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コラム

あの人と、本のおしゃべり ―第6回 初野晴×大矢博子―

書評家・大矢博子が「おしゃべりしたい!」と思った作家さんに突撃する対談企画・第6回のお客様は、『ハルチカ』シリーズがアニメ化されてブレイク真っ只中の初野晴さん。
原作者の見たアニメの感想から『ハルチカ』の今後まで、『ハルチカ』尽くしでたっぷり伺いました。



「カイユもっと出して」って言われるんです


大矢  アニメ『ハルチカ』、大人気ですね。ご覧になった感想はいかがですか?

初野  穂村千夏は俺の嫁と言ったほうがいいでしょうか?

大矢  時間を10秒前に戻しますからね、はい、スタート。

初野  キラッキラして眩しすぎます(笑)。アニメは世界名作劇場の『家なき子レミ』('96-'97年)以来触れたことがなくて、『ハルチカ』のアニメ化が決まったあと、勉強しなければと知人から『魔法少女まどか☆マギカ』と『輪るピングドラム』を勧められて見たんです。そのセレクトが正しいかどうかはわかりませんが、いろいろな面でびっくりしました。悪い意味ではないですよ。


大矢  わかるーー! 私も普段アニメを見る習慣がないので、『ハルチカ』を見て、今のアニメってこんなんなんだ、とまずびっくりしたクチです。

初野  アニメは最初の打ち合わせ段階から一話完結が決まっていたんですが、スタッフの方々は、その制約の中でベストを尽くしていると思います。原作は長編や中編のプロットを圧縮して、行間で読ませる手法を取るどころか、あえて描写しない部分も多々ありまして、放送枠内におさまるかどうか心配だったんですけど、なにを削って、どこを活かして、どう解釈したのか、という点で、よくやってるなあと感心しながら楽しんでます。

大矢  そうそう、原作は短編とはいえ、エピソードが多重に絡まり合ってますよね。それを30分でやるわけだからかなり省略されてるんだけど、改変は最小限ですよね。

初野  肝心なところは変えていないですよね。それにアニメならではの表現ってあるじゃないですか。活字で1ページぎっしり書いたものが3秒くらいの特殊なアングルの絵で済んでしまったり、自分でも気づかなかった台詞の『間』とか。事前に絵コンテを見せてもらったんですけど、むしろこっちが勉強になった点が多いです。


大矢  私、原作ファンとして嬉しかったのは、原作通りのセリフが使われてることなんですよ。あの口調や掛け合いが『ハルチカ』の魅力だから、そのまま活かされてて感動しました。

初野  小説とアニメは表現方法が違うんですから好きなようにやってください、って何度も言ったんだけど、最終的には可能な限り原作に忠実な方向に舵を切ってくれました。『ハルチカ』は現代の物語ですが、僕の好みで昭和をイメージして書いたところがありまして、原作にはこっそり70年代や80年代の時代性を刻印しています。そこも監督と脚本家はうまく拾ってくれています。

大矢  キャラクターデザインはイメージ通りでした?

初野  登場人物のビジュアルイメージって持たないんです。現にアニメの放映前から、文庫版と、角川つばさ文庫スペシャル版と合わせて3種類ある。ミステリ小説で、主人公も「事件の犯人」の可能性もある以上、作者として感情移入してはいけないと思っています。アニメ版の、なまにくATKさんの絵は、最初見たときは驚いたんですけど、個性というか筋の通ったプライドを感じさせてくれるんですよね。だから信頼してお任せしました。強いて言えば、穂村千夏はショートヘアのイメージだったかな、ってくらい。

大矢  あ、そんなもん?

初野  うん、そんなもん。あのアニメの面白いところは、フィクションで純粋を表現するのに、むやみに少女を持ち出さないところかな。たぶん橋本監督の作家性が出ていると思う。橋本監督も脚本の吉田さんも限られた制約の中で、それこそミリ単位でオリジナリティを出そうと頑張ってくれています。人物のため息や、いいかけた台詞、ちょっとした仕草などにも演出と演技が入っていて、二回目、三回目を見ても、新しい発見がある。本当はもっとやりたいことはたくさんあっただろうに……と原作者として申し訳ない気持ちがあります。

大矢  じゃあ、省略はあっても肝心なところは変わってないしスタンスも近くて、原作にとってはとても幸せなアニメ化なんじゃないですか。ファンや視聴者の反応はどうですか?

