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コラム

あの人と、本のおしゃべり ―第1回 水生大海×大矢博子―

あの人と、本のおしゃべり ―第1回 水生大海×大矢博子―

書評家・大矢博子が「この人とおしゃべりしたい!」と思った作家さんにお話を伺う対談企画です。
著作の話はもちろん、書店の思い出や使い方など、フリーダムにしゃべりたおします! 
第一回のお客様は、2009年のデビュー以来、サスペンスや青春ミステリなど多彩な作品を精力的に執筆されている水生大海さん。新刊『運命は、嘘をつく』(文春文庫)について、じっくりとお話を伺いました。



書店は待ち合わせの場所


大矢  (某ファッションビルの喫茶店にて)このビルに入ってる書店がリニューアルして、カフェスペースが出来てましたね。あっちで待ち合わせでもよかったかも。

水生  携帯電話がなかった頃って、書店で待ち合わせってよくやってましたね。この店のここのコーナーで何時にね、と言っておけば、多少待たされても待たせてもだいじょうぶ。雑誌コーナーで待ってるはずがいつしかコミックスに文芸にと移動して、「ずっと待ってたのにー!」「いや勝手に移動するなよー!」とかね。

大矢  あったあった。今じゃ「どこ?」って電話やLINEが入ってすぐ会えちゃうけど。

水生  大矢さんからメールが入ったときも地元の書店にいたんですよ。便利ですよね。スマホがあれば、休日でも遊んでいても仕事の連絡は来る(笑)。

大矢  あはは、それはお邪魔しました。

水生  「もしもし私お仕事、今、あなたの後ろにいるの」

大矢  やーめーてーーー!(笑) そういえば昔は飲み会の前も、お店の場所がわかりにくいときは書店に集合して、みんなで移動してたなあ。◯◯さんがまだ来てない、と思ってたら本持ってレジに並んでたりね。今は地図アプリでさくっと現地集合になっちゃった。

水生  書店での待ち合わせって、相手を忘れて動いちゃうこともあれば、あの本がいいこの本がいいと結局どこにもいかずに、荷物だけ増えて終わることもあったなあ。贅沢な時間の使い方をしていたと思います。

大矢  ですね。ただ待ち合わせしてるだけのつもりが、思わぬ本との出会いがあったりもする。

水生  今は、スマホで簡単に連絡がとれるけど、書店は時間の調整もできるし知識も増える。楽しいですよね、書店での待ち合わせ。ぜひ書店に足を向けて欲しいなあ。

大矢  そんな書店に今はご自身の本が置かれているわけですけど。

水生  今うん、単純に嬉しいです。作家はみんなそうだと思いますけど。

大矢  そしてまた新たな一冊が書店の棚に入りましたね。『運命は、嘘をつく』(文春文庫)。これは文庫オリジナルなんですね。

水生  はい、薄くて小さくて持ち運びに便利なので(笑)、ぜひ連れて帰ってやってください。



一言がきっかけで運命が変わる物語


大矢  では、『運命は、嘘をつく』についてお話を聞かせてください。最初に登場するのは、月子と小夜というふたりのOL。月子は予知夢を見ることができる──と本人は言っていて、今朝の夢で運命の人に会った、あの人と自分はもうすぐ本当に出会うんだ、と小夜に話します。小夜が面白半分にその「運命の人」の顔かたちを聞くと、偶然にも自分の知り合い・瑛斗にそっくり。そこで瑛斗を月子に紹介するんですが……。

水生  そうまとめると恋愛小説みたいだけど(笑)、そこから思わぬ方向に行っちゃう。

大矢  ここまでは書いてもだいじょうぶかな……小夜が月子の予知夢を「横取り」しようとするくだりから、あれよあれよと。世間を騒がせている連続殺人事件なんかも絡んできて、かなり意外な展開が楽しめるサスペンスです。


水生  これ、あらすじ紹介するの難しいんですよね。タイトルもすごく苦労したんです。

大矢  一本の筋を追うというより、あらぬ方向に転がっていく話ですもんね。

水生  描きたかったのは、月子っていうちょっとエキセントリックな女性の一言によって、周囲の人の運命が思わぬ方向に転がっていく、どんどん滑っていく、そんな物語なんです。第一章は小夜の話。それを近くで見ていた瑛斗も、月子にかかわったことで運命が変わる。さらに月子自身はどう思っていたか……そう考えて、それぞれを語り手に据えた四つの話を作って、ひとつの長編にしました。

