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コラム

丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2022年10月号

今月の特集は
『結局、人は失敗から学べないのか』
『ボードゲームの魅力に触れる』

丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
気になった書籍はネットストアでご注文も可能です。
(※品切れ・絶版の書籍が掲載されている場合もございます。)

すべての内容を、WEB上でお読み頂けます。





今月の特集(一部抜粋)





 『結局、人は失敗から学べないのか』

 それでなくても毎日やりきれない報道が多いなか、不景気で悲観的なタイトルを掲げて恐縮ながら、本年二月のロシアによるウクライナ侵攻以降、表題の言葉が何度も浮かんでは消えてゆくのを止めることができずにいる。
 歴史上の失敗、経営上の失敗、組織運営上の失敗など、人が犯してきた過ちは数知れずあり、それでも人が人である限り、幾度もその失敗を教訓化しようと努めてきたのは確かである。ところが、何度失敗を重ねても、また同じことを、少しだけ形を変えて、あたかも前非を模倣するかのごとく反復してしまうのは何故なのか。もはやこの反復は人知を超える力の作用と言うほかないのかと絶望的な思いにとらわれ、思わず「結局、人は失敗から学べないのか」とつぶやきたくもなる。しかし、そんな独語を漏らしても何の解決にもならないことは自明なので、せめて失敗や敗北をめぐる思考がどのように深められてきたのか、近年の書物の世界に限ってだけでも、見直しをしてみようと発意したわけである。
 さて、そこで、まずは今や現代の古典とも言える位置にある『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫・838円)を起点に置きたい。この書物は共同研究の成果で、執筆者は、戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎の各氏。初版は一九八四年で、以来、多くの派生的研究や「失敗の本質」というキーワードを共有する方法論的つながりのある類書を生んできた。それだけの影響力を持ったのは、大東亜戦争の戦史を対象に、具体的な諸作戦の失敗を社会科学的に分析し、その失敗の本質を抽出し、さらに失敗の教訓にまで考察を進めたところにあるだろう。それゆえ、企業の経営論、組織論のすぐれた指南書として、つまりビジネス書として読み継がれてきたのである。
 本書の執筆陣によるスピンオフ企画も数多く、直接的な系譜を感じさせるものについては、次のような本がある。
 野中郁次郎(聞き手・前田裕之)『「失敗の本質」を語る なぜ戦史に学ぶのか』(日経BP・990円)。
 西田陽一、杉之尾宜生『「失敗の本質」と戦略思想 孫子・クラウゼヴィッツで読み解く日本軍の敗因』(ちくま新書・1,034円)。
 杉之尾宜生『大東亜戦争 敗北の本質』(ちくま新書・858円)。
 また、半藤一利『昭和と日本人 失敗の本質』(角川新書・990円)、柳田邦男『この国の危機管理 失敗の本質』(毎日新聞出版・2,090円)などが本年に入って相次いで刊行(前者は復刊)されている背景には、「失敗の本質」が十全に学ばれ、柳田氏の言う「負の遺伝子」が克服されてはいない証しと受け止めるべきだろう。
 軍隊以来の負の連鎖が現代の組織にまで及んでいるという批判は、たとえば、谷口真由美『おっさんの掟 「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」』(小学館新書・946円)のような形で、やはり本年の刊行本として現れてもいる。男社会批判でもある本書は、単に日本ラグビー協会の体質だけを問題にしているのではなく、その批判の射程は決して短くはない。
 「失敗の本質」を類型として見極めることで誤った判断を回避しようという方法論的な試みは、野村克也『負けに不思議の負けなし <完全版>』上・下(朝日文庫・各六六〇円)のような著書にまで影響を与えていると思われるが、実際に組織や経営の内実を改めるのは容易ではないようだ。それは、お役所、私企業からプロ野球球団にまで共通した、すぐれて「日本的」な問題である。
 そんな変われない発想や組織の典型的な例を分析した書が、吉見俊哉編著『検証 コロナと五輪 変われぬ日本の失敗連鎖』(河出新書・968円)である。この本は昨年十二月の刊行であり、昨今明らかになりつつある五輪贈収賄疑惑については、当然のことながら言及されていない。しかし、著者の言う成長主義や成功体験神話に囚われた「失敗連鎖」の延長上に、贈収賄疑惑まで見通していたかのような錯覚をもたらす。それだけに、「結局、人は失敗から学べないのか」という慨嘆が、またもや湧き上がってくるのである。
 ただし、失敗から学ぶのが容易ではないというのは、何も日本人に限ってのことではない。

…続く

2022/10/03 掲載

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