コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2023年4月号
今月の特集は
『「愛と欲望」だけじゃない ハレム・後宮・大奥の世界)』
『ひとの語りを読む(再録)』
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
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今月の特集(一部抜粋)
『「愛と欲望」だけじゃない ハレム・後宮・大奥の世界)』
つい最近、よしながふみさんの漫画作品を原作にしたNHKのドラマ「大奥」が話題になりましたが、「大奥」という題材は、過去にも日本の映画やドラマで多く扱われています。さまざまな人間関係の軋轢がメインに描かれますが、これは日本に限ったことではなく、中国や韓国の歴史ドラマでは、「後宮」を舞台に権力への欲望や嫉妬などが中心テーマになり、一度見始めたらやめられない、なんとも引き込まれる展開となるものが多いことは、多くの方々と共有できるところでしょう。さらに近年、オスマン帝国のハレムでの人間模様をこれでもかという感じで描いたトルコの歴史時代劇「オスマン帝国外伝――愛と欲望のハレム」が日本でも放送され、話題となりました。
筆者もそうしたドラマにわりとハマってしまった一人で、特に「オスマン帝国外伝――愛と欲望のハレム」は、それを見たのがちょうど「オスマン帝国滅亡100年」に当たる時期で、そのドラマが入口になって、ハレムについて、そしてさらにオスマン帝国の歴史をさらに知りたくなり、関連するいろいろな書物を読むようになりました。
今回の「愛書家の楽園」では、大奥、後宮、ハレムといった、まさにドラマで「愛と欲望」のドロドロが描かれる対象から入りながらも、実は「愛と欲望」だけではない、とても歴史的に重要な世界へと導いてくれる書物を紹介していきたいと思います。
最初にご紹介したいのが、小笠原弘幸著『ハレム――女官と宦官たちの世界』(新潮選書・1,815円)です。著者の小笠原先生はもちろんオスマン帝国史の専門家として『オスマン帝国』(中公新書)なども著されている第一人者です。本書ではまず、「性愛と放埓の場」というハレムのこれまでの俗なイメージが、西洋人によるイスラム世界への偏見に満ちたものであることが指摘されます。そして、世界的な最新の研究動向に依拠しつつ、ハレムの実像に鮮やかに迫り、従来のステレオタイプなハレム像は完全に払しょくされていきます。どういう人たちがハレムで動いていたのか、ということだけでなく、その人たちの階級構造やそれに関連する空間構造とその変遷なども詳しく説明してくれることで、ハレムのシステム全体がよく見えてくる書物になっています。
ハレムがある宮殿の建築・空間構造に興味のある方は、小笠原先生も本書の中で何度か参照されている、川本智史著『オスマン朝宮殿の建築史』(東京大学出版会・7,260円)などを読んでみてはいかがでしょう。学術書ではありますが、オスマン帝国の歴史的変遷の一端を面白く読み取れると思います。
次に日本の「大奥」に目を向けてみましょう。ご紹介するのは福田千鶴著『女と男の大奥――大奥法度を読み解く』(吉川弘文館、歴史文化ライブラリ1,528・1,870円)です。本書で扱われるのは、皆さんがすぐにイメージされる「江戸城大奥」です。そしてサブタイトルにあるように、「大奥法度」という大奥における決まり事の全体を丁寧に読み解くことによってその実像に迫っていきます。ここで注意したいのは、「大奥法度」には「大奥の出入りを管理する大奥広敷向に勤務する男性役人に向けて出された」「奥方法度」と、「女中法度」という「大奥に奉公する女中に向けて出された法度」の二つがあるということ。そして、「奥方法度」は男性向けの法度であるということです。福田先生の著書の冒頭にこのことが強調されています。過去には「奥方法度」を大奥女中に向けて出されたものだと誤解している文献もあるようで、福田先生はそこを正し、大奥の研究に男性の存在を位置づけることの重要性を指摘されます。
…続く
2023/04/01 掲載