大矢  確かに四章すべて視点人物は違うんだけど、前章からの運命の連鎖反応っていうか、ひとつの運命の変化が他の人の運命をドミノ倒し的に変えていくのが読みどころですよね。

水生  その展開の妙を楽しんでいただければ。

大矢  しかもね、これ、気づいたんだけど、三章まではどれも主人公が「こんなはずじゃなかったのに、どうしてこんなことに?」と戸惑ったり呆然としたりする場面で終わってるのね。

水生  はい、わざとです。運命に翻弄されるっていうテーマだし、主人公と一緒に読者にも翻弄されて欲しかった。そうなっちゃうんだ、こっちだったんだ、っていう……これも一種のドンデン返しというか、読んでる人が思ってるのとは別の方向に進んだ方がびっくりしてもらえるかなって。

大矢  確かにびっくりした。え、そっちなの? って。

水生  最後にイメージを裏切るのは同じなんだけど、そこに至る道筋はぜんぶ変えてあります。

大矢  思わぬ方向に事態がどんどん転がる吸引力満点のサスペンスとしては『熱望』(文藝春秋)という傑作がありますが、あちらは犯罪がきっかけでした。今回は予知夢。

水生  夢とか脳科学とか好きなんですよ。予知夢を見る人がいたら、どんな感じなんだろう──と思ったのが最初のきっかけ。未来が見えるなら人生はいい方向に行くはずなのに裏切られた、というアイディアをまず思いついたんです。じゃあどう裏切るかって考えて、「予知夢を他人が横取りする」とか「確かに運命の相手だったんだけど、運命の意味が違ってた」とかって広げていきました。




「終わった話」が動き出す展開に注目


水生  実はこれ、最初は第一章だけ、独立した短編だったんです。十年以上前に漫画のアイディアとして考えていたもので(注・水生さんは以前漫画家をされていました)、3年前かな、それを編集者さんに話したら、「それもうちょっと長くしてみましょうか」と言われて。

大矢  普通、短編を長編にするとなると、文字通り「引き伸ばす」イメージなんだけど……。

水生  引き伸ばすんじゃなくて、連作短編の形で続きを書きました。短編の切れ味を大事にしたかったんですよ。第一章になった短編は、ショートショートのようなオチで驚かせるっていう発想でできた作品だったから、それを伸ばすというのは違うなあと。まあ、最初に掲載された電子小説誌「つんどく!」(文藝春秋)が読み切り短編の雑誌だったという現実的な事情もあるんですけど。

大矢  だから第一章は独立した短編として、まさに「ここで終わり」という終わり方なんですね。でもそれが長編の導入部になると「話の序盤でこんな展開、ありえない!」っていう、かなりのサプライズになっちゃってるんですけど。

水生  それに挑戦してみるのも面白いかなって。初野晴さんが巻末の解説を書いてくださってるんですが……。

大矢  あの解説はずるい!(笑)ハル・チカ(初野晴さんの人気シリーズの登場人物)が出てきて解説してくれるなんて。めちゃくちゃ贅沢じゃないですか。

水生  (笑いながら)解説でも、やはり「一章で終わる」っていう部分に触れてくださってて。

大矢  印象的ですもん。完成された短編を長編の第一章にするっていうのは、湊かなえさんの『告白』(双葉文庫)がそうですよね。

水生  あ、言われてみればそうですね。でも実はそっちじゃなくて、頭にあったのはヒッチコックの有名な映画なんです。こんなところで宙ぶらりんにする? っていうのがあるでしょう?

