書店員レビュー一覧

　関白九条兼実が著し...

　関白九条兼実が著した「玉葉」は「平家物語」より何倍も楽しめる奥の深い日記である。
　まず当事者の日記ゆえに説話文学のような明らかな人名・年代などの誤植や粉飾が少ない。「三国志演義」に満足できず正史を読んだ経験のある人間なら「玉葉」の奥深さも堪能できよう。
　まさに源平の興亡の真っ只中、合戦の情報が京都に伝わる日数から当時の情報伝達の速度を推し量るもよし、次第に先細っていく公家の力を嘆く当事者の無力さを哂うもよし、どうせ期待できぬ来年の大河ドラマを数倍超えた本当の知識欲の満足に酔いしれるもよし。
　またこの時代は「ゆく川の流れは絶えずして…」の「方丈記」の時代でもある。様々な天災や為政者の失政に苦悩する当時の人々の嘆きは現代の我々が共有できるものである。
　何百年も前に「棟を並べ甍を争へる」無意味さを水の泡と評した先人から学習できぬ我々は一体「いづかたより来りていづかたへか去る」のだろう。
　　　ＭＪ梅田店　黒書店員　Ｄ