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コラム

あの人と、本のおしゃべり ―第4回 梶よう子×大矢博子―

あの人と、本のおしゃべり ―第4回 梶よう子×大矢博子―

書評家・大矢博子が「おしゃべりしたい!」と思った作家さんに突撃する対談企画・第4回のお客様は、『ヨイ豊』が第154回直木賞の候補になった大注目の時代小説家・梶よう子さん。
「初めての待ち会」の裏話から意外な読書歴、作品についてなど、たっぷり伺いました。



電話が鳴った! そのとき頭には……


大矢  いかがでしたか、初めての直木賞候補体験は。

  嬉しかったですよー。びっくりした、というよりも、自分では「力を入れて書いたぞ」という思いのある作品だったので、それを見て選んでくださったというのが嬉しかった。

大矢  候補が発表されたとき、周りの反応は何かありました?


  それがねえ、意外と静かで(笑)。編集さんからメールは来たんですけど、〆切の連絡ありつつの「おめでとう」みたいな……。

大矢  なんてクールな! 待ち会はされたんですよね。

  しましたしました。銀座の飲み屋さんで、各社の担当編集者さんが集まってくださって、私含めて20人。けっこう酔っ払ってる人なんかもいてね。作品の話より、むしろSMAPの解散がどうしたこうした、みたいなことをずっと話してた(笑)。

大矢  ああ、選考会がスマスマ生放送の翌日だったから! じゃあ緊張した感じじゃなくてけっこう和やかだったんですね。

  うーん、私はけっこう緊張してたんで、その緊張が移ってた部分はあるかな。

講談社
N氏
  電話が来たときはシーンとしましたよね。

大矢  え、選考結果の連絡ですか?

  (乗り出して)いや、それが、うちのバカ娘がね! 待ち会に来るはずが場所がわからないって電話してきたんですよ! 18時ちょい過ぎに! 電話が鳴った瞬間、場がピーーーン!って(笑)

N氏  そんなに早く結果が出るわけないし、その(結果を伝える)電話じゃないってのはわかってたんですけど、とは言え、あれはビビりましたね(笑)

大矢  娘さんもまさか自分の電話がそんな事態を引き起こしてるとは思わなかったろうなあ。受賞は結局、青山文平さんの『つまをめとらば』(文藝春秋)になりましたが、結果の連絡が来た時はどんな感じでした?

  ほら、今は着信番号が出るから、主催者からの電話じゃなかった時点で結果はすぐわかったんですけどね。うーん、ガッカリ感もありましたけど、解放感もありましたね。悔しい反面、ほっとするみたいな。ちょうどその時は、チョンマゲのヅラかぶって遊んでたんですけど。

大矢  はい? ……誰が緊張してたって? どこの作家が直木賞の待ち会でチョンマゲのヅラかぶるのよ。

  あははは。

大矢  もし受賞してたらヅラのまま会見してたりして。

  あ、それ、言ってたんですよ。ヅラのまんま会見に出したらどうなるか、って。

大矢  言ってたんかい! でもそれ、姫野カオルコさん(150回直木賞)のジャージを抜くよね。羽田圭介さん(153回芥川賞)の白塗りとどっちが、ってレベル。じゃあ今後受賞したときには……

  そのときはヅラで。今回は武士髷だったんだけど、町娘のヅラもいいかも。

大矢  娘……? それはちょっとずうずうし……ごほごほっ。

  いいじゃないですか! ともあれ、もし機会があれば、武士髷と町娘髷の、どっちか似合う方で行こうかなと。

大矢  それすごく見たい。最近は会見の話題も芥川賞に持ってかれることが多いから、チョンマゲで出てきたら話題になりますよ。

N氏  (冷静に)まずければ、ヅラはすぐ取れますからね。



時代小説家・梶よう子の出発点


大矢  これまでのお話を伺いたいんですが、若い頃から時代小説が好きだったんですか?

  それが違うんですよ。たまたま中学校の先生がウチュウジンで……。

大矢  は? 中学校の先生が宇宙人?

  そうそう、木星人で……って違う、宇宙塵! SF同人誌の「宇宙塵」!

大矢  おお、梶よう子のノリツッコミ。

  (あらためて)「宇宙塵」の同人だったんですよ、先生が。その影響でSFが大好きになって、和洋問わず読んでました。筒井(康隆)さん、半村(良)さん、豊田(有恒)先生……あ、豊田先生だけ「先生」なのは講習会に参加したことがあるからなんですけどね。他には村上龍や村上春樹、いわゆるW村上も読んでましたね。

大矢  へえ、時代小説に向かう要素が何もない!

