書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂」のレビュー
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藤原道長の日常生活 (講談社現代新書)倉本 一宏 (著)
藤原道長といえば例の「望月の…
藤原道長といえば例の「望月の」和歌が現す絶対権力者の姿が想起される。兄弟とも争い三代にわたり娘を中宮に立てた道長については自身の日記「御堂関白記」が自筆本で残っている。同時代の藤原実資の「小右記」、三蹟・藤原行成の「権記」も残っており、様々な出来事が多角的にわかる。
「御堂関白記」「権記」の現代語訳に携わった著者が描く道長の実像は最初の印象とは大きく異なる。嬉しいときは自画自賛し度々人前で涙を流し、怒ると天皇についても悪口を吐き、弱気になると愚痴が増え、儀式を主催したときの公卿らの反応にドギマギする極めて普通の人である。感情表現の振り幅の大きさがその魅力であり、儀式に縛られていた当時の人々を魅了するに至ったのだろうか。無論政敵に対する冷酷さも兼ね備えており、自身の気に入らないと官職補任の除目を途中で打ち切ることまでした。
「一条天皇」や「三条天皇」など著者の他の著作と合わせて読むと実に興味深い。お茶目な近影(カバー裏参照)よろしく、タイミングを心得たツッコミを文中に織り交ぜる巧妙さが平安時代への入り口に心地よくいざなってくれる。
黒書店員 D