書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「丸善 丸の内本店」のレビュー
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ルネサンスの秋 1550−1640 ウィリアム・J.バウズマ (著)
因習と停滞の中世を…
因習と停滞の中世を打破したルネサンス。古典復興を唱え文化・芸術・精神面でヨーロッパを大きく前進させたこの動きはヨーロッパと世界に近代をもたらした。しかし本書は上昇と下降の相反する面が並存したとする。すなわち興隆したルネサンスが次第に衰退したのでなく、ルネサンスの進展そのもののなかに中世からの解放を否定する因子がすでに内在していたというのだ。
自己、知識、時間、空間、政治、宗教の解放は一方で秩序の崩壊をもたらし、悪化する時代の状況は人々を反動的にした。演劇の主題は道徳的になり、社会は階級の固定化へと向かう。否定されたはずのオカルトは依然流行し、個人の関心はギリシャ・ローマの内面的な美徳より外面的な洗練を重視する。寄る辺なき不安は確実性を求めて科学を探求し、解放よりも秩序を重んじ過去を顧みる歴史意識は後退する。新奇なものへの拒否反応とともに過去を無意味だとみなすようにさえなったのだ。
ルネサンスという言葉で我々がイメージする解放的な印象は否定されるが、総じて今の我々には至極納得できる論旨であろう。冷戦終結とネット空間の広がりは当初の歓喜に反し人々の不寛容と飽くなき民族・宗教紛争を招き、疲弊した人々は次第にナショナリズムを希求する。世の中が良くなるなどという楽天主義は雲散し、今震災のように頼るべき科学への失望は現代人をさらに突き放す。人は自身が思うほど進化していないと痛感する。
(評者:丸善 丸の内本店 黒騎士(ペンネーム))