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ジュンク堂書店 書店員レビュー一覧

ジュンク堂書店 書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

検索結果 100 件中 1 件~ 20 件を表示

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

奇譚蒐集家小泉八雲 白衣の女 (講談社文庫)久賀理世 (著)

奇譚蒐集家小泉八雲 白衣の女(講談社文庫)

若き日の小泉八雲の物語

とある事件をきっかけに、この世ならざるもの、幽霊や妖精がみえるようになったオーランドは学校の休暇を故郷で過ごすという友人に連れられてアイルランドへ。
友人の名はパトリック・ハーン。この友人こそタイトルにある『奇譚蒐集家 小泉八雲(こいずみやくも)』その人。後に日本で『怪談』を書いたように、パトリック少年はこの頃からすでに怪異譚の収集に夢中で、13年ぶりの故郷アイルランドでも死を呼ぶ《女の妖精(バン・シー)》の噂がある館をオーランドとともに訪ねる。家族の死を告げるバン・シーの伝承に旧家の秘密が絡み二人は事件にまきこまれていく。

この世ならざるものがみえる二人といえど、パトリックは幼い頃からずっともう一つの世界があることが当たり前であったのに対して、オーランドはまだまだ不慣れ。こちらの世界かあちらの世界かも実は気づかないこともよくあるようでちょっとおそろしい。
実はこの作品、小泉八雲ことパトリックではなくオーランドの語りで物語が進んでいくので読者もあやしいと思いつつこれが現実なのどうかあやふやな場面に遭遇してしまう。気づかないうちにあちらの世界に引き寄せられているオーランドにはひやひやさせられる。
ただあちらの世界はおそろしいばかりではない。(もちろん油断はできない世界だけれど)まずは序章を読んでほしい。こわくてやさしい世界に引き込まれずにはいられない。

この物語の前日譚として講談社タイガから『ふりむけばそこにいる 奇譚蒐集家 小泉八雲』シリーズが2作品あるのでぜひこちらもあわせてどうぞ。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

隣のずこずこ (新潮文庫)柿村将彦 (著)

隣のずこずこ(新潮文庫)

※※※権三郎狸襲来※※※

思わず手にとってしまうタイトルだ。
少女の隣にいるのはトトロではない。
フォルムは多少似通っているかもしれないが、ずこずこと歩いているのは冷たくつるりと固い、信楽焼の狸である。
権三郎狸が村にあらわれるとそのひと月後、巨大な姿となって人を飲み込み、火を吐きながら自分たちの村を破壊して去っていくという。
語り継がれたその物語は、この村に住む者であればだれもが知っている昔話であり、大人であれば狸は災害や疫病の象徴、または何かの教訓として残されたものかなにかだろうと思うだろう。
だが、これは象徴でも教訓でもない、まぎれもなく現実そのものだったのだ。
狸と一緒にあらわれた女はいくつかのルールを伝える。
・女と狸が村をおとずれたその日に村にいた人間は全員一か月後に狸に飲まれて死ぬ。
・どんなに遠くへ逃げようと、回避はできない。
・狸が飲んだ人間のことを、残された人間たちは忘れてしまう。
どんなに理不尽であっても、このルールは揺るがない。
これはパニックになるなと思いきや、「来てしまったものは仕方がない」と村人たちはこちらが戸惑うほどにそれを受け入れてしまうから意味がわからない。
まるで宿題も目的もない夏休みのような奇妙な日常がたんたんと続くが、やはりそれはどこかいびつだ。
読者には主人公「はじめ」以外の思考がわからない。
わからないから知りたい。
でもわからない。
だからよけいにおもしろいのかもしれない。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

狐罠 (徳間文庫)北森 鴻 (著)

狐罠(徳間文庫)

北森鴻の人気シリーズ復刊です!

