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書店員レビュー一覧2ページ目

丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。2140件目をご紹介します。

検索結果 100 件中 21 件~ 40 件を表示

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

思い出せない脳 (講談社現代新書)澤田 誠 (著)

思い出せない脳(講談社現代新書)

思い出せない時、あなたの脳の中では、何が起こっているのか?

脳トレは記憶力の向上ではなく、手続き記憶という技術的向上である。
睡眠不足は、仕入れた情報を整理し記憶する力を低下させる。
情動を動かしながらの方が、記憶に残りやすい。
エピソードがあるとより強い記憶となる。
物事を思い出そうとすればするほど、思い出せなくなるのは、脳が意図的に思い出すのを抑制しているからである。
年を取ると、記憶力が衰えてきたのではなく、記憶を引き出す力が弱くなっている。
などなど・・・・
本書では、記憶し、その後、思い出すときに脳内で何が起こっているのか、
私たちの身近に起こること、感じることを具体例として書かれており、とてもわかりやすく書かれている。
また、各章の始まりには、章の内容をよりイメージしやすいように、小さなストーリーが書かれている。
そして、脳の働きを説明した上で、記憶力向上のためのポイントも付け加えられており、読んだ後から実践できるようになっているのもうれしい。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

小池 水音 (著)

息

意識してすること

主人公が十五年ぶりに発症する喘息、主人公の弟の死因、父の酩酊…。すべてに「息をする動作」が関わってきます。私も深刻な喘息の持病があるので、発作時に天井を見つめる主人公の気持ちは手に取るようにわかります。とにかく目の前にあるもの、布団の柄だったり薬のパッケージだったり家族の洋服の柄だったり、そういうものを見ることしかできなくなる時間があるのです。他になにか考えたり、別の動作をすることは、とてもできません。それは、とても苦しい時間です。主人公も、そして弟も、喘息を患っていました。じかし弟は首を吊ることによって他界し、主人公はひとり喘息の発作と戦いながら仕事をし、ものを食べ、生きてゆきます。彼女は、事あるごとに弟の夢を見ます。体温を持って生きている弟の夢です。「おとなになっても苦しいままだったら、どうする?」小さい頃に弟が言った言葉。息をしなくなった弟、息をしなくてはならないがそれが地獄のような自分、野良猫を飼っても名前をつけられない母、脱法ハーブをしなければ生きることができなくなった父。話の中に、「ガネット」という鳥が登場します。大きい鳥。魚を獲って生きる鳥。しかし水に飛び込むときの衝撃で失明し、溺れて死ぬことのある鳥です。馬鹿みたいかもしれません。しかし、私達が普段置かれている環境と、何が違うのでしょう?主人公は喘息を発症することで、首を吊ったあとも父に息を吹き込まれ、体温を持っていた弟について、意識を巡らせることができるようになりました。弟の体温は生きている主人公に伝わり、そうして彼がいなくなったあとも、主人公の心の中に残ります。普段息をすることを意識することはなかなか、ありません。意識するとしたら、いつもと自分が違う状況になるとき。苦しさが去ったとしても、また苦しさが来ることを無意識に知っています。その状況になったとき、自分に何ができるのか、考えておかなくてはならないと思いました。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

そして私たちの物語は世界の物語の一部となる インド北東部女性作家アンソロジー ウルワシ・ブタリア (編)

そして私たちの物語は世界の物語の一部となる インド北東部女性作家アンソロジー

お話の伝播

表紙も、裏表紙も、顔を壷や籠で隠した女性の写真が載っています。女性に対する
性暴力や人権迫害がインドでははびこり、こちらに収められた様々な作家の作品にも
あちらこちらでその記述が見られます。
最後の中村唯さんの言葉に、「女性やマイノリティにとって、しばしば、フィクションは
唯一の自由な表現の場となる」とあります。英雄でもなく、政治に関わることもない
人々が描いたインド北東部の姿は、日本で生きる私たちにとって新鮮です。しかし、
痛みに対する怒りを様々な掌編が燻しだします。あたかも、今私たちの横にいて話をしてくれているかのように。
「語り部」という作品があります。子供たちにお話をしてくれる語り部ウツラに憧れた
主人公は、彼女からあるとき「頭の中の壺」を受け継ぎ、新しい語り部となります。
大人になった彼女は言います。「ゆっくりとだけれど着実に、自分の声を見つけていった」
口承文学は語り手の思念や、そのときの状況が入り込むもの。同じ壺を受け継いだとしても、
お話は人間によって変わっていきます。私がこうして書いている語り部の声も、彼女の
そのとき置かれていた状況が、きっとどこかに影響しています。声を見つけて、他人に届けること。それはお話の中の登場人物からはじまって、話を集めた人、翻訳した人、出版した人、
読者にもきっと伝播していくことでしょう。語り部たちの強い感情を、読んでいて感じることのできる本でした。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

