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コラム

丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ) 2025年10月号

今月の特集は
『戦争への旅』



丸善ジュンク堂のPR誌 書標(ほんのしるべ)。今月の特集ページを一部ご紹介致します。
気になった書籍はネットストアでご注文も可能です。
(※品切れ・絶版の書籍が掲載されている場合もございます。)

すべての内容を、WEB上でお読み頂けます。





今月の特集(一部抜粋)




『戦争への旅』

 「ぼくらの国はすっかり灰になってしまっていて/政治的な「正しきものら」のメッセージに占領されてしまったのさ/(中略)/ぼくらの国の近代は/おびただしい「メッセージ」の変容の歴史 顔を変えて登場する/自己絶対化の「正しきものら」には事欠かない」。これは、田村隆一が『新年の手紙』(青土社、1973年)のなかで、W・H・オーデンの詩「1939年9月1日」(ドイツ軍によるポーランド侵攻の日付)を引きながら書いた詩の一部である。田村の言葉、「われわれは愛しあわねばならぬ、さもなければ死ぬ」(福間健二訳)という一節を含むオーデンの件の詩、どちらも長らく心に残っている。オーデンといえば、日中戦争当時にクリストファー・イシャーウッドとともに中国に渡り、そこでの旅について綴ったルポルタージュもあって、『戦争への旅(Journey to a War)』というタイトルで1939年に出版されている。今回この書名を借りながら、少し自分の考えをめぐらせてみたいと思う。「自己絶対化の「正しきものら」」から距離をとる試みなのかもしれない。そういう本に出会いたいと思っている。
1 昔、あるところに国があった
 エミール・クストリッツァ「アンダーグラウンド」を学生時代に観て以来、旧ユーゴスラヴィアに強い関心をもった。私が生まれたのは1991年、スロヴェニアとクロアチアが独立を宣言したあとだから、第二次大戦後に「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と表現されたようなユーゴスラヴィアを直接には知らない。後追いでユーゴ解体にともなう内戦、NATOによる空爆などを知り、そこからたとえば、その「戦争」に作家がどう向き合ったのかを知りたいと思い始めた。
 ペーター・ハントケ/元吉瑞枝・阿部卓也・服部裕訳『ハントケ・コレクション 3』(法政大学出版局・5,280円)を企画したのは、そうした理由からだ。ハントケは、2019年にノーベル文学賞を受賞したオーストリアの作家で、ヴィム・ヴェンダース「ベルリン・天使の詩」の脚本家として記憶している人もいるだろう。1990年代以降、戦時下の現地に幾度も足を運んで『ドナウ、サヴァ、モラヴァ、ドリナ川への冬の旅 あるいはセルビアに公正に』といった紀行文を上梓した(本作を含めた旧ユーゴ関連のエッセイ五篇を本書第三巻に収録)。しかしながら、『冬の旅』をはじめとした旧ユーゴをめぐる作品は毀誉褒貶が激しく、「親セルビア」、はては1995年に起きたスレブレニツァの虐殺を否定した歴史修正主義者の本というレッテルが貼られて、ノーベル文学賞受賞後にも絶えることなく非難が続いている。

…続く

2025/10/01 掲載

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