旗師・冬狐堂(とうこどう)こと宇佐見陶子。
旗師(はたし)とは店を持たない骨董商のこと。自分の鑑定眼だけを頼りに骨董の世界を渡り歩く。なかなかの目利きと評判の陶子は同業者からプロを騙す「目利き殺し」を仕掛けられ贋作を手にしてしまう。
陶子を罠にはめた相手・橘薫堂(きくんどう)は希代の目利きであり美術品の保険にまつわる暗躍の噂もあるくせもの。そんな厄介な大物を相手に陶子は目利き殺しを仕掛け返そうと奮い起つ。
その矢先に橘薫堂の関係者が殺害される事件が起こり陶子はその容疑者となってしまう。目利き殺しに殺人事件の謎解きまで絡みどう収拾するのか、ミステリとしても読み応え十分な作品。

魑魅魍魎だらけの古美術の世界、冬狐堂が橘薫堂にどのような罠を仕掛けるのか目を離せない。プロがプロの仕事をする描写は爽快感があって好奇心をくすぐられる。とりわけ仕掛けの要となる贋作をつくる贋作師の徹底した仕事ぶりにはおそろしくもなる。

この作品ではじめて冬狐堂・宇佐見陶子を知った方に朗報。実はこれはシリーズ1作目、これから徳間文庫から順次刊行される予定になっている。短編集には本作に登場するあの人たちのエピソードもあるのでどうぞお楽しみに。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

眠れない夜は体を脱いで (中公文庫)彩瀬まる (著)

眠れない夜は体を脱いで(中公文庫)

まっすぐにあなたと話したい

眠れない夜に「手の画像を見せて」という掲示板のスレッドにたどりついた人々。
彼らはみな、なにかしら外側に関わるもやもやとした劣等感や違和感を抱えていた。
私もからだというものに対してときどき扱いづらさを感じてしまう。
見た目という判断基準はとても強烈で、美しいから近づきたくなったり、逆にその美しさがまるで自分を辱めてくる敵のようにおもえて身構えてしまったりする。
そこに対象自身の心などなくて、あるのは過剰な自意識で素直になれない自分だけなのだとわかっていても、瞬間的に知りもしない相手の心を外見から得たイメージから都合よく想像しては、ギャップを感じたとたんに戸惑っている。
そういう身勝手さは、意識してもなかなか消えてくれない。
いっそのことすべての人がみな同じ姿だったらよかったのに、なんて、つい考えてもしかたがないことを夢みてしまうこともあった。
もっとまっすぐに近づくことができたなら、あるいは理解できないものはそのまま放っておくことができたならば、もっといろんなことがみえてくるのだろうか。
「私を変な子のままでいさせてくれて、ありがとう」
読了後、改めて目にした帯の言葉は、ぐっとくるものがあった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

アレックスと私 (ハヤカワ文庫 NF)アイリーン・M・ペパーバーグ (著)

アレックスと私(ハヤカワ文庫 NF)

30年ははやすぎる

これはヒトと鳥との、人間の言葉を使ったコミュニケーションの研究者アイリーン・M・ペパーバーグ氏とその研究の相棒、ヨウムのアレックスの物語。

たまたまヨウムの賢さと愛情深さを知った頃に気になり手に取ったこの本。
読んでみれば著者アイリーンの半生が語られアレックスがなかなか登場しない。それでも男性中心の世界で研究をする、結婚後も辞めず続ける、新たな分野で独自の研究を始めるアイリーンの果敢に突き進む姿とあわせて当時の社会や学会の常識は興味深く引き込まれてしまう。

そんなアイリーンの研究の相棒ヨウムのアレックス。かつて鳥に知性はないと思われていた時代に世間から認められる実験結果を出し、ついには「天才」とまで呼ばれるようになった。その性格はなかなかなもの。自分の思うように周りの人間を動かそうとする。実験が退屈になれば、つまらないことを隠さずいたずらもする。けれど「アイム・ソーリー」、「ナデテ」、「ナッツ、ホシイ」などなど言葉の端々に愛敬があってチャーミング。