しんきらり (光文社文庫)やまだ紫 (著)

しんきらり(光文社文庫)

あたたかくて息苦しいもの

会社勤めの夫と2人の娘と暮らす主婦の山川ちはるの日常を綴った山田紫さんの漫画が、てのひらサイズの文庫本となった。
この物語が最初に刊行されたのは1982年。
ちょうと自分が生まれる3年前の物語だ。
私は母親になったことはなく、物語の中と今では時代背景も大きく変わったが、それでも主人公であるちはるの気持ちは全く遠く感じなかった。
母親という役割、子供という役割、家族という役割、恋人という役割、友人という役割、職場での役割。
役割という瓶の中はときに安心して自分の場所となることもあれば、まるで閉じ込められたかのように息苦しくてたまらなくなることもある。
私は母が他界するまで、自分の母はずっと「母」という生き物なのだと思っていた。
そんなわけはないのに、自分にとって命綱のような存在に安心しきり、「母の中の人間性」について深く慮ることもなかった。
物語の中でちはるが6年ぶりに1人で外出するシーンがある。
いつも繋いでいる子供の手がなく、自分の歩調で歩ける。
「はいそこのあなた 自分の手足が自分のものだと知ってましたか」
「わたし・・・・・今はじめて自分の身体を手に入れたよ」
いつかの母も、愛おしさと理不尽さが波のようにおしよせたのだろうか。
解放されたくて「こどもの日常」を憎んでしまうことがあったのだろうか。
山川ちはるの独白は詩のように美しく、ほろ苦かった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

シュークリーム 内田 百間 (著)

シュークリーム

一向に消えない

「本のともしび」というシリーズです。コンパクトながら、近代文学の、なんでこんなのを拾い上げてこられたのか、といつも唸るような作品ばかりが本になっているのです。
今回の題になった「シュークリーム」も然り。
話の内容は、めっちゃシュークリームが好きなんだけど、なんか、夜勉強してると、無性にシュークリームが食べたくなっちゃう。高校生だけどおばあちゃんにシュークリームを買ってきてもらうよ。なぜなら彼女は僕のことを子供みたいに思ってるから。という・・・
こう書くと、どこのろくでなし甘えん坊かと思いますが、内田百けん先生の身に実際に起こったことなのです。
どうしてもシュークリームが食べたい。高校生だけれど自分にそう伝えてくる孫のわがままを聞いてくれた祖母・竹。しかも、夜道を歩いて買ってくるのは、彼が食べるシュークリームひとつだけ。
竹は、誰よりも百けんに誰よりも愛情をそそいでくれた人物でした。しかし、実は彼と祖母に血のつながりはなかったのです。祖母にとって百けんは実の孫ではなく、夫と妾との間にできた孫でした。それを知った時、ああ、と思いました。
英字ビスケットにせよメロンにせよ、先生は、普通の人間以上の執念を食べ物に対して見せます。私が若い頃は、おもしろいおじいさんだな、としか、思っていませんでした。猫に対する態度を見ていても、同じ様な感想でした。
今ならわかります。先生は、自分から離れていきそうなものが近くにきたとき、思った以上に執着を見せる人間なのだということを。好きだと思ったことを、ずっと覚えている人間なのだということを。彼の小説はどこか不穏で、いつもするりとすりぬけるような時間の流れが特徴。暗闇で顔の見えない人間が延々話し続けるようなイメージがありましたが、イメージに反して先生は、「ずっと覚えている」人なのでした。
「歳月の流れにまかせて見ても一向に消えないし、薄らぎもしない。だから
矢張りそれもこの儘にしておけばいい。」と、百けん先生は言います。彼のそういうところを多くの読者が愛しています。何百年経っても、きっとそのことをずっと覚えている人間が、この世にはいます。そういう世界は、とても美しいと思います。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

