書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店」のレビュー
- ジュンク堂書店
- MARUZEN&ジュンク堂書店|渋谷店(1月31日閉店)
終着駅は宇宙ステーション 難波田 史男 (著)
出会いは、2年ほど前にさかのぼ…
出会いは、2年ほど前にさかのぼる。
群馬県桐生市のさる個人美術館の一室。他の美術展などですでに何度か見覚えのある、いわゆるアンフォルメル絵画の日本における先駆者・難波田龍起の作品の堂々たる画面の傍らで、同じ抽象とはいっても随分と異なった趣をもつ数枚の水彩画作品が、静かに自己を主張していた。描き手の名を「難波田史男」といい、龍起の次男にあたるらしい。
エキセントリックだが柔らかい描線と、淡い寂寥感を湛えた色彩の繊細なニュアンス。そこには何か低声で打ち明けられる夢の語りのような人懐こい親密さと、またそれと裏腹のしみいるような孤独とが、ともながらに息づき溶け合っているかに感じられた。
本書は、2004年に開催された没後30年の記念展を機に史男の絵に惚れこんだ出版社の編集者が、遺族から借り受けた生前の日記や絵入りノートの断片を年代別にまとめ、再構成したもの。何よりも絵の中でこそ自他と対話を続け、その夢の力を解き放っていたのであろう史男の表現世界にあっては、こうした傍注めいたものはあるいは余分かもしれない。ただ、特に10代の頃の文章など、そこから垣間見える素の表情には、やはりどうにも心惹かれるのだ。井上