すでに有名ではあるけれど、ひとりでも多くの人にアレックスのことを知ってほしい。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ぞぞのむこ (光文社文庫)井上宮 (著)

ぞぞのむこ(光文社文庫)

世にも奇妙で理不尽な物語

「漠市」という町は少しおかしい。
猫が一匹もいないし、近所に同じ顔の人間が少なくとも44人はいたという目撃情報がある。
閏年の2月28日に「ポンテンペルリンリーン」と言ってはいけないし、アタサワから何かを持ち出すのはおすすめしない。
もしふいに関わってしまうことがあったならば、家に帰るまえに石鹸で手を洗うといいらしい。
そうやって都市伝説のように語られ、忌み嫌う人もいるかと思いきや、実際に通勤で漠市を通る人にかかれば「ただの普通の町だ」と笑われる。
ただ、そう笑った人も最後にはきまってこういうのだ。
「でも、住もうとは思わない」と。
漠市に関わるにはコツがいる。不明瞭ながらもルールがあり、そこに住むならそれを理解し守らなければいけない。
まるでグレムリンのようだ。愛らしくて魅力的な生き物だけれど、ルールをやぶってしまえば凶悪でおぞましいモンスターに姿を変える。
漠市に存在する得体のしれないものたちは、うまみを与えることもあるが、理解が足りなければ悪気がなくても最後には必ず手痛い代償が待っているのだ。
この物語に登場する人々に「ものすごく悪い人」はでてこない。けれど少しずるかったり、少し都合がよかったり、少し誘惑に弱かったり、少し運が悪かったりする。
彼らは「ものすごく悪いこと」をしたわけではなくても、意図せず漠市に関わってしまっただけで、世にも奇妙な体験に翻弄されていく。
漠市は理不尽でおぞましく、そして妙に魅力的でもあるのだが、彼らの「少し〇〇」な部分に自分を重ねてしまったあとでは、私もけしてそこに住もうとは思えなくなっていたのだった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

晴れたら空に骨まいて (講談社文庫)川内有緒 (著)

晴れたら空に骨まいて(講談社文庫)

さよなら、だけではなく

本著は親しい人を失った5組の家族が選択した弔いの過程を取材したノンフィクションである。
家族を見送り、弔い、ようやく深い悲しみから少しだけ遠くまできた人々の話は穏やかさと切なさがあり、
そしてそこで語られた故人の生きざまはとにかくユーモラスで太陽のようにまぶしかった。
本著に登場する家族はいとおしい人を亡くしたあと、故人が旅した国へ行って散骨したり、
散骨をするために家族と山に登ったり、故人との思い出をノートに綴ったりしている。
その弔いの過程によって故人との新しい思い出がまた生まれていくのだ。
本著に「死者とともに生きる方法を探していたのだ」という言葉があった。
お葬式にだしたからといって、それを区切りに突然日常を取り戻せるはずもなく、
私自身も身内を亡くした時は、本当は生きていたという夢をいやというほどみたし、
もうこの世にいない存在だとは思いたくなくて、でかけるときは必ず「いってきます」と声をかけてから家をでるようにしていたが、
あの頃の自分も「死者とともに生きる方法」を探していたのだろうと思う。
つらい気持ちになるかもしれないと身構えながら始めた読書だったが、読了後は清々しい気持ちで本を閉じることができた。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

旅のつばくろ 沢木耕太郎 (著)

旅のつばくろ

旅がしたい

私にとって沢木耕太郎といえば「旅」である。もちろん数多くの著作で多岐にわたる名作を生み出しているが、十代で読んだ「深夜特急」の衝撃は忘れない。旅とはこんなに豊かで面白い体験なんだと。
その旅の達人が今度は国内を旅してまとめたのが本書。
旅先はJR東日本車内誌に連載されていたこともあり、東北を中心とした東日本の旅である。
著者の初めての一人旅が東北だったということで、昔の自分に度々対峙しており、
原点が垣間見れてファンとしては楽しい。
読んで感じるのは「他者」に対するフラットで肯定的な眼差しと好奇心である。
それがいい出会いを招き、旅を面白くしているのではないだろうか。
これは言うは易しだが、なかなか獲得するのは難しい。
こんなご時勢だから自由に旅をすることもままならないが、ぜひ続編、できれば九州編を読みたいものである。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

