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コラム

あの人と、本のおしゃべり ―第2回 大崎梢×大矢博子―

あの人と、本のおしゃべり ―第2回 大崎梢×大矢博子―

書評家・大矢博子が「おしゃべりしたい!」と思った作家さんに突撃する対談企画・第2回のお客様は、書店ミステリでデビュー以降、作品の幅をどんどん広げている大崎梢さん。
デビュー当時の裏話から新刊の話まで、いろいろ聞いちゃいました。



「いまだに書店で働いてる夢を見るんです」


大矢  この対談は丸善&ジュンク堂のサイトに載るので、まずは書店がらみのエピソードから伺うことにしてるんです。大崎さんにとって書店て、どんな場所ですか?

大崎  やっぱり私は書店員だったから……ほら、よく、大学を卒業して何年も経つのに試験の夢を見るなんて話があるでしょう? あれと同じで、私いまだに書店で働く夢を見るんです。

大矢  えーっ!? 前に勤めてたお店が夢に出てくるの?

大崎  そうなんだけど、ちょっと様変わりしてるのね。棚の位置とか。それで、あれー? 久しぶりに来たらちょっと変わった? って思いながら、レジ打ってる(笑)。

大矢  染み付いちゃってるんですねえ。書店員は何年くらい?

大崎  10年ぐらい。(ちょっと間があって)……書店の仕事はたいへんでした。夜、眠れないこともあったもの。

大矢  え、それはどういう点で? 売り上げとか?

大崎  ううん、接客。私が働いてた書店はビルに入ってたんだけど、そのビル全体でお客さんのアンケートをとってたんですよ。そしたら「挨拶がなかった」とか書かれることがあって。だから丁寧な接客ができなかったときなんて、「あのお客さんが私のことを名指しで何か書くんじゃないか」なんて心配で。

大矢  うわあ、それはキツい。

大崎  他にも「なんであの本を置いてないの」とか「どうして取り寄せにそんなに時間かかるの、Amazonなら云々」とか。中にはけっこう理不尽なことをいうお客さんもいて……そのあたりはね、実はデビュー作の『配達あかずきん』(創元推理文庫)には書けなかった部分なんですよね。


大矢  あー、そうなんだ……。書店を舞台に書店員が謎を解くミステリで、書店の裏側がわかるお仕事ミステリとしてヒットしましたが、言われてみれば書けないことや書きにくいこともありますよね。ところで、自分の職場に自分の本が並ぶってどんな感じでした?

大崎  ちょうど入れ違いで辞めちゃったんです。働いてたお店に『配達あかずきん』のヒロちゃんのモデルがいるの。だからちょっと心配でお店に行きづらかったんだけど、あとで聞いたら、他の人はみんなその人がモデルだってすぐにわかったのに、当人は気づかなかったんだって(笑)

大矢  まさにヒロちゃんぽい(笑) 他のお店には行かれました?

大崎  行きましたけど、その頃ってまだ本屋大賞も始まったばかりで、ネットも盛んじゃなくて、他の書店員さんとの交流ってまったくなかったんです。だから他の書店の人が、どんな気持ちでこの本を置いてくれてるのかなっていうのがまったくわからなかった。

大矢  あ、「わーい、自分の本がある!」じゃなくて、売ってる側が気になるんだ。

大崎  『配達あかずきん』の巻末に書店員さんの対談が載ってるんですよ。あの本にどんな感想を持ってくれたんだろうと思ってドキドキしながら読んだら、本の話なんてほとんどなくて、みんな自分のお店の話ばかりしてるんですよ! (大笑いしながら)それがもう、なんだかすごくおかしくて。みんな言いたいことがいろいろあるんだなあって。

大矢  『配達あかずきん』に触発されて、喋りたくなったんでしょうね。

大崎  だからね、『配達あかずきん』は書店員さんに面白く読んでもらえたらいいな、という気持ちはすごくありました。私はもともと児童ものを投稿してて、書店ミステリでデビューするなんて思ってなかったんですけど、でも『配達あかずきん』を書いたのは、あれを読んだお客さんが書店員に少し優しくなるといいな、と思ったからなんです。