初野  スマホを持っていないし、ツイッターとかやっていないので、反応を直接うかがう機会はほとんどないんですが、こないだ清水南高校(初野さんの母校で『ハルチカ』の舞台のモデル)に行ったときに、アニメのファンから「カイユをもっと出してください」って言われました。こういう場合、僕はどうすればいいんですか?

大矢  あっ、カイユは私も、原作を読んだとき以上にアニメを見て「いい!」と思った(笑)。なので安心してもっと出してください。

初野  じゃあ出したほうがいいんですね(笑)




『ハルチカ』はファンタジーに片足突っ込んでるんだよね


大矢  初野さんは2002年、オスカー・ワイルドの童話『幸福な王子』を下敷きにした『水の時計』(角川文庫)で第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞されてデビュー、それからしばらくはダークファンタジー系のミステリを書かれてました。だから2008年に『ハルチカ』が出てきたときには、それまでとはまったく違うユーモア青春本格ミステリで驚いたんですが。

初野  ダークファンタジーが続いたのはたまたまです。デビュー前の実験小説とか掌編とかは、ほとんどユーモアもの。たとえば、駅前でマウンテンバイクによる連続殺傷事件が起きて、怪しい探偵がワープロを鞄から出して「ほら、僕のワープロではマウンテンバイクは魔運転バイクと変換されますよ!」っていうくっだらない話(笑)


大矢  ああ、今、横溝賞に応募したのが『水の時計』で良かったと心の底から思ったよ……。今でも、『ハルチカ』以外はダークファンタジーですよね。

初野  普遍的な話に憧れていますから。だからなるべく地名を書かなかったり、固有名詞を避けています。童話の力を借りる、とまで言うとおこがましいんだけど、下敷きにしているところはあります。

大矢  そういったファンタジー系のと『ハルチカ』という、まったく傾向の違う作品を書いてらっしゃるというのは……。

初野  『ハルチカ』もファンタジーに片足を突っ込んでいるんですよ。僕は金田一耕助が大好きなんです。神か天使のように舞台に降りて謎を解いて去っていくスタイルが。ハルタの造形って金田一耕助に近いかもしれません。万能感があって謎は解くんだけど、ハルタは肝心な問題を解決できない。その後処理をするのが穂村千夏などの熱意のある普通の高校生、っていうのを描きたかった。

大矢  ああ、確かにハルタって問題の解決はできない! そもそも彼らの扱う事件が、高校生の手に余るものが多いですよね。だから最終的には大人が出てきたり、チカちゃんがみんなの気分を盛り上げたりして。

初野  あとはハルタの設定ですね。原作で草壁先生を好きとか愛してるって直接的な言葉はいっさい使っていませんし、これから書くつもりもありませんが、性的の曖昧さというか「あわい」を持たせています。それも探偵小説における神や天使の立ち位置を意識しています。だから穂村千夏とは恋愛しないし、ファンタジーっぽいイメージがある。

大矢  あー、そういうことだったのか!

初野  そもそも『ハルチカ』でリアルな高校生は描いてないんです。少年少女をリアルに描かないと現代は語れない、というのは変な思い込みですよ。吹奏楽部要素については、石川高子さんのブラバンキッズシリーズなど、優れたドキュメンタリー本が既にたくさんありまして、語弊を怖れずに言えば、それらを資料にすれば吹奏楽部フィクションは誰でも書ける。ドキュメンタリー本にできるだけ目を通したうえで、スポ根で見られるようなヒロイズム路線は避ける方向で僕は書いています。

大矢  確かに、部活小説にありがちなヒロイズムはゼロだ……。

初野  苦手です、あれ。ある日突然、利き腕が動かなくなったときのことを作り手も受け手も想像してないから。『ハルチカ』を書くにあたって、普門館出場経験のある方や有名校のOGから話を聞かせてもらったんです。自分が話してきた方々に限定すれば、高校を卒業してからいっさい楽器にさわっていない。体育会系顔負けの厳しい練習に耐えて、どれだけ燃焼しても、高校を卒業したらやめている。音楽のプロになりたくても、音大という別のルートがあって、それは高校吹奏楽部とリンクしていない。じゃあなんのために吹奏楽をやるのか? テーマがあるとしたら、そこだと思います。『ハルチカ』は部活という閉じた狭い世界じゃなく、常に音楽をそばに置きながら、校外に出るし、普段は接点のない大人と会って、歴史にも触れる。高校を卒業したあとも人生は続く、ということを作品を通じて、くり返し表現していますよね。