うたうおばけ くどう れいん (著)

うたうおばけ

人がおばけになる瞬間

くどうさんは東北に住む歌人。歌人のひとのエッセイってどんなのかしら、と思っていましたが、人や自分を観察するくどうさんの目線がどこから出ているかなかなかわからず、何よりも怖くて、どこから見られているんだ、なぜこんな場面を切り取ってくるんだ、この怖い時間はいつまで続くんだ、と思って、一気に読んでしまいました。まさに、くどうさんというおばけに遭遇した気分です。
例えば、雷のきらめくある天気の悪い日、くどうさんは駅で女の子にナンパをしている男性に出会います。よくある光景だと思います。しかし、くどうさんは男性の口から出た『馬に乗ったことがある』という内容の言葉を切り取ります。そこに雷鳴がのって、くどうさんの目の前から男と女の子は消えてしまいます。
人がおばけになって、人間に釘付けになる瞬間ばかりが集まったようなエッセイ集です。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

阿佐ケ谷姉妹ののほほんふたり暮らし (幻冬舎文庫)阿佐ケ谷姉妹 (著)

阿佐ケ谷姉妹ののほほんふたり暮らし(幻冬舎文庫)

歌って踊れる、ピンクドレスの二人組

歌って踊れるピンクのドレスの二人組、阿佐ヶ谷姉妹をご存じだろうか。
渡辺江里子さん(姉)と木村美穂さん(妹)は顔が似ているということがきっかけでコンビ「阿佐ヶ谷姉妹」を結成。(ちなみに血縁関係はない)
すでに結成から13年たつふたりだが、なんと2017年まで阿佐ヶ谷の6帖一間で同居生活を続けていたそうで本著はその日常を描いたエッセイである。
実はどちらがどちらなのか把握しないうちに読み始めてしまったのだが、読了後にはまるで彼女たちが自分にとってのご近所さん、または遠い親戚だったかのような、親しげな気持ちに包まれていた。
二人のつつましくほほえましい日常はあたたかく、そしてどこか懐かしい。
姉の江里子さんのほうが先に住んでいたのにいつの間にか妹の美穂さんが若干広く部屋を陣取っていたり、妹の美穂さんお気に入りのヤンバルクイナのふきんを姉の江里子さんがいつも床に落下させたままでいるなど、そういったささやかな愚痴も相手への許しが根底にあるからなのか、はたまた言葉遣いが丁寧だからなのか、とにかく読んでいて微笑ましいのである。
本著にはエッセイだけではなく小説も掲載されているが、これもまた味わい深い。
読んでいると鼻歌を歌いたくなるし、きれいなゼリーが食べたくなる。
そして、この混沌とした日々が落ち着いた暁には、いつか絶対に阿佐ヶ谷にいってみようと思うのだった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

いつでも母と 山口恵以子 (著)

いつでも母と

母と娘の最期の記録。

「女性セブン」に連載されたエッセイに加筆修正を加えたもの。55歳で松本清張賞を受賞。食堂のおばちゃん作家として、一躍、時の人となった遅咲きの山口さんをずっと応援してくれたお母さん。最大の理解者であり、頼れる人であったのだが、お父さんの死をきっかけに体調を崩し認知症が進行。入退院を繰り返し、自宅で最期を迎えるまでの日々が赤裸々に綴られています。今まで普通に出来ていたことが出来なくなり、意思の疎通も難しくなり、てんやわんやの毎日。自分の仕事をこなし、お母さんのお世話に家事全般。山口さんの奮闘に頭が下がります。そんな彼女を支えたのは、医療・介護スタッフのみなさん・兄弟に親戚。そして、大好きなお母さんの最期を、うちで安らかに迎えさせてあげたい。という強い想いでした。見送った今も、すぐそばにいるような気がする、と言います。最後に、老親を抱える身として見倣いたいと思ったのが、自分がきつくても親の前では、笑顔でいよう、と。小さなことですが、とても大切なこと。明るく日々、過ごさせてあげたい。そう、思いました。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