江戸の思い出 綺堂随筆 新装版 (河出文庫)岡本 綺堂 (著)

江戸の思い出 綺堂随筆 新装版(河出文庫)

軽妙な語り口に引き込まれる随筆集

江戸時代を舞台にした推理小説、捕物帳の先駆けの「半七捕物帳」で知られる岡本綺堂の随筆を集めた一冊。
綺堂自身は明治の生まれだが、江戸時代に生きた人たちに育まれ教えられ生長したという。
江戸の市井の暮らしがありありと浮かぶ軽妙な語り口に引き込まれてしまう。

大正十二年の関東大震災で綺堂は長年住んでいた麹町の家を焼かれ蔵書の大部分を失った。
家を離れる際にかき集めた雑記をもとにした「十番雑記」は当時の綺堂の心境をふりかえり震災から十数年の時を経てまとめられたもので、長年ふれずにいたものに向き合った綺堂の気持ちの描写に心揺さぶられる。

時代小説作家であり怪談の名手でもあった岡本綺堂。その怪談奇譚愛あふれる中国日本の古典怪談の語りも一息に読んでしまう。まさかという広がりをみせ思わぬ結末に翻弄される怪談奇譚の紹介文の数々は楽しく作品を読みたくなってしまう。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

BOOKSのんべえ お酒で味わう日本文学32選 木村 衣有子 (著)

BOOKSのんべえ お酒で味わう日本文学32選

花畑、景色、こころ

様々な文学作品に登場する「お酒」の姿について書かれた本です。
書く人の思うお酒への心情も異なります。登場人物がお酒を口にするシチュエーションも異なります。そして、最も大きいのは、出てくるお酒の種類が違うこと。赤ワイン、ラム、日本酒…度数も様々。書いてあるお酒の描写を読むだけで呑みたくなってしまいます。それは著者の木村衣有子さんの腕にもよるところが最も大きいと思います。花畑、景色、そして人のこころ。大きく姿を変える酒の姿を、最もわかりやすい形で切り取る木村さんの文章に、読んでいるこちらも既に酔っています。
宮沢賢治の「やまなし」。お酒など呑めない子供のころに憧れた果実のお酒。滝口悠生「茄子の輝き」で、茄子のテラテラ具合と同じくらい輝くレモンサワー。森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」で、まるでお酒というより香水のような描写がされる偽電気ブラン。どれもこれも頭の中に入ってくる情景はすべて違います。きっと、これからも多くの小説が書かれるけれど、その中の酒の姿もまた、ひとつとして同じものはないのでしょう。大人になったことの喜び、そうしてこの喜びをいつまで味わえるのかわかりませんが、身体が朽ち果て使い物にならなくなったら、ここに書いてある酒の描写を読んでいけばいいのだ、そう思わせてくれる本でした。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

水車小屋のネネ 津村 記久子 (著)

水車小屋のネネ

最初から親切な人

街でも、仕事でも親切な人に出会うことはありますが、この人はいつから親切だったのかなあ、と、よく思います。
色んな人との軋轢を乗り越えて親切になったのか、それとも、小さな頃から親に教え込まれたのか。
様々なケースがあるかと思いますが、「親切」はある意味センスの問題だという気もしています。この小説には、どの場面でも「親切」という課題が張り巡らされていて、登場人物のあらゆる行動に「親切」は、つきまといます。それというのも登場する姉妹の二人共が、人の親切に気づきやすく、また、親切を何気なく行える人物であるからです。
はじめのシーンで、妹である律が、目の見えない人のためにつくられたホームの点字を、隠さないようにする場面があります。親切とは、何がどうなるかを熟知しているものにしかわからないことでもある。姉妹は親に金を使い込まれ、たった二人で暮らすこととなりますが、彼らが持たされてしまったのは生活苦だけではなかったのでした。彼女たちは、自らの「親切」という気持ちにヨットの帆を押されるようにして、鳥のいる蕎麦屋の近くで暮らすこととなります。彼女たちの「親切」は、次第に周りの人にも伝播していきます。

いつか、人間に染み付いた「親切」も、消えるときがあるのでしょうか、それとも、死ぬまでずっと、そのままなのでしょうか。後者であればいいとは思いますが、それは、自分にしかわからないことです。自分で考え、行動することの素晴らしさ、親切にしようと考える気持ちの脆さも、この小説には書かれています。しかし、だからといって全く説教臭くなく、爽快感しかわかないこの小説は、ほんとうに奇跡のようです。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

