書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店」のレビュー
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- MARUZEN&ジュンク堂書店|梅田店
三屋清左衛門残日録 (文春文庫)藤沢 周平 (著)
「日残リテ昏ルルニ...
「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」。隠居した清左衛門は残り少ない日々を数えるためでなく、在職中出来なかった事に挑戦しようと日記を始める。しかし静穏な日々は短く、渦中の騒動に関わり否応なく命を賭して事件に乗り出していく。
様々な事件を通し彼は若き日々を回顧し、悔恨や追憶をおぼえる。なにもかも歳をとり分別がつき世間のしがらみから多少解放されてから気づくが、振り返ってももうやり直せない。古い友人との別れ、新しい人との出会い、すべては生きていればこそである。
この度の地震を聞いて藤沢周平の静謐な文章がしみる。最終章「早春の光」では病に倒れた友人が杖をつき転びそうになりながら、それでも歩く修練を始めるところで終わる。「いよいよ死ぬるそのときまでは、人間はあたえられた命をいとおしみ、力を尽くして生き抜かねばならぬ。」
立てずとも、膝をついて、何かにすがり、それでも前を、上を向いて生きていこう。生きている我々が懸命に生きてこそ命の尊さの証となるのだから。
MJ梅田店 D