発注いただきました! 朝井 リョウ (著)

発注いただきました!

執念の心意気

企業から依頼された小説や、タイアップの文章。朝井さんが確かにそのような小説や、エッセイをよく書いてはいるな・・・と思っていました。しかし、こうして朝井リョウさんデビュー十周年にあたり、そうして書かれたものをまとめて読むと、朝井さんのサービス精神というか、一見このサービス精神に見える朝井リョウさんの、「依頼者を見据え、文章に落とし込んでやろう」とするところの執念が恐ろしすぎて、なんて作家さんだと思い、ゾクゾクしてしまいます。巻末で触れられていますが、企業が関係する作品の登場人物には、その企業の会長や社長の名前をすかさず使用。企業の社員ウケだ、と、朝井さんは書かれていますが、執念から来る心遣いです。恐ろしいです。
朝井さんの小説では、登場人物は様々なことに気付きます。鈍感な登場人物というのは、あまり出てこないような気がします。それはまさに朝井さんの分身であるからだし、そうして執念でつかみとられた眼差しを読者が「快」と受け取るから、企業は朝井さんに文章を依頼するのでしょう。収録された作品を読んでいくうち、その思いはますます強まります。もはや作品集ではなく、怪談集、ホラー本です。
商品を売り出すキャンペーンの商品として「小説」を選ぶという心意気、すごい、と朝井さんは言います。私は朝井さんの心意気こそ一番すごい、と思う。読めば読むほど元気になれる、恐るべき本です。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ピエタとトランジ 完全版 藤野可織 (著)

ピエタとトランジ 完全版

うっとりした気持ち

中学生や高校生の時、友達の存在というのを思い出すと、とにかくすごく大きかったな、と思います。この小説は女子高生ふたりが、スプラッタ事件に巻き込まれていくという構造をとっていますが、ちょうどその、巻き込まれる寸前に、ピエタが友達のトランジを、ファミレスの毒々しいみどりいろのメロンソーダごしに見る場面があります。ゆっくりと目を開けるトランジ。その描写がものすごく時間をさいて行われているのですが、殺されそうになる前の瞬間ということとは別に、ピエタは、そのことを一生、忘れないような気がするのです。藤野さんが描く、そのような瞬間が大好きです。
日常がそのようなキラキラした瞬間から成り立っていて、しかしそのことに気づくことの出来ない場面もあって、その後に普通に殺されたり、進学したり、学校に落ちたり、仲違いして一生会わなくなったりすることがある。しかしそのような場面があったことを私達はすっと覚えているし、藤野さんは、こうしてずっと文章に書いてくれるのだと思うと、トランジを見ているピエタのように、ものすごくうっとりした気持ちになるのです。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい 大前粟生 (著)