大矢  ……ああ、あれか! なるほど、同じだ。

水生  第一章で「終わった」話が次にどう続くか、その展開に注目してもらえると嬉しいですね。

大矢  そして第四章は、雑誌掲載時から全面的に書き換えられましたね。語り手まで変わってる。

水生  雑誌では「犯人」が語り手だったんだけど、それだと話が関係者だけで閉じちゃうから。運命に翻弄されてるひとばかりじゃつまんないので、四章は運命と戦う、運命を切り開く人を描こうと思ったんです。

大矢  ああ、だから四章だけは「こんなはずじゃなかった」という終わり方じゃないんだ。

水生  そこで「こんなはずじゃなかった」って思ってるのは別の人なんですよね。

大矢  ……!(言われて気づいた)



「あなたならどうしますか?」


大矢  運命に翻弄されるというテーマは一貫しながら、章ごとに目先が変わって飽きさせません。お気に入りの登場人物なんています?

水生  瑛斗の章は書いてて楽しかったですよ。彼はちょっとハードボイルドなの。うーん、いや、本人はハードボイルドに行動しているはずだったんだけど……「こんなはずじゃなかった」(笑)

大矢  しかし登場人物みんな、容赦なくひどい目に遭いますねえ。

水生  各章の主人公がどうなったら面白いかな、というのを念頭に置いて作った話なので、本格ミステリを書くときのような計算はしてないんですけどね。

大矢  でもけっこう捻ってあったり、「最後はここにくるのか」っていうミステリ的な読み方もできますよ。たとえば月子の予知夢。二章のある部分で「あれ?」と思ったの。これ矛盾してない? って。ところが、それが最後に「そういうことか!」って、膝を打った。この小説、読んでる間はただ翻弄されて「どうなるの、どうなるの」って引っ張られるから気づかないんだけど、よく読むとかなり技法が凝らされてて驚いたんですよ。

水生  再読してもらえると嬉しいです。ポイントを拾いなおしてもらえると。

大矢  運命を決めてるのはいったい何なんだろう、ってのが尾を引くんだよなあ。水生さんは運命って信じる方ですか?


水生  自分でなんとかするしかないもの……っていう気がします。

大矢  これ運命かも!っていう経験はないの? 合コンとかで。

水生  ないなあ。合コンの出会いもいいなあと話を考えてたら、いつの間にか『ランチ合コン探偵』(実業之日本社)になってたとかはあるけど。

大矢  今、さらっと宣伝ぶちこんできたね?(笑) 最後に、読者に「ここを読んで欲しい」というところはありますか?

水生  四章の最後、かな。四章の主人公が最後にどこにたどり着くのか。語り手の四人は、運命に対するアプローチがばらばらです。信じる人、信じない人、とらわれる人、戦う人。読んでる人は、この中に自分に近い人を見つけると思う。あなたは運命とどう向き合いますか? あなたならどうしますか? そんな問いかけを感じてもらえると嬉しいです。


大矢  ありがとうございました。(対談を終えて片付けながら)このあたりの書店、ぶらぶら回って帰ろうか。

水生  うん、新しい運命の本と出会えるかも。その運命は、嘘をつかない。

大矢  人を騙す話ばっかり書いてるミステリ作家が、どの口でそれを(笑)。




新刊紹介



運命は、嘘をつく

水生 大海
文春文庫
本体価格:600円+税



【内容紹介】

気鋭の女性作家が紡ぐ、新感覚ミステリー!夢に出てきた理想の男性。
これこそ運命の人だと思い焦がれたOL月子の行動が思わぬ殺人事件を呼んで…。
初野晴の「解説小説」付き。











作家プロフィール



水生 大海(みずき・ひろみ)
第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞で優秀作を受賞した『少女たちの羅針盤』
(原書房→光文社文庫)で2009年にデビュー。
2014年、「五度目の春のヒヨコ」で第67回日本推理作家協会賞(短編部門)候補となる。
近著に『冷たい手』(光文社)『君と過ごした嘘つきの秋』(新潮文庫nex)など。







インタビュアープロフィール



大矢 博子(おおや・ひろこ)
書評家。著書に『脳天気にもホドがある』(東洋経済新報社)『読み出したら止まらない!女子ミステリー マストリード100』(日経文芸文庫)がある他、
『お仕事小説アンソロジー エール!』全3巻(実業之日本社文庫)の編集を担当。
ラジオ出演や読書会主催など名古屋を拠点に活動。








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2015/10/13 掲載

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