ジュンク堂書店 池袋本店書店員レビュー一覧
ジュンク堂書店 池袋本店書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
検索結果 100 件中 1 件~ 20 件を表示 |
書店員:「ジュンク堂書店池袋本店」のレビュー
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本屋って何? 稲葉 茂勝 (文)
本屋を愛するすべての人に。
「本」が好き、と「本屋」が好き、ってちょっと違いますよね。この本は後者の「本屋」という空間そのものがラブ!という人には絶対おすすめです。
本屋の歴史や海外の本屋と日本の本屋の違い、現在の本屋がどのように運営されているのか、本屋の抱える問題などなど…...。内容は書店員の自分でも知らないことがたくさん。これが元々は中高生向けに出版されたというからびっくりです。4冊シリーズだったものをギュギュッと1冊にまとめてあるため、中身は超濃厚です。全ページにカラー写真がふんだんに使われているところなど、つくりは確かに児童書なのですがテーマも欄外のコラムも充実しすぎる内容で、本当に中高生向けなのか大変疑わしい。うーん、けしからん。私がこっそり読んで勉強しよう。
そして、なんと写真でうちの店が協力しているじゃないですか。本が入荷したあとの仕分けをする商品課やコミック担当がシュリンク(本の外側のビニール)をかけているところまで......。そんなところまで写さなくても、と思うようなカウンターの内側まで写っていてちょっと恥ずかしい。
この本は本好きな人への贈り物にも良いと思います。他の本だとその人の好みやすでに持っているかも?という心配があるのですが、これは本と本屋が好きな人ならハズレ無し。表紙もなんとなくクリスマスカラーで素敵なので、今年のプレゼントはこの本で決まりです!
書店員:「ジュンク堂書店池袋本店」のレビュー
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石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち 上原 善広 (著)
日本考古学界最大のスキャンダル『旧石器捏造事件』はなぜ起きたのか―。
事件を起こした藤村新一が神様と呼ぶ、日本で初めて旧石器時代の存在を示した「相澤忠洋」と、そのアマチュア考古学者の相澤を見いだした「芹沢長介」を軸に、考古ロマンも消し飛ぶほどの考古学界のドロドロした人間関係を暴きだす。
「神の手」と呼ばれた藤村の右手人差し指と中指は罪の意識からかいまやない。捏造事件については数多くの書籍が出ているが、本書は戦後の考古学の歩みと「歪み」と、事件のその後までが臨場感あふれる筆致で書かれ、非常に読みやすい。
考古学に興味がなくとも濃い「人間ドラマ」をお求めの方にもぜひ。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 人文書担当 森暁子)
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指を置く 佐藤 雅彦 (著)
メディアテクノロジーの根幹に関わるかもしれない新たな可能性
「指を置く」。一体何のことでしょうか。本書の表紙には、「指を置くことで、解釈が変わる」ということばが記されています。そして裏表紙には、瓶の中に赤いボールのようなものがヒモでぶらさげてある様子が描かれた奇妙なイラストがあり、その中央部には「i」という文字がポツンと書かれています。そしてそのイラストの下には、「iの上に人差し指を置いてください」ということばが添えられています。この表紙を見ただけでこの本が一体何の本なのか理解できる人は、ほとんどいないでしょう。それもそのはずで、本書は「メディアへの新しい関わり方」、それもこれまでに類書が書かれたことが無いような関わり方を、読み手に提示する本なのです。
では、「メディアへの新しい関わり方」とは、一体どんな関わり方なのでしょうか。本文中の記述を借りるなら、それは「メディアの中の出来事が自分事になってしまう」関わり方である、ということになります。人間はメディアを鑑賞する際、「自分自身」の存在を捨象し、そのメディアに意識を没入させることがほとんどです。本しかり、絵画しかり、映画しかり。しかし本書で提示されるイラストたちに、指示通りに「指を置く」ことをしてみると、あたかもそのイラスト内で起きている出来事に、自分が関与しているような意識にさせられてしまうのです。捨象されるはずの「自分自身」が、鑑賞対象であるメディアの一部になってしまうような不思議な体験が、「指を置く」ことで表出します。
