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2013年はワーグナーとヴェ…

2013年はワーグナーとヴェルディの生誕200年。色々な催し物もあるだろうが、現代に不足しているのが圧倒的なワーグナー歌手。ということでまずは二十世紀最高のブリュンヒルデことフラグスタート。本書は1952年の自伝。
　ノルウェーに生まれたフラグスタートがワーグナーを歌い始めたのは意外にも30代半ばになってからである。ヘンリー・ヨハンセンとの再婚、そしてイゾルデでの成功は彼女の人生を大きく変える。あのヴィニフレートの主宰するバイロイトに呼ばれ、のちに名コンビとなるメルヒオールと出会い、渡米してメトロポリタン歌劇場で伝説的な大成功を収める。
　本書が痛々しいのは前半「栄光への道」に対して後半を「いばらの道」と振り返るところだ。祖国のナチスによる占領、夫を追っての帰国と戦後の夫の投獄、そして死。さらに多くの中傷と演奏妨害が彼女を襲う。メットでの成功と別れ、そして引退で本書は幕を閉じる。その後録音での活動再開と様々なエピソードについてはジョン・カルショウ「ニーベルングの指環」を参照されたいが、この半生を知った後では彼女の「フィデリオ」は感慨なしに聴けない。
　　　黒書店員　Ｄ