コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2023年11月号
今月の特集は
『さまよう権威主義 うつろう民主主義』
『腐』
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
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今月の特集(一部抜粋)
『さまよう権威主義 うつろう民主主義』
第二次世界大戦が終わった一九四五年から、おおよそ1980年代末までの世界政治は、米国を中心とする民主主義陣営とソヴィエト連邦を中心とする社会主義陣営が対立する、東西冷戦という図式の下にありました。一九九一年のソ連解体と冷戦終結によって、民主主義が勝利を収めたかに見えましたが、その後、宗教対立、民族紛争、中国の台頭などを経て、世界は新たな対立の時代を迎えています。現在、民主主義の対角に置かれるのは権威主義といってよいでしょう。
ところが事態は以前ほどシンプルではありません。権威主義体制の国家といえばプーチンのロシア、習近平の中国、金正恩の北朝鮮といった名前が思いつきます。しかし、民主主義の根幹であり、その政治体制を担保するといっても過言ではない「選挙」を実施している国で、その結果、選ばれた政治指導者が、民主主義や国際法の原則に反する行動を取るというケースが少なからず散見されるのです。フィリピンのドゥテルテ、トルコのエルドアン、近年では世界最大の民主主義国家と呼ばれるインドのモディに対する評価もたいへん厳しいものです。なにより民主主義陣営の盟主を標榜しながら、自国第一主義を掲げてパリ協定を反故にし、TPPを脱退した米国前大統領トランプの振る舞いなど、その端的な事例と言えるのではないでしょうか。
権威主義とはどのようなものか、その探求の手がかりには、東島雅昌さんの『民主主義を装う権威主義』(千倉書房・6,160円)が役立ちます。著者は独裁者が経済的果実を分配し、暴力や不正を慎むことで体制の基盤を固めること、その一方、民主主義を装いそこなった権威主義者は、たとえ独裁体制下であろうと選挙(大衆の力)によってパージされる可能性が高いことなどを見出し、「両者は実は私たちが思っているよりも近似した存在なのかもしれない」と分析します。その意味で、権威主義は民主主義の合わせ鏡と見るべきなのかも知れません。
東島書の事例研究の舞台となったのはキルギス共和国とカザフスタンという中央アジアの二カ国です。私たちの知る政治や社会とはかなり風土が異なりますので、それらに関しては、同じく市場経済化後のカザフスタン社会を描いた岡奈津子さんの『〈賄賂〉のある暮らし』(白水社・2,420円)で実像を押さえておきたいところです。
近年、権威主義に関する書籍がやたらと刊行されている大きな理由があります。それはかつて私たちが「現在は様々な政治体制が並立する世界だが、やがて自由民主主義に則った政治体制に収斂していくのだ」、「その大きいな流れは不可逆だ」と考えていたことに由来します。社会主義とは異なる道筋で台頭した権威主義と、それと平仄を合わせるような民主主義の後退に、誰もが動揺しているのです。
…続く
2023/11/01 掲載