「編集者って、すごいと思う」


大矢  書店ミステリでデビューしたあとはそのシリーズ続編、そして出版社の営業マンのシリーズ(『平台がおまちかね』創元推理文庫)を出されました。今では出版界ものといえば大崎梢のお家芸みたいになってますが、初期の頃から、他の話も書かれてましたよね。


大崎  それはね、編集者がえらかったと思う。『配達あかずきん』が出たあとで声をかけてくださった人が3人いたんです。その3人が誰も「ああいう話を」とは言わなかったの。普通、ああいう話でデビューしたら、同じようなものを頼みそうなものじゃない? のちに尋ねたら「それだけは言わないでおこうと思ってた」んですって。それは今考えてもすごいと思う。

大矢  へえ! じゃあその3人は、「大崎梢って面白いネタを持ってるぞ」じゃなくて、物語を作る力を見てくれたってことですね。

大崎  何が書きたいですかって聞かれて、こういうの、って言ったら、いいですよって。それで書いたのが『片耳うさぎ』(光文社文庫)『夏のくじら』(文春文庫)『スノー・フレーク』(角川文庫)の3冊。どれも書店とはまったく関係のない話なんです。デビュー作に準じたものの方がもしかしたら売れたかもしれないのに、そういうことはまったく言わなかったの。すごいよね?

大矢  (頷いて)すごいなあ。すごいし、ありがたいことですね。そこからテーマも版元もどんどん広がっていきましたね。シリーズ物以外でも、ジェットコースターサスペンスの『キミは知らない』(幻冬舎文庫)、新米雑誌編集者のお仕事小説『プリティが多すぎる』(文春文庫)、そして出版界モノで初めて主人公のプライベートを書いた『クローバー・レイン』(ポプラ文庫)と続きます。

大崎  とにかくこんなに続くと思わなかったので(笑)、せっかく声をかけてくれたんだからって必死に書いてました。



大矢  そしてその次が『ふたつめの庭』(新潮文庫)ですね。文庫化されたばかりなので、この作品について少し詳しく聞かせて下さい。主人公は保育士さん。連作短編形式で、保育園で起きた事件や保護者との関係などが描かれます。

大崎  (なぜか大笑いしながら)これはねー、恋愛ものを書いてみようと思ったんですよねー。大人の胸キュンなメルヘンぽい恋愛を書きたかったの。ちょっとずつ近づいていく感じの。


大矢  なんでそこで笑うかな(笑)。実際、とっても胸キュンな恋愛小説ですよこれは。ただ、最初の二編は恋愛色は薄くて、保育園で事件が起きて、それを解く鍵が絵本にあるっていう絵本ミステリですよね。

大崎  本当はそれをやりたかったんですよ! 絵本ミステリっていうのがコンセプトだったの。第一話のタイトルが「絵本の時間」っていうんですけど、私はそれを本のタイトルにしたかったんです。児童書ではなく絵本を読める時間って、短いでしょう? われながらいいコンセプトだと思ったんだけど、そこでまた、編集者さんがね、「本にこだわらなくていいですよ」って。

大矢  おお、またここでも! 編集さんが大崎さんを広げようとしてくれてますね。

大崎  「大崎さんの新たな代表作にしましょう!」って。ミステリの人間って、絵本なら絵本って、自分で縛りを作って悦に入っちゃうところがあるでしょう? それにこだわらないで、枷にしないで書いてみてもいいんじゃない?って。

大矢  確かに、第2話まではこれまでの書店ミステリと似てるのね。読者は主人公と一緒に「謎と絵本」を見てる。でも主人公と保護者の恋愛小説にシフトしていく第3話からは、読者は主人公を見るようになる。主人公の物語を読むようになるんです。「絵本ミステリ」の枷をはずしたからこそ、ですね。




大崎梢史上最高の胸キュン場面


大矢  あのね、私、すっごく好きな場面があるんですよ。後半だから具体的には言えないんだけど、恋愛がらみで「いいこと」があったとき、ビルの中にいた主人公がもうふわふわしちゃって、意味もなく4階まで上がってまた2階まで降りてっていうね(笑)、駆け出したいような、じっとしていられない気持ちの描写が、素晴らしいんです。こっちもニコニコしちゃった。もうね、キュン死とはこのことかと。

大崎  そこね、実は新潮社の校閲さんがゲラに「胸キュンですね」って一言書いてくれてた箇所なんですよ。そんな書き込み、滅多にないのに!