  本とは別に、私、時代劇が大好きだったんですよ。それこそ幼稚園の頃だと「素浪人」シリーズ(原作・南條範夫:現在のテレビ朝日で放送)ですね。松方弘樹さんのお父さん(近衛十四郎)がやってたやつ。「月影兵庫」に「花山大吉」、(焼津の半次は)蜘蛛が嫌いとかね、あのあたり、ぜんぶ見てました。アニメも「少年忍者 風のフジ丸」「サスケ」「カムイ外伝」……そんなのしかなかったんですよ。

大矢  なかったってことはないですよ、少女向けのもありましたよ(笑)。あー、でも「風のフジ丸」懐かしい……今でもテーマソング歌える……。

  小さい頃は割と病弱だったので、寝ながら本を読んだりテレビを見たりって時間が多くて。それで本と時代劇に親しんだって感じですね。私は(作家になる前は)音楽系のライターをやっていて、サンプル盤を聴いてレビューを書いたりしてたんですけど、耳でJ-POPを聞きながら時代小説を読む、ってのはよくやってました。

大矢  オススメの組みわせなんてあります?

  やっぱり『鬼平犯科帳』(文春文庫)には、ドラマのエンディングテーマだったジプシー・キングスですね。これははずせない!

大矢  で、いざ自分で小説を書こうとしたのは……

  それは最初から時代小説でした。小説を書こう、じゃなくて、時代小説を書こう、だったんです。読むのもSFから時代小説に移っていって、浮世絵に興味を持って、そこから江戸の風俗とかを調べ始めて。だからSFを書きたいとか何かを書きたいとかより先に「私は時代小説が書きたい」でしたね。



江戸に現代を映し出す作品たち


大矢  2005年に時代小説「い草の花」で九州さが大衆文学賞を受賞され、2008年に松本清張賞を受賞した『一朝の夢』(文春文庫)でデビュー。『一朝の夢』は朝顔ブームに湧く安政年間が舞台の歴史小説ですね。

  江戸には文化と安政の2回、朝顔ブームがあったんですよ。特に安政のときは朝顔の交配が優れてて、すごい朝顔がたくさん出てきたんですね。で、安政と言えば……あの事件だ、と。それで結びつけられないかと思って書いた作品ですね。



大矢  『一朝の夢』で面白かったのは、主人公の同心が朝顔オタクの草食系男子。仕事や恋愛よりも趣味に生きるという、とても現代的な造形でした。梶さんの作品って、現代が鏡写しになってる作品が多いですよね。『夢の花、咲く』(文春文庫)は安政の大地震がテーマで、東日本大震災のときと同じ問題が安政にもあったことがわかります。『ふくろう』(講談社文庫)は松平外記の刃傷事件といじめ問題。

  それは現代に合わせてるんじゃなくて、逆なんです。当時のことをいろいろ調べてると「これって現代に通じるよね?」ということが出てくるんですよ。人間の悩みとか変わらないなぁ、解決なんかないのかもしれないけど、こうして生きているよなぁ、と感慨深いわけです。

大矢  『立身いたしたく候』(講談社)なんて、江戸時代にも就活とパワハラがあったんだ、って驚きました。

  あれはねえ、バカな話ですけど(笑いながら)、あれは実は最初、ウォーターボーイズを書きたい、って言ったんですよ私。しかも長編。大江戸青春グラフィティ。

大矢  (驚いて)うぉおたあぼおいずぅ? 江戸の? あ、確かに水練の話はありましたけど。

  さすがにウォーターボーイズはないだろ、とN氏に「おとといきやがれ」的にいわれ(笑)。でもね、水練(の指導者)みたいに、意外と知られてない武士の仕事って多いので、ちょっと変わった仕事を見つけてみようというところから始まったんですよ。そうしたら「これって今のサラリーマンも苦しんでることじゃない?」とか「なんとなく現代に通じるものがあるな」とかってのが出てきて。

大矢  へえー。あっ、変わった仕事と言えば『ご破算で願いましては』(新潮社)は三十八文屋っていう江戸時代に実在した100均ショップが舞台だし、『ことり屋おけい探鳥双紙』(朝日新聞出版)なんて、江戸の小鳥屋さん、ペットショップの話ですよね。

  普段からいろいろ調べて仕入れはしとくんですよ。『ことり屋おけい探鳥双紙』は、女性主人公でお店屋さんモノをやりませんかと言われて。江戸の頃にもペットブームがあって、犬や小鳥を愛でていた文化があったんですよね。ペットショップもあったので、小鳥屋さんなんてどうでしょう、って提案したんです。。


大矢  一方で、『連鶴』(祥伝社)なんて、戊辰戦争のときの桑名藩が舞台で、ガチの硬派な歴史小説ですよね。とても作品の幅が広いんですけど、それは編集者さんからのオファーですか?