フランス語をはじめたい! 一番わかりやすいフランス語入門 (SB新書)清岡智比古 (著)

フランス語をはじめたい! 一番わかりやすいフランス語入門(SB新書)

読み終えた後、フランス語を「はじめたい!」と思わずにはいられない。

フランスの文化や芸術、フランス人の生態がテーマのエッセイ本のように感じられるが、
読み終えた時には、フランス語がしっかりと身につく語学書である。

学習内容は、他の語学書と同様にフランス語の音やつづり、名詞にはじまり動詞の活用形と続く。
解説時に使われる事例において、私達日本人が身近に使用している単語(例えばカフェオレなど)や有名な映画「最強のふたり」のセリフ、
書籍「星の王子さま」の文章となっており読んでいて退屈しない。
さらに、フランス語の骨組みやルールのポイントを押さえており、
わかりやすく解説されているので難しく感じることがない。
入門書であるので、内容は難しくなる手前部分までしか本書では書かれていないが、
そのおかげで、読者の負担にならないし、もしくは、その先はどうなの?と学習意欲を刺激される。

この1冊でフランス語を完璧にマスターすることはできないが、
この1冊で難しいと思っていたフランス語が、面白い!と感じられ、もっと学びたい!と変化するかもしれない。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話 済東 鉄腸 (著)

千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話

動かずに会える人

今年になってまだ短いのですが、今年読んだ本の中で一番凄かったです。
あまりにも凄すぎて、本を読んでいるのか、著者に直で会っているのかわからなくなったほどでした。寒い部屋、空腹、読んだときの精神状態は最悪でしたが、本を閉じるときには、最悪な気分はあとかたもなく消え去り、明日この本を注文しなければ、という思いだけがありました。
タイトル通り、本には家から殆ど出ない男性がひょんなことからルーマニア語に出会い、そこからフェイスブックで4000人のルーマニア人に友達申請したり、来日したルーマニアの映画監督にいきなり会ったりして、結果、ルーマニアの文芸誌にルーマニア語で小説を書くようになるまでの顛末が綴られています。しかし、特筆すべきは、引きこもりなのに著者の熱量、語学に対する思い、文学に対する思い、生きることに対する思いが、あまりにも眩しすぎ、熱すぎて、文章を読んでいるだけでクラクラしてくるほどなのです。
こうして文章を書いていてもどうしても鉄腸さんのようにはこの本の面白さを伝えられません。とても悔しいです。
著者の凄いところは、私のような熱狂的な読者を生み出せること。ほとんど移動しなくても、文字を打つだけで、人を動かせるところだと私は考えます。それは著者が、今まで出会ったものや人の素晴らしいところをずっと覚えていて、昇華する能力にとても長けた人物だからでしょう。ずっとそこにいても、多くの人の記憶に残り、そうして全世界に彼の熱を伝えていくさまがこの本には書いてあります。著者の熱は、そのまま著者が昔素敵な言葉を使った誰かから受け取ったもの。ルーマニア語でもあるし、韓国語でもあるし、英語でも、日本語の熱でもあります。
本の中で、「それでも生きていくために人々は新しい言葉を、ここにおいては「x」を産み出していくんだよ。俺はその勇気に敬意を表したい。」という言葉があります。そのままその言葉を著者に贈りたいです。言葉を使うことは、他人に自分の熱量を伝えていくこと。そう鉄腸さんが、教えてくれているような気がします。

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さいはての家 (集英社文庫)彩瀬 まる (著)

さいはての家(集英社文庫)