大矢  やっぱり! あそこはね、若い頃の恋愛し始めの気持ちが数十年ぶりによみがえったもの。

大崎  相手のちょっとした一言で舞い上がったり、逆に深読みして落ち込んだりね。

大矢  (激しく頷きながら)そうそうそう! で、作中ではその直後にある出来事があって……ああ、そこは言わないでおこう。ともかく、胸キュン恋愛小説であり、絵本ミステリであり、そして保育士のお仕事小説であり、保育士と親の成長小説でもあるという、幾通りもの読みができる作品です。

大崎  作中に父子家庭の親子が出てきますけど、保育士さんに取材したときにね、実際に離婚して子どもを引き取ったお父さんの話を聞いたんですよ。そのお父さんが保育園のお母さんたちの間ですごくモテるんですって。どうしてかというと「子どもを捨てなかった」から。見た目とかじゃないの。奥さんとは別れても子どもは捨てなかったっていう一点だけで、そのお父さんへの評価がぐっと上がるんですって。それが目から鱗で。

大矢  うわあ、そうか! それ確かに信頼できる!

大崎  出待ちとかもあるんだって。それで家事や料理を教えてあげたりとかね、まあそこは、ちょっと女性が上に立てるっていうのもあるのかもしれないけど(笑)。

大矢  なるほどねえ……子どもを捨てなかった、か。深いな……。

大崎  そう、子どもを捨てなかった男……。(しばらく二人で物思いに耽る)


大矢  (気を取り直して)じゃあここで、父子家庭つながりで単行本での最新刊『空色の小鳥』(祥伝社)の話に移りましょう。これは、亡くなったお兄さんの子どもを引き取って育てる青年が主人公です。ポイントは、青年がまだ若いこと、引き取った6歳の姪との間に実は血のつながりがないこと、その上で正式に養子として引き取るということですね。なぜ彼はそんなことをするのか、というのがテーマなんですが……。

大崎  ミステリでよく遺産相続ものってあるじゃない? 大金持ちの家で、いきなり誰かの隠し子が出てきて大騒ぎ、みたいな。それの「前」というか「逆」というか……をやりたかったんですよね。


大矢  「前」というか「逆」というか(笑)

大崎  これ、粗筋どこまでいうか難しいんですよ! 第1章を読めば、だいたいやりたいことはわかってくれると思います。




「家族の形」を考えていきたい


大矢  『空色の小鳥』ってね、第1章はこれまで大崎梢らしからぬ、なんか黒いオーラがバンバン出てますよね。姪を引き取るんだけど、情がないの丸わかりで。

大崎  そう、主人公が優しくないの。兄嫁の住むアパート見て「けっ、貧しいアパートだな」みたいに思ったり(笑)、なんかね、書いててすっごく楽しかった!

大矢  楽しかったんだ!

大崎  今までほら、そういう人書いてこなかったから。子どもにお弁当買ってきたら子どもは寝ちゃってて、ひとりで食べて「子育てってけっこうヒマ」なんて思ってる場面があるんだけど、そこなんてもう、書きながら「バカかオマエ! 今にみてろよ!」って(笑)

大矢  そこ! 日本中の親を敵に回したと思ったね(笑)。ただこれって、表紙のデザインと第1章を見た限りではもっとダークな話かと思ったんだけど、第2章からはいきなり生活感満載になりますよね。斜に構えてたクールな主人公が、慣れない料理したりPTAに顔出さなくちゃならなかったりと、それがまた面白かったんですが。

大崎  なかなかダークには行かないですねえ。(身悶えしながら)第1章はダークだったんですけどねええええ。だからみんなに「1章だけ読んで!」って言ってるんだけど(笑)、生活感っていうのはね、割と荒唐無稽な話なので、なるべく地に足のついた描写を心がけたんですよ。

大矢  本当は最後までダークで通したかったの?