大矢  ああ、それ! ファンタジーっておっしゃいましたけど、そこはむしろリアルな部分だと思います。わからないことは大人に頼るし、教わるし。

初野  つまずきそうになったら閉じた世界から一回背伸びして、自分を囲んでる人たちの向こう側を見た方が解決しますよね。高校吹奏楽部というハードな部活をやりながらも、いろいろな体験をしましょう、視野を広げましょう、っていう書き方が一番いいかなって。



シビアなテーマに込められた理想郷への憧れ


大矢  ハルチカって大笑いできるユーモアミステリなんだけど、扱われるテーマは病気や老い、障碍といった、かなりシビアなものばかりですよね。

初野  だからといって”可哀想”ではないんですよね。下を見て現状を満足するのは嫌いなので、そんな印象を持たれないよう筆を割いています。『周波数は77.4MHz』(『初恋ソムリエ』所収)なんて、お爺さんやお婆さんは楽しそうじゃないですか。あの人達は好き放題生きてきて、おかしな達観に若者を巻き込もうとしない。その代わり、笑える達観をする。

大矢  そういった、一般には社会的弱者やマイノリティと呼ばれる立場の人を積極的に取り上げた作品は、『ハルチカ』だけではなくて、ダークファンタジー系にも多いですよね。っていうか、初野作品の殆ど全部が、そうじゃないですか?

初野  うーん。『1/2の騎士』(講談社文庫)に凝縮されていると思うんだけど、体に欠損があったり不自由だったりしても、誰でも中心人物になり得るし、人生を心から楽しんでいるし、かつ性格が無茶苦茶面白い……それって理想郷ですよね。小説は作り話だから、書いているうちに理想を求めているんだと思う。理想が甘くならないようにするのが大変ですが。

大矢  『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』は、一編ごとに、事件を解決したらひとりずつ仲間が増えていって、そうやって集まった仲間が『空想オルガン』で地区大会に挑戦して、っていう、里見八犬伝方式が大好きなの。イヤな子は出てこない。そういうのもファンタジーなんだろうけど。


初野  うん。負の部分はキャラクターではなく、話に持たせている。『ハルチカ』の中では、問題や犯人解明が完全に解決しないまま終わる短編がいくつかありますよね。読んでいてモヤモヤするような。リアルがあるとしたらそこかなあ。

大矢  たくさん作品がある中で、『ハルチカ』は初野さんにとってはどういう存在なんでしょう。

初野  本格ミステリのネタの実験の場です。あのシリーズに関しては、本格ミステリにこだわりたいですね。……でも、しんどい!(笑) 密室みたいな本格のテンプレをなるべく使わずに、謎そのもののオリジナリティを出したいと思って書いてますが。

大矢  あ、それはかなりのセンで成功してると思います。

初野  『ハルチカ』ってワンアイディアで書くんじゃなくて、自分の場合、ツーアイディア、スリーアイディアで固めないと怖くて書けないんです。『エレファンツ・ブレス』(『退出ゲーム』所収)に出てくる思い出マクラのアイディアは、それだけで一編書けるんだけど、存在しない色という謎を組み合わせることで成立させました。殆どの話に、ふたつ以上のアイディアが入ってます。

大矢  そうそう。それがアニメだとひとつに絞られちゃうんだけどねー(笑)。これまでの『ハルチカ』の中で、何か印象に残っている作品はありますか。

初野  どの作品も好きなんですけど、書いていてピタッとはまったのは『失踪ヘビーロッカー』(『千年ジュリエット』所収)かな。あれは野性時代の連載で、スッカラカンの状態で書きはじめて、僕の事情で前後編になったんですけど、最終的にうまくピタピタピタッとハマって、しかもダジャレも決まった(笑)

大矢  あ、ちょっと意外。あれって珍しく、謎解きというよりもサスペンスものですよね。疾走感溢れる、タクシージャックのタイムリミットサスペンス。そうそう、珍しいと言えば『惑星カロン』は、個々の短編の他に全体を通した流れもありますよね。

初野  できるだけ現代の時事ネタは入れないようにしているんだけど、さすがにインターネットを避けて通れなくなって。一回はやってみようってことで、『惑星カロン』は一冊ぜんぶ通してネットやバーチャルをテーマにしています。で、最後の一話(表題作)に、僕が考えてることをちょっと込めた、かな。ちょっとロマンチック過ぎたかもしれない。




次の『ハルチカ』はあの人たちが主役!


