コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2021年2月号
今月の特集は
『北の理念――彼方からのカナダ』
『わたしの宝物の本)
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
気になった書籍はネットストアでご注文も可能です。
(※品切れ・絶版の書籍が掲載されている場合もございます。)
すべての内容を、WEB上でお読み頂けます。


今月の特集(一部抜粋)
『北の理念――彼方からのカナダ』
寒い日々が続きますが、いかがお過ごしですか? 今回の「愛書家の楽園」はカナダのお話です。じつは筆者はカナダに行ったことがありません。それなのに今、カナダについて書こうとしています……。それはまず、2月の寒さがカナダを思い起こさせるからですが、この北の国が文学、音楽、思想などにおいても、とても重要な国だと思えるからです。ここではそうした「北からのインパクト」の一端をご紹介したいと思います。題して「彼方からのカナダ」。
北の文学
〈父がわが家に無線を持ち込んだ。「送信機と受信機が内蔵されてる。これで自分たち以外の人間とも話せるぞ」そう言って父はヘッドホンをぼくの頭に取り付けた。それでぼくが最初に聞いたのは、友人のペリー・ペイが溺れたという知らせだった。〉――ハワード・ノーマン/川野太郎訳『ノーザン・ライツ』(みすず書房・4000円)の冒頭です。主人公はマニトバ州北部(北緯58度・西経101度)の「一軒だけ」の村に暮らす少年。溺れたペリーが暮らしていたのはそこから九十数マイル北東、いくつもの湖を超えたところ。彼の家に行く交通手段は郵便機で、パイロットは先住民のクリー・インディアンと混血の人でした――「北の風景」が広がりますね。題名の「ノーザン・ライツ」とは、言うまでもなく北極光=オーロラのこと。
アリステア・マクラウド/中野恵津子訳『彼方なる歌に耳を澄ませよ』(新潮クレスト・ブックス・2200円)
「九月、黄金色の季節を迎えたオンタリオ州の南西部で」語り起こされるこの物語は、十八世紀にスコットランドのハイランド地方から現在のノヴァ・スコシア州ケープ・ブレトンに移住した「赤毛の男」の一族の歴史と、その末裔である主人公およびその家族の人生を、カナダの四季を背景に描く大傑作。著者マクラウドは英文学教授と六人の子どもの子育ての傍ら小説を発表したという寡作な作家ですが、本書は執筆に13年を費やした畢生の大作で、代表作です。
ほかにも現代カナダには注目すべき作家がたくさんいます。2013年ノーベル文学賞受賞者のアリス・マンローはその筆頭。『林檎の木の下で』はマクラウドと同じ自らのスコットランド系の一族の血筋をたどり、自分のこれまでの人生も振り返る連作短編集です。
アリス・マンロー/小竹由美子訳『林檎の木の下で』(新潮クレスト・ブックス・2400円)
現在、ノーベル文学賞最有力候補の一人であるマーガレット・アトウッドはオタワ生まれ。代表作であるディストピア小説『侍女の物語』の続編『誓願』が最近出ました。『侍女の物語』はテレビドラマ化され、グラフィック・ノベル版も出ています。
マーガレット・アトウッド/鴻巣友季子訳『誓願』(早川書房・2900円)
マーガレット・アトウッド原作/ルネー・ノールト(イラスト)/斎藤英治訳『侍女の物語 グラフィックノベル版』(早川書房・4900円)
カナダのマルチカルチュラリズムを象徴するような作家がインド系のマイケル・オンダーチェ。その『名もなき人たちのテーブル』はセイロン(スリランカ)に住む十一歳の少年が大型客船に乗って、母の待つイギリスへ三週間の船旅をする物語。船上で出会う個性豊かな人々との関わり、波乱に満ちた航海、謎めいた事件など、自身セイロンで生まれてイギリスに渡り、それからカナダに移住したオンダーチェによる「西洋のなかの東洋」をめぐる作品と言えるかもしれません。
マイケル・オンダーチェ/田栗美奈子訳『名もなき人たちのテーブル』(作品社・2600円)
そして忘れちゃいけない『赤毛のアン』。おなじみ、時は十九世紀、カナダの東海岸セントローレンス湾に浮かぶプリンス・エドワード島を舞台にした少女アンの成長物語ですね。松本侑子さんによる初の「全文訳」シリーズが文春文庫で出ています。その第一巻を挙げておきましょう。
L.M.モンゴメリ/松本侑子訳『赤毛のアン』(文春文庫・780円)
…続く
2021/02/01 掲載