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

自分の、他人の、綿のような部分

人は人に傷つけられることがありますが、自分の言った言葉に傷つきもします。
この物語には、ぬいぐるみサークルに所属する七森という男性が登場します。彼は、ぬいぐるみを「作る」ために、サークルに入ったのではありません。ぬいぐるみに「自分の嫌だと思った」ことを、話すために。人を「自分の嫌な体験で」傷つけないために、サークルに入ったのです。しかし彼こそ、誰よりも、「自分の言葉に自分で傷つく」タイプの人間であるかと思います。七森がわざわざ髪を金髪に染めたのは、自分の外見が突飛になることで、自分の発する言葉や他の部分が誰かを傷つけないように、という思惑からです。しかしそうすることで彼は同時に自分のお腹の中の綿を引きずり出し、それを自分でも確認している。心からそう思います。
人間は人間を故意にでも傷つけますし、故意でなくても、無意識でも傷つけます。
ただ、「傷つくのではないか、傷つけられるのではないか」私達が身構えたときに、思ってもないような答えを返してくる人間が存在します。七森が好きな麦戸ちゃんもそうです。「湯気で、目と鼻がましになる(なんか湯気の出るものを食べに行くことで)」という言葉。麦戸ちゃんは、七森の前で、しくしく泣いていた。その後に彼女が放った言葉が、これです。誰も傷つけていない。建設的でさえある。
七森や他の部員も、麦戸ちゃん自身も、自分のそういう「思ってもないような部分』を見るために、ぬいぐるみサークルに入っているのではないかと私は思います。ぬいぐるみから引き出した綿は、真っ白く、ほとんど汚れていない。きれいなものを見て、元気になるために、ぬいぐるみに話しかけているような気がするのです。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

御社のチャラ男 絲山秋子 (著)

御社のチャラ男

奥田民生の曲にありそうなタイトル!

とある会社のチャラい部長と、その彼を取り巻く様々な人たちの独白により構成されている。
 どの会社や組織でもありそうな人間関係、悩み、夢や希望が語られているが、それがとてもリアルに、ときにおかしみと切なさを持って胸に迫ってくる。
誰でも1人や2人、自分のまわりにいるチャラ男を思い浮かべることが出来るのではないだろうか。
そんなチャラ男を考察し距離感をはかってみると、鏡のように自分がみえてくるかもしれない。そんなことを思わせる小説である。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

濱地健三郎の霊なる事件簿 (角川文庫)有栖川有栖 (著)

濱地健三郎の霊なる事件簿(角川文庫)

有栖川有栖の新たな探偵

〈霊(くしび)なる〉とは〈不思議な・霊妙な〉という意味だという。
本作『濱地健三郎の霊なる事件簿』はタイトルのとおり心霊探偵・濱地健三郎のもとに持ち込まれる不思議な事件にまつわる短編集だ。
超自然現象が絡む依頼を解決に導く濱地は古い映画から抜け出したような佇まいの年齢不詳の紳士。助手の志摩ユリエは好奇心から心霊探偵事務所に就職した物好きなところのある女性。依頼人が古びたビルの2階にある探偵事務所を訪れるところからはじまる探偵譚には胸をおどらせるミステリ愛好の方々も多いのではないだろうか。

濱地は幽霊が視える。幽霊に語りかけ、諭し、怪事の真相を探り解き明かす。自分の現状が理解できず困惑しているもの、思いに囚われて頑なになっているものを行くべき所へ導き現実の世界では事件を解決する。

探偵小説の醍醐味のひとつ、探偵と助手のちょっとテンポがずれた絶妙なやりとりも愉しくひとつひとつの作品の最後の一文の余韻がたまらない。一息に読んでしまうのもよいが、作品ごとに趣向もちがうのでぜひ一作ずつゆっくり読んで味わってほしい短編集。

書店員:「ジュンク堂書店ロフト名古屋店」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|ロフト名古屋店

日本の水生昆虫 中島 淳 (著)

日本の水生昆虫

これさえあれば日本の水生昆虫はバッチリ

本書でまず驚くのは、掲載種の多さ。
2019年11月末までに日本から記録された真の水生昆虫(ほぼ一生を水面や水中で暮らす)のコウチュウ目とカメムシ目の485種・亜種のうち、480種が収録されている。
ページはオールカラーのうえ、生きた昆虫の姿をとらえた写真を採用する。
模様や色が変化してしまう標本写真とは異なり、いきいきとして鮮やかで美しい水生昆虫が見られるとあって、虫好きにはたまらない。
また、科の区別には章末の検索図がたいへん役に立つだろう。
読者がなるべく容易に種を識別できるようにと、特徴とカラー写真を交えた検索図が作り上げられた。
著者陣の水生昆虫への愛とこだわりが随所に光る昆虫図鑑だ。

