コラム
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2025年7月号
今月の特集は
『戦後? 戦前? いま私たちはどこにいるのか』
『ひとからひとへ 話題書担当が医学書売り場を歩いてみた』
丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
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今月の特集(一部抜粋)
『戦後? 戦前? いま私たちはどこにいるのか』
不穏な国際情勢が続きます。ロシアのウクライナ侵略や米トランプ大統領の再選、イスラエルのガザ侵攻といった「きっかけ」はありましたが、いずれも突然起こった特別なことではなく、何年、何十年もかけて準備されてきた必然だった、世界は危機を目の前にして手をこまねいてしまった、という見方が強くなっています。
第二次世界大戦の終結以来、私たちが維持と普遍化に努めてきた民主主義や自由貿易、開かれた国際秩序といった価値が力を失い、大きく揺らぐ2020年代の国際環境を、かつて狂気の戦争を胚胎した1930年代になぞらえて論じる識者も現れるようになりました。果たして私たちは今、長い「戦後」の終わりにいるのでしょうか、それとも、すでに来るべき戦争の「戦前」にいるのでしょうか……。
100年以上前、私たち日本人は、すでに一度「戦後」を経験しています。第一次世界大戦の戦勝国となった日本は、その後、約20年続く平和を享受したのです。「20世紀と日本」研究会の編著『もうひとつの戦後史』(千倉書房・6,050円)は、そんな第一次大戦後の日本・アジア・太平洋の姿を多様な切り口から描き出します。新たな秩序の構築を目指した世界では、国際連盟を中心とした軍縮や安全保障、国際法整備の気運が高まります。日本はそれらに積極的な関与を試みますが、中国大陸での権益を守りたい日本と米国に代表される列強との対立や、戦訓を受容しない日本陸軍の振る舞いによって、結局、第一次大戦の戦後は次第に第二次大戦の戦前へと変質していきました。
次の戦争へ向かう道のりで軍部がどのような策動を見せていたかを垣間見るには、加藤陽子さんの『新装版 模索する1930年代』(山川出版社・2,750円)と藤田俊さんの『戦間期日本陸軍の宣伝政策』(芙蓉書房出版・3,960円)が生々しい補助線を引いてくれるでしょう。陸軍の軍事官僚たちが対米交渉を始めとする外交に注いでいた視線や、大衆に向けた軍部の懐柔工作を見ていくと、外務省の資料や政党政治家たちの証言を中心に描かれがちなこの時期の研究書とは、世界線の異なる日本社会像を突きつけられ不安になります。
同じ時代を背景に、第一次大戦後の国際秩序が、自国利益を優先しようとする各国のエゴによってウィルソン主義(理想主義)と現実主義のバランシングに失敗し、第二次世界大戦に向かって転がりゆく様を描いたのが、名作として比類無きE・H・カーの『危機の20年』(岩波文庫・1,540円)です。ふたたび世界規模の戦争を起こさないよう、理想主義は国際連盟の設立を目指し、それを成し遂げますが、参加国は集団安全保障や軍縮に必ずしも積極的ではありませんでした。
…続く
2025/07/01 掲載