先述した裏表紙のイラストに、「指を置く」ことをしてみましょう。瓶の向こう側にある、触れられないはずのボールを、あたかも自分がヒモでぶらさげているような、不思議な感覚に捉われます。自分の身体を、PCキーボードでのデータ入力のような単なるデバイスとしてではなく、メディアの構成要素の一部として用いるような、新しいメディア体験。これからのメディアテクノロジーの根幹に関わるかもしれない新たな可能性を、本書は提示していると言えるでしょう。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 芸術書担当 下田裕之)
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街場の戦争論 内田 樹 (著)
想像力の使い方
内田さんの文章で最も心惹かれる筆致、文体のようなものがある。内田さん御本人は「それは違うよ」と言われるかも知れないけど、今回の「戦争論」は、『昭和のエートス』(バジリコ 2008年)中の「私的昭和人論」で述べられたことの延長上にあると、そう思う。
「昭和人論」でも「戦争論」でも、内田さんは自分より一つ二つ上の世代の人たちが生きた時代のことを、追想的に迫ろうとする。その迫り方を「想像力の使い方」(『街場の戦争論』p281)とも云われるが、僕にはその姿勢の中にある種の祈りというか、供養と表現出来るような心情が織り込まれていると、妙に感じてしまう。そしてその筆致、文体こそ、最も心惹かれるものの正体なのである。
最後に。「私的昭和人論」と『街場の戦争論』が発表された時期は、それぞれ自民党安倍内閣の政権時に当たっている。この符号をどう捉えるか。本書の教育的効果の一面がここに表れていると感じるのは、有意であろうか?
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 平崎真右)
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群衆の智慧 (角川EPUB選書) 著者:ジェームズ・スロウィッキー
ありきたりな集合知の話題とは、明らかに一線を画している一冊
本書は2004年に米国で発行された書籍The Wisdom of Cloudsの訳本『「みんなの意見」は案外正しい』を改題し、再刊したもの。キャッチ―さは少なくなった反面、より原題に忠実な書名になった。
集団を構成する各人が多様で独立した意見を持っている場合、その集団が到達する結論は一人の個人より常に知的に優ると著者は言う。
ビンの中にジェリービーンズがいくつ入っているかという推測を学生56名で行った場合、その推測の平均値より正解に近い数値を推測した学生はたったの1名だった。こんな一見すると眉唾ものの本書で取り上げられる実験例も、その後に紹介されるような株式市場や大企業内部における個々人の多様性独立性の確保の難しさを鑑みると、逆説的にオカルトではなく必然と思えるような説得力が湧いてくる。
改題が示す通り、著者は決して群衆の正しさには重きを置いていない。智慧そのものの発生の事例の紹介から、組織としてそれをどう生み出すかというソリューションへと論旨が発展していく本書は、デジタルネイティブが続々と社会に進出する現代におけるありきたりな集合知の話題とは、明らかに一線を画している。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 実用担当 土居)
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知ろうとすること。 (新潮文庫) 早野 龍五 (著)
コピーライターの糸井重里さんと、物理学者の早野龍五さんの対談集
『知ろうとすること。』は発売前から心待ちにしていた一冊。読了後、1人でも多くの方が手に取り、本を開いて頂けたらいい、と祈るように思った一冊です。叶うなら、目の前に、そっと本を差し出したいくらいです。
この本は、コピーライターの糸井重里さんと、物理学者の早野龍五さんの対談集。
2人の交流の始まりは、3.11直後に早野さんが発信したツイートを、糸井さんが目にとめたことから。情報が錯綜する中、事実を淡々と伝える姿勢に、糸井さんが信頼をよせたからです。これは現在も変わりません。