溺れるように生きている

築年数は四十数年。
家を覆いかねない庭の植物たち。
ねずみもでるし蛇もでる、初見では最高の住処とはいいがたい一軒の小さな平屋は借り手が不思議と絶えない。
「あんたみたいな人ばっかり来るんだよ、この家」と大家は告げる。
妻子ある年の離れた男性と逃げきてきたひと。
人を殺し逃げてきたヤクザ。
新興宗教の元教祖。
まわりからは恵まれている、と評される環境を捨てひとり暮らし始めた姉とその妹。
単身赴任中にひとりでいることの安らぎに気が付いてしまったひと。
並べてみると訳ありの登場人物ばかりのようにみえるが、「あんたみたいな人」たちの物語を読んでいくと、不思議と誰のことも遠くない。
彼らが抱く息苦しさはきっと自分もどこかで感じたことがある、そんな気持ちになるからだろうか。
元いた場所でそのまま生きていくには酸素が足りずに、ゆっくり溺れていく。
そんな人々が偶然たどり着いた古びた家は、けして夢のような逃げ場ではないのに妙に心地いい。
けれども、けして終の棲家にはならない。
「さいはての家」はつもりつもった自らがまだ気づくことすらできていないような心の澱をかたちにし、決着をつけてくれる、そういう場所なのかもしれない。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ケチる貴方 石田 夏穂 (著)

ケチる貴方

温度と仕事

自分の体温が人より低いこと。人と手を繋いだときに、もしくは手渡されたなにかにその人の体温が残っているときに、特によく感じます。冷え性をなんとか改善したい、そう思う女性は、かなり多いのではないでしょうか。
主人公は、極度の冷え性。そして彼女の働く環境も、決して新陳代謝の良い職場ではありません。
「冷え」に悩まされ続ける日々の中で、主人公は身体的にも心理的にも疲弊していきます。冬の寒さや、給湯器の故障がそれに拍車をかけます。
主人公は体温でも仕事でも熱を生産しない自分のことを「ケチ」だと、冷血人間だというように言いますが、読んでいてそうは見えません。冷血人間が、「人に寛容になれなかった」ことで、思い悩んだりなどするでしょうか。主人公にはやりたいこと、考えていること、人にしたいこと、逆に人にしてほしいことがたくさんあって、それでもそれらのすべては叶わないのです。壊れた給湯器のように。
しかし彼女は、歯磨き粉などのチューブを鋏で切り落としたとき、そこからチューブという容器の限界にまで考えを巡らせることのできる、建設的な人間です。そんな人間だからこそ、自分の体を外から見たように思うことは当たり前で、たいそう歯がゆかったことでしょう。
熱を外に出すことで身体が楽になるように、主人公は「苦難を口に出す」ことの重要性にも気づきます。しかし同時に、それを上回る「鳥肌」の存在にも気づいていきます。心が身体にもたらす影響も在ることを日々噛み締めながら、生きていく人間の小説です。

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がらんどう 大谷 朝子 (著)

がらんどう

ものによって変わる

人生で一度も人間に恋愛感情を抱いたことがない平井と、副業として3Dプリンターで死んだ犬のフィギュアを作り続ける菅沼。二人の女性の生活を描いた小説です。
「がらんどう」とは、虚しい婚活を続ける平井の心情なのか、3Dプリンターのつくるものが表す言葉なのか、それとも人間すべてに向けられた言葉なのか、よくわかりません。しかし驚くべきは、人の言葉や、行動にちょっと過剰なほど反応してきた平井が、「もの」によって、その決心を「かえる」箇所があるということです。
私たちは生きていく中で、多くの他人との関わりをもって成長したり、躓いたりしていきます。他人がいたことで救われたり、もしくは地獄に突き落とされたりも時にはするのかもしれません。しかし、現代は、「ひと」が作り出した、あまりにも多くの「もの」がが移入してきています。携帯電話、メタバース、AI、仮想世界のアイドル。「ひと」の姿をしたもの、「ひと」と同じような働きをするもの、多くの「もの」に取り囲まれて私たちは生きています。
「がらんどう」とは、血や肉を持たない、人間ではないものに向けられた、言葉なのかもしれません。そして、そんなものでなくては救えない「ひと」がまたいるということについても、指し示してくれている小説なのだと感じます。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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図書館にまいこんだこどもの大質問 司書さんもビックリ! こどもの大質問編集部 (編)

図書館にまいこんだこどもの大質問 司書さんもビックリ!

