コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2023年6月号
今月の特集は
『食べた、書いた、また食べた 物書きの料理』
『社会人のための教養』
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
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今月の特集(一部抜粋)
『食べた、書いた、また食べた 物書きの料理本』
世の中には料理の本があふれているが、今回は、物書きの手になる料理本を特集する。部分的には調理の仕方を記述した箇所もあるとはいえ、基本はレシピなき料理本である。言い換えると、当該の本を読んでも、紹介されている料理は簡単には作れない。だから、実用性は低く、結局は、料理を味わうというより、広く食について書かれた文章それ自体を味読することになる。とはいえ、これがなかなか味わい深い。
もうひとつ最初に言っておくべきは、物書きの手になる料理本のなかには、いわゆるフィクションも少なからず存在するが、今回集めた書籍は、随筆、エッセイの類いだということ。向田邦子や幸田文の本のように、食に関する小説がおまけで収録されている場合もあるが、それ以外はノンフィクションに限った。
それにしても、多種多彩な食に関する本が出回っているもので、作家の数だけ個性あふれる料理本があると言っても過言ではない。簡単には類型化などを許さない百花繚乱ぶりであるが、一つには、日々、料理を作ることの意味を問い直す一群の書籍がある。
その代表格が、幸田文著、青木玉編『幸田文 台所帖』(平凡社・1,760円)。台所は食事を作る場所だが、その目的にとどまらず、そこでの挙措や物音まで美しく整えようとする凜とした思想に貫かれた随筆である。文章も、その料理も、背筋が伸びた見事な仕上がりを示し、読者の姿勢もまた少しだけ真っ直ぐになる。本書は、次の一文を冒頭に置いて始まる、怖いほどの省察を秘めた文集である。「台所という場所は、公開のような、また自分だけの密室のような、ふしぎなところである。しかも火水の道具をそなえ、刃物があり、血を流すことがあっても平然としていられる部屋である。」
…続く
2023/06/05 掲載