3.11以後から現在まで、早野さんがどう調査をし、何がわかり、それを精査し変わったことや、これからどうなっていくのか。専門外の知識でも日々の生活のために科学的なことを「知ろうとする」糸井さんと、科学的な専門用語の説明では解消できない不安や疑問を、どうしたらほどけるのか「知ろうとする」早野さん。思慮深く言葉を選び、積み重ねられたもの。何年も続けた福島の測定、丁寧に行った給食の陰膳調査、そしてベビースキャン。1度読んだだけでは、理解できない部分も多いかもしれません。けれども謙虚な気持ちで、知りたいと抱いた感情を忘れず、何度でも繰り返し、開いてみてほしいです。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 文庫・新書担当 福岡)
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第一次世界大戦 マイケル・ハワード (著)
第一次世界大戦を考えるきっかけとなる入門書として最適な一冊。
一九一四年、サラエボでの一発の銃声が引き金となり、世界中の国を巻き込む世界戦争へと発展した。第一次世界大戦である。
今年は第一次世界大戦の勃発から一〇〇年という節目の年である。一〇〇年前というと一昔前の出来事のように思えるが、パレスチナ問題などのように、この戦争がきっかけとなった出来事は現在もまだ残っている。
すなわち、第一次世界大戦とは、「大量殺戮(メガデス)の世紀」と呼ばれた二〇世紀の歴史を振り返る上で、そして、現在の世界を考える上においても、欠かすことの出来ない重大な出来事なのである。
本書は、これまでに数多く出ている関連書籍の中でも、特にコンパクトにまとまった書籍である。必要なテーマのみを抽出しつつ、かといって簡潔にもなり過ぎないようになっているのはひとえに著者の努力の賜物だろう。訳者による関連書籍の一覧もありがたい。
あの戦争を考えるきっかけとなる入門書として最適な一冊。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 人文担当 田山)
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一点突破 岩手高校将棋部の勝負哲学 (ポプラ新書) 藤原 隆史 (著)
高校棋界の革命家、藤原隆史先生の指導論がつまった一冊
高校生の将棋の大会においては、「エリート進学校が勝って当たり前」という長年の常識があった。頭脳勝負であるから、考える力を持った生徒が多く集まる学校にはどうしてもかなわないというのが定説だったのだ。ところが近年、勢力図が変わりつつある。と、いうよりも、特にエリート校でもない岩手高校がその常識をぶち破ってしまった。なにせ全国高校将棋選手権という高校球児における夏の甲子園のような大会で、3年連続団体戦優勝である。この本は、そんな高校棋界の革命家ともいうべき、岩手高校囲碁将棋部の顧問である藤原隆史先生の指導論がつまった一冊だ。
読んでいてまず思うのは、強さのわりには非常にゆるい部活だということ。上下関係、出欠確認、練習メニュー、このすべてが存在しない。今作中でも取り上げられている、部を追ったノンフィクション番組も視聴したが、とにかく部全体がフレンドリーで温和な雰囲気だった。その代わり、部員の上達と勝利のためだったらあらゆるインフラ、システム、験かつぎまで総動員して徹底的に取り組む、というのが基本的なスタンス。合宿にプロ棋士を招いて指導を仰ぐ、遠征には顧問自らバスを運転して行く(そのためにわざわざ大型免許をとっている)、など、環境面でやれるべきことはすべてやっている。その結果として、生徒が主役となり伸び伸びと実力を発揮できるような状況が生まれているのだろう。
今の仕事を天職だと藤原先生は言う。やっていて楽しい仕事だったらどれほど大変なことでも苦にならない、毎日生きているのが楽しくなるからだ、と言う。好きこそものの上手なれというシンプルな諺の意味そのままの形で、これほどの成功例が隠されていたことに勇気をもらった。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 実用担当 土居)
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本当は間違っている心理学の話 50の俗説の正体を暴く スコット・O.リリエンフェルド (ほか著)
“通俗心理学”に対し、心理学で真偽に迫まる一冊
右脳人間と左脳人間がいる、モーツァルトの曲を聴くと子どもの知能が向上する、人は人生で脳の約10%しか使っていない…。
どれもテレビや雑誌など、どこかで聞いたことのある話である。だが、これらがすべて間違っているとしたら?
