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コラム

丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2019年7月号

今月の特集は
『フェイク──ニセモノとホンモノの複雑な事情』
『夏の文庫フェア ナツヨム2019』

丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
気になった書籍はネットストアでご注文も可能です。
(※品切れ・絶版の書籍が掲載されている場合もございます。)

すべての内容を、WEB上でお読み頂けます。





今月の特集(一部抜粋)



『フェイク──ニセモノとホンモノの複雑な事情』

 『真贋の世界 美術裏面史 贋作の事件簿』(河出書房新社・瀬木慎一著・二四〇〇円)

 美術史における真贋問題は古代エジプトやギリシア・ローマにさかのぼるが、「純然たる商業的な意味」で贋作の制作が本格化したのは十九世紀後半だという。以降、美術界のみならず政財界を巻き込んだ社会問題に発展する贋作事件が跡をたたない。その根底には、真作の「異常な稀少性に対する信仰」がある。だが芸術におけるオリジナリティとはいったい何なのか? 「それはすぐれている。だからレンブラントである」ではなく、「それはレンブラントである、だからすぐれている」という転倒はなぜ起こるのか。『偽りの来歴』(白水社・レニー・ソールズベリ他著)で描かれた美術品詐欺事件では、犯人たちは作品よりも「来歴」の偽造に血道を上げた。美術品がたどった所有の経歴さえ整っていれば、「ニセモノ」も「ホンモノ」になることを知っていたからである。

 『哲学者ディオゲネス 世界市民の原像』(講談社学術文庫・山川偉也著・一四〇 〇円)
 『マルクスと贋金づくりたち 貨幣の価値を変えよ〈理論篇〉』(岩波書店・大黒弘慈著・二七〇〇円)

 甕の中に住まい、襤褸をまとって犬のようにアテナイの町をうろついたディオゲネス。数々の奇行で知られる「狂ったソクラテス」が哲学者となったきっかけは、故郷シノペで造幣局長官の任にありながら「贋金づくり」に手を染め、追放された体験だった。実質的な支配者だったカッパドキア(ペルシア帝国の傀儡)がシノペで流通させていた通貨(これも実は贋金)の信用を、さらにその贋金を大量発行することによって失墜させる、という手の込んだ計画だったのである。
 ディオゲネスはアポロンから「貨幣(ノミスマ)の価値を変えよ」という神託を授かった、とされる。「ノミスマ」とは、貨幣だけでなく制度や慣習、国家も意味する。貨幣とともに国家の正当性を簒奪者から奪回しようとした彼は、さらに進んで貨幣と国家それ自体の価値を疑い、生涯を通じあらゆるノミスマの価値転倒によってこの世に別の世界──「世界市民」の思想をもたらそうとした。もちろんそれは、現代のグローバリズムとは似て非なる話である。

 『近代日本の偽史言説 歴史語りのインテレクチュアル・ヒストリー』(勉誠出版・小澤実編・三八〇〇円)

 「チンギスハンは源義経である」「イエス・キリストは日本で死んだ」「アトランティス大陸は実在する」「ユダヤ人が世界の転覆を狙っている」。たいていの人は一笑に付すだろう、真偽の検証に意義を見いだすことすら難しい偽史言説。だがそれらがなぜ生み出され、どう機能し、受容され続けるのかという問いは、きわめて興味深いテーマ群を掘り起こしてくれる。たとえば近代における信仰世界の激変、偽史と軍部の親和性、地域社会と中央政府との緊張関係……。
 偽史言説とは、歴史に名を遺すことのない人々の「果たせぬ夢」であると同時に、その多くが時の権力に寵愛されたいという欲望を内在しているという。「従来の学問的合意を無視するかたちでの偽史言説の台頭」は、「いまなお権威主義的国家ではとりわけ珍しくもない事例であるし、現在の日本もまた例外というには困難な状況にある。」

 『陰謀の日本中世史』(角川新書・呉座勇一著・八八〇円)

 陰謀論は疑似科学に似ている。論者は反証を拒絶し、根拠とする資料の検証に消極的で、「これが成り立たないことを証明しろ」と立証責任を転嫁する。アカデミズムの研究者は、関わっていたら時間と労力を浪費する上に何の業績にもならないのでただ黙殺する。すると陰謀論は致命傷を負うことなく生き続ける。インターネット普及の影響か、以前より力を増しているようにも見える。だから本書は、「誰かが猫の首に鈴をつけなければならない」がゆえに著わされた。
 「本能寺の変」黒幕説をはじめ、中世史の有名な陰謀論を論破する本書は、前著『応仁の乱』と同じく歴史の複雑さと意外性を実感させる手際が光るのだが、多くの書評子が快哉を叫んだのは「猫の首に鈴」のくだり、学者としての責任感と覚悟のようである。陰謀論のパターン──因果関係の単純すぎる説明、論理の飛躍、結果から逆行して原因を引き出す、事件によって最大の利益を得た者が真犯人である、等々の分析の有効性は、とうぜん中世史に限った話ではない。