大崎  うーん、いつかはそういうのも書いてみたいと思うけど。そもそも本当にダークにしたかったら、引き取られる姪っ子ももっとおとなしくて繊細な子にするよね。

大矢  あの子もたいがい、おちゃっぴぃだもんね(笑)。それに「オカマのしぃちゃん」もダークからは程遠いキャラで……。

大崎  (投げ出すように)もうね、疲れたんだろうね(笑)

大矢  ダークに疲れたんだ。てか、けっこう早いな疲れるの!

大崎  書きたかったのはね、子どもを引き取ることで、本来なら関わることがなかった人たちと関わるようになる、それが面白いなって思ったんですよ。嫌でも人と関わらなくちゃならない、それがその人の幅とか深みとか、人生を彩るとか、そういうことにつながるんじゃないかなって。

大矢  ああ、それわかる! 主人公は、自分自身ではずっと変わってないつもりでいるんだけど、側からみるとどんどん変わっていってるんですよ。これ、「本人だけが気づいてない成長小説」だと思いました。すごいのはね、これ主人公の一人称一視点でしょ? だから自分に自覚がないことは書けないはずなの。なのに周囲の対応の変化で、彼が変わっていってることがわかる。

大崎  計算ずくの男の計算外、って面白くないですか? 自分の企みを貫こうとするんだけど、その過程で計算外のことがいろいろ起きる。それとね、「家族って何?」っていうのを考えたの。血がつながってなくても、何か家族の定義ってのがあるのかなって。あるとしたら何だろう、家族の形って何だろう──っていうのを考えてみたかったんです。主人公の実家のあり方も含めて。

大矢  血のつながり、というのは確かに随所に出てきますね。それが本当にそんなに大切なの?という問いかけも。そのテーマが、ミステリ部分にもしっかり関わってきます。ミステリとしても家族小説としても、それから「今までの大崎作品にはないキャラ設定」という点でも、読み応えのある一作だと思います。

大崎  家族小説はもう少し書いてみたいですね。わかりやすい幸せの形みたいなものにとらわれすぎてる気がして。難しいんですけど、家族を書いていきたいです。

大矢  8月に出た『空色の小鳥』と今月文庫化された『ふたつめの庭』は、どちらもまさに、大崎梢の家族ものの流れ、ということになりますね。ぜひ、家族の形、に注目して読んでみてください。




新刊紹介



ふたつめの庭

大崎 梢
新潮文庫
本体価格:630円+税



【内容紹介】

25歳の保育士・美南は、次々と起きる不思議な事件にふりまわされる日々。
謎を解くべく奔走するうち、男手ひとつで園児・旬太を育てる隆平に心惹かれて...。
大人も子どもも一緒に大きくなる、恋と謎と成長の物語。












空色の小鳥

大崎 梢
祥伝社
本体価格:1,700円+税



【内容紹介】

大企業総帥の父が溺愛した亡き兄は、内縁の妻との間に幼い娘を残していた。
密かにその子を引き取った弟。彼の心を占めるのは、打算か、愛情か、それとも-。
『小説NON』連載に加筆・修正して単行本化。










作家プロフィール



大崎梢(おおさき・こずえ)
2006年『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』でデビュー。
書店ミステリの書き手として一躍注目を浴びる。以降、青春ミステリ、児童文学、お仕事小説など幅広く活躍。
2011年『スノーフレーク』が桐谷美玲主演で映画化された。
最新刊は『空色の小鳥』(祥伝社)。







インタビュアープロフィール



大矢 博子(おおや・ひろこ)
書評家。著書に『脳天気にもホドがある』(東洋経済新報社)『読み出したら止まらない!女子ミステリー マストリード100』(日経文芸文庫)がある他、
『お仕事小説アンソロジー エール!』全3巻(実業之日本社文庫)の編集を担当。
ラジオ出演や読書会主催など名古屋を拠点に活動。








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2015/11/13 掲載

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