物語について

実際の図書館に寄せられたこどもの質問と、それに対する司書さんの返答をまとめた本です。図書館には日々、様々な疑問が寄せられますが、疑問を解決するためのレファレンスサービスにより、この書籍ができたとのこと。読むと、本当に様々なこどもからの疑問が寄せられています。
こどもなので質問の書き方もなんだかすごいです。「さいしょのにんげんはこどもなの?おとななの?」「ルドンという人の絵を見たい。」「ざしきわらしに会ってみたいです」など…。特にびっくりしたのは、「物語って、なに?」という質問でした。(中学1年生)本屋をしていますが、「物語って、なに?」と聞かれても、答えられる自信がありません。そもそも中学の時にそんなことを考えておらず、すごいなこの子はとしか・・・なお、司書さんの回答では、国語辞典や百科事典のコーナーを案内し、そこから「物語」という項目を自分でたどり、自分で紐解かせていく試みをしています。安易に「物語についての」本を案内してはいないのです。この子が大人になっても、「物語について自分で調べ、考えた」履歴は確実に残るでしょう。それがまさに「物語」への扉になるのではないか。そう考えるのは少しかっこよすぎるでしょうか。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

災厄の絵画史 疫病、天災、戦争 (日経プレミアシリーズ)中野 京子 (著)

災厄の絵画史 疫病、天災、戦争(日経プレミアシリーズ)

災厄はいつの世も描かれてきた

怖い絵の著者である中野京子さんにより、
深い歴史的背景と共に「災厄」という目線から多数の名画が紹介され、
目を背けたくなるような絵画であっても、大いに惹きつけられる内容である。

災厄は戦争や天変地異、飢饉、疫病(ペスト、梅毒、天然痘、コレラ、結核、スペイン風邪)など様々である。
これらの災厄に対し、人類がどのように直面してきたのか、
画家達は自分の思いを込めつつ描いてきたのである。
疫病という災厄において、
とりわけ、天然痘のワクチンをめぐる歴史&絵画ストーリーが書かれた章は非常に興味深いものがあり、
人類史上初のワクチン接種を描いたアーネスト・ボードの「少年に予防接種するジェンナー」は、
現代のコロナ・パンデミックを彷彿させる。

本書を読んだ後、
コロナ・パンデミックを現代の画家がどのように描くのか、
人類がコロナを駆逐する歴史的瞬間を描いた作品を見たくなるだろう。

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セルリアンブルー海が見える家 上 T.J.クルーン (著)

セルリアンブルー海が見える家 上

大切にしたい心あたたまる物語

“普通”と異なる孤児の児童保護施設や学校を運営する魔法青少年担当省・通称ディコミーでケースワーカーとして働くライナス。第一章はきちょうめんでまじめな彼の仕事ぶりの描写からはじまる。子どもたち第一の視点に立つ彼はどうやらただきちょうめんでまじめというだけではなくディコミーのケースワーカーらしからぬ人物のよう。突然の大抜擢によりマーシャス島にある児童保護施設に1ヶ月赴くことになる。
マーシャス島に暮らす6人の子どもたちと施設長アーサー。ライナスの任務は彼らの様子を観察し、施設が存続に値するかどうかを調べるというもの。この物語の世界には人間と、姿形も能力も人間とは異なる妖精や不思議な能力を持つ者たちが存在する。そして隔たりがある。マーシャス島の子どもたちは島内にとどまることで世間から守られているが、ライナスの報告によってどうなるのかわからない。任務ゆえに一線を引いて接しようと頑張るも、個性豊かな6人の子どもたちはライナスを放っておいてくれない。それまでの静かな生活から一変、美しい自然のもと子どもたちに振り回される。子どもを守ることを最優先とし誠実に向き合うライナスの姿に子どもたちとの距離も次第に縮まっていく様子がとてもていねいに描かれている。そして謎めいた施設長アーサーには心揺さぶられてしまうライナス。

下巻の帯の言葉「宝物は予期していないときに現れる」。読み終えた後この言葉とともに作中のさまざまな場面が心に浮かぶ。たくさんの大切にしたくなる瞬間がつまっていて引き込まれずにはいられない物語。

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絵本のなかへ帰る 完全版 高村 志保 (著)

絵本のなかへ帰る 完全版

友達の顔

著者は、長野県茅野市の本屋、「今井書店」の店主・高村志保さんです。高村さんが読んできた31冊の本と、高村さんの歩んでこられた人生の物語です。
本屋に来て、新しい本ではなく、自分の読んできた大好きな本を、小さい子供がまっすぐに手に取る場面が描かれています。慣れ親しんだ本、何度も読んだ本、そういう本が家以外の場所で待っていてくれるから、駆け寄っていこうとするのだと思います。
高村さんは繰り返し繰り返し、すばらしい物語を読むことで一枚、また一枚と増えてゆく心の襞について書かれています。慣れ親しんだ友達の本をなつかしく思う気持ち、もう会えないと思う気持ち、自分ではなく別の人の中に友達を見つけた時の気持ち。
襞に別のものが挟まって大きくなったり、なくなったと思っていた襞が時に姿を現したりもします。
大人になると映画を見たり花を見たり、美術館に行って絵を見たりもするけれど、むかし、絵本という友達の顔をずっと見ていたころの気持ちと、何ら変わらないのだなあと思います。