 『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書・一田和樹著・八四〇円)
 『フェイクニュースの見分け方』(新潮新書・烏賀陽弘道著・八〇〇円)

 フェイクニュース関連書から二冊。サイバーセキュリティの仕事から小説家に転身した一田和樹の本は、フェイクニュースを含むネット世論操作をハイブリッド戦(兵器だけでなく経済・文化・宗教などあらゆる手段を使った戦争)という枠組みの中で捉える。宣戦布告もなく全容がつかみにくいこの新しい「戦争」は、クリミア侵攻やアメリカ大統領選で注目を集めるようになったが、すでにアジア各国でも急速に広がっているという。フェイクニュースは他の攻撃手段に比してコストとリスクがきわめて低い。ある程度の仕掛けをすれば、後は一般ユーザーが興味本位や金目当てで勝手に拡散してくれる一方、それが事実かどうかを確認する側は大きな労力を強いられる。そして日本には、ネット世論操作が狙う脆弱性がすべて揃っているそうだ。
 ジャーナリスト烏賀陽弘道の本は、情報の嘘を見抜くためのノウハウ集である。「代理話者」が登場した時は事実が弱いことが多い、「何を書いているか」と同様に「何を書いていないか」に着目すべき、等々のポイントが具体例をもとに解説され、「発信者がこういう表現を使うときはどこをごまかしたいのか」がわかるように書かれている。インターネットの普及は発信者をどこまで信用すべきかという基準を混乱させてしまったが、事情は旧型メディアでも変わらない。どんな媒体であれ、内容を精査しないと事実として信用できるかわからない「面倒くさい時代」になったのだ。
 さらにベストセラー『ファクトフルネス』(日経BP社・ハンス・ロスリング他著)によれば、人は思い込み(認知バイアス)によって必ず間違えるのだから、情報を疑うと同時に自分自身も疑わなければならない。やれやれとぼやきたくなるが、さてそうなると私のこの文章がフェイクでない根拠とは……?

 『AIは「心」を持てるのか 脳に近いアーキテクチャ』(日経BP社・ジョージ・ザルカダキス著・二二〇〇円)

 AIは人間の脳の複製品なのだろうか? そうではなかったらしい、つい最近までは。飛行機が鳥の羽ばたきとはまったく違う原理で同じ結果を達成したように、AIも脳の模倣をあきらめ、強力な半導体プロセッサとアルゴリズムによって急激な進歩を遂げてから社会的に認知されるようになったという。つまり脳とは存在論的に異なる技術であり、いくらパワーアップしてもマシンに「意識」が発生する見込みはない(したがってシンギュラリティもありえない)。ところが、である。著者が執筆時点ではまだ未熟と断わりながらも可能性として指摘した、ニューロモーフィック・コンピューティング(脳の神経回路網を工学的に再現したシステム)が今また脚光を浴びている。脳の模造への回帰である。
 「AIは、今まで熱望されてきたテクノロジーのなかでももっとも不可解なものだ。」人の代わりに面倒な仕事をさせるだけでは満足できず、自身でよくわかってもいない「心」のコピーを作ろうというのだから。

 『アンドロイドは人間になれるか』(文春新書・石黒浩著・七三〇円)

 では、アンドロイドは人間の複製なのか? 「マツコロイド」で知られる石黒浩が作るアンドロイドは、実在の人物の容貌・声・しぐさをそっくりに再現したものばかりではない。たとえばテレノイド。かろうじて人間らしき不気味な外見で、操作する人間との通話と、ごく限定された動作しかできない。ところが不思議なことに、多くの人が「生身の人間以上に親しみやすい」と夢中になるという。ここで探求されているのは、人が人の存在を感じる最小限の条件とは何かということである。「心」とは想像の産物である、と著者は言う。われわれは心があると「感じる」に過ぎず、特定の人間としての特徴がないテレノイドのほうにむしろ心を感じやすいのだ、と。
 著者は子どもの頃、「人の気持ちを考える」とはどういう行為なのかという疑問にとりつかれた。それを理解するためにAIを研究し、知能には身体が不可欠と悟り、ロボット開発の道に進む。「僕が目指しているのは、人間らしいロボットの開発である。研究の出発点が『人の気持ちを考える』──つまり人間とは何かを考えることにあるからだ。」

・・・・つづく

2019/07/01 掲載

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