本書は、世間で広く信じられている“通俗心理学”に対し、心理学での先行研究を駆使することでその真偽に迫っている。本書で扱うこれら俗説の数はなんと50(巻末の付録も含めるとさらに膨大な数に上る)。
しかも、それぞれの説につき、平均で20もの先行研究に当たるという徹底した調査ぶりである。著者の並々ならぬ熱意が感じられる。
詳細は本書を読んでもらうとして、世間にはいかに根拠のない俗説があふれているか、そして自分たちがいかにそれを容易く信じてしまっているか。あなたの知的好奇心を満足させてくれる、驚きに満ちた一冊である。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 人文担当 田山)
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エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守 石川智健 (著)
行動経済学の基礎も一緒に学べるお得な1冊
連続殺人事件の捜査本部に乗り込んできたのは、なんと経済学者。畑違いに思えるのですが、経済学捜査員の伏見真守によると、殺人事件の30%は行動経済学で解決できるというのです。その30%は合理的殺人というもの。衝動的な感情的殺人とは違って、その殺人によって犯人が何らかの利益を得る計画的殺人のことです。
彼の捜査はこれまでの捜査とは全く異なるアプローチで進んでいきます。数式や表を多用し、人間の行動を徹底的に分析することで事件を解決に導くのです。
ストーリーの面白さはもちろん、行動経済学の基礎も一緒に学べるお得な1冊です。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 文芸書担当 田村友里絵)
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いい階段の写真集 BMC (編)
階段のもつ不思議な魅力
皆さんは最近、階段を使っていますか? オフィスやアパートの階段と言えば、息を切らしながら上り下りする、いやなものだという印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この写真集を眺め、それぞれの階段が持つ背景や、人々にどのように親しまれてきたのかを知れば、階段というものが建物の単なる1パーツではなく、空間と空間をつなぐ入り口であり出口であるという、不思議な魅力を持っているのだとお分かり頂けると思います。そして普段、無意識に上り下りしていた階段に、ちょっとだけ愛着が生まれ、幸せな気分になるのです。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 理工書担当 山中彰人)
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スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営 山井 太 (著)
アウトドア用品メーカーについて書かれた本
これは新潟県三条市に本社を構える、或るアウトドア用品メーカーについて書かれた本。
著者である社長が発する言葉は本当にストレートで、心に響くものばかり。産みだされる製品は本格志向が強く、数多くの熱心な顧客を獲得している。
ふだんアウトドア系の趣味を持たない人々にとっては未知の会社(ブランド)かもしれないが、是非そういう方々にこそ読んでいただきたい一冊だ。
燕三条エリアは古くから金属加工の地場産業があり、商品の品質にとことんこだわって、なんと永久保証を大前提にしている。
毎年数度、社員とユーザーが一緒になって泊まるキャンプを開催し、交流を深めるというイベントもユニークだ。もちろん社長も参加し、焚火を囲んでのトークが人気になっている。
本書で語られる内容はとても刺激的なことばかりで、とにかく情熱を感じさせられる。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 社会科学書担当 高見圭一)
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遊びつかれた朝に 10年代インディ・ミュージックをめぐる対話 磯部 涼 (著)
非常にクラシカルなポップカルチャー言論
「インディ・ミュージック」。つまり、大手のレコード会社が関わっていない、資本的に独立性の高いポップミュージック。本書において九龍ジョーは、「社会のメインストリームに位置するわけではないそれらの音楽を語ることでこそ描き出せる時代の相貌がある」と語ります。この言葉に、本書が企図するところの核心部分があると言えるでしょう。マイナーで、世間ではあまり知られていないポップミュージックについて、言葉を尽くして語ってみること。そのことから、いま私たちが生きている時代や社会そのものを考える思考を導きだすことができないだろうかという、ある意味で非常にクラシカルなポップカルチャー言論を試みたのが、この書籍であると言えると思います。