ジュンク堂書店ロフト名古屋店
理工書担当 中村

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

やがて忘れる過程の途中 アイオワ日記 滝口 悠生 (著)

やがて忘れる過程の途中 アイオワ日記

贅沢な日記

米国アイオワ大学に世界各国の作家や詩人が集まり行われる滞在プログラム「IWP」。それに日本から参加した小説家、滝口悠生さんの日記です。
滝口さんは日記の中で、ケンダルという人物の会話を通し、自分の小説には否定や逆説が結構登場するが、自分が文章を書くときの推進力になっているのかも、と自覚します。翻訳を機に気付かされる自分の小説の特徴。しかもそれは、インターネット上や手紙を通してではなく、リアルの口語体験からなんです。
日記には一緒に食べた食べ物のことや、隣りにいた人のウィッグをかぶってあそんだこと、日差しの強さや雨の様子なども描かれています。ある出来事を日記に書いてしまったら、もうそのことは小説のようには書けない気がする、と、滝口さんは書いています。
ほんとうに贅沢な日記だと思います。

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ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

呪われた詩人たち ポール・ヴェルレーヌ (著)

呪われた詩人たち

あなたの「あの」詩人の像は?

19世紀半ばから後半にかけてのフランスの詩人たちを、同時代に生きた大物詩人が語るという内容。こんな名プロデューサーみたいな仕事をしていたのが、あのランボーとの三角関係やピストル事件で名高い、ヴェルレーヌだったなんて!
19世紀、詩人になるということはとてもハードルが高く、庶民にとっては難しいことでした。そんな中、「呪われた」という言葉を使ってでも、ヴェルレーヌが人々にきらめくような才能を逐一伝えて行きたかった、その様子がありありと描かれています。
取り上げられているランボーの詩も、この時点ではわずかしか世の中に出ていませんでした。ヴェルレーヌが使ったランボーの容姿に対する、褒め過ぎともとれるような称賛、それは後の我々の「ランボー像」を左右することになったのかもしれません。
新訳は倉方健作さん。専門はヴェルレーヌを中心とする近代詩ですし、19世紀の出版人と作家たちについての訳注も素晴らしすぎます!詩をこれから勉強しようとする若い方にぜひ、手にとっていただきたい書籍です。

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雲神様の箱 (角川文庫)著者:円堂 豆子

雲神様の箱(角川文庫)

続巻求む!

毒をはらんだ霊山に移り住む古の民である土雲族の娘、セイレンは双子の妹として産まれたことで災いの子として実の母からも忌み嫌われ孤独に育つ。
自由に山を下りることも許されなかった彼女が唯一必要とされたのは、いずれ一族の長となる姉の代わりとして差し出されるその時のみだった。
優しく無邪気な姉だけがセイレンの味方だったが、一族の意向の前にはあらがうことはできずに、ある日姉の身代わりとなり若王雄日子の守り人となるべく山を降りることが決まってしまう。その不遇な生活の中でも「山から下りずに、必要とされてそこにいたかった」と胸を痛める少女の姿はとても切ない。
ただこの物語の主人公はけして悲劇のヒロインでは終わらない。
ふつふつとわきあがり消えることのないやりきれなさ、怒りを力にしながら、相手から目をそらすことをやめない。もしかしたらやめることをしらないだけかもしれない。
偽ることをしらず、不器用なほどに心根がまっすぐな土雲族秘伝の技を持つセイレンと、そんな彼女を守人として自分のそばにおくことを決めた雄日子の底知れなさがこの物語の面白さを加速させていく。
雄日子の魅力はまだまだ明かされていない。続巻が待ち遠しい古代日本ファンタジー。

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