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ジュンク堂書店
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この世の喜びよ 井戸川 射子 (著)

この世の喜びよ

何度でも世界に出会い直す

ショッピングセンターの喪服売り場で働く「あなた」は幼い娘たちと一緒に過ごしたその場所でフードコート常連の少女と出会う。幼い弟の世話を任される少女は、まるで日常から逃れるように放課後をフードコートで過ごしていた。あなたは少女に子守りのアドバイスを求められるが、いつも思い出しているはずの幼い頃の娘たちの姿さえ上手に語ることができなかった。
少女をはじめとするショッピングセンターの中のささやかな人間関係や、大人になった娘たちとの関係の中で、あなたはかつての子育ての日々を思い出していく。歳を取り、過去の出来事が曖昧になってしまっても、あなたは何度でも世界に出会い直すことができる。日々の生活の中で、想いを伝えられる人がいる喜びを確かな言葉で紡ぐ物語。

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名称未設定ファイル (朝日文庫)品田 遊 (著)

名称未設定ファイル(朝日文庫)

この未来は近すぎる

「名称未設定ファイル」をカチカチとダブルクリックすれば17もの短編作品が整列している。
Twitterでのつぶやきで有名アカウントとなり小説を執筆するようになった品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)氏が綴る小説群だ。
シニカルで、エンターテイメント性にあふれていて、どの作品もおもしろかった。
おもしろかったのだが、同時に胃の腑がしんと冷えている。
フィクションでありながら、「物語はつくりものでこことは関係のない遠い場所で起きている出来事」という安心感がないのだ。
例えば『名称未設定ファイル_03この商品を買っている人が買っている商品を買っている人は』ではモスマン社がレコメンド機能によって顧客が注文していないものを送ってくることが日常となっている世界が描かれている。
気に入らなければ返品すればいいし、気に入ったのであれば3割引きで購入できるという設定のリアルさ。
レコメンド機能の精度の高さは強い支持を受けながらも、反面「考える力を放棄しているのではないか」と警鐘を鳴らす者もいる。
買う、と決めたのは果たして自分だろうか。
選んだつもりで選ばされているだけではないのか。
あと2、3歩いけばたどりつけそうな未来が、ありえないとは言えない、いつか自分もそこに放り込まれるであろう未来が、真っ黒な口をあけて虎視眈々と待ち構えている。
おもしろさの中に、そんな恐怖を感じさせる短編集だった。

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無垢の歌 大江健三郎と子供たちの物語 野崎 歓 (著)

無垢の歌 大江健三郎と子供たちの物語

祈りについて

大江健三郎作品に登場する子ども像に焦点をあてた評論です。赤ん坊の泣き声、雨を蓄えることができる木、原生林、神隠し、呪術・・・・・・
大江作品を読んでいて頭に残るのは、何よりも台詞回し。先程申し上げたような情景の中で、大人が、また子ども自身が発する言葉の発光です。
大江さんの小説の中でも、息子さんの大江光氏をモデルとした、「イーヨー」という人の残す言葉は、きわめて強く光ります。ある日「すてご」という曲を、イーヨーは作りました。自分を「捨て子」と思っていたのではなく、自分の周りの人が「遺棄された赤ちゃん」を偶然見つけた経験を忘れないようにするため。いつか自分がそのような場面に出くわしたとき、その子を助けてあげられるように、言葉を選んだのです。
鳥のさえずりや川の流れのように、いつまでも聞けるけれど、いつまでも聞いていることで気が狂ってしまうのではないかとも思える音があります。それを昔の人は「祈り」と呼んだのかもしれませんが、大江作品を読むといつもこの「祈り」という概念について考えさせられます。
わかりやすく、想像しやすい言葉や情景を多く取り上げている評論集だと思います。大江作品のファンにも、これから読もうと考えている人にも、ぜひ読んでほしい書籍です。

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