文中に登場するミュージシャンたちは、程度の差こそあれ、今の日本社会においてはマイナーな人々ばかりです。ヒットチャートで馴染みのある名前は、まったくと言っていいほど話題に上がっていません。このように書くと、まるで「分かる人だけに分かればいい」という狭量な姿勢で書かれた本であるかのように思えるかもしれませんが、私にとって本書は、「インディ・ミュージック」にまったく親しみが無い人々にも、いやむしろ親しみが無い人々こそが楽しめるものであるように思います。社会を経済的に揺るがすような巨大な音楽たちが取りこぼしてしまうような、人々の小さな感情や細やかな気持ちを「インディ・ミュージック」に見出したいという想い。メジャー市場では塗りつぶされてしまう社会性や政治性を、「インディ・ミュージック」が置かれた現場から考えたいという切実さ。そういった、文化に触れる時に誰もが抱く好奇心や情熱のようなものが本書には詰め込まれており、「インディ・ミュージック」がそういった感情に十分応え得る文化であるということを、その音をまったく聴いたことが無い人々にも感じさせるような書籍であると思うのです。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 芸術書担当 下田裕之)
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15歳からの労働組合入門 東海林智 (著)
憲法や労働組合の意義を示すケーススタディ
この国では近年、立憲主義なるものがあらぬ方を向いてしまいそうであるが、近代以降の人類史を鑑みればそれほど恐ろしいものもない。強大な力をどこかの誰かが恣意的に用いる事態を恐れ、それへ最低限のルールを課そうとする態度を立憲主義という知恵と呼ぶなら、書名に挙がる労働組合もまた、憲法と同じ働きが期待される代物としてある。私たち一人一人は国民であると同時に、働く生き物としてある。その働くという行為をどうすればよりよく、少しでものびのびとした、善き事として築いていけるのか。それを詰める手段の一つとして労働組合もまた存するのだが、その辺りの事情がこの国ではとんと共有されていない現状があるのかもしれない。
一人ではか弱い存在でしかない国民または労働者を支える知恵として、憲法や労働組合は存する。本書はその意義を示すケーススタディであり、他人事ではない事例として、大切に読むべき書物の一つではなかろうか。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 平崎真右)
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社会はなぜ左と右にわかれるのか 対立を超えるための道徳心理学 ジョナサン・ハイト (著)
う現代世界が抱える問題を道徳心理学の立場から書いた一冊
この本は「なぜ人々が政治や宗教をめぐって対立するのか」という現代世界が抱える大きな問題の一端を明晰に解きほぐす試みとして、哲学、社会学、人類学、進化理論などの知見を駆使して道徳心理学の立場から書かれている。
昨今トロッコ問題のような倫理学の思考実験本が人気だが、この本はそういった思考実験的な面を持ちつつ、人間の本性と歴史を概観するというパースペクティブかつ雄大な構想を持っており、重厚ではあるが、具体例が豊富で丁寧に議論が展開されているので、とても読みやすい。
なぜ対立するのか。なぜ皆で仲良くやっていくことがなぜかくも困難なのか。
その答えは「直感が戦略的な思考を衝き動かす」という人間の本性だと著者は言う。解決するには恐ろしく困難なこの問題は、それでも、やはり解決されなくてはいけない。誰もが、ここでしばらく生きていかなければならないのだから。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 人文書担当 森)
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教誨師 堀川 惠子 (著)
教誨について語り尽くした
教誨師とは、宗教者として死刑囚との面会が許された唯一の民間人である。拘置所内で死刑囚と対話を重ね、死刑執行の瞬間にも立ち会う。そんな過酷な職務を半世紀に渡って勤め上げるも、マスコミに対しては沈黙を貫いていた住職、渡邉普相が、自らの死後に公開という約束の下で、教誨について語り尽くした。
面接の内容を細かく記録し、密かに保存していた教誨日誌。そこに記された言葉によって、死刑囚ひとりひとりの物語が見えてくる。自分を捨てた母を怨んで殺した者、一合の酒を飲むため看守を殺して脱獄した者、加害者であるのにも関わらず、動機に固執するあまり、被害者意識を持っている彼らを、静かな心境に至らせ、ひいては心からの反省を生じさせるため、渡邉は根気強く説き続けた。
渡邉が老年になり、アルコール中毒という自らの疾病によって、心身が立ち行かなくなったとき、死刑囚とのくだけた会話によって救われる場面がある。死を突きつけられた人間に対して、悪人正機の教えを説いて「救い」を与えることは難しいが、このようにして心を通わせることはできる。それこそが教誨という仕事なのだ……と、もがき苦しんだ末の答えが語られるところが、本書の白眉のように思う。死刑存廃の議論の前にまず、こういった心の問題に目を向けるような、寛容な社会であってほしい。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 実用担当 土居)
