コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2020年11月号
今月の特集は
『ホモ・サピエンス・プリントス 人類は印刷しながら進化した!』
『辞典は面白い』
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
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今月の特集(一部抜粋)
『ホモ・サピエンス・プリントス 人類は印刷しながら進化した!』
東京都文京区に、ちょっとユニークな博物館がオープンしたのは2000年10月のことでした。その名は印刷博物館。大手印刷会社が創業100周年を記念して設立した、いわゆる企業ミュージアムですが、文化財レベルの収蔵品と斬新な切り口による企画展で、たちまち世の注目を集めるに至ります。
立ち上げ準備から同館に携わり、2005年からは第二代館長も務めるのが西洋史家で東京大学名誉教授の樺山紘一さんです。長らく東京大学で西洋史を講じ、国立西洋美術館の館長を歴任するなど幅広く活躍する姿を見てきたせいか、樺山さんが印刷博物館に転じると聞いたときには、「印刷」という一見あまりにも専門性の高い、やや意地悪く言えば狭い学問分野を取り扱う博物館に移ることを、ちょっと意外に思ったものでした。
しかし、ルネサンス期を中心とする中世西洋社会・美術史の専門家である樺山さんは、羅針盤、火薬と並ぶ「ルネサンスの三大発明」とも呼ばれ、人類の英知の保存と伝達に重大かつ決定的な役割を果たした(活版)印刷という技術の持つ広範な意義を熟知しており、じつは印刷博物館の設立のみならず、その後の運営にも一貫して積極的だったのです。
今年設立20周年を迎えた同館は、大規模な展示のリニューアルを終え、この10月に再オープンしました。それにあわせて刊行されたのが印刷博物館編『日本印刷文化史』(講談社・2,000円)です。印刷文化学という新しい学問分野の確立を目指してきた同館の学芸員たちの手になる各章は、奈良時代の仏典の来歴に始まり、武家による印刷合戦、戦時における印刷の功罪などを経て、大量消費社会における印刷へとおよび、世界史上の印刷の意義に注目してきたこれまでの展示から、日本における印刷文化の歴史的筋道を展望しようとする今回のリニューアルのコンセプトに沿った内容となっています。
一方、そんな博物館の歩みの舞台裏を描くのが樺山紘一館長のエッセイ『印刷博物館とわたし』(千倉書房・2,800円)です。本書は、自身と博物館のかかわりを振り返りつつ、この20年の間に起こったミュージアムを取り巻く環境や展示戦略の変化を語る第一部と、これまで好評を博してきた様々な企画展の図録に寄せた論稿を集成した第2部からなり、人類が世界認識を拡張させてきた壮大な旅路をたどる妙味があります。
印刷術は、読む(追体験する)ことによって他者の記憶を個人の寿命を超えて世に残し、空間的距離さえ消失させました。印刷なくして人類の今日はないと言っても過言ではありません。その流れを最も簡潔にまとめたのが樺山さん編の『図説 本の歴史』(河出書房新社・1,800円)です。おおよそ印刷にまつわる歴史、技術や素材、そしてトピックで、本書が取り上げていないものはありません。しかもカラー写真満載で、さらに深く人類と印刷文化の関係を知りたくなること請け合いです。意外と子どもは、こういう本が好きですから、もしお子さんが関心を示したら岩波書店編集部編『カラー版 本ができるまで』(岩波ジュニア新書・1,080円)を読ませてあげてください。
…続く
2020/11/02 掲載
