コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2022年1月号
今月の特集は
『「歴史の黄昏」の彼方へ――文明史家・野田宣雄が見通した未来』
『ひとの語りを読む』
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
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今月の特集(一部抜粋)
「歴史の黄昏」の彼方へ――文明史家・野田宣雄が見通した未来
優れた歴史家の文章を読んでいると、ときおり不思議な既視感にとらわれることがあります。ごく最近起こった出来事の核心を突くような評言に驚いて、執筆された時期を確認すると、それが20年も30年も前、あるいはもっと遙か昔のことだったりするのです。そうした深い洞察と出会うたび、歴史に学ぶことの大切さを再認識するとともに、歴史家たちの鋭いまなざしと筆の冴えを求め新たな書物を渉猟せずにはいられません。
2022年最初の「愛書家の楽園」では、透徹した史眼の凄みを味わい、そこからどのような叡智を汲み上げるか、その手がかりを探る旅にお誘いしたいと思います。
はじめにご紹介するのは2020年の末に亡くなった京都大学名誉教授・野田宣雄さんの『教養市民層からナチズムへ』(名古屋大学出版会・6,050円)です。野田さんは本書で、専門であるドイツの宗教社会学的構造という観点からナチスの伸張過程を分析します。
そしてイギリス社会との比較によって宗教と政治思想・政治運動の関係、知的エリートの社会的位置づけなどを確認した上で、ヒトラーの教養市民批判や宗教戦略などを論じるのです。あのときなぜ、何が起こったか説明されると同時にそれぞれの出来事の背後にあった政治的意味が明らかになるなかで、私たちは議会制民主主義を標榜したヴァイマル体制がポピュリズムや政治と大衆の相互不信によって瓦解してゆく様を追体験することになるでしょう。
本書はどちらかというとテーマごとに論述がまとめられているので、たとえば林健太郎さんの『ワイマル共和国』(中公新書・836円)やエーリッヒ・フロムの『ワイマールからヒトラーへ(新装版)』(紀伊國屋書店・5,280円)、そして野田さんご自身の『ヒトラーの時代』(文春学藝ライブラリー・1,595円)といった、時系列で時代を追った書籍を傍らに置いて読み進めると、より歴史の流れを理解しやすいでしょう。また、通俗的な理解を覆し、ナチスや共産党にプロパガンダの場を提供することで世論を誘導した「街頭」や暴力のサブカルチャーの拠点となった「酒場」といった装置に目を向けることでヴァイマル体制の実像を剔出した原田昌博さんの『政治的暴力の共和国』(名古屋大学出版会・6,930円)のような書物への目配りも忘れたくありません。
…続く
2022/01/05 掲載