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知の英断 (生活人新書) ジミー・カーター (著)
インタビュアー吉成真由美さんの真剣勝負を垣間見た1冊
臨場感に触れた。次どうなるのか、わからない。
『知の逆転』の第2弾、『知の英断』は、インタビュアー吉成真由美さんの真剣勝負を垣間見た1冊。
インタビューの相手は「知の長老たち(エルダーズ)」と名乗る人々。ネルソン・マンデラの声掛けで集まった、世界各国の重鎮たち、6名。例えば人権外交を掲げ「戦争をしなかった唯一のアメリカ大統領」ジミー・カーター。ブラジルで50年続いたハイパーインフレを数ヶ月で解決したフェルナンド・カルドーゾ元ブラジル大統領。在任中に支持率93%、圧倒的人気を誇った「人権のチャンピオン」の異名をとるメアリー・ロビンソン元アイルランド大統領。
男女関わらず、彼らの言葉は明快だ。吉成さんの質問に、自身の体験に基づき、答えを出していく。吉成さんはわくわくしている。
どこまで、尋ねてみよう? 世界全体が抱える問題を、彼らはどう捉え、取り組むのか。
「核の問題はどうするのか」「国家の秘密は守られるべきか」「日本は近隣諸国とどう向き合うべきか」「宗教、女性の問題をどうとらえているか」。深い質問から「よく読む本、薦めたい一冊は何か」という日常に迫るものまで、臨機応変にことばを変え、質問の分量を調整している。それでも、共通して出る問いや、エルダーズ共通の理念から、本質に迫っていく。
TVでインタビューの様子を見た方、雑誌連載でインタビューを読んだ方もいらっしゃるかと思う。TVよりも整理された、雑誌よりも充実した内容に、再び触れてほしい。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 文庫・新書担当 福岡)
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第一次世界大戦 現代の起点 1 世界戦争 山室 信一 (編)
第一次世界大戦について改めて考え直すきっかけとなる一冊
2014年、つまり今年は第一次世界大戦が勃発してからちょうど100年になる。
ちょうど一世紀前に起きたこの世界大戦の持つ意義について改めて問い直そうというのが、本書の主たるテーマである。
そもそも第一次世界大戦は、私たち日本人にとって、その前後に発生した日露戦争や、太平世戦争に比べるとあまり省みられることが少ないように思われる。だが、本書を読めば分かるように、この世界大戦が日本に与えた影響は計り知れないものがある。参戦とそれに伴う中国大陸での権益拡大が英米との関係悪化を促し、後の太平洋戦争につながってゆくことになるのである。
二十世紀という「大量殺害の世紀」(この一世紀間で推計一億人に近い人が戦争・革命によって殺傷された。)の幕開けを人々に想起させ、植民地の人員・資源の動員により、人類史上初の世界戦争ともなった第一次世界大戦。その後の世界を一変させたこの戦争について改めて考え直すきっかけとなる一冊である。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 人文担当 田山)
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日本の人事は社風で決まる 渡部昭彦
日本独自の社風文化に正面から挑んだユニークな一冊
著者は銀行やコンビニ本社、IT企業で人事部長を歴任した人物。長年の経験から得られた、人事という仕事のリアルな側面が語られている。
会社によって、おのおの社風というものがある。たとえ同じ業界であっても、カルチャーが全然違う実例が多数紹介されている。それが伝統を作り上げたり、組織をまとめたりする、暗黙知の力として働いていることが、本書を読むとよくわかる。
派閥や飲み会といった細かなことについても書かれていて、感心した。たとえば上司が部下を居酒屋に誘った場合、支払いは誰がいくらの配分なのか。どこの世界も上が多く払うのが当たり前と考えている人が多いように思われるが、流通系だとフラットがふつうらしい。
日本独自の社風文化に正面から挑んだユニークな一冊である。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 社会科学書担当 高見圭一)
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日本のアール・デコ建築入門 吉田 鋼市 (著)
「ジャパン・デコ」の世界を堪能
「アール・デコ」といえば1925年の万国博覧会を皮切りに、フランスをはじめ世界中にその装飾様式が広まったことが有名ですが、実は日本でも昭和初期にアール・デコ風の建築が建てられました。その中で建築史家の著者がおすすめする50の建築物を外観、内部の写真を交えながら紹介しています。異文化を自らの中に取り込み、より良いものに昇華させていく、日本人ならではの「ジャパン・デコ」の世界を堪能することが出来ます。
建築やデザインにあまり触れたことがない方でも、前半のアール・デコ建築に関する章を一通り読めば、楽しみが広がると思います。街中のありふれたところにアール・デコは潜んでいるので、きっと新たな発見があることでしょう。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 理工書担当 山中彰人)