非常に高いレベルの作品とされているのですね。
 その奥様も(後に分かりますが)作家さんでした。
 奥様の作品は、ご主人の作品とは正反対で、大衆受けがしてベストセラーにもなり、お金も沢山稼げるのですが、文学作品としてはまったく評価されないような作品でした。

 この二人の間の子供が家出を繰り返しているのか……。
 夫婦の間には軋轢もありそうだが……
 と、考え込むダンバーでした。

 というのが本作の出だしです。
 かなり地味な作品に感じます。
 それはまるで、スコットランドの荒涼としたムアのような。
 確かに、その雰囲気は満点です。

 そこで家出を繰り返す少年。
 だから何?
 と、感じてしまうのですが、もう少し我慢して読み進めてください。
 大分終わりの方になって、急展開します。

 う~ん、どうジャンル分けすれば適切でしょうか?
 ミステリ? なのかな?
 でも、事件が起きるのは大分後の方です(ええ、起きるのですよ)。
 そこからは一気に畳みかけます。

 推理小説としてはあまり評価できません。
 ですが、雰囲気はとても独特で、そこは良いと思います。
 これは好きずきだなぁ。

 「嵐が丘」はお好きですか?
 あれとは全く違うけれど、舞台となる荒れ野はまさにあの雰囲気です。
 その描写もふんだんに出てきます。
 そういう感じを堪能できる地味だけれど、渋いミステリという感じでしょうか。

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紙の本

紙の本渡りの足跡

2015/08/24 17:46

自然がいっぱい。

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渡り鳥をテーマにした梨木さんのエッセイです。
 梨木さんは、様々な作品で鳥や植物について深い造詣を披瀝されていますが、とてもお好きなようで、精力的に色々な土地に足を運ばれています。
 本書の中でも、北海道の道東(屈斜路湖、知床)、新潟県の福島潟、鹿児島県薩摩川内市、長野県諏訪湖、ひいてはウラジオストクなどでの渡り鳥観察の様子が描かれています。
 
 さすがにお詳しいだけあって、渡り鳥を見ながら、「これは○○」とすぐに同定されています。
 私なんか、鳥で分かると言えば、鳩、カラス、ツバメ、スズメ程度のところがせいぜいだというのに。

 各章の終わりには、その章に登場した鳥達に関する紹介が注の形でつけられており、どんな鳥なのかが分かるようになっています。
 梨木さんに言わせると、ヒヨドリというのは都会でもよく見かける鳥で、その振る舞いは猛々しく、厚かましく、ずるがしこいのだとか。
 梨木さんは、ヒヨドリを北海道チミケップ湖で見つけるのですが、こんなところにヒヨドリがいるのかと驚き、また、都会で見かけるヒヨドリとは違って、何とも野鳥めいた慎重さ、つつましさに驚いています。
 環境が鳥の振る舞いも変えるのだろうかと。

 梨木さんは、こういう渡り鳥の観察の中に、様々な話を織り込んでいきます。
 衛星を使って渡り鳥の行動を確認したという話、太平洋戦争中、アメリカに住んでいた日系人が、収容所に強制的に収容され、アメリカへの忠誠を求められたけれど、どうしても最後までその誓いをしなかったという「ノー・ノー・ボーイ」と呼ばれた人たちの話、伝説的な猟師の「デルスー・ウザーラ」のこと(映画にもなりましたね)。

 とにかく、大きな自然の中にすっぽり包まれて、鳥達に愛おしいまなざしを送る梨木さんの様子がヴィヴィッドに伝わってきます。

 私は、特に渡り鳥に関心があるわけでもなく、まったく知らないと言って良いのですが、知らないは知らないなりに、梨木さんの文章に全面的に身を委ねて、ひと時、野鳥観察をご一緒させていただいたような気分になりました。

 たまには、こういうのも良いものです。

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