  編集者さんからは「これまでとは違うものを」って言われることが多いですね。私、デビュー作の『一朝の夢』から固い作品が続いたので、「柔らかいものを」と言われて書いたのが「御薬園同心水上宗介」シリーズ(集英社)『いろあわせ』(ハルキ文庫)かな。


大矢  ああ、『いろあわせ』は面白かった! 摺師が主人公の人情ものですよね。「摺り」という当時の人力の印刷技術がとてもよくわかる職人小説でもありました。そうか、その頃から浮世絵絡みのモチーフを使ってたんですね。それが『ヨイ豊』にもつながってたんだ。



「浮世絵があった」ことを、もっと誇っていい


大矢  昨年は澤田瞳子さんの『若冲』(文藝春秋)や西條奈加さんの『ごんたくれ』(講談社)など、絵師をモチーフにした印象的な小説が出ましたが、『ヨイ豊』が少し違うのは時代が幕末ということですよね。

  浮世絵が廃れていく時代を描きたかったんです。絵師の生涯というよりも、浮世絵がどうしてなくなっていったか、という話ですね。浮世絵って(幕末から明治の初めに)海外流出してるんですよ。それが向こうで評価されて。ボストン美術館の浮世絵展を日本人が見に行ってる不思議さ。「いいねえ」なんて言ってるわけですよ。でもって後から買い付けたりしてね。じゃあなんで残さなかったのよ、と。

大矢  なるほどね。明治初期には浮世絵は完全になくなっちゃいますもんね。江戸が終わっても刀剣は美術品として残りましたが、浮世絵は残らなかった。何が違ったんでしょう?

  浮世絵って、大衆のものだったということと、何枚も摺れたこと、粗悪品も多かったこと──それに、たとえばアンディ・ウォーホールのリトグラフみたいにアーティストがひとりで全部やるわけじゃなく、彫師、摺師って職人が入るじゃないですか。

大矢  主人公の絵は二百枚しか摺ってくれないのに、後輩の人気絵師のは千枚摺るっていう場面がありましたけど、そういう意味でも娯楽品であり消耗品であり、芸術として扱われてはなかったってことですよね。でもあそこ、作家が読んだら泣く場面ですよね。

  泣きながら書きました(笑)。ただひとつだけ思ったのは……(言葉を選びながら)日本人はね、あんなにいいものを、見てたんですよ。絢爛豪華な絵を。海外では、絵と言えばサロンがあって貴族のようなパトロンがいて肖像画を描かせ、宗教画があってという芸術の世界だったわけですよね。でも、それに劣らないようなものを、日本では大衆が喜んで見てた。

大矢  あ、そうか、浮世絵は庶民が当たり前に享受してた文化だったんだ!

  そう、私ね、日本はそういうことをもっと誇っていいと思うんです。それを、古いからとか恥ずかしいからとか、西洋の方がいいんだって言って排除してっちゃう。そうじゃなくてね、日本人の持っている情緒とか審美眼をね、大事にしたいなと。(作中で主人公の)清太郎も言うんですけど、浮世絵はキラキラの額に入れて見るもんじゃなく、(障子の)破れたところに貼り付けるような絵だけど、でもそんな、みんなで楽しめる絵があったんだ、日本にはそんな絵があったんだ、ということをもっともっと知ってほしい。

大矢  (感銘を受けて)なるほど……だから幕末が舞台なんですね。っていうか待ち会でチョンマゲかぶってた人の話とは思えない……。

  それはいいから!

大矢  では最後にこの後のご予定を聞かせてください。

  『宝の山 商い同心お調べ帖』を改題した『商い同心 千客万来事件帖』(実業之日本社文庫)が文庫になりました。春にはKADOKAWAから、田沼意次の時代を舞台にした将軍継嗣がらみの歴史小説が出ます。浮世絵関連では、7月頃に講談社から北斎の話が出る予定。これがまた、『ヨイ豊』とはぜんぜん違うタイプの話なのでどうぞお楽しみに。浮世絵に興味を持っていただいた方には、既刊の『いろあわせ』を読んでいただけると嬉しいかな。

大矢  『いろあわせ』は1巻で止まってますが、続きは?

  私があと3本書けば、2巻が出るかなーという感じです。こちらも頑張ります!



新刊紹介


商い同心 千客万来事件帖

梶 よう子
実業之日本社
本体価格:620円+税



【内容紹介】

物価にまつわる騒動の始末に奮闘する同心・澤本神人。
亡くなった妹の娘・多代を男手ひとつで育ててきたが、そこに居酒屋の美人女将が現れて...。
新機軸の時代ミステリー。〔「宝の山」(2013年刊)の改題〕











作家プロフィール



梶 よう子(かじ・ようこ)
フリーランスの傍ら小説を執筆し、2005年「い草の花」で九州さが大衆文学賞大賞を受賞。
2008年『一朝の夢』(文春文庫)で松本清張賞を受賞し、同書で単行本デビュー。
主に江戸時代を舞台に、武家ものから市井ものまで幅広く執筆。
『ヨイ豊』(講談社)で第154回直木賞候補入り。







インタビュアープロフィール



大矢 博子(おおや・ひろこ)
書評家。
著書に『脳天気にもホドがある』(東洋経済新報社)『読み出したら止まらない!女子ミステリー マストリード100』(日経文芸文庫)がある他、
『お仕事小説アンソロジー エール!』全3巻(実業之日本社文庫)の編集を担当。
ラジオ出演や読書会主催など名古屋を拠点に活動。






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2016/02/15 掲載

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