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コラム

丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2020年5・6月号

今月の特集は
『水戸部功装幀の本』
『母』

丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
気になった書籍はネットストアでご注文も可能です。
(※品切れ・絶版の書籍が掲載されている場合もございます。)

すべての内容を、WEB上でお読み頂けます。





今月の特集(一部抜粋)





 『水戸部功装幀の本』

  装幀を生業としています。この度、私が装幀を担当した本を集めたフェアを書店にて催したいとのお声をかけていただき、このような頁まで頂戴しました。とはいえ、この原稿を書いている2020年4月7日、緊急事態宣言が発令され、現時点で5月6日までの自粛要請。書店も軒並み休業となっている状況です。はたしてフェアは催されるのだろうか。仮に催されたとしても、この情勢のなか、装幀ないしデザインというものに人の関心はいくのだろうか……。本来ならとても良い季節、幸福感に包まれながら読書でもしているはずという人も多いかと思いますが、そんな季節とは裏腹に全世界的なウィルスvs人類というこの上ないSF感。感染者数、死者数は日々更新され、感染に関わらず経済的にも逼迫、政府の対応もこのままではあらゆる意味で終末を迎えることになってしまいます。

 これまでにいくつかのディストピア系の小説を装幀する機会に恵まれました。ジョージ・オーウェル著『一九八四年』『動物農場』、オルダス・ハクスリー著『すばらしい新世界』、伊藤計劃著『虐殺器官』『ハーモニー』(ハヤカワ文庫)、アンナ・カヴァン著『アサイラム・ピース』『氷』(ちくま文庫)、テッド・チャン著『息吹』(早川書房)など。どれもいま私たちが直面している信じ難い現実と地続きであると感じさせるものばかりです。描かれるのは未知の強大な敵との戦闘なんていうものではなく、最も恐ろしいのは人間そのものということ。人の心の悍ましい部分が露呈し、殺し合い、最後には誰もいなくなるか、そもそも元から実体がない、意識のみが彷徨う。現実でも街から人の姿とマスクやトイレットペーパーなどの物資がなくなり、テレビやSNSには欲望の吐露、暴言に混じり、切実な訴えの言葉が溢れています。見るにつれ、自分の中にも同じような卑しい感情が少なからず芽生えていることに気づき、落ち込みますが、多くの命が奪われるような災害やテロなどが起こる度に、私が立ち戻るのは詩や小説、本でした。今回の騒動においても言葉を信じている分、言葉から受け取る失望に最も心を揺さぶられています。政治家たちの会見を視聴することによる失望感は凄まじい。この冊子を読まれるような方に、釈迦に説法となってしまいますが、申し上げたいのは、やはり本の重要性です。あまりにも自分の言葉を持ち合わせていないのと、状況における想像力の欠如は、いかに読んできていないか、読めないか、ではないかと思うわけです。聖書を始めとして、歴史的に見ても本には人の心を作る役目があります。小説には一冊ごとに人の人生があります。伝記でもいいでしょう。読むごとに、人の喜び、悲しみ、怒り、痛みなど、読まない人の何倍もの人生を生きることができるのです。そして、言葉を物質化・本化する装幀という仕事は、建築や乗り物の設計のように人の生死に直接的に関わる仕事ではありませんが、人の心を作るうえで重要な仕事であると思っています。

 そんなわけで、前置きが長くなりましたが本題に入ります。これまでの仕事を僭越ながら自選しました。内容に対する批評なんていうのはおこがましいので、あくまでデザインについていくつか簡単に振り返っていきたいと思います。

 先にも少し触れました、伊藤計劃著『虐殺器官』(ハヤカワ文庫)。この文庫版が出版されて11年。ということは伊藤さんが亡くなられて11年ということになります。親本を読んで感銘を受けていたので亡くなられたことに悲しみつつも装幀の依頼を受けたときの身の引き締まる思いは今も覚えています。数ヶ月後に出る『ハーモニー』の依頼も同時にあり、対になるのを念頭に考えました。今でこそビジュアルに依存しないタイポグラフィによるデザインも受け入れてもらえるようになってきましたが、当時はまだ、それが前提での依頼はなかったと思います。言わずもがな、タイポグラフィのみの装幀が新しかったということではありません。個人的には佐野繁次郎の手書き文字による装幀や北園克衛らの造形詩に源流があると見ています。

 この『虐殺器官』刊行の直後に、マイケル・サンデル著『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)の依頼が来ます。

 このあたりの時期に考えていたのは、装幀における普遍性。余計な情報は排除、文字は記号にまで抽象化、ジャンルを超えて応用可能。そういった意味でも普遍性の高い装幀のあり方を模索していた中、『虐殺器官』と『これからの「正義」の話をしよう』というこれ以上ないテキストに恵まれました。ビジュアルを必要としない、そこにタイトルと著者名のみを記す、その行為そのものが装幀であるということが成立するテキスト。以降、ジャンルに関わらずこの考え方で仕事をしていくことになります。自己模倣との闘いの始まりでもあります。宮沢章夫著『時間のかかる読書』(河出書房新社)とfinalvent著『考える生き方』(ダイヤモンド社)はそんな中でもテキストを端的に昇華できたように思います。

 こういったテキストに対するコロンブスの卵的なアプローチに、本の重層的な構造を表現に加えることを試みた、藤井直敬著『拡張する脳』(新潮社)。ヘッドセットを装着しながら体験する空間、SRシステムの中で、人はどのように錯覚するか、認識をどのように拡張するかという研究を記した本です。カバーと帯は半透明のトレーシングペーパー(以下トレペ)。捲るたびにタイトル・著者名・帯の文句がどこに刷られているか判明していきます。カバーと帯は両面印刷。表紙まで透けるので5層となります。トレペは1層かませるとスミの濃度が20%ほど下がるので全ての面に100%で刷ると5段階のグラデーションができます。そこにあると認識していたものが実際にはないという錯覚を構造で体験する造本です。

 飛浩隆著『ポリフォニック・イリュージョン』(河出書房新社)も錯覚を利用した造本です。上部に1センチほど露出しているのがカバーで、それ以下は1枚の帯。暈けた欧文と帯文が記載されている部分は印刷上切り替わっているだけ。タイトルの直訳通り、多層的錯覚で揺さぶります。

 いとうせいこう著『小説禁止令に賛同する』(集英社)でもカバーにトレペを使用しています。帯はなし。カバーにタイトルは表記していない。透けた先の表紙にタイトルを表記。「皆さん。こんなおかしな小説はありはしません。信じてください。」これは帯文でありながら作中の書物がこれそのものであると示します。私なりの装幀の脱構築。本は最も原始的なメディアアート。書店でハプニングアートを展開するようなことを企むのもこの仕事の楽しみのひとつです。

…続く

2020/05/01 掲載

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