大矢  では、今後の『ハルチカ』の展開は?

初野  まだ『変人十傑』が四人残ってるんですよね。それを出さないと。吹奏楽部要素よりそっちですよ! なんで十傑なんて設定にしちゃったんだろう……

大矢  自分で決めたんじゃないですか!

初野  ですよね。それと大編成のA部門のチャレンジも書きます。コンクールにどう勝ち進むのか、地方大会レベルなのかは、読んでのお楽しみということで。修学旅行編も興味あるんですけど、清水南高校に行ったときに聞いたら今どきの修学旅行って海外なんだって! てっきり京都だと思ってて……

大矢  大好きなシリーズなので、できるだけ終わらせない方向でお願いしますね(無責任に)。なんせ来年の春には、実写映画化も控えてますし。主役ふたりのキャストが先日発表になりました。チカちゃんに橋本環奈さん、ハルタにSexyZoneの佐藤勝利さん。実に華やかなペアです。原作者として、映画に望むことって何かあります?

初野  主題歌は僕で、という要望は担当者レベルでブロックされました。

大矢  なにいっているんだ、こいつ、って感じですよ。

初野  アニメと同じように映画も表現方法が違いますので、自由に作っていただいて結構です、と伝えてあります。原作のコピーはしなくていいと。たぶん市井監督の作家性がアニメ以上に強く出るんじゃないかな。原作者の立場を離れて楽しみたいです。

大矢  では最後にこの後のご予定を聞かせてください。

初野  このあと飲みに行きます。

大矢  冗談ですよねー?(絶対零度の視線で)

初野  こ、こここ、今年は幻冬舎から、ハルチカでは書けないネタを使った学園ミステリの連作が出ます。それから文藝春秋の連載がまとまる予定です。『ハルチカ』では、番外編の短編集がKADOKAWAから出ます。できれば5月か6月に……うん、出るはずです。頑張ります。

大矢  (あ、こいつ、最初の原稿では「5月」だったのに、著者チェックでしれっと「6月」を加えてやがる!)番外編、というと?


初野  穂村千夏以外の登場人物の視点で書いたスピンオフです。外伝はまったく興味がなかったんですが、シリーズを終わらせるのに必要だということが『千年ジュリエット』の執筆後にわかりまして、〈カイユ+後藤〉〈芹沢+片桐〉、〈マレン+名越〉、〈成島+謎の人物〉というペアで一編ずつの形式になります。こうして視点を変えると、穂村千夏の語りでは不可能な深堀りができます。それからアニメ『ハルチカ』のDVDボックスの特典として、短編を書き下ろしました。これにはアニメのオリジナルキャラを小説にちょこっと登場させてます。

大矢  オリジナルキャラってあまりいないような……あ、あのふたりだ!(そうそう、と頷く初野さん) じゃあ今年はその3冊ですね……あれ? 毎年秋に出る、ハルチカの新刊は?

初野  アイデアがあるうちに書かないと駄目ですよね。『惑星カロン』の文庫化に合わせて、なんとか時間をつくって出します。出すぞ。出せるといいな……(だんだん声が小さくなり、そのままフェイドアウト)。





作家プロフィール



初野晴(はつの・せい)
2002年、『水の時計』で横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビュー。ファンタジーとミステリーを融合させて作風で注目を浴びる。
『退出ゲーム』に始まる青春ミステリー「ハルチカ」シリーズは小説ファンのみならず、コミカライズやアニメ化などメディアミックスで広範囲の支持を受けている。
他の作品に『向こう側の遊園』(講談社文庫)、『わたしのノーマジーン』(ポプラ文庫)など。










インタビュアープロフィール



大矢 博子(おおや・ひろこ)
書評家。著書に『脳天気にもホドがある』(東洋経済新報社)『読み出したら止まらない!女子ミステリー マストリード100』(日経文芸文庫)がある他、
『お仕事小説アンソロジー エール!』全3巻(実業之日本社文庫)の編集を担当。
ラジオ出演や読書会主催など名古屋を拠点に活動。








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2016/03/30 掲載

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